不知の手





「暁さん、手を繋いでもらえますか?」

 見上げたあなたはとても狼狽した顔をしていて、私は可笑しくなると同時に少し嬉しくなりました。
 格好付けたがりなあなたのこんな顔を知っている人はそういないんじゃないかと思ったのです。
 これは一種の独占欲なのでしょうか。

「いけませんか?」
「や、いけないっつーか、何でいきなり……」
「…………暁さんに触りたいから、というのは理由になりませんか?」

 暁さん。
 私はあなたに触れたい。
 これが恋なのかどうかまだ私には確信が持てません。ただの好奇心を取り違えているのかも知れませんから。
 それでも私はあなたに触れてみたい。あなたを知りたい。
 あなたに触れればこの胸を締め付ける奇妙な感情の名前が解る気がすると言ったら、あなたは呆れるのでしょうけれど。

「もみ子よ」
「はい?」

 あなたは少しだけ苦しげな顔で私の髪に触れました。
 但しそれはいつもとは違った繊細な手付きで、私は何故かそれに泣きたくなるような切なさを感じました。

「そういう事は、もっと大人になってからイイ男に向かって言うもんだ」
「暁さんには言ったら駄目なんですか」
「俺様にはアリシアさんがいるからな」

 そう笑ったあなたはもういつも通りのあなたで、私は逃げられてしまったのだと何となく悟りました。
 先程私の髪に触れたようには私の手に触れてくれない事も。




 私はあなたの名前を知っていますが、あなたの体温は知り得ないのです。この先もきっと。













+感謝状+
七市様から、死ぬほど素敵なSSを頂いてしまいました。
もう、何ていうか、どんな言葉を添えても陳腐にしかならないけれど、書かせて頂きます。

初めて読んだ時は、何故か涙が止まりませんでした。
切なさが胸に押し寄せてきて身動きが取れない感覚。
灯里→暁展開が大好物な私にとっては、ど真ん中ストライクでした。
灯里たんが切なくて切なくて。うぉぉ…
この静かに流れる切なさが絶妙で、震えがきます。

その身体に流れる血液の温かさ全て
それでも知りたいと思うことを
私は止めることはできないでしょう。
きっと。

七市たん、切な萌える暁灯里を本当に有難うございました…!!


閉じる