大江千里さん流買い物の楽しみ方

 秋の深まりとともに、おしゃれ心がムクムクとわき上がってきます。流行の服が欲しい、今年らしいブーツやバッグ、アクセサリーも買いたい……。はやる気持ちを抑えつつ、ポップでさわやかなサウンドと細身の体に合ったシンプルなファッションがすてきな大江千里さんに、ショッピングの楽しみ方や、必勝法をアドバイスしていただきました。

ーー関西のご出身ですが、こちらで買い物をする機会は多いんですか。
「仕事で何か月も帰れないこともありますが、だいたい1か月に1度くらいは戻っているかな。友達に会ったり、ぶらぶらしたりするのは、たいてい心斎橋のあたりです。ロケット広場で待ち合わせ、高島屋からスタートして心斎橋の通りを途切れるまで歩くのが、学生時代からのショッピングコースであり、デートコースだったんですよね。今でも歌の歌詞に車の排気ガスとか車道とか信号という言葉が出てくると、高島屋の前の交差点が、パアーとあざやかによみがえるんです。渋谷とかじゃなく。この間は帰ってきて、友達と食事したあと、バルビルに入って、ショールを買うかどうかで30分も考えて考えて、結局『また来ます』と出てきてしまった。でもなぜか本を買うのは梅田の紀伊國屋。昔からの習慣で、妙に落ちつけるんです」
ーーふだんのショッピングの楽しみ方はどんなふうですか。
「例えば白いシャツが欲しいな、と思うと、ボタンダウンでとか、ざっくり着られてとか細部まで具体的な形をイメージしていく。家の近所で探したり、旅先で探したり、でもイメージ通りのものが見つからない。それがたまたま入ったデパートにあったりする。ぴったりはまった時はブランドにこだわらず買います。まさに一期一会です。そうやって買ったものには愛着が深くて、高校2年の時に古着屋で買った青いシャツがまだ現役だったりします」

「気を付けなければならないのは、忙しくて休みがとれなくて、映画館で映画を見たり出来ず、朝起きて仕事に行って、という単純な繰り返しになったとき。ストレスがたまって買い物に走ってしまうんです。買ったCDが封を切らずにそのままあるのを見ると、かなりやばいなあと」
「でも逆にそういう『買い物したい、買い物したい』と思っている時って、気持ちが開いてるからいい物が手に入るチャンスでもある。2か月半くらい前、忙しくて切れかけてたとき、ソファを買ってしまったんです。これが実に12年もお店に通ってあこがれ続けていたもの。今住んでいる日本庭園のある和風建築のミニマムな空間にぴったりくる。聞けば在庫が一つだけある。『買い』です。ストレスによる衝動が背中を押してくれた感じ。部屋には置いたけど、実はまだ2回しか座ったことがなくて、今はいろんな角度から眺めては、満足しているところです」

ーーショッピング必勝法を教えてください。
「出会いに備えて、ほしい物を何度も頭の中で描いて明確にしておくことですね。それと誰か趣味の違う人と一緒に行くこと。冷静にみてくれる人がいた方が、ワンクッション置けるし、ストッパーにもなってくれるから。『どう、これ』とキャッチボールできる相手がいるのがいい」
ーー今熱中していること、ほしいものはなんですか。
「中国茶に凝っています。ウーロン茶でもブレンドすることで、それまで味わったことのない奥深い味になる。茶器もそろえました。一人でゆったりと味わうのがリラックスするひとときになっています。ランニングもそう。朝晩1時間ぐらいゆっくりと。走っているといろんなアイデアがわいてきて、精神的にもすっきりしていいみたい」
「欲しいものは洋服ではパンツかな。小さすぎず大きすぎず、腰ではくタイプで、カジュアルにもフォーマルにも着られる……とイメージを膨らませているところです。あと短い大人の童話を探しています。疲れたとき眺めるとほっとできるような、自分だけの1冊を見つけたいんです」
ーー今日の眼鏡と帽子、よくお似合いですが、やはりこだわりがあるんでしょうね。
「僕にとって、帽子や眼鏡を身に付けると気持ちが引き締まるんです。眼鏡は20〜30個、帽子は70個ぐらいあるかな。帽子は試着しなくても見ただけで自分に合うかどうかわかるんです。店で気に入ったものがあれば、かぶってきた帽子を袋に入れてもらって、そのまま新しい帽子をかぶって帰ることも。この秋は探偵がかぶるみたいな究極のハンチング帽、探してます」

ーーこれからの活動で目指すのは。
「僕の同年代の人が聞いて、懐かしいと感じ、10代の人が新しいと感じるポップスを作りたい。そのためにたくさんの人に直接聞いてもらえるライブをもっともっと増やしていきたい。これからも新作を途切れずに出しつづけていく。役者をやったり、本を書いたりもするけど、自分が自分を育てていく『幹』の部分は、シンガーソングライティングの部分だと思うから、大事にしていきたい」
「9月に出したアルバム『first class』は旅がキーワード。自分でレーベルを作ってから2枚目に当たるんです。前作はリアリティーにこだわったのに対して、曲の中の自分の分身から、少し距離を置くことで、きらきらした大人のファンタジーに仕上がった。僕の曲を久しぶりに聞く人にも聞いてほしい、楽しく切ないアルバムです」

 
(読売新聞 2001年10月19日)
[戻る]