Q.1 交通事故と任意保険
 娘が友人の車でドライブに出かけた時に,友人が運転を誤って道路のガードレールに衝突し,娘が後遺症の残るような大怪我をしました。娘の損害を友人に請求したところ,その運転していた車に任意保険をかけてなかったようです。このような場合どうなりますか?



A.1 回答
(1)最近の自動車の任意保険加入率は80%程度であり,交通事故被害者が,年間100万人程度で,死亡者数が5000人を超えています。
 不幸にして人が負傷するような事故が発生した場合,その損害を補償するために自賠責保険が強制加入とされています。その補償金額は,死亡事故で3000万円,傷害事故で120万円以内,後遺障害を負った場合は,その等級別に4000万円を限度として補償されますから,本件でも,その範囲の被害額までは自賠責保険が補償してくれます。
 したがって,娘さんの受けた損害額が自賠責保険の補償範囲内であれば,何も問題はありません。しかし,本件のように後遺症が残る大怪我であれば,損害額が自賠責保険の補償額を超えることが予測されます。
 この場合は,加害者である友人に損害額を支払う義務があり,そのことは友人が運転していた車に任意保険がかけられていたかどうかには関係ありませんから,当然,友人に不足分を請求することはできます。

(2)無保険車傷害保険
 注意すべき点は,この場合に,被害者である娘さんご自身又はその家族の任意保険を使うことができる場合があるということです。自動車保険には,被害者が交通事故で死亡した場合や,後遺症障害の被害を受けた場合に,その加害車輌が任意保険に加入していなくても,被保険者,その父母,配偶者,もしくは子供が被った損害に使える保険条項があります。この条項は,一般的にはあまり知られていませんが,かなり役に立つ条項です。
 まず,被害を受けた本人が,自分の車に任意保険をかけていた場合に,その保険を使える可能性があります。
1 さらに,その本人が車を持っていない場合でも,その子の両親や親族が自分の車に任意保険をかけている場合に,その任意保険を使える可能性があります。

(3)多くのドライバーが加入している自動車保険には,このような,無保険車傷害特約条項というものが付帯していますが,これは自分の加入している任意保険の約款をよく読まないとなかなか理解はできないと思いますから,疑問があれば,専門家に一度相談される方が良いでしょう。

(4)保険料金が高いから家族限定割引とか年齢条件付契約の場合
 他車運転危険担保特約が利用できる場合があります。
 例えば,自分の大学生の息子が,友達とドライブをしていて運転を交代し,その時にたまたま事故を起こして,被害者にけがをさせた。ところが,運悪く,その友達の車は家族限定特約があった。その場合,当然に,その運転していた車にかけられている任意保険は使えないことになります。
その時に,運転していた息子,その親,もしくは兄弟とかの家族の保険を使えることもあります。

(5)時効
  加害者に対する損害賠償請求権は加害者と損害が発生したことを知った日から3年という制限があります。保険金請求権は事故発生から2年という制限があり,時効期間が短くなっています。






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Q.2 夫の浮気相手に対する慰謝料請求
 夫が会社の同僚の女性と仲良くなり,家に帰ってきません。夫とは離婚するしかないと思いますが,家庭を壊した相手の女性が許せません。妻として,どのようなことができますか?



A.2 回答
(1)まず,浮気された妻は,それを理由として夫と離婚することができます。これは法律で定められています。当然に夫に対し,慰謝料請求や財産分与の請求もできます。
 次に,夫の浮気相手である女性に対してですが,浮気相手に対する慰謝料請求が認められるかについては,愛情や婚姻を巡るモラルや価値観あるいは,時代や国によって違った判断がされていますが,我が国の現状は,結論的には,慰謝料請求が認められています。
 最高裁は,夫婦の一方の配偶者と肉体関係をもった不貞行為の相手方は,他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があると判断しています。それは浮気相手が積極的に,配偶者を誘惑したかとか,両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにはかかわらないとも判断しています。

(2)具体的に慰謝料の金額は?
 金銭的には200万円程度が多いとされています。いくつかの裁判例を調べたところ,50万円から300万円の範囲内の金額がありました。金額は,浮気の原因や責任,浮気の期間,それが原因で夫婦関係が壊れたのかどうか等によって変動します。

(3)既に長期間別居していて,離婚寸前の夫婦の場合は?
 夫婦といっても既に名ばかりの夫婦で,別居状態であるとか,既に離婚寸前まで壊れているといえるような場合には,保護されるべき婚姻関係にはないので,慰謝料請求は認められない可能性が高くなります。

(4)その相手の女性への慰謝料請求と,妻から夫への慰謝料請求との関係は?
 この場合は,浮気をした夫に対する慰謝料請求と不貞の相手方の請求との関係は,総額的には影響を及ぼしあいます。
 例えば,夫から離婚慰謝料として500万円を既に受け取った妻が,相手方の女性に300万円の慰謝料請求した事件で,慰謝料として300万円の損害があると認定したが,既に500万円を夫から受け取ることによって損害は全部填補されていると判断した裁判例があります。






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Q.3 裁判員制度
 裁判員候補者に自ら立候補できるのでしょうか。裁判員候補者は事件ごとに裁判員候補者名簿から抽選で選ばれるようですが,選ばれて嫌な人よりも自ら裁判員になってみたい人を募集した方が良いと思います。一度裁判員を体験したいと思いますが,抽選で選ばれるまでなれないのでしょうか。



A.3 回答
(1)残念ですが立候補はできませんし,抽選で選ばれないと裁判員にはなれません。

(2)裁判員候補者名簿の作成
 裁判員になるためには裁判員候補者名簿に登録される必要があります。毎年秋に,各市町村の選挙管理委員会が,衆議院議員の選挙人名簿から,くじで翌年1年分の裁判員候補者を選任し,その名簿が作られます。
  平成21年は,全国で約29万5000人が登録されています。有権者数が1億384万7311人ですので,約352人に1人が登録されることになります。石川県が約95万人の有権者数なら1年間で2700人前後が登録されている計算になります。

(3)候補者への通知,調査票の送付
  12月頃までに名簿に登録された候補者(石川県なら2700名前後)に対し,その旨を通知するとともに,調査票を送付して,辞退事由等を調査します。
  調査票では,明らかに辞退事由が認められる人等を確認します(例えば,裁判関係者,警察官,自衛隊,禁固以上の刑に処せられた人,70歳以上の人,学生など)。

(4)裁判員対象事件が発生する(例えば,殺人事件とか強盗傷害事件)
  事件が発生した場合,地方裁判所が,事件ごとに候補者名簿の中からくじで呼びだすべき裁判員候補者を選定します。
  この段階では1事件あたり,50人から70人の候補者が選定されます。

(5)呼出状の送付
 くじで選ばれた裁判員候補者に,裁判の6週間前までに選任手続き期日のお知らせ(呼出状)及び質問票を送付します。質問票では辞退を希望するかどうかを問い合わせます。例えば,重い病気やけが,妊娠中,親族の介護養育の必要がある等です。

(6)選任手続
  呼出状を受け取った裁判員候補者に,選任手続きの当日,裁判所に来てもらい,候補者全員に対して裁判官から,辞退を認めるか,不適格事由があるかについて質問が行われます。候補者の日当は1日8000円以内です。
  午前中に,6人の裁判員と補充裁判員を選任する選任手続きを経て,午後から審理を行います。裁判員の日当は一日1万円以内です。






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Q.4 借金の相続
 父親が死亡しましたが,財産がない父親だったので,何も手続をせずに,そのままにしていました。ところが,半年後に,「父親が1000万円の借入金の保証人になっている。借主が破産したから,支払え」との督促状がきました。父親の相続人は,私と兄の2人ですが,どうすればいいでしょうか?


A.4 回答
(1)結論から言えば,原則としては,請求に応じて支払う必要性があります。
 相続人は,自分のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月を経過すれば,プラスの財産のみならず,マイナスの財産も相続します。保証債務もマイナスの財産の1つでありますから,原則として相続します。
 今回のように,1000万円の保証債務があり,相続人が子供2人であれば,500万円ずつ保証債務を負担することになります。

(2)それでは,相続する父親の借金が財産より多い場合は,相続する立場とすれば,どうすればいいですか?
 財産より借金が多いことが明らかであれば,相続開始後3ヶ月以内に相続放棄をする方法があります。これは,家庭裁判所で手続きできます。手続きが分からなければ,知り合いの弁護士や司法書士に相談すればいいと思います。

(3)財産と借金とどちらが多いか分からない場合にはどうすればいいですか?
 そのような場合に,調査のために,先ほどの3ヶ月の期間を延長してもらう方法があります。また,限定承認という方法もあります。これは,相続で受けた財産の限度においてのみ借金を支払うという方法です。
 3ヶ月以内という期間の制限は,相続放棄と同じですが,共同相続人が全員で家庭裁判所に申し出する必要があります。

(4)今回のように,父親が家族の知らないところで保証債務を負担しており,それが分かったのは,父親の死亡を知ってから3ヶ月を経過していた場合,どうすることもできないのでしょうか。
 先ほど述べたとおり,原則的に負担します。
 しかし,3ヶ月以内に保証債務があることが分かっていたら放棄していたという場合もあるでしょう。
 そのような場合には,例外的に,3ヶ月以内には相続放棄をしなかったのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,それについて「相当な理由がある場合」には,3ヶ月の期間は,相続財産の存在を認識したときあるいは認識できる時から計算するとされています。そのような事情がある場合には,解決できる可能性もありますので,弁護士に相談された方がよいでしょう。






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Q.5 取得時効
 私は22年前,友人の腕時計を借りました。友人は貸していたことを忘れていて,私も借りていることをすっかり忘れていました。ところが,友人が先日,家に来たとき自分の時計に気づき,その返還を要求してきました。もちろん返すつもりですが,22年間,お互いに顔も合わせていたのに気が付かないまま・・・。これってやっぱり返さなきゃいけないんでしょうか?



A.5 回答
(1)結論を言えば時計を返す必要があります。
 取得時効が成立するのではないかとの疑問をもたれているのではないかと思いますが,今回のよう場合は,取得時効は成立しません。

(2)取得時効とはどういう制度ですか?
 通常20年間以上,他人の物を占有した場合に,その物の所有権を取得するという制度です。

(3)本件の場合は,20年以上占有しているから,取得時効の要件を満たしているのではないのですか?
 その要件は満たしていますが,もう一つの要件が必要です。

(4)それは何がかけているのですか?
 取得時効のためには,所有の意思を持って占有を開始するという要件が必要となります。
 具体的に言うと,所有者としての占有を開始することが必要です。
 本件の場合には,あくまでその時計を借りているということですから,時計の所有権が相手にあることを前提としての占有であるので,所有の意思はないと言うことになります。
 他に,他人から預かっていたような場合も,何年たっても取得時効はできません。

(5)取得時効というのはどのような場合に認められる制度ですか?
 所有の意思が,その物の占有を始めた原因が,所有権を取得する取引行為の場合に認められるのが通常ですから,他人から貰ったり,買ったりした行為に不備があった場合が考えられます。






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Q.6 自己破産と個人再生
 私は,長年サラリーマン生活を送っていますが,数年前,長年の夢だったマイホームを住宅ローンで購入しました。ところが,実家の兄に頼まれ,兄の事業について保証人になっていましたが,事業に行き詰まり破産することになりました。私が,保証人として支払う金額は1500万円ということでした。到底支払いできる金額ではありません。
 私も破産するしかないでしょうか。その場合,住宅は手放さないといけなくなるのでしょうか。住宅を手放さないで済む方法はないでしょうか?



A.6 回答
(1)1500万円の保証債務の支払いができなければ,破産するという方法があります。その場合には,住宅ローンの支払い義務もなくなりますが,住宅も手放さなければならないことになります。

(2)住宅を手放さないで済む方法はないのでしょうか?
 住宅を手放さずに済む方法として,住宅ローン特別条項付個人再生という方法があります。

(3)具体的にどのような内容ですか?
 一般的にいえば,住宅を残すために,住宅ローンの支払いはそのまま続けて,それ以外の借金を総額の5分の1に減額するという方法です。そして,減額された金額を最長5年間で支払いをするという方法です。
 今の例で考えますと,1500万円の5分の1にあたる300万円を5年間で支払いをすれば良いことになります。
 毎月5万円の金額について,60回支払いをすることになります。

(4)それは簡単にできる方法ですか?
 裁判所の決定が必要です。本人や家族の返済能力などを調査して,返済が可能かどうかが判断されます。本件の場合だと毎月5万円ずつ,5年間支払いが可能ということであれば,債権者の反対がない限り,決定がでます。

(5)債権者は反対しないでしょうか。
 私の経験した限りでは,債権者が反対して裁判所の決定がなされなかった例はありません。この場合に,破産すれば,債権者は全く回収できないか数パーセントの配当しかないところを2割は返す内容ですから,債権者にとっても利益だからです。

(6)この制度は,自分の借金が,サラ金からの借入とかでできてる場合でも利用できるのでしょうか?
  できます。借金の内容を詳しく専門家に相談した方がよいでしょう。






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Q.7 消滅時効
 今の夫と結婚する前、20代の頃、当時付き合っていた彼に30万円貸しました。
定期を解約して。その時は「給料が入ったら少しずつ返すから」と約束したんですが、結局、1円も返済されず、一方的に別れを告げられました。もう10年以上昔の事で、私自身、回収は諦めていましたが、私も子供を抱え家計が大変なので、返してもらいたいと思うようになりました。
 これって無理なのでしょうか?少しでも返してもらえる方法はないでしょうか?教えてください。


A.7 回答
(1)結論として,法律的に当時付き合っていた彼氏からの支払いを強制することはできません。
  法律的には,交際中の男女でも貸付金は,返済する必要がありますが,この場合,10年以上以前の話ということで,時効制度との関係が問題となります。

(2)時効制度とは
 時効制度には,以前の放送で話をした取得時効という制度と,消滅時効という制度があります。
 消滅時効という制度は,一定期間権利を行使しなかった場合に,その権利が消滅するという制度であり,今回のような貸付金であれば,通常10年間返還を請求しないとその権利が消滅するということになります。

(3)それでは,10年経過してたら絶対に回収することはできないのでしょうか。
 まず,法律的には返済を強制できないことになります。しかし,消滅時効にかかったから返済しないということを,主張するかどうかは,借りた人の意思にも関係してきます。
 時効制度を主張するためには,本人が,時効を援用するということが必要です。 すなわち,時効を主張するという本人の意思が必要となっています。
 だから,時効期間が経過していても,本人があえて時効の権利を主張しないというのであれば,請求することはできます。
 その他に,もう一つ,消滅時効の期間が過ぎる前に,時効の中断が認められる場合があります。

(4)時効の中断とはどういうことですか。
 例えば,その時効期間が経過途中に,お金を借りていることを相手が認めた場合とか,借りている金額を一部でも支払ったとか,そのような事情があれば,時効はそこで中断します。
 本件の場合,途中で1万円でも返してくれたことがあれば,その時点から時効が再度進行することになります。

(5)今回の場合は,消滅時効は,10年という期間ということでしたが,どのような権利の消滅も10年という期間で時効消滅するのですか。
 通常10年ですが,それより消滅時効期間が短くなる場合もあります。
 例えば,一般人ではなく,商売をしている人との関係では,5年間という制限があります。
 その他に,支払う金銭の性質によっても短くなる場合があります。例えば,病院の診療代金であれば3年とか,電気料金であれば2年間とか,飲み屋さんのつけであれば1年間とか,消滅時効の期間が短くなっています。






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Q.8 消費者契約法10条
 以前、大学を卒業したての頃、資格取得の講座の電話勧誘があり、断ることもできないまま契約を結んでしまい、お金を支払ってしまいました。ちゃんと断れなかった自分も悪かった。社会勉強だと思い、そのとき支払った分は諦めがついたのですが、先日、同じところから「以前の講座が自動継続されまだ終了していない、続けるなら○○万円、退会するなら○○万円支払え」と電話がありました。
 どちらもするつもりはないんですが、どうしたらよいのでしょうか?



A.8 回答
(1)まず,念のために以前の契約書を探して,その内容を確認して下さい。そこで,その契約書の記載に,契約の自動継続に関する条項があったのかを確認して下さい。
その記載がないことが明らかとなれば,以前の契約について,既に代金支払いが済んでいますから,契約に基づき義務は終わっています。その旨きっぱりと告げて断ってください。

(2)契約書にそのような趣旨の記載があった場合はどうか。
そのような契約書の記載事項は,消費者契約法10条に違反して無効となる可能性が高いと思われます。
消費者契約法とは,悪質な事業者から消費者を保護するための法律で,その10条には,消費者の利益を一方的に害する契約書の条項は無効とすると規定されています。
 この場合,定められている契約書の条項が一方的に消費者の利益を害する条項ということであれば,法律上当然に無効となります。
本件の場合も,その条項が無効であることを前提に,既に契約は終わっていると主張すれば良いと思います。

(3)契約書が見つからない場合はどうすればよいですか。
 契約書に自動継続に関する条項の記載があっても,無効と考えられますが,本件の場合には,長期間請求がなかったことから,契約書にはそのような条項はなかったと考えられます。そうすると,以前の代金は既に支払いが済んでいるから,契約は終わっていますから,その旨きっぱりと告げて断ってください。

(4)契約を継続しないための手続きをしていませんが,それでも手続き費用の支払いをしなくてもよいのですか。
 契約を継続しないための手続き等は,通常必要ではありません。したがって,手続き費用の支払いも必要ありません。今回は,単純に新たな勧誘行為といえますので,きっぱりと断って下さい。それで何らかの費用が発生することはありません。

(5)それでも請求が続く場合はどうするか。
 一旦きっぱりと断ったにもかかわらず,電話で再勧誘を続ける行為は,特定商取引に関する法律17条が禁止している再勧誘にあたります。
 その場合は,その事業者は明らかな法律違反をしているわけですから,消費生活支援センターに相談して対応することをお勧めします。
 それでも解決できないのであれば,弁護士に相談にすれば良いのではないかと思います。






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Q.9 木の越境
 先日、隣の住人から、伸びた枝を切ってくれと申し出がありました。私の家と隣人の家の間は、密接していて、塀があるだけ。春になり、こちらの庭の木の枝が伸びてきて、葉も茂り、塀を越えてしまっていたのを見て、手が届く範囲で下の方の枝は切ると約束し、隣人も了解してくれました。ところが、約束した2週間の期限が過ぎる前に、隣人は私に無断で、木の上から下まで枝を切り落とし、幹にまで傷をつけました。
 こんな場合は、損害賠償を請求できると思うのですがどうでしょうか?



A.9 回答
(1)この問題を解答する前に,一般論として隣の木が越境した場合について説明します。
 隣の木が越境した場合については,民法233条が規定しています。
 まず,隣の木の枝が境界線を越えて侵入してきた場合には,その木の所有者に,枝を切除するように請求することができます。
 請求しても切除してくれない場合には,相手に対して切除して欲しいという裁判を起こすことが必要です。
 次に,隣の木の根が越境している場合は,その木の所有者の承諾を得ずに,切り取ることができます。但し,根を切り取ることによって,隣の木が枯れる等の損害を与えたような場合は,その損害を賠償する義務を負いますから,慎重に切り取ることが必要です。

(2)以上を前提として,質問内容について考えてみます。
 まず,隣の人が木の枝を切り取って欲しいとの申し出をしたのは,法律にしたがった手続きですから,それに応じて,切り取ることが必要です。この場合は,原則として,手が届くか届かないかにかかわらず,越境している部分を全て切り取ることが必要です。
 しかし,今回のように,越境した木の枝を勝手に切ることは法律的は認められていません。同様に,幹に傷をつける行為も法律的には認められていません。したがって,結論的には損害賠償請求の対象になるということになります。

(3)損害賠償ができると言っても,問題は金額ですから,この場合,どの程度の損害賠償が可能でしょうか。
 損害賠償は,その人が被った被害を賠償することですから,受けた被害の価値に限られます。
 今回のように,元々切らなければいけない枝を切ったということであれば,どのような損害があるのか問題となります。通常は,損害額はないと言うことにもなりかねない気がします。
 ただ,その木に凄く価値があり,傷がついたことによって,その価値が下がったとか,枝を切ったことによって,その木が枯れたしまったといような場合には,その木の価格に相当する賠償が認められる可能性があると思います。

(4)越境している枝に栗とか柿がなっている場合に,それは誰の物になりますか。
 枝に実っている果実に対する権利は,木の所有者にありますし,隣地の所有者がこれを取ることはできません。
 地面に落下した場合も同様です。






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Q.10 電磁的記録毀損罪
 今同棲している彼女がいます。その彼女に私が寝ている間に携帯を見られて,登録してある番号やアドレス,何件かのメモリを消されていました。これは法的に罪にはなりませんか?



A.10 回答
(1)他人の携帯の内容をのぞき見する行為は,プライバシーの侵害行為にあたる可能性が極めて高いですが,結論からいえば,プライバシーの侵害行為は,刑法上の犯罪にはあたらないので,罪にはなりません。

(2)登録している番号とかアドレスのメモリーを消す行為はどうでしょうか。
 一般的に,電磁的記録といわれるデーターを消す場合として,電磁的記録毀棄罪という犯罪が刑法259条に定められています。
 ただ,その犯罪が成立するためには,権利義務に関する電磁的記録でなければならないという要件があります。
 携帯電話に登録している番号とかアドレスなどは,権利や義務に関する記録ではなく,事実関係を証明する記録と考えられますので,この犯罪には該当しない可能性が高いと思います。

(3)そうすると罪にはならないということでしょうか。他には,考えられないのでしょうか。
 まず,携帯電話自体を故意に破損すれば器物損壊罪という犯罪に当たります。携帯電話の情報を保存しているSDカード自体を破損した場合も,器物損壊罪という犯罪に当たります。その場合は,刑法261条で,3年以下の懲役,又は30万円以下の罰金になります。

(4)データーを消す場合も同じように考えられないのでしょうか。
 電磁的記録を消去したことが,他人の物を損壊したといえるのであれば,同じようにも考えられますが,同じようにはいえないと思います。
 器物損壊罪は、「他人の物」の「損壊」を処罰の対象としています。ここにいう「物」には、先ほど言いました,携帯電話本体や,SDカードは含まれますが,その本体たる情報内容自体は含まれないと解されています。
 したがって,結論としては罪にはならないという考え方が一般的です。

(5)プライバシーの侵害行為の可能性がある。しかし,罪にはならない。これはどういうことでしょうか。
 他人のプライバシーという権利を侵害しているが,その行為は法律で犯罪として定められていないから,刑法上の犯罪にはならない。しかし,他人のプライバシーという権利を侵害しているとすれば,その人への損害賠償請求の対象にはなるということです。刑事上は責任を問えないけど,民事上の責任を問えるということです






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Q.11 賭博行為
 最近、大相撲界で野球賭博が大きな問題になっていますよね。確かに法律で禁じられている訳ですし、いけないことだと思いますが、実はこれって、日常ではありがちだと思うんです。スポーツの試合だけじゃなく、何かの結果でランチを賭けるとか、幾らかのお金を賭けるとか。
 やっぱりこれも法律に違反した賭博になるんでしょうか?また、どんな罰則があるんでしょうか?



A.11 回答
(1)質問にあるとおり,賭け金の少ない賭博行為は日常生活にありがちです。賭ける対象は,野球ではなくても,麻雀,ゴルフの結果,ジャンケン,花札,トランプでもいいわけですから,かなりの人が賭けた経験があると思います。

(2)それが,そのまま賭博罪になるかですが,まず,賭博罪については,刑法185条が,賭博をした場合については,50万円以下の罰金又は科料に当たると規定しています。
 但し,一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは,この限りではないとも規定しています。
 このように,賭ける対象が一時の娯楽に供する物といえる場合は,処罰の対象から除外されています。

(3)今回の質問の場合も,「一時の娯楽に供する物」に入るかどうかが問題となります。
 「一時の娯楽に供する物」とは,一般的にその場で費消されてしまう飲食物の類をいいます。
 したがって,お昼のランチを賭けるのは,その金額が特別に高額というような場合を除いて,一時の娯楽に供する物に入ることになります。
 判例では「天丼」を賭けた場合や「タバコ」を賭けた場合、いずれも「一時の娯楽に供する物」にあたり賭博罪は成立しないとしています。

(4)それではお金を掛けるのはどでしょうか?例えば,800円の昼のランチがいいなら,それに相当する金銭の場合はどうなりますか?
 判例によれば,金銭はその性質上,一時の娯楽に供するものではないというのが,主流です。
 したがって,お金を賭けた場合は,金額にかかわらず「一時の娯楽に供する物」にあたらず、賭博罪は成立します。
 但し,飲食代を支払う目的でお金を賭けた場合、例外的に賭博罪は成立しないと解釈されています。今日のお昼の代金にする目的で1000円を賭け,それを支払わせたような場合です。

(5)お昼をおごらせるのはいいけど,お金はダメということですか?
 そうです。
 しかし,実際上,一時の娯楽に供する物と同程度の金銭を掛けた場合にまで処罰されているのかは疑問です。
 金銭は全てダメであると判断した判例には,反対する見解も有力です。また,単純賭博罪の規定を見直すべきであるとか,必要性も再検討すべきだとも指摘されています。
 実務上も,その賭け金が暴力団の資金源に成っているとか、賭け金が高額であるとか、賭事を常習的に行っているとか等の事情が有れば,全く別ですけど,昼飯代金程度の金銭を掛けた軽微な単純賭博については,取締も徹底されていないと言われています。






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Q.12 プライバシーの侵害
 プライバシーの侵害について、もう少し詳しく教えてください。刑法では罪にならず、民法では罪になるとのことでしたね。
 私は自分でブログを書いていますが、人のいる風景を写した写真なんかをアップします。こうした写真を、写っている人に無断で使うとプライバシーの侵害になるんでしょうか?たとえばホームパーティーなどで知り合いと一緒に写した写真を掲載するなら、簡単に承諾を取りますが、見ず知らずの方は、説明するのも難しいですよね。それとも、こういうケースは肖像権の侵害ということなんでしょうか?



A.12 回答
(1)今の質問ですが,民法では罪になるという表現は違います。正確に言えば,刑法では罪にならないが,民法では違法行為として,損害賠償の対象になるということです。民法に違反するとしても罪,いわゆる犯罪にはなりません。

(2)次にプライバシー権と肖像権との関係ですが,プライバシー権,肖像権,いずれも憲法13条が保障する個人の権利です。肖像権も広い意味ではプライバシー権の一種ですけど,分けて理解するとすれば,プライバシー権とは,私生活をみだりに公開されないという法的権利と理解されています。
 これに対して,肖像権とは,みだりに自己の容姿・,姿態を撮影されたり撮影された肖像写真を公表されないという法的権利と理解されています。
 その意味では,今回の相談者の質問は,肖像権の問題と言うことになります。

(3)人物を撮影して,その写真を写っている人に無断で使用すると肖像権の侵害となるのでしょうか?
 必ずしもそうとは限りません。常に人の写真を無断で使用できないということになると,表現行為が著しく制限を受けることになります。表現の自由という権利も,憲法21条が保障している重要な権利ですから,肖像権と表現の自由との調整が必要となります。
 最高裁判所の判断によると,ある者の容貌などをその承諾なく撮影することが民法上,不法行為として違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,掲載された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性などを総合考慮して,社会生活上受忍限度を超えるかどうかを判断して決するべきであるとしています。

(4)例えば,サッカー中継中に,観客席で応援しているのがテレビに写ったような場合とか,公共の場所で,お祭りとかの公の行事に参加していて,大勢の中の1人として写真に写ったような場合は,受忍限度内ですから,肖像権の侵害にはならないと思います。
 但し,公共の場所での撮影であっても,大写しにより個人が特定できるような場合で,被写体となった本人に強い心理的不安を覚えさせるような場合には,違法性があると判断した判例もあります。

(5)今回の質問の場合ですが,人と風景が写っていても,撮影場所が公共の場所であり,個人の特定が容易にできない場合で,目的が自己のブログの中での使用であるような場合には,肖像権侵害として違法となる可能性は低いと思います。






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Q.13 養育費
 3才半の子供をもつシングルマザーです。2年前に協議離婚をしたのですが、そのときには,離婚だけできれば良いと思い,養育費とかの話し合いはせずに,離婚しました。
 しかし,私のパート収入が減り,子供のおもちゃも買えない状況です。養育費の取り決めをせずに離婚届を出した以上,もう別れた夫からは,子供の養育費を貰うことはできないでしょうか。過去の分はどうでしょうか。


A.13 回答
(1)養育費は、親権の有無や子供との同居の有無とかには関係なく,子の母であり,父であるという親子関係という身分関係に基づき発生するものですので、離婚後であっても請求することが出来ます。

(2)どのように請求することになりますか?
 元夫との話し合いにより養育費の額や支払い期間、方法等を取り決めることが一番早い方法ではあります。
 その場合,養育費の取り決めは口頭の約束でも有効ですが,出来れば書面化することをお勧めします。公正証書にしておけば,支払わない場合に強制執行することができるから,支払いの確保という意味ではより安全でしょう。
 これに対し,元夫と話し合いが出来ない場合や金額などについて話が調わないときは、元夫の住所地を管轄する家庭裁判所に養育費支払いの調停を申し立てることが出来ます。

(3)養育費の金額についてどうなりますか?
 当事者の合意が成立すれば,その金額になります。合意が成立しない場合には,家庭裁判所では,養育費算表がありますから,双方の収入などをもとに算定した養育費算定表を利用して決まることになります。

(4)次に過去の養育費を請求できるかどうかですが、これは審判例が分かれていますので問題となるところです。
 具体的に,何時の時点から請求できるのか,過去の全額が請求できるのか。審判例も別れていますが,ある程度は認められると思います。

(5)いずれにしましても、家庭裁判所では父母双方の資産や収入、生活状況など一切の事情を考慮して、夫に請求できる過去の養育費の金額や今後の養育費の支払いを命じてくれます。

(6)養育費は,1度家庭裁判所などで決めるとその後の金額の変更はできないのでしょうか?
 1度養育費の金額を取り決めた場合でも,離婚当時に予測し得なかった個人的,社会的事情の変更が生じたと認められる場合には,増額や減額の請求は出来ます。
 例えば,別れた妻が再婚などをすれば,事情の変更として,夫から減額請求権が認められる可能性が高くなります。






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Q.14 遺言書
 同居している87歳の父が,私に多く財産をあげたいから遺言書を作成すると言っています。父は老人性の痴呆症状がかなり出ていますが,どうすればよいでしょうか。


A.14 回答
(1)まず,お父さんの痴呆症状がどの程度かがまず問題となります。
 遺言をするためには,自ら遺言の内容を判断して,その意思を表明する遺言能力が必要になります。これは満15歳以上の能力です。
 老人性の痴呆症状があっても,症状の程度によっては,遺言能力が認められる場合もあります。
 お父さんの症状について,遺言が出来る状態かどうか,よく医者の意見を聞く必要があります。
 医学的な判断については,特段の事情がない限り主治医の判断が尊重され,遺言書の内容が単純であれば,遺言能力が肯定されやすく,複雑であれば,遺言能力が否定されやすいと言われています。
 主治医が可能という状況であり,簡単な内容なら出来る可能性が高いと思います。

(2)遺言が出来るとして,どのような遺言作成手続きを取るかが次に問題となります。 注意しないといけないのは,遺言書は法律で定められた手続きに従って,作成しないとその効力が認められない可能性があります。

(3)法律に従った手続きとはどういう手続きですか。
 今回の場合には,自筆証書遺言という方法と,公正証書遺言という二つの方法が考えられます。
 その内容を簡単に説明しますと,自筆証書遺言とは,遺言者が,遺言書の全文,日付,氏名を自分で書き,捺印して作成します。作成方法は簡単ですが,遺言発見後に家庭裁判所での検認手続きが必要となりますし,要件をみたさない遺言は,無効となる可能性があります。
 これに対して,公正証書遺言とは,証人2名以上の立会のもとで,遺言者が公証人に対し,遺言の趣旨を口述し,公証人がそれ筆記して作成します。作成手続きは若干手間がかかりますが,保管が確実で安全で,家庭裁判所の検認手続きも不要です。

(4)今回は遺言作成はどうすればよいでしょうか。
 今回は,自筆証書遺言で作成すると,当時の遺言能力の有無が問題となる可能性が強いですし,後々の紛争を避ける意味でも,公正証書遺言の方を進めます。
 特に,お父さんの場合は,遺言能力を証明して貰うために,できれば,医者に証人をお願いするのがいいと思います。
 なお,お父さんが成年被後見人であれば,必ず医師2名の立会が必要です。

(5)公正証書遺言を作成する場所はどこになりますか。
 通常は公証人役場に出向いて作成しますが,病院や自宅に出張して貰うこともできます。

(6)他に注意する点はないでしょうか。
 高齢者の遺言は,後々紛争が起きる可能性が高いので,遺言書を作成する前に,法律事務所等でよく相談し,自筆証書,公正証書のどちらがの方法がいいか,遺言の内容をどうするのか含めて,後々紛争が起きない方法をよく話し合って決めるのが良いと思います。






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Q.15 文章の著作権
 先日、ブログでの肖像権のお話をしていましたよね。私もブログを開設していて、とっても参考になりました。あれから、自分で撮影した写真を載せるときは気をつけるようにしています。
 ところで、1つ疑問が出てきたのですが、文章の著作権ってどうなんでしょう?
ネットや書籍、感動した歌の歌詞とか、映画のセリフとか、引用したりすることもよくあると思うんですがこういうのはどれくらい許されるんでしょう?または、参考にした大元のタイトルとか著作、作者、作品名とかを載せておいた方がいいんでしょうか?



A.15 回答
(1)質問にあるとおり,個人のホームページに、他人の文書,新聞記事の一部や写真などを無断で利用しているケースがかなり多くなっています。当然のことですが,ホームページなどに掲載される文書や画像等には、通常著作権があります。
 その内容を無断で転載する場合には,著作権侵害が問題となりますし,著作権者の了解が必要な場合もありますし,特に注意が必要となります。

(2)著作権とは何ですか?
著作権とは,著作物を独占的に支配して利益を受ける排他的な権利であり,著作権法によって保護されています。そして,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいいいます。
この著作権に関する問題は,かなり難しい問題を含みますが,今回は,著作物の引用についてお尋ねですので,そこに限定して説明します。

(3)他人の著作物を自らの文章を補う形で「引用」で使用する場合ですが,著作権法32条が一定の範囲で引用することを認めています。しかし全く無制限というわけではありませんし,それにもおのずと許される範囲というものがあります。

(4)どのような範囲で許されているのでしょうか。
 一般的には次の要件を満たす必要があると言われています。
 @ まず,引用目的として,報道,批評,研究,その他正当な引用目的が必要です。
しかし,これらに限定されるわけではなく,例えば,自己の見解,主張の補強のための利用でも正当な引用です。
 A 次に,引用部分がはっきり区分されていること。引用部分をカギかっこでくくるなど、本文と引用部分が明らかに区別できることが必要である。
 B さらに,主従関係が必要です。文章の内容と量の点で、引用先が「主」、引用部分が「従」という主従の関係にあることが必要です。引用した人の側に表現したい内容がしっかりとあって、その中に、補強材料として原典を引用しており、文章の量としても引用部分の方が地の文より少ないという関係です。
 C それに加えてその著作物を引用する「必然性」があることと、引用の範囲にも「必然性」があることが必要です。したがって、全文章を丸写しにしたものなどは、引用には該当しないので,著作権者への事前の転載許可が必要となります。

(5)こうした点に注意することが大切ですが,もう1点,引用には注意する点があります。引用には、「出所の明示」(引用部分の著作者名と、原作品名)が義務づけられているということです。

(6)今までは,原文の引用ですが,要約して引用することはどうなのでしょうか。
 この点ついては,原文の一分を省略しながら切れ切れによる引用することしか認めないより,原文の趣旨に忠実な要約による引用を認める方が妥当であるとの下級審判決がありますが,現実的にはそのような方向だと思います。






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Q.16 自己破産
 私は40代の主婦で,専業主婦です。約20年間連れ添った夫が,突然、自己破産するから,迷惑がかかるから離婚してほしいといわれました。私は,夫の保証人になってませんが,夫個人の借金が私に請求されることはあるのでしょうか?結婚してからローンを支払っていた夫名義の自宅がありますが,それも全て手放さないと行けないのでしょうか。離婚して,私がそれを貰うことはできないでしょうか。


A.16 回答
(1)まず,結論をから言いますと夫がした借金の保証人や連帯保証人になっていない限り、妻であるあなたが夫の借金を返済する義務はありません。
 夫婦といえども、夫が個人でした借金の保証人になっていない限り、妻であるあなたが代わりに支払うべき法律上の義務はありません。
 夫にお金を貸した人(債権者)から、代わりに借金を返すように要求されたとしても、何ら法律上の強制力はありません。
 それどころか、例えば,貸金業者がそのような請求をすれば,法律違反として罰則が定められています。

(2)次に,離婚して家を妻名義にすることについて考えてみたいと思います。
 まず,夫の収入で購入し,夫名義の自宅ということですが,原則として,専業主婦の妻でも,その財産の形成維持に協力したと評価されます。したがって,離婚に際しては,夫名義であっても,自宅の土地建物は当然財産分与の対象になり,半分は妻の権利となります。

(3)問題は,夫が破産するから,夫の債権者から夫名義の財産隠しというクレームがつくのではないかということです。
 この点については,最高裁判所の判断がなされおり,それによりますと,財産分与に仮託してなされた財産処分と認められる特段の事情があるときは,不相当に過大な部分について,その限度において,債権者を害する行為として取消の対象になるとされています。

(4)わかりやすく言えば,債権者からの財産隠しという側面があったとしても,財産分与という妻の権利が保護されるということです。今の場合であれば,家の持分の半分は当然に保護されると言うことになりますから,それを超える部分が不相当に過大な部分となる可能性が出てきます。。
 例えば,自宅の土地と建物の価値が合計3000万円の場合,仮に夫婦が財産隠しを目的として離婚をして,夫から妻に自宅の土地建物の財産分与をしたとしても,1500万円分だけが取消の対象になる可能性があるということです。






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Q.17 ホールインワン保険
 この前、生まれて初めてホールインワンを出しました!元々ホールインワン保険には入っていたので、パーティー代とか景品代をそこから出そうと思ったら、セルフで回っていたから、ゴルフ場の関係者・キャディさんなど仲間以外の人が目撃していないので難しいと言われました。何とかなりませんか?



A.17 回答
(1)ホールインワン保険
  「ホールインワン」とは、各ホールの第1打が直接カップインすることをいいいます。この保険は,そのときに,ホールインワンを達成したプレイヤーが贈呈品や,祝賀会や,ゴルフ場に対する記念植樹をする費用や,同伴キャディに対する祝儀などの費用を負担することによって被る損害をてん補する保険のことです。

(2)保険金の請求については,第1回の交通事故の保険金請求の相談の時にも話をしましたが,どのような場合に,保険金の請求が出来るかということは,保険会社の約款に規定されていると思います。

(3)私もホールインワン保険に加入していますので,自分の加入している保険会社の約款を調べてみました。
 平成11年に作成された約款と平成16年に作成された約款が見つかりましたが,平成11年時の約款では,保険金請求の対象となるゴルフ競技についてゴルフ場所属のキャディを補助者として使用するということが,要件となっていましたから,その時点でのホールインワン保険はキャディ付の場合しか対象にはならなかったと考えられます。
 これに対して,平成16年時の改正された約款は原則として,ゴルフ場に所属し,ゴルフの競技の補助者として使用したキャディの証明が必要と記載されていますが,3つの例外も定められていました。
 ホールインワンを目撃した当該ゴルフ場の使用人,ゴルフ場の公式協議の参加者又は競技委員の1名,ホールインワンを達成したことが確認できるビデオ映像等,ホールインワンの達成を客観的に立証することができることを当会社が認めた資料でもキャディの証明の代わりになるとされていました。

(4)さらにこの件で別の保険会社のホームページを調べてみました。
 そこには,原則としてセルフプレー中に達成したホールインワン等は保険金支払いの対象にはなりません。但し,例外として,セルフプレーでキャディを同伴していない場合は、同伴キャディの目撃証明に替えて一定の目撃証明がある場合に限り保険金をお支払いします。
 ここに,「目撃」とは、被保険者が打ったボールがホールにカップインしたことを、その場で確認することをいいます。
 目撃証人になれるのは,同伴キャディ、ゴルフ場使用人、ゴルフ場内の売店運営業者、ワン・オン・イベント業者、ゴルフコンペの参加者以外の先行・後続のパーティーのプレーヤー等としている保険会社もありました。

(5)このように最近のセルフプレーの増加に対応してホールインワン保険の要件も変更されてきています。自分の加入しているホールインワン保険の約款を調べてて見ることが必要だと思います。






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Q.18 仕事中の車輌事故
 パートで働いている女性が、車に乗って社外へ届ものをしにいくとき、事故を起こしてしまったんです。その時に使っていたのが自家用車でした。社有車はふさがっていたため自分の車で出かけ、事故に遭いました。どちらが悪いかどうかはともかく、会社の言い分は「自家用車だから、修理は自費でやれ」というものでした。業務命令で、時間が指定されているから仕方なく自分の車で出かけたのに、コレって理不尽じゃないでしょうか?やっぱり自分で負担するしかないんでしょうか?



A.18 回答
(1)あまりないパターンですから,難しい問題です。類似の裁判例もみあたりません。
 頻繁に出てくるのは,自家用車で業務を行った時に,交通事故を起こし,他人に怪我を負わせた。あるいは他人の車輌の損壊した。この場合に,その社員が損害賠償義務を負担するほかに,会社も使用者として損害賠償の責任を負うかという問題です。
 この場合は,相手及び相手の車の損害について会社が負担するかという問題ですし,一定の場合は,会社の責任も認められています。

(2)よく似た問題として,従業員がミスをして会社に損害を与えた場合にどうなるかという問題もあります。
 この場合は会社が従業員に損害賠償請求できますが,従業員が意図的に行った場合以外は,損害賠償請求は制限され,一定の範囲で会社が従業員に請求できるということになります。
 例えば,今の場合,本人が仕事で会社の車輌を用いた状態で事故を起こし,会社の車輌を損壊した場合,本人の賠償責任を負う必要はないのかということです。
 従業員に故意,又は重過失がない,日常よくあるミスの場合は,会社からの請求は大幅に制限されるということになります。

(3)今の問題とのバランスで考えた場合,本人が仕事でやむを得ず自分の車輌を運転して,事故を起こし,車輌を損壊した場合には,一部会社に負担させてもいいようにも思いますが,やはり自分で自分の車輌を運転し,事故を起こして壊しているわけですから,
 今回のように,業務命令で、時間が指定されているから仕方なく自分の車で出かけたのに、と言うレベルでは,原則的には,かなり難しいと思います。

(4)但し,会社が本人の車輌を営業車輌として使用していることを強要している,あるいは容認しており,そういう利用方法を本人が断り切れないような,ごく特殊な事情があるような場合には,労働災害的な考え方を使って,一部求償できる可能性はあると思います。

(5)結論としては,やはり仕事には使わないし,使うときには,自分の車輌の損害も支払って貰えることを会社と合意するか,そのような保険に加入することが無難だと思います。






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Q.19 落とし物(遺失物法)
 この前、散歩中に落し物を拾って交番へ届けたところ、その後、落とし主の方が見つかって無事に持ち主の手元へ帰ってホッとしました。と、いう事があって、ふと思いました。もしも、もしもですよ、○億円拾って、落とし主が現われなかったら?もしも、埋蔵金を見つけてしまったとしたら?こんな場合はどうなるんでしょうか?



A.19 回答
(1)落とし物を拾って届けた時の所有権に関することについては,まず,民法240条が規定しています。
 これによりますと,遺失物法の定めるところにしたがい公告をした後,3ヶ月以内に所有者が判明しない場合には,これを拾得したものがその所有権を取得すると定められています。

(2)持ち主に返還した後のお礼の処置については、遺失物法というのがあります。
遺失物法28条では,5%以上20%以下の報労金を貰えると規定されています。
遺失物法29条では,落とし物が持ち主に返還された後,1ヶ月を過ぎると、報労金を請求できないと書いてあります。

(3)報労金の範囲に幅がありますが,この考え方は別れています。持ち主が自由にその範囲内で決めることが出来るとする古い先例もありますが,最近の下級審では,その範囲内で,当事者間で協議をなし、それが不調になったときは,訴を起こして裁判所に判定してもらうと言う判例もあります。

(4)次に埋蔵物ですが,これについては民法241条が規定しています。
遺失物法にしたがい公告した後6ヶ月以内に所有者が判明しないときは,発見したものがその所有権を取得します。
 但し,注意が必要なのは,埋蔵物は,例えば一定の土地の中に埋まっているということが,一般的に多く考えられ,その埋蔵物が埋まっている土地のことを包蔵物といいますが,それとの調整が必要となります。
 つまり,遺失物の場合と異なり,包蔵物が発見者の所有であれば,発見者が全部を取得できますが,包蔵物が他人の所有物であれば,その人と折半して取得すると規定されています。

(5)公告後,6ヶ月以内に所有者が判明した場合には,発見者,包蔵物所有者とも埋蔵物の所有権を取得しません。
 この場合,遺失物の場合と同じく報労金の問題が発生しますが,発見者は遺失物を取得したと同じ立場で功労金を請求できますが,包蔵物所有者には功労金は発生しません。
(6)なお,埋蔵物が文化財の場合には若干異なってきます。
 所有者が見つからない場合には,その所有権は国庫に帰属し,その価格の2分の1相当の報償金が発見された土地の所有者に支給されることになります






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Q.20 肖像権・パブリシティ権
 最近、ドラマの「龍馬伝」が人気になってますよね。それに龍馬ブームとかで、グッズやお菓子、ゲームとかたくさん関連商品が出ていますが、ああいう歴史上の人物は著作権や肖像権はないんでしょうか?時々、政治家の方もおまんじゅうになってたりマスクになったりしますが、公の人も同じでしょうか?だとすると、私が「龍馬どらやき」とか「菅まんじゅう」を作って売ったりしてもいい?



A.20 回答
(1)まず,今問題となる肖像権についてもう一度考えてみましょう。
 以前に話をしましたが,肖像権とは,みだりに自己の容姿・,姿態を撮影されたり撮影された肖像写真を公表されないという法的権利と理解されています。
 これは,個人のプライバシーを他人の不当な侵害から保護する側面として考えれていますが,肖像権については,近年その財産的側面についても重視されています。
 いわゆるパブリシティ権といわれる権利ですが,質問者の肖像権という内容は,肖像権の財産的側面であるパブリシティ権侵害についてのように思います。

(2)パブリシティ権とはどういうものですか。
 パブリシティ権とは,先ほど言いましたように肖像権の財産的側面を重視したものです。
 そもそも肖像権というのは、ある人のプライバシーを守る権利ですが,その反面,ある人が自分の肖像,容姿を利用して経済活動を行う権利を有するということから考えられる権利です。
 例えば,著名人やタレント(いわゆるセレブリティ)の氏名、肖像等の有する顧客誘引力を利用する権利と言われます。特にパブリシティ権を認めた法律はありませんが、判例上、経済的価値を利用する財産権として認められる傾向にあります。
 したがって,顧客吸引力を持つ著名人の氏名や肖像を営利目的で使用すると(たとえば、CMなど。)パブリシティ権侵害に問われることがあります。

(3)坂本龍馬の龍馬どら焼きについては,どう考えますか。
 肖像権の財産的側面であるパブリシティ権は,財産権ですので相続性があると言われております。したがって,亡くなった故人の氏名や肖像を使用する場合にも注意が必要です。遺族らの承諾が必要な場合があるでしょう。
 ただ、坂本龍馬は別に自分の容姿を利用してお金を稼いでいたわけではありませんから、坂本龍馬の肖像を使用することにより坂本竜馬の遺族・子孫に何らかの損害が出るとは考えられません。また,死亡後100年以上も経過しており,著作権の保護期間が著者の死亡後50年とされていることからも,パブリシティ権としての保護期間は既に終えていると考えられれます。
 ということで、個人的には、パブリシティ権,肖像権侵害となる可能性は,ほぼないと考えます。
 したがって,龍馬どら焼きを作ることはパブリシティ権侵害にはならないと思います。

(4)政治家その他の公人については、どうですか。
 著名人の氏名、肖像は、当該著名人を象徴する個人識別情報として、それ自体が顧客吸引力を備えるものであり、一個の独立した経済的利益ないし価値を有するものである点において、一般人と異なります。
 そうだとすれば,最近は,芸能人並みの顧客吸引力を有する政治家もいますし,もともと芸能人が政治家になる場合もありますから。パブリシティ権の侵害の問題も発生するかもしれません。
  
(5)では,「菅まんじゅう」を作って販売することはどうなるのでしょうか。
 肖像権の財産的側面であるパブリシティ権を侵害するかどうかの判断基準として,その「使用が他人の氏名、肖像権の持つ顧客吸引力に着目し、もっぱらその利用を目的とするものであるかどうかにより判断すべきである」とする裁判例がでています。
 したがって,菅さんという名前に,顧客を吸収し,引きつける魅力があり,それを利用する目的を持って行えば,侵害にあたることになるかもしれません。

(6)以上が肖像権の話ですが、著作権についても検討します。
 例えば,教科書に載っている坂本龍馬の「写真」を無断で転載する場合を考えてみます。その場合については,その写真を撮影した人に著作権が発生しているといえます。
 しかし、著作権は旧著作権法では死後30年、現著作権法51条でも死後50年で消滅しますので、その写真の著作権も間違いなく消滅しています。
 その写真を利用することは自由に出来るのではないかと思います。
 次の点に,注意しないといけません。
 龍馬の写真をもとに誰かが書いたイラストというのであれば,話は全く変わってきます。誰かが新しく書いたイラストであれば、その人にまた著作権が発生するからです。その場合は、商品に利用すれば著作権侵害になります。
 その他にも,他人が作成した歴史上の人物の映像などを使用することによって,その人の著作権を害するということはあり得ます。










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