最後から二番目の喪失








 いつものベッドの上で、いつものように目を覚ます夢を見る。
 散らばった本もテーブルの上に並べられた朝食も何もかもいつも通りなのに、双子の姿はなくて、私しかいない家は静か過ぎる。
 窓からのぞいた景色はひたすら真っ白で、何もなくて、やっぱり誰もいなかった。






 ……あれは本当に夢だったのかな。

 最近少し疑問に思う。
 私はあの白紙の世界を知ってる。それだけじゃなくて、
 ベッドの上で魘されている瑠璃を見つめる。くるしそうに眉根を寄せて、額に汗を浮かべている。
 ――――この後、この人がどうするかも知ってる。
 何も言わずにどこかの塔に行ってしまうんだ。一人で。真珠を追って。
 塔の名前までは覚えてないけど。

 ああ、そうか。

 思い違いにやっと気付いて少し笑った。そうだ、私は、
 「知ってる」んじゃなくて、「覚えてる」んだ。
 どうしてそんな記憶があるのか知らない。けど、これが何回も何回も繰り返されて来たことだって知ってる。
 意味を失うくらいに。
 瑠璃の額の汗を拭って、私は椅子から立ち上がった。今度もまた瑠璃は一人で真珠の後を追うんだろう。
 その先の塔で真珠は自分の過去を見て、そして。
 ……何も変わらない。私はまたあのしろい世界で目を覚ます。
 そしてその時にはきっとみんな忘れて失くしているんだ。友人も、知人も、記憶も、これが何回目の繰り返しかってことも。
 瑠璃、も。

「……。…………」

 瑠璃が何かを呟いて目を開けた。核なんかよりずっと綺麗なあおい目は、今は焦点を失ってぼやけてた。
 私は瑠璃が覚醒し切る前に部屋を出ようとする。その方が瑠璃もここを抜け出しやすいだろう。
 でも、その瑠璃が私の手を唐突に掴んだ。

「瑠璃?」
「……………………」

 悪い顔色で私の手を掴んだまま、瑠璃は黙り込んでいる。
 寝惚けて真珠と私を間違えたんだろうか。口元が微かに動いたのを見て、私は床に膝を付いて臥せった瑠璃の唇に耳を寄せた。
 吐息が耳に掛かってそんな場合じゃないのに背筋がぞくぞくした。

「……お前まで、どこかに行くな」
「  、」
「ファルス」

 それは小さかったけれどはっきりと聞こえた。
 ぼやけてはいたけど瑠璃の目はしっかりと私を見ていた。真珠でも他の珠魅でもない、私を。





 ねえ瑠璃、君をなくしたくないよ。守れるものなら守りたいよ。
 それでも君だけ守ることなんて出来ないから、せめて最後に喪うのが君だったらいいな。
 ――――だけど本当は知ってる。こんなささやかな願いだってきっと叶わないんだって。

 いつだって最後に失くすのは自分自身だった。














+感謝状+
七市様から、5万HIT記念に素敵なSSを頂いてしまいました!
これまた陳腐な言葉で汚したくない神作品ですが、色々書かせて頂きます。

うぁぁ、もう、ホント理想の瑠璃主ですよ…
切な萌える…。
運命の輪から生まれる歪がひたすらに痛い。
最後の瑠璃の言葉に泣けますよ。瑠璃ったら…!
何気にウチの女主の名前使って頂けて、サプライズでぶっ飛びました。
全体に流れる静けさが、尚更切なさを増していて。
あぁぁ…(身悶え)

ちなみに、背景は勿忘草です(どうでもいい)
七市たん、勿体無いほどのお祝い品、ひたすら感謝でございます…!!


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