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 リトアニアはバルト三国のひとつ。私が訪れたときは旧ソ連から「さっき」独立したばかりの頃だった。日本では旅行の情報も何もなく、飛行機から降りると入管もなにもなく、いきなり空港外に放り出されたのは驚いた。

 しかし古き良き旧共産圏の名残りか、首都ビュリニュスの人々は貧しくともプライドを持って生きていたように思う。

 路上でロックのカセットテープを売っていた若造に値段を訊ねると、指を一本突き立てて「1ドルだ」。しかし側にいた親方らしきおっさんが、それをとがめ、ルーブルで確か20円くらいの正しい値段を伝えてきた。

 ホテルの部屋掃除係のおばちゃんのために、枕下にチップとして1ドル置いていくと、おばちゃんは息せき私を追いかけてきて、「1ドル落ちてたよ」と渡そうとした。チップだからと渡して外出し、しばくしてから部屋に戻ると、おばちゃんは部屋の窓まで磨いていた。

 レストランで食事をしていると、若者たたちが手を合わせてやってきて、私に向かって恥ずかしそうに手を合わせた。
「タバコを一本いただけませんか」
 あげると彼らのパーティに入れてくれた。レストランから出たとき、「スパシーバ」とロシア語でお礼をいうと、リーダーらしき若者が手を振った。
「ノーロシア。これからは『アーチュウ』と言え。リトアニア語で『Thank You』という意味だ」
 私が唯一知っているリトアニア語である。