秋葉原の最強店員とは?

 最近パソコンショップに行って気づくのは、店員さんはパソコン関係の「一般論」には詳しくても、具体的な商品知識に乏しいのではないか、ということである。

 つまりCPUの種類やメモリについては立て板に水の如く嬉しげに答えてくれるのだが、踏み込んで「じゃこの機種は?」と尋ねると、カタログを調べだしたり、奥に引っ込んで詳しい店員を捜し始める始末なのである。不便なことこのうえない。

 一年間でパソコン関係の商品はうんざりするほど店頭に並ぶから、店員さんにも勉強が追いつかない同情すべき理由もある。しかし、そのときの一番の売れ行き商品ぐらいは知っておいて当然ではないだろうか。
 そこで本誌記者はストップウォッチをコートに忍ばせて、
「店員さんが、質問にどのくらいの時間で答えられるか」
 という意地悪な調査を実施した。

 ネタはソニーの「バイオPCGーC1」。あのカメラ付きのノートパソコンで、今冬最大の目玉商品である。これを知らないとはいわせない。調査店は秋葉原・池袋の大手パソコンショップで、時期は年末の午後、比較的すいている時間を狙った。

 質問は表にあるように四つ。うち上から三つまではカタログに記載されている事項だ。困らせてやろうとわざと難しい質問を選んだわけではない。カメラ搭載が「ウリ」のパソコンだからこそ、カメラの性能にこだわっただけである。最後の電圧も、海外にパソコンを持っていきたいユーザーには気になる項目だ。

 「備考」欄は対応してもらった店員さんについてである。どの人もわざわざ遠くの人を呼んだのではなく、バイオの近くに立っていた、恐らく担当と思われる人たちばかりだ。ただA点のみがショップ店員ではなく
、ソニーから派遣された専門の説明員だった。


 調査をしてまずわかったのは、実際に待たされている時間は意外と短いことである。イライラしているからうっとうしく長く感じるのだろうか。また、奥まで引っ込んで他の店員さんに聞きに行ったのはB店の店員さんのみである。

 しかし一方で重大な疑問が起きた。それは
「間違いを調べもせずに即答する」
 ということである。

 C店の店員さんはなかなか優秀なようだが、動画記録について間違えて即答している。このとき彼はちょっと眼球が動いて虚をつかれたような雰囲気があったが、口調は強かった。恐らくこちらが初心者と侮ってその場をやりすごそうと考えたのだろう。態度も買うかどうかわからない客に、いちいち時間をかけていられないという横柄さを感じた。質問には答えてくれても、客として一秒も口をききたくないタイプ、いまどきあんな店員さんがいるとはショップの教育を疑う。

 D店の店員さんは結果的に間違っていないが、質問するたびカタログをパラパラめくり、自信なさそう。二〇万円も出してこんな人からモノは買えない。

 とすると、A店の派遣女性のように知らないことははっきり「わからない」と答える人の方がまだましに思えてくる。また、B店のように時間はかかっても正確な情報をもたらしてくれる人が良い。ちなみに電圧についてパソコン本体は240ボルトまで対応しているが、ACアダプターのケーブルは未対応で、海外で使用する際には別途ケーブルを購入する必要があることを指摘したのは彼のみだった。接客態度も丁寧で、この「仲居さん」(ジャンパーに名札が付けてあった)は私の中で満点である。

 総合すると、パソコンを購入するときは店員さんの次の点に注意すべきだと結論を得た。
@返答するとき眼球が動く人はやめる。
Aどんな質問にも「即答」する人は疑う。
Bとりあえず「仲居さん」を探す。
 さあ、みなさんも秋葉原に行って「仲居さん」を探そう。彼のみが、プロの店員だ。

(98年雑誌に発表)


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