人が仕事しているときに遊んでこようと、不届きなことを考えたのがいけなかったのかもしれませんな。9月6日から三泊四日で生まれて初めて沖縄に行って来たんですが、台風16号で二泊ホテルに閉じこめられました。


■謎のベストセラー
 でもそのおかげで、いいことにも当たりました。地元テレビ局の情報番組で、「売り切れだったあの本が増刷されて今日から書店に並びます」と、ある本が紹介されていたんです。
「100の指標からみた 沖縄県のすがた」(編集・発行 沖縄県対米請求権事業協会)
 という本。暴風雨のなか傘さして買いに行った甲斐がありました(本屋で平積み)。
 内容は、ようするさまざまな統計資料を寄せ集めしてただ並べただけのこと。でもその指標と数値を改めて見ていくと興味深いんです。

 たとえば沖縄県人の一ヶ月の労働時間は我々東京人より10時間も多くて(意外にも)、しかし年収は半分程度、失業率は10パーセントを超えていて、大卒のなんと50パーセント近くが「無業者」になってしまう。家計も、収入に占める負債負担率は神奈川・大阪・埼玉についで四番目に高く、いっぽう、貯蓄残高は全国でもっとも低い。また総面積は東京より大きくて、ボーリング場が全国で二番目に多かったりもするのだが、衛星放送の普及は最低で、住んでいる家ののべ面積は東京・大阪に次いで三番目に狭い。

 改めてこうやってみると、沖縄県の人の生活ってキツイよなー。

 この本には沖縄県内の各市町村の指標も比較してあります。そこでクイズ。沖縄県内で、もっとも年収の多い地域はどこでしょうか。ヒント・那覇ではありません。本島で一番年収が多いのは浦添市です。離島の村です。答えはこのメールの一番最後に。


■謎の雑誌王国
 書店とかコンビニとかのぞくと、沖縄は地元雑誌が豊富なので驚きます。タウン誌だけで2誌あるし、ストリート誌、「クロワッサン」みたいなやつとか。あと英語情報紙もあって、「白人の恋人がほしいです」とかいう沖縄ギャルの携帯番号が紹介されています。
 また沖縄関係の書籍も古いものから置いていて充実していますが、吉田司の「ひめゆり忠臣蔵」だけは探しても見つかりませんでした(笑)
 でも広告とか取るの大変じゃないのかな。なんでこんなに栄えるのか不思議だ。


■謎の商売
 帰る日にやっと晴れ間がのぞいたので、タクシーとばして嘉手納基地までいってきました。そばに「安保の見える丘」というのがあって、そこに登ると塀の向こうの滑走路が見えるんです。
 で、そこで驚きましたね。丘の上に地元のおじさんたちがいて、そこから自分で撮った戦闘機の写真とか売っているんです。
「着陸するときは300ミリでも大丈夫だけど、離陸するときは500はほしいな」
 とかいって、僕がヘリコプターの写真をもらうと、
「これはSSナントカという機種で、これがあるときは巡洋艦が入ってるんだよ」
 値段は一枚100円。このおじさんは来るか来ないかわからん客を当てにして、100円のもん売って生活建てているのでしょうか。
 と、思いきや、隣のおじさんの商売見てさらに、腰から下がくだけそうになりました。
「双眼鏡あります。一回50円」
 昔ベトナムで「体重計はかり屋さん」を見たことがあります。道ばたに体重計をポツンとおいて商売するの。でもあれはリタイアしたおじいさんがやっていて、まさか働き盛りの男が昼間から50円で「双眼鏡のぞかせ屋さん」やってるとは思いませんでした。さすが失業率10パーセントです。小泉改革の「痛み」のせいで、我々も近い将来「双眼鏡のぞかせ屋さん」をする羽目になるかもしれません。でもなにのぞいてもらおう……。
 「痛みを伴う改革」とは聞こえがいいが、ものすごく具体的にいえば日本全国「沖縄化」するのでしょうか。しかも太陽と海のない。いやだね。


■謎のタクシー運転手
 時間がないので、嘉手納・北谷・糸満などぜんぶタクシーをチャーターして回りました。糸満なんか600円のおそば食べるのに、6000円かかりました。馬鹿です。
 でも僕があまり観光地化されてないところばかりいくので、運転手さんが面白くなかったのか、「識名園にいきましょう」と言い出しました。
 この運転手さんは年は50代半ば、足が不自由な方で、宮古島出身。「本当の人間はヒトが悪い」とののしっていましたから、宮古でそれなら与那国島なんかいくと底抜けのお人好ししか住んでいないのでしょうか。
 しかし「識名のタクシー代は持ちます」。ガイドブック見ても興味がわかなかったのですが、運転手さんがあんまりにも勧めるのでちょっとだけのぞくことにしましまた。
「識名はね、お客さん、サミットのときにニュースステーションの久米宏がきたところですよ」
 どう反応すればいいのやら。
 で、行きました。なんか芝生の公園でした。10分で帰りました。
「どうでした?」
 と運転手さんが嬉しそうに感想を求めてきたので、「まあ、きれいでしたよ」と誤魔化していたのですが、次の一言を聞いて、すっと気持ちが変わりました。
「私はあそこにいったことないんですよ」
 識名は林道をたどっていくので、足の不自由な運転手さんでは入れません。でも彼はニューススーテションで見て、自分がいきたくなったのでしょう。その代わりに僕に行ってもらいたかったのです。
 そう考えるともっとちゃんと見て、ちゃんと感想いってあげればよかった。記者のくせに観察力が足りませんでした。
 空港で運転手さんは、「お茶うけに」と黒砂糖のお菓子を三つもドサッと渡してくれました。タクシーの運転手さんからモノをもらったのは初めてです。家に帰って、そのお菓子をはかったら1キロありました。独身の僕は1キロの黒砂糖の山を前にして、途方に暮れています。


クイズの答え。
 南大東村。理由はわからん。これもまた沖縄の謎である。
(未発表原稿)

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沖縄の旅・2001