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今日は1月30日。
いつも平和なARIAカンパニーだが、この日はその様子がちょっぴり違っていた。
「うーん、何かレデントーレの時を思い出すわねぇ」
「藍華先輩、手を動かしてください。でっかい忙しいです」
二人の水先案内人は、思い思いのことを言いながらバタバタと慌しく室内を駆け回る。
会社の中の広いリビングは、いつもとは全く違う様相を見せていた。
「藍華ちゃん。お料理の方、大体できたわよ」
「アリシアさんっvとっっても美味しそうですぅ!」
「すわっ!藍華てめぇ、私も手伝ってること忘れてるんじゃねーだろうな!」
台所から出来たての料理を持ってきたアリシアと晃が、リビングを見回す。
「あらあら、とても素敵になったわね。この花瓶、アテナちゃんが?」
「…そう。あと、そこのランプと、テーブルクロスもいじってみたの」
指摘された場所は、いつもよりもうんと素敵にデコレートされていた。
「アテナ先輩、でっかいグッジョブです」
そのとき、入り口の方で声がかかった。
「こんにちはー!頼まれたもの買って来ましたよー!」
「アルくん!」
買い物袋を抱えて部屋に入ってきた地重管理人の青年に、藍華が声をかける。
「お、お疲れ様っ。ありがとうね」
「いえいえ、僕は何もしてませんから。ウッディーさんのお陰ですよ」
噂をすれば、ドタバタとした足音がこちらに駆け込んできた。
「ふぅ〜!入り口から見えないところにバイク隠すの、苦労したのだ」
ずれたサングラスをずり上げながら、大きな体がリビングに滑り込んでくる。
「灯里ちゃんたちはまだ来てないのだ?」
「当たり前です。そういうように、あの人にしっかり頼んでありますから」
アリスはそう言うと、ちらりと時計を見上げた。
「そろそろ時間ですね」
「ん。帰ってきたら灯里の奴、絶対びっくりするわよー!」
「うふふ。皆がこんなに頑張ったんだもの。きっともの凄くびっくりするわ」



「暁さーん…。そろそろ休みませんか…?」
ネオヴェネツィア市内の、開けたショッピング街の一角。
せかせかと歩く背中の後ろで、情けない声が上がる。
「何だもみ子、もうギブアップか。情けないな」
くるりと振り返った暁は、灯里の髪を引っ張ろうと手を伸ばす。
「だ、だって、かれこれ4時間くらいずっと歩いてるんですよぉ」
その手を何とかかわしながら、灯里はぼやいた。
暁は軽く溜息を吐いて、ちらりと時計を見た。
(…まだ大分時間があるな)
それからぐるりと視線を回し、通りの端のベンチを見つける。
「仕方ねーな。あそこのベンチで少し休ませてやるよ」
「…あ、ありがとうございます…なのかな?

「それにしても、暁さんから買い物に付き合えって言われた時はびっくりしました」
昼ごはんを食べ終わり一息ついた頃、突然暁がARIAカンパニーに殴りこんできた。
『アリシアさんへのプレゼントを選ぶから付き合え』とだけ言い捨てて。
そのまま、半ば無理矢理外に連れ出されて今に至るわけで。
「オレ様の買い物の相手が出来るのだ。光栄に思え」
ふん、と鼻を鳴らして、暁は笑った。
「でも、暁さん…結局何も買ってないじゃないですか」
「んん…」
曖昧な返事をした後、彼の視線はある一点に留まる。
「ちょっとここで待ってろ」
灯里が返事をしない内、暁はどこかに走っていってしまった。
彼の突拍子もない行動はいつものことで。
灯里は言われた通り、のんびりと彼の帰りを待つことにした。
(…いい天気)
降り注ぐ柔らかな光が全身を照らすのを感じる。
大分陽も延びて、夕方近いのにまだ明るい。
それでも、空の端の方はうす紅く染まっていた。そろそろ日暮れも近いのだろう。
「何ボーっとしてんだ」
目の前が急に蔭って、ふと灯里は正気に戻った。
見ると、暁が目の前に立っていた。両手に何かを持って。
「あ、暁さんっ。…それは?」
「ジェラート。…ほれ」
その片方を差し出され、慌てて受け取る。
「疲れた時には甘いものって言うからな」
「あ、ありがとうございます…」
思わず照れてしまって、それを誤魔化すのに一口食べる。
冷たい感覚と共に、舌の先で甘みがすぅっと溶けていった。

「さーて、そろそろ帰るか」
ジェラートを食べ終わって暫くしてから、暁はおもむろにベンチから立ち上がった。
「え?プレゼントはいいんですか?」
「もう用は済んだからな。ほれ」
顔中疑問符でいっぱいの灯里の手を引き上げ、無理矢理立ち上がらせる。
「急がないと遅れるぞ」
「あ、暁さん!待ってー!」



「はぁ、はぁ、はぁ…」
半ば走るようなペースで来た所為で、灯里は肩で息をする。
目の前には、見慣れたARIAカンパニー。
「や、やっと着いた…。暁さん、酷いですよっ!」
「オメーが遅いのが悪いっ。――もみ子、来てみろ」
暁の手が、入り口のドアを開いた。
そこに灯里が立ったその時。

『Buon Compleanno、AKARI!!』

沢山の声と共に、一斉にクラッカーが鳴った。
「…え…っ?」
中を見回すと、見知った顔が並んでいて。
皆が皆クラッカーを片手に、にこにこと微笑んでいた。
「――ええーーーーーーーー!!!!?」
「うふふ、灯里ちゃん、びっくりした?」
にっこりと笑ってアリシアが灯里を室内へ招き入れる。
「あ、アリシアさん!だ、だってこんな…昼まで何も!!」
「あんたが居ないうちに準備するの、大変だったんだからっ」
ぽん、と肩を叩かれ振り返ると、目の前に可愛い箱が差し出された。
「藍華ちゃん!」
「これ、私からのプレゼント。おめでとう、灯里!」
「あ!藍華先輩、でっかい抜け駆けですっ。
 灯里先輩、あっちに皆のプレゼントがありますよ。さぁ」
アリスが灯里の手を引き、リビングへと彼女を促す。
「灯里さん!僕は今日、地底名物を持ってきたんですよ。灯里さんに是非と思って」
「私からもプレゼントがあるのだ!気に入ってもらえると嬉しいのだ!」
「ほれ、いつまでそんな所にいるのよ。私が腕によりをかけた料理が冷めるだろう!」
「灯里ちゃん、外寒かったでしょう。中、暖かいから早くこっちにおいで」
次々に色々な人から声をかけられて。
それでもまだ事態が飲み込めず、まごつく灯里の髪がくっと引っ張られた。
見上げると、照れた顔の暁がそこに居た。
「ごほんっ。コレ、オレからな」
言われて、灯里の手に綺麗にラッピングされた小さな袋が渡される。
半透明の袋から覗くのは、見たことのあるモノだった。
「こ、コレっ!私がさっき、可愛いって言ったペンダント…!!」
「そ、そうだったか?覚えてねーな」
照れを誤魔化す為にとぼけて、暁は料理の並ぶテーブルの方に逃げていった。
その途端。
堰を切ったように色々な感情が溢れ出して来て。

「皆さん!!」
突然出された大声に、その場の視線が一斉に灯里へと注がれる。
「本当に、本当に…っ」
ぐっと力を入れ、心からの気持ちを込めて。

「ありがとうございます…っ!!!!!!」

その笑顔は、彼女を祝う為に集まった皆が思わず照れてしまう程、
飛び切りのものだった。

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Buon Compleanno!

日にちずれちゃったけど、灯里ちゃん誕生日おめでとう!
ということで。
SS付きで祝い絵を描いてみました。

いつもとは塗り方変えてみたんですが、どうでしょう。
厚塗り大好き。口が微妙だけど。
主線なし絵にあこがれます。
プレゼント、暁さんからのって勝手に思って描いてました。
SSと違っててガックリ。

SSの方は、何か絵を仕上げた後に思いついてしまってガシガシと。
微妙に暁灯里で、オールキャラ。
もっと他のキャラに喋らせたかったんですが、
それだと果てしなく長くなるので断念。
更に、若い衆だけしか居なくてごめんなさい。



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