後日談。
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「うふふ、あらあら」
聞き覚えのあるフレーズ。
閉じた瞼の向こう側が、やけに明るい。
何だろう、と思って、灯里はうっすらと目を開けた。
「本当に、いつの間にそういう仲になってたのかしら」
「ほへ?」
寝ぼけ眼で、辺りを見回す。
何だかとても楽しげな声が聞こえる。
冷たく新鮮な空気が肺を満たしていくにつれ、段々と頭がはっきりとしてきて。
「あらあら、灯里ちゃん、起きちゃった?」
(――アリシアさんの声だ。もう朝なんだ。起きなきゃ)
まずそう思って、起きようと身体を動かす。
でも、何かが圧し掛かっていて微動だに出来ない。
変だな、と思って、自分の状況を改めて見てみる。
床。毛布。…ベッドから落ちてしまったらしい。
それと、黒い髪。
…黒い髪?
「っきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
思いっきり絶叫して、自分の身体に覆い被さっていた物をぼかすかと叩く。
「のぁっ!!な、何だ!?何が起こった!!!?」
驚いて飛び起きて、ついでに固まったその人を見て、灯里は瞬時に状況を把握した。
「あ、暁さん、何でこっちに倒れ込んでるんですか!!」
「あ?何でって、そんなの…あぁ、アリシアさん!!!ち、違うんです、これは…っ」
「あらあら、そんな、言い訳しなくてもいいのよv」
真っ赤だったり真っ青だったりする二人を、アリシアはひたすら楽しげに見ている。
「あ、あの、ホントに違うんです!ただ夜中に暁さんがっ」
「あらあらあら…暁くん、大胆なのねぇ」
「ち、違―――っっ、こらもみ子!!お前変なこと言うな!!!ますます誤解されるだろが!!!」
「だ、だって…っ」
どうしようもなく慌てふためく灯里と暁に、極上の笑みが向けられる。
「うふふ、大丈夫。ちゃんとわかってるわ。アリア社長から聞いてるから」
それに、ほぅっと安堵の溜息を吐いて。
はた、と灯里が動きを止めた。
「え……あの、何でアリア社長が…」
それに再びにっこりと笑いかけ、アリシアは唇に人差し指を当てて、ウィンクをした。
「えぇ、見てたって言うから。一部始終、ずっと」
ぼっ。
顔から湯気が立つくらいに、一気に熱が集まった。
隣では暁が、同じく顔を赤くしてブルブルと震えている。
「あんの…ぷに猫ォォォォォォォォっ!!!!!!!!」
既にどこぞに隠れてしまっているだろうアリアを追って、暁が玄関外へと走り出し。
灯里はというと、あまりの恥ずかしさに、毛布を被ってうずくまってしまった。
「何ちゃって、実はあんまり良くは聞いてないのよね。そんなに照れちゃって、一体何があったのかしら?うふふ♪」
「え、ええーーーっ!?」
「後で詳しく教えてね、灯里ちゃん」
あ、アリシアさん、絶対面白がってるっ。
などと、口には出さずに思ってみる。
「さ、そろそろ着替えましょうか?」
「……はひぃ…」

外から、暁の怒号とアリアの泣き声が遠く聞こえてくる。
暫くは言い訳に困ることになりそうだと、灯里は盛大に溜息を吐いた。







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