Q.21 死亡した家族の年金の不正受給
 最近、全国で100歳以上の高齢者の所在不明が問題になっていますよね。
家にも高齢のおばあちゃんがいるので、ニュースを聞くたびに、何だかやりきれない気持ちになります。行方不明になっていたり、お亡くなりになってしまったのに届けをせず、家族が年金をもらっていたとしたら、罪ですよね?具体的に、どんな罪でどれくらいの罰が与えられるんでしょうか?



A.21 回答
(1)まず,このように所在不明で生存が確認できない高齢者は,何故発生するのでしょうか。

@人が亡くなった時には,届出義務者であるその親族や同居人等が,死亡の事実を知った日から7日以内に死亡届を出さないといけないとされています(戸籍法86条)。
 正当な理由がなく,それを怠った場合には,5万円以下の過料に処せられます(戸籍法135条)。そして,墓地埋葬法上は,死亡届を出さない限り,死体の火葬や埋葬ができない扱いになっています。
 したがって,亡くなって埋葬する場合には,必ず行政機関が確認できるようになっています。
 そうだとすれば,まず第1に死亡(自然死)しているにも拘らず、家族が死亡の事実を隠蔽して届けていない場合が考えられます。
 例えば,死亡した遺体を家の中とかどこかに放置している場合です。
A行方不明の場合
 次に,行方不明の場合ですが,老人が行方不明になっても,必ずしも届出を出す義務はないから,失踪しているにも拘らず家族が失踪届けを出していない。そのため,どこかで孤独死してる場合が考えられます。身元不明で処理され、全く違う自治体に住民登録だけが残っていた場合です。
 仮に,行方不明で亡くなっていない場合は,痴呆症等で本人確認できないまま、施設に収容されている場合もあるかもしれません。
Bもう一つは,市町村自治体の何らかの手違いによって、住民票・戸籍が適正に処理されていない場合もあるかもしれません。

(2)死亡が確認できない場合には,年金が支給され続けるわけですが,不正受給が分かった場合に,不正受給していた年金はどうなりますか。

 まず,不正受給者には、もちろん返還義務があります。
 国民年金法 第23条により、年金の不正受給があるときは、全部又は一部を徴収(返還)しなければなりません。厚生年金保険法にも40条2には, 国民年金法と同様の返還規定はあります。

(3)返還する義務があるとして,それ以外の罰則はどうなっていますか。

 国民年金法第111条によれば,偽りその他不正な手段により給付を受けたものは,3年以下の懲役または100万円以下の罰金となっていますが,厚生年金保険法には,不正受給した場合の罰則がありません。
 しかし,両方とも刑法が適用されることになると思います。
 例えば,死亡した両親が生存しているように装い、両親の年金を不正受給していた場合には,刑法246条の詐欺罪が適用されることになります。この場合,10年以下の懲役が規定されています。
 他に,亡くなった人をそのまま放置していれば,刑法190条の死体遺棄罪として3年以下の懲役の可能性もあります。

(4)年金不正受給が実際に刑事事件になっていることはあるのでしょうか。

 少し調べただけで刑事事件となっているいくつかの例が見られました。
 @ 1908年生まれの男性宅から白骨・ミイラ化した5人の遺体が発見された事件で、両親の老齢福祉年金91万円を不正受給したとして、長男(70)ら3人を詐欺容疑で逮捕した事例
 A 84歳で死亡した父の遺体を押し入れに1年半隠した息子(56)を死体遺棄容疑で逮捕。厚生年金360万円を詐取した詐欺容疑で追送検した事例
 B 73歳で死亡した母の遺体を押し入れに3年間放置した娘(44)を死体遺棄容疑で逮捕。遺族年金240万円を不正受給した詐欺容疑で再逮捕した事例
 C 75年に死亡した祖母の死亡届を出さず、老齢福祉年金68万円を不正受給した孫の男(70)らを詐欺容疑で逮捕した事例

(5)不正受給をどうすれば防げるのでしょうか。

 簡単な問題です。年金支給者の本人確認をきっちり行うことで防げる問題だと思います。
 一部のマスコミの指摘によれば,厚生労働省の担当者は,調査人員が不足するとのコメントを出しているとも言われています。
 しかし,問題のすり替えで,調査の方法を検討すれば解決する問題で,100歳未満の方も広く調査した方が良いと思います。

☆ 厚生労働省の担当者は,家族の生存を装い年金を不正受給する事件は全国で相次いでいるが、「年金受給者は今年3月現在で4000万人おり、個別に生存確認するのは困難」。不正を見破る有効な手だてがないのが実情だ。「生存確認を徹底しようとすれば、単純計算で日本年金機構の職員1人が年間約4000人を戸別訪問しなければならない。他の業務もあるので事実上不可能」と話している。





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Q.22 弁理士と弁護士のちがい
 商標登録ってネットで調べてみると「特許事務所」などで「弁理士」が請け負うようですがくら先生のような「弁護士」とはどう違うんでしょうか?当然法律上の関わりもあるわけですから、弁護士さんも特許とか商標登録ができるんでしょうか?



A.22 回答
(1)弁理士とはどのような仕事をする人を言いますか。 
 弁理士とは,特許・実用新案・意匠・商標に関して、特許庁などに対する手続きの代理や鑑定などの事務を行うことを職業とする人を言います。
 簡単にいうと、弁理士資格は,知的財産権(特許権,実用新案権,意匠権,商法権など)を依頼者が取得できるよう,その人の代理人となって特許庁へ手続きし、依頼者から代金をいただくことができる資格です。

(2)弁護士の職務内容は
 これに対し,弁護士は,当事者その他の関係人の依頼または官公署の委嘱によって、訴訟に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする者をいいます。
 弁護士資格は、法的手続において依頼者の代理人や事件の被告人の弁護人として法廷で主張・弁護等を行うほか、各種の法律に関する手続きを行って、依頼者から代金をいただくことができる資格です。
 ただ、弁護士資格の権限の中には弁理士の業務内容も入るため、弁護士資格を持っている人は、弁理士として登録することもできます。
弁護士法第3条2項では,弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができると規定されています。
 したがって,特許や商標登録の出願書類の作成も行うつもりなら出来ることになります。

(3)弁護士は,実際の仕事として,弁理士と同じような仕事をするのですか。
 実際には弁護士と弁理士とでは、仕事内容はかなり違います。弁理士は、出願から登録になるまでの,いわゆる「権利化」する手続きを特許庁に対して行うことを主要な業務としていますが、弁護士が「権利化」までの手続きを特許庁に行うことは現実にはまずありません。もっとも、特許権侵害訴訟と並行して、特許無効審判を請求する場合には、弁護士が代理することはあります。これは、権利化後の手続きです。知的財産権を権利化にするまでが弁理士の主な職域で,弁護士は権利化後に関与することが多いと思います。

(4)先ほど,弁護士法には税理士及び弁理士の業務を行うことができると規定されてるとのことでしたが,実際上,税理士の業務を行うことができるのでしょうか。
 弁護士法の規定上では,弁護士でしたら税理士にもなれますが、一般の税務を受任することは,今まではあまり聞いたことはなかったです。もっとも、税務関係の訴訟は当然に受任するでしょう。

(5)弁護士は,弁理士や税理士業務以外にも他の業務を行えるのですか。
 弁護士は,行政書士・社労士となる資格を有します(行政書士法2条2項、社労士法3条2項)。その他に,公認会計士試験についても,いくつかの試験科目の免除規定がありますし,司法書士の業務についても,かなりの部分を弁護士が行うことが出来ます。






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Q.23 覚せい剤・大麻などの薬物犯罪
 くら先生は、薬物に関係する裁判を担当された事はありますか?この前、アメリカのセレブ(パリス・ヒルトン)が覚せい剤を持っていたらしいとニュースを見ました。日本でも大麻の栽培などで、逮捕される映像を見た記憶があります。こうした禁止された薬物を使うと、どんな罪になって、どれくらいの罰があるんでしょう?それに再犯はやっぱり罪が重くなるんでしょうか?



A.23 回答
(1)薬物に関する裁判を担当したことはありますか。
 覚せい剤に関する事件を受任したことは,数えたことはありませんが,今までに30件前後くらいはあるように思います。大麻に関する事件も数回はあります。

(2)薬物犯罪には,どれくらいの罰則が規定されているのでしょうか。
 大麻取締法では,大麻の栽培については7年以下の懲役(24条),大麻の所持,譲り受け行為などには5年以下の懲役(25条)が規定されています。
 覚せい剤取締法では,覚せい剤の所持譲り受け行為や使用行為などは10年以下の懲役が規定されています。

(3)実際の裁判ではどうなっていますか。
 事案の性質にもよると思いますが,通常は,薬物犯罪について,1回目の犯罪行為は執行猶予判決が下されることが多いです。
 例えば,覚せい剤の1回目の所持で,1年前後の懲役刑が言い渡されると,それに執行猶予期間が3年間ほど付くという判決になることが多いです。
 これは本来ならば,1年間の懲役刑を受けないといけないのですが,その執行を3年間猶予し,そして,その期間,犯罪行為を犯さずに無事に過ごせば,刑務所に入らずに済むという内容です。
 これに対し,2回目は,ほぼ実刑判決になります。その場合,執行猶予期間に行えば,以前の執行猶予判決が取り消されますから,先の例ではその分の1年が加算され,今回の判決が1年の実刑であれば合計2年間刑務所に行くことになります。
 
(4)薬物犯罪で記憶に残っている事件はありますか。
 もう十数年前になる事件ですが,覚せい剤使用罪で,第1審で実刑判決を受けた若い女性の控訴審事件を受けたことがあります。
 当時交際していた男性と覚せい剤を使用したという事件で,2人は以前にも覚せい剤使用で捕まったことがあるという内容でした。
 以前に捕まった時は,男性は,執行猶予付判決でしたが,女性の方は,本人が認めてはいたのですが,尿検査の結果では使用が判明しないということから,裁判を受けずに検察庁で起訴を猶予するという処分を受けていた事件でした。
 男性は2回目ということで実刑判決になりました。ところが女性は,実際は2回目の使用であるが,裁判は1回目という微妙な事件だったのです。地方裁判所は,男性と同様に女性にも実刑判決にし,本人が控訴したという事件でした。

(5)その結果どうなりましたか。
 控訴審では一審判決を破棄して,執行猶予付判決になりました。

(6)具体的にどういう弁護をしたのですか。
 拘置所に会いに行って,裁判官に本人の反省の意思,立ち直ろうとする意思を,どのように分かってもらうかということを,本人と良く話し合いをしました。その結果,拘置所の中で,裁判までの間,毎日,本人の反省の気持ちと,立ち直りたい気持について,反省日記を書かせました。その結果,2ヶ月分くらい反省日記がたまりました。
 それと,実際には1度しか裁判を受けていないのに,実質的には2回目と同様であるという判断は,最高裁の判例と異なるのではないか。いう点も主張しました。
 その結果,本人の反省の態度をみてくれたのか,控訴審で執行猶予がつきました。弁護士になってまだ経験が浅いときで,初めて原判決を破棄するという。判決を受けた事件でした。






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Q.24 自転車と道路交通法
 おととい買い物に行くのにスーパーへ歩いていく途中,交差点で自転車とぶつかりました。幸いけがはありませんでしたが,自転車に乗っていた男の子はゴメンも言わずに走っていきました。自転車も「車」ですよね。道路交通法ではどうなっているんでしょう?



A.24 回答
(1)自転車と道路交通法については,平成19年6月14日に成立した「道路交通法の一部を改正する法律」により、次のとおり自転車に関する通行ルール等の規定が改正されました。これらの改正規定は平成20年6月1日から施行されています。

(2)通行方法に関する規制を簡単に説明しますと,次の通りです。
@ 路交通法上、自転車は「車両」の一種ですので、歩道と車道の区別があるところでは車道を通行するのが原則です。また、車道では原則として左側端を通行しなければなりません。
 例外として歩道を通行できるのは,以下の場合です。
  ア 普通自転車の歩道通行可を示す標識等がある場合
  イ 普通自転車の運転者が児童、幼児、70歳以上の者、身体障害者であるとき
  ウ 車道又は交通の状況に照らして自転車の通行の安全を確保するため歩道を     通行することがやむを得ないと認められるとき
 これに違反した場合には,3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が規定されています。
A 歩道を通行できる際の,通行方法も,自転車が歩道を通行する場合は、車道寄りの部分を徐行しなければなりません。また、歩行者の通行を妨げるような場合は一時停止しなければならないと規定されています。
 これに違反した場合にも2万円以下の罰金又は科料が規定されています。
B その他,交差点での通行,自転車道の通行方法にも規定がおかれています。

(3)さらに自転車の乗り方についても規定されています。
@ 安全運転の義務として,道路及び交通等の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければなりませんし,違反については3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が規定されています。
A 夜間、前照灯及び尾灯の点灯義務として,夜間、自転車で道路を走るときは、前照灯及び尾灯(又は反射器材)をつけなければならないと規定され,違反については5万円以下の罰金が規定されています。
B 酒気帯び運転の禁止も規定されていますし,違反には5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が規定されています。
C 二人乗りの禁止についても,各都道府県公安委員会規則に基づき、6歳未満の子供を乗せるなどの場合を除いて、原則として禁止されています。違反は2万円以下の罰金又は科料となっています。
D 並進の禁止が規定され,違反については2万円以下の罰金又は科料が規定されています。

(4)道路交通法の違反問題は,以上の通りですが,運転を誤って歩行者や他の自転車に乗っている人と衝突して怪我をさせた場合には,また,別の問題があります。
 運転者に過失があれば,過失致死傷罪という刑法の適用も問題となりますし,民事上の損害賠償責任の追及も,自動車の運転者と同様に問題となります。
 与えた被害が大きいような場合は,多額の賠償義務を負担することになります。






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Q.25 保険会社との示談交渉
 1年ほど前に,母親が交通事故の被害を受けました。ようやく治療を終え,保険会社と示談交渉に入りました。保険会社から母親の過失割合として,支払われる総額から3割の減額がなされた金額が提示されました。過失割合による減額にも納得いきませんが,インターネットで色々調べてみると,保険会社の提示した金額が,どうもかなり低いように思えます。
 保険会社の提示額に承諾するしかないのでしょうか。



A.25 回答
(1)まず,3割の過失割合についてどうでしょうか。
 過失割合については,正確な事実を前提にして,判断することになりますから,今のところ3割が多いのか少ないのかは判断できません。
 ただ過去の裁判例を分析した過失割合の基準というものがあります。したがって,納得できなのであれば,1度,法律事務所で事故の状況を説明して,その過失割合が妥当なものかどうか調べてもらう方が良いのではないかと思います。

(2)次に保険会社の提示額とインターネットで調べた金額に差があるのではないかという質問ですがどうでしょうか。
 まず,保険会社には,保険会社なりの支払い基準というものがあり,それに基づいて金額を算定しています。したがって,保険会社の提示した金額は,保険会社の基準という意味では1つの合理性を有しています。

(3)では,それがインターネットで調べた賠償金額と何故異なるのでしょうか。
 これについては,おそらくインターネットで調べたというのは,色々な法律事務所が記載している計算例を基本に計算されたものだと思いますが,法律事務所がインターネットで記載している基準は,裁判基準の金額を記載していると思います。

(4)裁判基準の金額とはどういうことですか。
 過去に発生した交通事故の裁判で認められた金額を基準化した金額です。
それをまとめた資料が毎年出版されているのですが,殆どの法律事務所はその資料を使用しています。
 その金額で計算した場合には,保険会社の提示した金額より,金額は多くなります。
 ただ,実際に裁判をすれば精神的なストレスも多いですし,時間も取られます。
 また,保険会社の提示した金額から,増えることは間違いないと思いますが,どの程度増えるかについても,個々のケースによって異なりますし,弁護士費用もかかります。

(5)実際に裁判を起こした場合に,どの程度の支払額になるかは,やはり裁判を起こさないと,分からないのでしょうか。
 先ほども言いましたとおり,一般的な法律事務所には過去の裁判基準をまとめた資料がありますから,事故の内容を聞けば、おおよその金額は分かります。その金額と保険会社から提示された金額の差額を比較して,後は裁判を起こすことに伴うストレス等の様々な負担を考えて検討すればいいのではないかと思います。






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Q.26 「郵便割引制度」の悪用
 最近大阪地検で色々問題になっている事件、「郵便割引制度」の悪用が元になっているようですが、そもそも、これってどんな制度なんでしょうか?



A.26 回答
(1)郵便割引制度とは,正式には低料第3種郵便物制度のことだと思います。
 これは,郵便法に基づき、郵便事業会社の承認を受ければ,定期刊行物などを低料金で送付できる制度です。
 @毎月3回以上の定期発行 A1回の発行部数が500部以上 B広告の割合が5割以下 C発行部数に占める発売部数が8割以上,などが条件となっています。
 心身障害者用の郵便割引制度は,それに加えて、心身障害者団体の証明資料の提出が必要です。この場合、50グラム以下は,通常1通120円を8円で送ることができます。

(2)郵便法違反事件とは
 障害者団体の定期刊行物を特定の購読者に格安で郵送することを認めた「低料3種郵便物」制度が、企業が顧客へ格安で大量のDM広告を送る手法として悪用された事件です。
 障害者団体とされる「凛の会」(白山会に改称)や「健康フォーラム」が、2006年から2008年頃、大手家電量販会社、紳士服販売店、健康食品通販会社などのダイレクトメールを障害者団体の定期刊行物を装い、「低料第三種郵便」として低価格で違法に発送して、通常の第三種郵便物の料金との差額を数十億円単位で不正に免れたとされる郵便法違反事件です。

(3)この関係で村木厚子さんが関わった虚偽公文書作成事件についても簡単に説明します。
 先ほど説明したとおり,低料第三種郵便物として発送するためには,障害者団体の証明が必要ですが,その証明として、厚生労働省発行の虚偽の証明書が使用されていました。
 そのため、虚偽公文書作成罪および同行使罪が問題となり,この点に関して、厚生労働省の現職局長(逮捕時)であった村木厚子さんらが被疑者として逮捕・起訴された事件です。
 しかし,証明書の作成権限のあった村木元局長(当時課長)の指示については、裁判において関係者の多くが否認しており、一審では、指示は認められないとして無罪判決がなされました。この無罪判決は、検察庁が控訴を断念したことから確定判決となっています。

(4)その関係で,大阪地検特捜部主任検事等が逮捕されましたが,これはどういう事件ですか。
 この事件は,大阪地方検察庁特別捜査部所属の障害者団体向け割引郵便制度悪用事件の担当主任検事であった前田恒彦が証拠物件であるフロッピーディスクの改竄により証拠隠滅容疑で逮捕され,その上司等も犯人隠避容疑で逮捕された事件です。
 現職の検事で、しかも特捜部の主任検事が担当事件の職務執行に関連して逮捕された,しかも組織ぐるみの関与が疑われているという極めて異例の事態となっています。

(5)この事件についてどう思いますか。
 犯罪の捜査において,一般的に事件があれば,その事件の筋道を考えて,それに基づく証拠を集めると言われています。
 ある結論を導くために1つの仮説を立てて,証拠に基づき検証すること自体は,他の分野でも行われていることでしょうし,そのこと自体は否定されることではなく,むしろ社会が健全に発展していくためにも必要なことだと思います。
 しかし,自分の立てた筋道,仮説と証拠が合致しなければ,証拠で認められる方向に当然修正するべきです。それにもかかわらず,それを修正せずに,自分の主張にこだわり,証拠を偽造したということに,重大な問題があったと思います。
 その点については,今後,徹底的に改善して欲しいと思います。





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Q.27 遺産を相続したくない
 近々「遺産」を相続することになるかもしれません。自分の親の遺産ではなく、親戚の遺産です。私は、相続しないで済ませたいのです。細かい説明は省きますが、借金とかではありません。遺言書には私の名前も入っています。 こういう場合は、相続するしか道はないんでしょうか?


A.27 回答
(1)遺言は,遺言者が単独でできる財産の処分ですから,遺言による利益を受ける人,受遺者は,遺言者が死亡したときに,当然に遺産を取得します。
 しかし,たとえ,利益とはいっても,受遺者の意思を無視しては良いとはいえないので,受遺者は遺言者の死亡後,自由にその遺贈を放棄することができます(986条)。

(2)次に,放棄ができるとしても,どのようにすればよいのか,遺贈を放棄する手続きについて説明します。
 遺贈を放棄する手続きは,遺言により包括受遺を受けたか,特定遺贈を受けたかによって,異なってきます。
 包括遺贈とは,遺産の全部を与える旨の遺言や,全財産の2分の1とかいうように分数的割合で遺産を与える場合を言います。
 これに対し,具体的に特定の財産を与える旨の遺贈を特定遺贈と言います。
 例えば,預貯金のうち100万円を与えるとか,土地を与えるとかいうような場合です。

(3)具体的にその両者で手続きはどのように違いますか。
 包括受遺者は,遺産の全体とか分数的割合で与えられることになりますから,その分に関しては,相続人と同じ立場になります。
 包括受遺者は,預貯金や不動産などの積極財産だけではなく,借金などの消極財産も相続しますし,相続人と同一の権利義務を負うと定められています(900条)。
 そのため,通常の相続人と同様に,自分のために包括遺贈があったことを知った日から,3ヶ月以内に家庭裁判所に遺贈の放棄の申述をしなければなれいません。
 これに対し,特定遺贈を受けた人は,遺言者の死亡後,いつでも任意に遺贈の放棄ができます。その放棄の通知も,包括遺贈のように,法律で定められていませんから,相続人などの遺贈義務者に対し,遺贈を放棄する旨の通知書を出せば良いことになります。

(4)今回のケースは,特定遺贈と考えられますから,相続人の人に遺贈しないと放棄する通知書を出せば足りることになります。
 但し,注意しないと行けないのは,相続人から,受贈者である相談者に一定の期間を定めて,どうするのかという通知があった場合に,その期間内に返事をしなかった場合には,遺贈を承認したものとみなされます。
 放棄したいのであれば,そのような通知が来た場合には,その期間に放棄する旨の返答をしないといけません。





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Q.28 モラルハラスメント被害
 私はある医院の事務としてパートで勤めていますが、職場の同僚からのモラルハラスメントに悩まされています。あからさまに私の存在を否定する言葉使いや、挑発的な態度などが続き、だんだんと我慢も限界になってきました。
何度か、先生や他の同僚、その本人とも話し合いをしました。すると一旦は治まるのですが、また、同じことの繰り返しになってしまいます。
 正直、もう辞めるしかないかなと考えています。辞めるか続けるかは私の気持ち次第ですが、こうした苦痛を感じ続けた場合、法律的には罪に問えないものでしょうか?モラハラで裁判ってあるんでしょうか?教えてください。



A.28 回答
(1)まず,モラルハラスメントについて簡単に説明します。
職場の嫌がらせのうち、性的な要素を持つ「セクシャル・ハラスメント」や、職権を濫用して行う「パワー・ハラスメント」は、社会的に認知されつつあります。
 しかし、その概念では捉えきれない「モラル・ハラスメント」が最近増えているといわれています。
 これは,明らかな暴力や暴言とは言えない、分かりにくく陰湿な攻撃であり,ことばや態度で繰り返し相手を攻撃し、人格の尊厳を傷つける精神的暴力のことを言います。
「見えない暴力」を「モラハラ」と名付けることで、セクハラ、パワハラといった言葉で説明できない微妙な精神的な嫌がらせの存在と、被害の実態を浮かび上がらせることができることになります。

(2)モラルハラスメントの特徴
 職場のモラル・ハラスメントとは、静かに・じわじわと・陰湿に行われる精神的ないじめ・嫌がらせです。
 周りからは些細なことのようにみえる行為でも、繰り返し行われることで、被害者に想像以上の精神的苦痛をもたらします。
 一般的に,「無視をする」「わざと咳払いをする」「見下すしぐさをする」「否定する」など、ひとつの行為自体は他人から見たら微妙すぎる行為ですが,頻繁に繰り返すという特徴があります。
 1つ1つの行動が軽微であるため,周りの人に理解してもらえない、果てには、「自らの性格の問題」とされてしまう可能性もあります。

(3)対処方法について
 被害を受けた場合の対処方法ですが,当然のことですが,ストレスをためないことが,まず一番の対処方法です。
そのためには,加害者を意識するのではなく,出発点は「いま起こっていることはモラハラ」であり,「おかしいのは加害者」という認識を持つことが大切です。

(4)加害者を法律的な罪にとえるか。
 現段階では犯罪として規定されていません。また,1つ1つの行為が些細ですから犯罪としてとらえることはかなり難しいと思います。
ただ,加害者に意識的にモラルハラスメントという加害行為を行っている認識があり,その結果,被害者の身体に変調を来すことを考えていたようなことが証明できれば,傷害罪ということも,場合によっては考えられると思います。

(5)モラルハラスメントで損害賠償の裁判ができるかですが,私の経験では今までに見たことはありません。
 しかし,加害者が故意に繰り返しているようなことが証明できれば,不法行為として損害賠償追及の対象にはなると思います。
 もっとも,裁判には証拠が不可欠です。モラルハラスメントの場合は,1つ1つが軽微ですから,受けた加害行為それぞれを細かく証拠を残す必要があると思います。
 具体的には,加害者の行為態様について,書面などで証拠が残っていればよいですし,ない場合には1つずつ手記による記録でもかまいませんので,証拠として残しておくことを勧めます。





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Q.29 裁判所の種類と違い
 裁判所の種類について教えてください。簡易裁判所、家庭裁判所、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所… 色々ありますが、どんな違いがあるんでしょうか?



A.29 回答
(1)裁判所の区別については,裁判所法が規定しています。
 大きく分けると最高裁判所と下級裁判所に分かれ,下級裁判所として,高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所,簡易裁判所があります。 

(2)具体的に見ると,まず次の通り理解できます。
 裁判には大きく,財産関係のトラブルを扱う民事事件と,犯罪があった場合に,犯罪者を処罰するかどうか判断する刑事事件があります。
 第1審の民事事件,刑事事件を担当するのが,原則として地方裁判所になります。
 地方裁判所の判決に対して不服がある場合に,控訴することができますが,それを,担当するのが高等裁判所になります。
 さらに高等裁判所の判決に不服がある場合に,上告することができますが,それを担当するのが最高裁判所ということになります。

(3)簡易裁判所
 @では簡易裁判所というのはどういう役割を果たしているのでしょうか。
 民事事件というのは,基本的に金銭で換算されますが,原則としてその金銭の金額が140万円を超えない請求を第1審として扱うのが簡易裁判所です。
 また,刑事事件においても,刑が軽いものを第1審として取り扱うのが簡易裁判所です。
 簡易裁判所が第1審で取り扱った民事事件の場合,それに不服があって控訴する場合の控訴審は地方裁判所であり,更にそれに不服で上告する場合の上告審は高等裁判所になります。但し,刑事事件の場合は,不服があれば高等裁判所が担当することになります。
 Aそれ以外も簡易裁判所には重要な役割があります。
 裁判以外に当事者の話し合いで解決するという調停という制度が裁判所では行われています。それを取り扱うのも簡易裁判所と言うことになっています。

(4)家庭裁判所
 もう一つの家庭裁判所について説明します。
 まず,民事事件,刑事事件以外に家事事件と言われる種類の事件があります。
 簡単にいえば,婚姻関係,親子関係,相続関係などの事件ですが,これについて担当するのが家庭裁判所です。
 家庭裁判所では,家事事件の審判,調停のみならず人事訴訟の裁判を取り扱います。
 それに加えて,14歳以上の少年の非行事件を扱うのも家庭裁判所になります。





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Q.30 ゴミを不法投棄した場合の罪
最近よく犬を連れて散歩に出かけると、川のそばに「不法投棄 禁止」とか、「不法投棄は罰せられます」とか書いた看板が目にとまりました。
実際のところ、勝手にゴミを捨てたりしたら、どんな罪になるんでしょう?



A.30 回答
(1)不法投棄(ふほうとうき)については,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)が規定しています。
 同法16条で何人もみだりに廃棄物を捨ててはならないと明記されています。
したがって,不法投棄とは,廃棄物処理法が定めた処分場以外に廃棄物を投棄することをいいます。

(2)廃棄物とどういうものをいいますか。
 廃棄物処理法第2条によれば,廃棄物とは「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)をいう」とされており,産業廃棄物と一般廃棄物に大きく2分類されています。

(3)先ほどのケースですが,川などに廃棄物を投棄することは不法投棄にあたりますから,看板に記載されているとおり不法投棄は罰せられます。
 現実問題として,不法投棄は,自然環境や生活環境に悪影響を及ぼすおそれがありますから,不法投棄をした人は,撤去を求められるとともに重い刑罰が科せられることになります。
 どの程度の処罰が定められているかといいますと,刑事処分として,個人の場合は,5年以下の懲役、1000万円以下の罰金又はこの併科が規定されています。 また,法人の場合は1億円以下の罰金が規定されています。

(4)個人が処罰された具体例ですが,以下のようなものがあります。
@ ごみ収集日にごみを出すのが面倒であるとの理由から,残飯などの家庭ごみの投棄を繰り返し,出勤途中の車の窓から道路付近に家庭ごみ 約0.6kgを投棄した事案に,罰金20万円が課された例があります。
A また,年末の大掃除で出たごみを処分するに際し, 分別するのが面倒であるとの理由から,山林内の2箇所に鞄や教材など約107kgを投棄した事案には,罰金50万円が課された例があります。





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Q.31 不審火などの放火の罪
最近、私の住んでいる周辺(金沢市内)で、不審火が続いています。心から止めて欲しいと思うのですが、犯人がこのラジオを聞いているかもしれません。放火がどれだけ重い罪になるのか、教えてやってください!



A.31 回答
(1)放火は,刑法に違反する犯罪です。全般的に放火は重い犯罪ですが,放火にも色々種類があって,それぞれに異なる刑罰が定められています。
放火の罪は,放火する対象物によって,大きく3種類に分けられます。
具体的には現住建造物放火,非現住建造物等放火,建造物以外の放火の3種類です。

(2)現住建造物など放火罪についてまず説明します。
この犯罪は人が住居に使用している建物とか,住居ではなくても,現に人が存在している建物等を放火した場合に成立する犯罪です。
この犯罪には死刑又は無期,もしくは5年以上の懲役刑が規定されています。
このように,最も重い場合には死刑にすることも可能な犯罪ですし,人が死亡しない場合でも,死刑が選択できるという意味で,極めて重い刑罰が定められています。人が住んでいる住宅を放火する場合がこの典型的なパターンです。
住宅であれば,人が留守に場合でもこの犯罪に該当します。

(3)次に非現住建造物放火罪について説明します。
建造物ですが,人の住居に使用しておらず,人がいない建物を放火した場合に成立する場合です。
例えば,納屋とか倉庫に使用している建物であり,その中に人がいないような場合に成立します。この場合には,2年以上の懲役刑が規定されています。

(4)もう一つの建造物以外放火について説明します。
これは文字通り,建物以外を燃やした場合です。例えば,道路の片隅に集められてる廃品回収のゴミ等を燃やした場合がこの犯罪に該当します。この場合も1年以上,10年以下の懲役刑が規定されています。
ただし,この犯罪が適用されるためには,公共の危険が発生したと思われる場合が必要です。簡単に言えば,周りに燃え移る可能性があるような場所で,燃やしたような場合には成立します。

(5)このように放火罪は重い処罰が規定されていますが,これは多数の人に危険を及ぼす可能性が高いことが理由です。





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Q.32 「のぞき」の被害
この前「のぞき」の被害に遭いました。視線を感じて振り返った時、格子窓の向こうに見えた犯人の目が忘れられません。警察には届けを出しました。 精神的な苦痛も続いています。こんな場合、もし犯人が捕まったらどんな罪に問えるのでしょう?

A.32 回答

(1)のぞき行為については,まず軽犯罪法違反になります。
 軽犯罪法では,正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣室,便所,その他の他人が通常衣服をつけないでいるような場所を密かにのぞき見た者が,拘留又は科料にすると規定しています。
 拘留は1日以上30日未満,身柄を拘置する罰ですし,科料は1000円以上1万円未満の支払い義務を課す罰です。

(2)また,公共の場所又は公共の乗り物で行われるのぞき行為については,各都道府県が県の条例で,より厳しい規制を設けています。
 例えば,石川県の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では,その第3条で何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に対し、みだりに、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影し、もしくは録画することについて,罰則を規定しています。
 その罰則の内容ですが,12条で,第3条の規定に違反した者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処すると規定しています。そして,常習として前項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

(3)今回の質問の場合ですが,通常の民家ののぞき行為ですから,軽犯罪法違反になると思われます。
 ただし,他人住居内をのぞきためには通常,その民家の敷地内に入る場合が多いですから,その場合には,住居侵入罪が適用されます。
 住居侵入罪は,住宅内部でなくても庭に侵入した場合も適用になりますから,その場合には,住居侵入罪が適用されます
 そうすると3年以下の懲役又は10万円以下の罰金ということになります。

(4)望遠レンズでのぞく場合にも,軽犯罪法違反になると思いますが,それ以上の処罰は現状では難しいのではないでしょうか。





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Q.33 人身事故に遭った時の賠償請求
買い物のために歩道を歩いていた時、横から車が突っこんできたんです!ケガを負ったりする人身事故の被害にあった場合、被害者はどのような賠償の請求ができるのでしょうか?怪我の程度にもよると思いますが、どんな基準なのか教えてください


A.33 回答
(1)交通事故で人身の被害を生じた場合には,いわゆる不法行為として加害者に損害賠償の請求が出来ます。

(2)その金額ですが,事故で受けた怪我の治療関係費,事故が原因で仕事を休めば休業損害,それに精神的な損害に対する慰謝料の請求というのが基本になります。
 それに後遺症が残れば,後遺症による将来の逸失利益(収入の減少分)と,後遺症の精神的慰謝料の請求が可能となります。

(3)その支払いについては,本来加害者が個人で負担するべきものですが,交通事故に関しては全ての車輌が自賠責保険に加入していますから,まずは自賠責保険で支払われることになります。
但し,自賠責保険では傷害事故については最大120万円,死亡事故については3000万円という制限がありますから,それを超える部分は加害者が加入している任意保険で支払いがなされることになります。
そして,加害者が任意保険に加入していない場合には加害者本人が個人負担することになります。

(4)賠償請求についてどのような基準があるのかとの質問ですが,受けた怪我の程度,治療期間等に応じて自賠責保険の基準と任意保険の基準に裁判をした場合の裁判基準と3種類に分かれていますが,その具体的な基準は,かなり内容が詳細です。大ざっぱに言えば,自賠責の基準より任意保険の基準が高く,裁判基準はもっと高いということがいえると思います。

(5)交通事故の被害を受けた場合には,自分の受けた被害,損害額はどの程度と判断すればよいのか,その損害額の支払いについて誰にどのような請求が可能なのか,という問題があります。
この問題は,加害者の任意保険の有無,加害者の支払い能力,直接の加害者以外に請求することは出来ないのか等,様々な問題点が絡みますから,やはり1度は専門家に話を聞いた方が良いと思います。






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Q.34 離婚調停の手続と離婚後の住宅ローン
実は夫に愛人がいる事が分かりました。この前、問い詰めたら白状しました。私は41歳の主婦、結婚して15年になります。青春を返せとはいいませんが、けじめはつけたいと思います。別れてもいいかなと考えていますが、離婚調停のためにどんな手続きを踏めばいいのでしょうか?それから一つ気になっているのが「住宅ローン」です。まだ組んで間もなく、私と夫の共同で支払いをしています。離婚後のローンの扱いってどうなるんでしょう?


A.34 回答

(1)調停離婚のためには,地元の家庭裁判所に行って,調停の申立をすれば出来ます。手続きは簡単です。
 調停で話し合いをして,お互いの合意が出来れば,調停調書が作成され,離婚が成立することになります。調停での話し合いで解決できず,調停が成立しない場合には,裁判を起こして離婚するということになります。

(2)通常は,当事者の話し合いで離婚する協議離婚があり,当事者間での話し合いが難しい場合には,調停委員2名に場合によっては家庭裁判所調査官を交えて話し合いをする調停離婚,それが出来ない場合に裁判離婚という形になります。

(3)離婚後のローンについてどうなるのでしょうか。
離婚後の住宅ローンについては,かなり難しい問題があります。
まず,住宅ローンの残金が,住宅の資産価値を上回ることが多いと言う点が1つですし,もう一つは住宅ローンの債権者が金融機関であり,離婚の当事者ではないからです。

(4)今回の場合も,住宅ローンを組んで間がないということであれば,住宅ローンの残金が住宅の資産価値を上回っていることが予想されます。
この場合には,住宅を転売しても,金融機関に対するローンの残金が残ることになりますから,転売も容易ではありません。転売した場合の金融機関に対する残金を誰がどのように支払うのか,それについて金融機関の承諾がとれるのか等の問題が発生します。

(5)転売せずに,妻あるいは夫の単独名義にして,どちらかが住む場合はどうでしょうか。
 住宅ローンがある物件でも妻が夫の単独名義にすることは,金融機関の承諾なしで可能です。
 しかし,住宅ローンの名義をどうするのかという問題が発生します。住宅ローンをどちらか一方の債務にすることは金融機関の承諾がなければできません。

(6)例えば,今回のような場合に,妻の夫に対する請求として夫の慰謝料,愛人の慰謝料,財産分与が考えられます。そこで,夫が責任を感じて,住宅を妻名義にする。住宅ローンは,慰謝料や財産分与分として全て支払うという内容を夫婦で話し合ってた場合,当事者間では有効です。しかし,金融機関との関係では何にも効力はないです。
 したがって,夫が支払いを滞れば,金融機関に対しては妻も責任を負います。





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Q.35 1年前に亡くなった父親の借金
去年、父が亡くなりました。 私は父の唯一の子供ですが、両親はもう30年以上前に離婚しています。父は遠方で一人暮らしをしていて、同居はしていません。音信も不通でした。ですから父の死も親戚を通じて、葬儀のだいぶ後に知りました。ところが、最近、信販会社から請求書が届き、父に数百万円の借金があったことが分かりました。父の死を知ってから半年ほどが経っています。こんなケースでは、相続の放棄は許されないのでしょうか?


A.35 回答

(1)相続の放棄は,相続人が自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月です(民法915条)。これが原則ですが,6ヶ月経過したとしても,相続を放棄したい場合は,すぐに家庭裁判所に行って相続の放棄の申立をすることが必要です。
この場合,一応放棄は受理されますが,そのまま放棄の効力が認められるかは別の問題になります。

(2)この3ヶ月の期間を熟慮期間というのですが,熟慮期間を経過した場合について相続の放棄が認められるかについては,最高裁判所の判断があります。
最高裁判所によれば以下の通りになります。
「被相続人に相続財産が存在しないと信ずるにつき相当な理由があると認められる時には,本条の熟慮期間は相続財産の全部又は一部の存在を認識したとき又は,通常これを認識し得べき時から起算する。」

(3)これを本件の場合に当てはめれば,相続人である相談者が,相続財産が存在しないと信じたことについて相当な理由があると認められる場合には,相談者のところに信販会社から請求書が届いた時が3ヶ月の熟慮期間の起算点と言うことになります。

(4)そこで,次に問題となるのは,相続財産が存在しないと信じたことに相当な理由があると認められる場合とはどういう場合であるかというになります。
 一般的には,被相続人と相続人との関係が従来から疎遠であることや,相続財産を残したとは考えられない状況で被相続人が死亡したことなどによって,相続人において,相続財産の有無や内容を認識することが困難である事情をいうものと解されています。
 具体的には,@被相続人と相続人との間に,交流が全くなければ,相続財産の有無や内容について知る機会がないことになります。
 これに対し,A債権者からの請求,説明,照会があれば,遅くともその時から熟慮期間が進行することになります。さらに,B相続財産の調査が容易であるにもかかわらず,これを尽くさなかった場合には,相続人において相続財産が全く存在しないと信じるにつき,相当な理由があるとはいえないということになります。

いずれにしても,判断が難しいですから,早急に専門家に相談されることをお勧めします。





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Q.36 飲酒暴行は素面状態の暴行よりも罰則が厳しい?
市川海老蔵さんへの暴行事件、怖いですね。真相はまだ明らかになっていませんが、どうやらお酒の席でのトラブルらしいですね。これから忘年会シーズンですしお酒を飲む機会も増えますが、暴飲は慎まなきゃなと思っています。ところで飲酒運転はかなり厳しい罰になりますが、飲酒のケンカなどは、素面の状態より厳しくなるものなんでしょうか?


A.36 回答

(1)飲酒運転は最近本当に厳しくなって来ました。
 本来は業務上過失傷害罪(刑法211条)という犯罪であり,5年以下の懲役刑は禁固が規定されていたのが,その2項において自動車の運転上,必要な注意義務に違反して人を傷害した場合には,7年以下の懲役又は禁固というように改正されています。

(2)それでは次に暴行事件の刑について説明します。
人に対して暴行した場合の刑ですが,これは2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が規定されています。
 注意が必要なのは,暴行を加えたけど,他人に怪我をさせなかった場合の刑です。
例えば,口論して腹が立って,相手を突き飛ばして,相手が尻餅をついたような場合とか,相手の服を引っ張って振り回したような場合が考えられます。
 ただし,暴行を加えて相手が怪我をした場合には暴行罪ではなく傷害罪になります。

(3)飲酒の上,相手に暴力を振るいけがさせた場合には傷害罪になりますが,傷害罪については刑法204条が15年以下の懲役又は50万円以下の罰金と規定しています。





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Q.37 「心神喪失」や「責任能力の有無」と,泥酔状態の違い
時々、ニュースなどで耳にする「心神喪失の状態」とか「責任能力のあるなし」。これは、裁判の結果に関わってくるんですよね?法律の世界では、お酒に酔っている状態とは、また違う捉え方なんでしょうか?


A.37 回答

(1)刑法上処罰されるためには,犯罪行為を行った人に責任能力が必要ですし,心神喪失の状態の場合であれば,罰されることはありません。
 この点については,刑法39条1項で,心神喪失者の行為は罰しない,2項で心神耗弱者の行為はその刑を減軽すると規定しています。
 これは,自分の行為が悪い行為であることを理解できない状態で,犯罪行為を行っても,その人を非難できないという考えに基づくものです。

(2)そこで,お酒に酔って犯罪行為をする場合について説明します。
 確かに,お酒に泥酔しているような場合には,自分の行為が悪い行為であることを理解できない場合もあります。
このような場合に,完全な責任能力を問えず,心身喪失として無罪になったり,心神耗弱としてその刑が減軽される場合もあります。これは質問者の方の言われる通りです。

(3)しかし,酒を飲んで酔っていたから心神喪失や心神耗弱として責任能力を問えないというような事態は,極て例外的な場合です。通常は,酔っぱらって,気が大きくなって,普段より自分行動を正確に理解したり制御したりする能力が劣っても,その程度であれば,責任能力には影響は与えません。
 その意味で,酔って,人を殴ってもそのまま罰せられますし,車の運転で交通事故を起こした場合には重く処罰されることになります。

(4)裁判の実務では,単にお酒を飲んで,酩酊のため自分の行動についての弁別能力ないし制御能力が減退していても,完全責任能力があるとされるのが一般的ですし,弁護人が,犯罪者が飲酒酩酊のために心身喪失,心神耗弱であると主張しても,完全責任能力が認められる場合が圧倒的に多いです。

(5)では,お酒を飲んで,どの程度の酩酊状態であれば,例外的に責任能力に影響を及ぼすことになるのでしょうか。
 これについてはケースバイケースで,簡単に説明できません。
 抽象的に言えば,その人の,@平素の酒量と犯行時の飲酒の種類,量,A飲酒に掛けた時間や食事の有無,程度,B飲酒に関する様々なデータ,C犯行の種類,態様,D犯行時及びその前後の被告人の言動,記憶のあり方等を総合しながら判断することが必要とされています。

(6)もう少しわかりやすく言えば,飲酒行為による犯罪行為が,心神喪失とか心神耗弱になるというためには,@平素の酒量を大幅に超える量の飲酒をし,Aその結果,犯行前後の行動が常軌を逸し了解不能である,B自分の行動についてかなりの範囲の健忘や犯行に関する著しい記憶の欠損がある,C酩酊の末,意識がもうろうとしているとか犯行後に深い睡眠状態の存在。このような状況が必要です。





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Q.38 家を建てるときの土地の境界線
自分の土地とお隣の土地の境界線ギリギリに家を建てても、問題ないでしょうか?
立てる前に話し合いはするつもりですが、法律上、ギリギリの範囲って決まっているんでしょうか?
決まっているとして、それを破ったら、どんなトラブルが考えられますか?


A.38 回答

(1)自分の土地上に家を建てる際の土地利用については,民法上の制限と,建築基準法等の特別法による制限があります。
 今回の相談者の方は,土地の境界線ギリギリに家を建てる場合について,問い合わせていますから,他人の土地との境界に関する制限と考えられます。そうだとすれば,特に,民法上の制限が問題になると思いますので,その点について説明します。

(2)近隣の土地建物の利用関係を調整する規定として,民法209条以下に,相隣関係の規定が置かれています。その中で,民法234条が他人との境界付近に建物を建築する際の制限を規定しています。
 民法234条によれば,建物を築造するには,境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないと規定されています。
 したがって,建物の外側と境界線との間に,少なくも50センチメートル離して建てる必要があります。

(3)次にこの制限に違反した場合について説明します。
 この場合については,民法234条2項に規定されています。
 その規定によれば,ある人が,隣地と50センチメートル以上離す制限に違反して建物を建てようとした場合,隣地の所有者は,その人に建築を中止させ又は,変更させることが出来るとされています。
したがって,自分の家の隣に家を建てるために土地を購入した人が,境界から50センチメートル以内に建物の基礎を設置したような場合には,その建築工事を中止させることが出来ます。
 但し,建築に着手した後,1年を経過した場合とか,その建物が完成した場合には,損害賠償のみ請求できることになります。

(4)このように境界付近に建物を建てる場合には,境界線から50センチメートル以上離しなさいという制限が,民法上の原則ですが,民法236条はその例外について規定しています。
 民法236条によれば,その地域に異なる慣習がある場合には,それに従うとなっています。
 例えば,過密した市街地などに置いて,土地の全部を利用するのが慣習になっている場合には,その慣習によることになります。住宅が隣地と接して並んで建っているような地域がそれに当たると思います。
 その意味で,建物を建てる地域で,そのような慣習があるのか,他の家がどうなっているのかについても調べて見ることが必要です。





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Q.39 無罪事件


(1)今回の事件内容について
Mさんという30代の普通のサラリーマンが,大型温泉施設内の女性専用休憩室の側にあるソファに座って,陰茎を露出したという事件です。

(2)本件事件の特殊性
 本件事件の特殊性について,もう少し,具体的に説明します。
@ 犯行日の前日にMさんの勤務する会社の飲み会があり,夜2時頃まで飲酒して、宿泊するためにその施設を訪れた。 
A 犯行のあった時刻は,午前8時過ぎであり,直前まで、ソファで寝ていた。
B 犯行があったとされる時刻に,その付近を何人もの女性客や男性客が通過したが,直接の目撃者は、1人であった。
C Mさんは、逮捕されてから一貫して否認し,保釈されるまで20日間以上,身柄拘束をされた。

(3)犯行の態様
  陰部を露出していたということですけど,Mさんは,どういうふうに露出していたのですか。館内着のズボンを身につけずにいたとか,館内着のズボンを引き下げて露出したという態様だったのですか。
 Mさんは,館内着の半ズボンはちゃんと身につけており,その裾の方がまくり上がり,そこから陰部が露出していたという態様です。

(4)Mさんについての説明
  今回無罪判決を受けたMさんはどういう人物だったのでしょうか。
@ 過去に交通違反以外に前科前歴はなく犯罪とは無縁の世界にいました。
A 結婚もしており幼い子供2人と妻という家庭を持っていました。
  要するに,Mさんは普通のサラリーマンとして,家庭を持ち,通常の社会生活を送っていました。

(5)本件裁判ではどのようなことが争点になったのでしょうか。
   本件裁判の争点は以下の二つでした。
 @ Mさんは,本当に陰部を露出していたのか。
 A 仮に,露出していたとしても,Mさんに、故意はあったのか。

(6)その争点について裁判所はどのように判断したのですか。
 @ Mさんが陰部を露出していたことについては,裁判所は唯一の目撃者の供述は,基本的に信用できるとして認めました。
 A 次に,故意については,目撃者の供述は,重要な点,すなわち核心部分では変遷が認められること,検察官から提出された証拠を検討しても,故意を推認することはできないとして,故意は認められないと判断ました。
 
(7)裁判所の判断について
  裁判所の無罪判決については,どのように考えていますか。
  無罪判決を得ることが、弁護側及びMさんの究極の目標でしたから,結果として無罪判決が貰えたということは凄く評価しています。
   ただ,裁判所が,露出を認めた点や,目撃証言の供述は重要な点,すなわち核心部分では変遷しているが,基本的には信用できるとしたことについては,弁護人として今でも疑問を持っています。

(8)今回のMさんは何故20日間以上も身柄を拘束され起訴されたと考えていますか。
  Mさんの身柄を拘束して起訴したのは,やはり犯罪を認めていないからだったと思います。
 
(9)それでは,今回Mさんが,捕まった段階で,不本意ながら認めていればどうなったのでしょうか。
  公然わいせつの事件は,初犯者で犯罪を認めれば,仮に逮捕されても2日間ほどで釈放され,罰金10万から20万程度の終わることが通常です。今回のMさんも,露出していたことを認めれば,そのような処理がなされたと思います。

(10)今回のMさんは,妻と幼い子供がいて,前科前歴もない善良な普通のサラリーマンでした。逮捕され20日間以上も身柄が拘束され,判決まで1年2ヶ月の期間がかかっています。今回の事件をについてどのような感想をお持ちですか。
  今回の事件の場合,仮に露出していたとしても,温泉施設での館内着の裾からの露出であり,目撃者も中年女性1名という比較的軽微な事件です。このような場合であっても,犯罪を認めないから20日間以上も身柄拘束して起訴をするというのは,かなり問題があると思います。
  Mさんには,前科がないこと,家庭を持ち,普通の社会生活を送っていたことに、もう少し配慮して,今後注意するようにと指導して,逮捕せずに釈放すべき事案ではなかったのかと思います。





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Q.40 姑との縁を切るには
私は45歳の未亡人です。 2年前に夫が亡くなり、今は姑と同じ屋根の下で生活していますが、姑の嫌がらせに困っています。夫の生前は、我慢してきましたがもう限界です。今は夫の姓を名乗っていますが、縁を切るにはどうしたらいいんでしょうか?


A.40 回答

(1)縁を切るという言葉は,時々耳にする言葉ですが,それは法律的にはどういう意味でしょうか。
 その言葉の概念は,法律的にはあまり明確ではありません。通常親子の縁を切るという言葉を耳にすることもありますが,法律的には,それを認める直接の制度はありません。縁を切るということで,通常考えられるのは,結婚して,夫婦になった2人は離婚をすれば縁を切れます。また,親子の養子縁組をした場合にも,離縁をすれば縁を切れます。

(2)それでは今回のような,お嫁さんと姑さんとの場合,縁を切るというのはどういう意味になるのでしょうか。
 夫婦が結婚すれば,相手方の親戚とは姻族関係になります。例えば,妻と夫の両親や兄弟は姻族関係ということになります。法律上は姻族の3親等までは親族ということになりますが,相談者であるお嫁さん姑さんとの関係は,姻族の1親等になります。

(3)親族関係にはどのような法的義務があるのでしょうか。
  民法上は,730条で同居の親族は,お互いの助け合う義務があるということ規定し,877条で裁判所は3親等以内の親族には特別な事情があれば,扶養義務を課することが出来ると規定されています。
 
(4)そこで,今回の相談者の質問を検討しますが,細かく見ると,@夫の名字を名乗っていることに関する名前の変更の問題と,A姑との縁を切る,すなわち姻族関係を終了させるという問題の2個の問題に分けることができます。

(5)まず,名前(名字)の問題について回答します。
  名字は,法律的には氏といいますが,民法751条に規定されており,配偶者が死亡しても,氏(その人の名字)は当然には代わリませんが,生存配偶者の意思で,婚姻前の氏に復することができると規定されています。
 お嫁さんが結婚前の名前に変更を希望すれば,もとの姓に戻ることができます。

(6)次に縁を切る問題,すなわち,姻族関係を終了させる問題について説明します。
 これは民法728条に規定されています。
 夫が死亡しても,当然には姻族関係は終了しませんが,妻が姻族関係を終了させる意思表示をした場合に姻族関係は消滅します。

(7)なお,氏すなわち名前を変更の問題と,縁を切る問題は,それぞれ別個の問題ですから,どちらか一方のみをすることも可能です。

(8)意思表示という届出は何処にすれば良いのでしょうか。
 本籍地か住まいしているところの市町村の戸籍係に届け出ることになります。









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