旬なとき

 今月6日、40歳の誕生日は、忘れられない節目になった。この日、新アルバム「Solitude」を自ら立ち上げたCDレーベル第1弾として発売。これを引っ提げ、大学時代を過ごした神戸でバースデーコンサートを開いた。友人らも駆けつけ盛り上がった。「僕にとって神戸は洗練された"桃源郷"のイメージ。神戸生まれの母から街の良さを聞かされていたし、古い物を現代にマッチさせる空気に刺激されていました。次へ進むパワーをもらいました」

 大阪の生まれ。3歳の時、幼稚園の女の子がピアノを習いに行くのを見て、親に頼んでピアノを買ってもらった。小学生になっても、草野球で外野を守りながらピアノの調律を考えるくらい熱中。発表会では楽譜を忘れ、即興で弾き続け、周りを驚かせた。

 関西学院大学では軽音学部。憧れの街・神戸のライブハウスやラウンジで弾き語り。繊細な歌詞と歌い方がとりわけ女子大生の間で人気を呼んだ。オーディションに合格し、83年歌手デビュー。歌詞によく出てくるのは、優しく傷つきやすい男たちだ。「彼女」や「きみ」との心の駆け引きやせめぎ合い。「めめしいようですが、その時々の感傷を大切に書いていきたいんです」

 80年代の作品には神戸・阪神間がたびたび登場する。「岡本、六甲、ポーアイ、塩屋、舞子。歩いた街の匂いが今でも好き。青春のセンチメンタルは財産だとあらためて思いますね」

 約2年半ぶりとなった今回のアルバムは「ポジティブな孤独」がテーマ。群衆の中でたたずむ青年像や都会の男の苦悩、コンビニや携帯電話での恋愛など、いまの時代を切りとる全10曲につづった。「1人で何かを考え込むことの中に、本当の意味で前に進むエネルギーがある」。移り変わりの激しい時代では一瞬一瞬が勝負。「横断歩道で自分と同じセンスの服装をした人とすれ違い、アレいいなって思うのと同じ感覚を、僕の詞とメロディーに持ってもらえたら」

 役者としてテレビや映画への出演も目立つ。最近はトーク番組の司会や新人歌手のプロデュースにも意欲を見せている。「使っていない絵の具はまだたくさんありますよ」。ことばと歌に向き合い、切なさをポップに伝えていく。

 

(アサヒファミリー 2000年9月29日号)
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