日米協調介入による円安是正は本物か
− 前川レポートをもう一度読み返してみよう −

 世界の為替市場が荒れている。 昨年7月のバーツ切り下げに端を発したドル・ ペッグ諸国に於ける通貨の混乱は一年後の今日、日本発の円安がアジア新興工業国の 通貨下落へと問題点が置き換えられ、その影響は豪ドルの12年ぶりの安値、カナダ ・ドル、メキシコ・ペソの市場最安値更新をはじめ、ロシア、南アにまで波及してき た。 今や香港ドルがドル・ペッグ制を維持できるのか、中国元の切り下げは避けら れるのかといった問題に焦点が当てられ、それぞれの国の固有の問題の諸悪の根源が 全て円安にあるかのごとく我が国の通貨・金融・経済政策の改善を求める声が日増し に強くなってきた。 そもそもの原因は各国に内包する固有の問題である。 しかし 6月16日の日米協調による円買い介入は日本発の通貨危機を鎮静化し、且つ世界的 な通貨の安定、特に中国元の切り下げ回避を狙いとしたものであろう。

 さて円安にも日本独自の問題がある。 巷で言われているように不良債権の大胆且 つ早期解決、それによる金融システムの安定、税制改革、大幅な規制緩和による内需 主導による経済回復等の早期実施が叫ばれているが果たしてこれらの措置は早期に実 現可能であるのか疑問を投げかけずにはいられない。
 ルービン米国財務長官は6月14日「円安懸念は日本の通貨当局と共有する。」と 言いつつも「通貨はそのファンダメンタルズを反映したものである。」と言及してい る。 ここでルービン氏の指摘するファンダメンタルズとはマクロ的に上記金融、経 済対策を指していることは疑いの余地のないことであるが、日本市場特有の慣行、他 の先進市場に比し参入し難い市場特性、日本企業に深く根付いている反グローバルな 雇用システムまで言及していると思うのは考えすぎであろうか。
 日本企業が本当にグローバルになるには日本人だけで形成する会社組織 −終身雇 用、年功序列、男女雇用格差、合議制等 − が変わらなければ無理である。 長年一 つの会社に勤務することに異議を唱えるつもりはないが終身雇用制の元に、同じカ ラーの人たちが寄り集って将来のあり方を議論しても余程革新的な組織変更がなさ れ、様々の視点から議論の出来る体制造りがなされなければ真の構造改革は覚束くま い。 外資系企業に人材を求める動きは本邦金融機関でも活発化しているが外国人を プロパーの社員として登用する等、異種文化を取り入れながらグローバル化していく ことも必要であろう。
前川元日銀総裁が中心となって取りまとめた、いわゆる「前川レポート」は今から1 2年前に発行されたものである。 読み返してみると当時既に国際的整合性(グロー バリゼーション)、市場アクセスの改善(規制緩和)、所得税減税等々現在議論され ている事項が提案され、「我が国の社会経済構造を国際社会に調和したものに変革す べき」と結論付けられている。 当時この前川レポートは海外でも高く評価され、い よいよ日本もグローバルなコンセプトの元に動き出すのかといった期待が大いに高 まったが12年経った現在、同様の議論が繰り返されていることは実に残念であり、 自分自身このような優れた教科書を良き指針とし得なかった点にも、忸怩たる思いで いる。

 さて米国が協調介入に乗り出した今、円安是正は本当に実現されるのか。 我が国 の金融及び構造改革が実現し、個々の企業に真のグローバルな考え方が根付くなら円 安は是正される公算が大きい。 しかしながらこの実現には時間が掛かり、米国の 苛々が再度募るリスクの方がより大きい。 G7Dでの約束が早急に具体化すること を願うのみである。