2005Y 917日〜 23

鹿島槍 北壁主稜 黒部横断 剱 北方稜線

L 佐藤 、平林

 

前夜 新宿駅ムーンライト信州で神城へ

 

9月17日  朝 ガス、のち晴れ

553 神城駅 815 遠見尾根テレキャビン ⇒ 8:29  アルプス平 ⇒ 954 小遠見 ⇒ 

1053 大遠見 ⇒ 1110 下降開始 ⇒ 1348 シラタケ沢 出合 ⇒ 1500 シラタケ沢引返点

⇒ 1620 大川沢出合 ⇒ 1737 カクネ里 幕営

 

神城駅から季節外れで人気のないペンション街を30分ほど登りテレキャビン駅へ。 始発まで2時間以上間が

ありゴロゴロと過ごす。 思ったより登山客は少なくテレキャビン待ちは25人程度。

アルプス平に降り立つとガスっており眺望のない丸木の階段状の登山道を歩き始める。

小遠見に付く頃、タイミングよくガスが晴れ目指す鹿島槍北壁が姿を現す。

天狗尾根からだと斜め左側から間近に眺める感じになり傾斜が強く見えるが遠見からみると真正面で雄大である。

 

D、C各リッジは顕著に確認できるが主稜のラインは良く解らない。ただ下半部 雪渓からの取り付き付近が

岩っぽいのを除いては全体にブッシュに覆われた急斜面に見える。

 

大遠見の池塘を過ぎ、緩やかに登り平坦になった地点2,172M付近から南へ わずかな踏み跡を拾いブッシュの

下降を開始。クマ笹を掴んで急斜面の強引なクライムダウンを続け、30分程で狭い涸れ沢に入り、所々 小滝の岩をクライムダウンしながら降って行くとやがて水量豊富なナメ床の沢に出合う。 これを途中まで左岸を高巻き 滝の下で渡渉し右岸の高巻きに入る。

ここまでの高巻も足場悪く、クマ笹と潅木のヤブ漕ぎがひどかったが、この右岸の高巻は傾斜が急で相当に

てこずり体力消耗した。 早くこの高巻から開放されたいという気持ちが先走りした。 ヤブの合間から顕著に

それと解る東尾根の第2岩峰、天狗の鼻が見えたときは高巻から降った地点で出合う大きな沢がカクネに入る

大川沢であることを疑わなかった。

 

1348 高巻から出合の雪渓に降り立ち、カクネ里に向かうつもりでシラタケ沢を詰める。平林さんは

「どうも沢の様子が違う、カクネはもっと傾斜が緩い筈?」と。見えるはずの北壁がガスでよく確認できない。

雪渓が二股に分かれるところでリュックを置き偵察。 ガスの合間に見える岩峰郡は確かに少し北壁よ小さく

形も違っているようだ。それに大遠見で正確に合わせた高度計の示す標高が1,450M程度。 カクネを詰めたに

しては標高が低すぎる。

 

「これはカクネじゃなくてシラタケ沢詰めちゃったみたいだな?」と平林さん。 そうなると理屈は合う。

正面の岩峰郡は五竜G群だ。

シラタケ沢をカクネ出合まで下降開始。途中に先ほどのような消耗するいやらしい高巻が無いことを祈るばかり。

 

雪渓から右岸の踏み跡を辿り数回の渡渉を繰り返す。最後は疲れも出て渡渉に失敗し早くもブーツはグッショリ濡れる。

だが幸い出合の大滝を少し高巻いただけでカクネ出合に着いた。出合から小滝を越えて登っていくと眼前に

目指す北壁が現れる。 1737 雪渓手前のゴーロに幕営。

明日の北壁登攀はどうなるか? 暮れる壁を眺めながら外で夕食を済ませ19時頃就寝。

 

 

9月18日 晴れ 

 

616 幕場 発 ⇒ 858 北壁取付 ⇒ 1420 下部岩壁帯を抜けて主稜上のコル ⇒ 

1930 2,540M地点 ビバーク

 

晴れて眺めの良い雪渓を北壁目指して詰める。 どこでも雪渓の登りは単調でなかなか着く様で着かないものだ。

主稜末端 岬上に張り出す手前からシュルンドが現れ、取り付き点を模索し始める。 案の定、末端との間には

大きなシュルンドが口を開けており、とても取り付けない。 ロープを出し大きく左側側壁から回りこもうと考えたがそちらも雪渓が切れているし側壁は結構傾斜が強い。 再度少し戻り2Mほどの雪渓の壁を登りクライムダウンする。 その先に末端との間50cmほどの雪渓の切れ目があった。 これを飛び移り壁末端に無事到着。

 

「じゃあ 頑張っていこう!」平林さんと握手を交わし登攀開始。

 

1P目 ガレた岩を直上。 傾斜は無いが浮石だらけランニング取れぬままほぼロープ一杯。下を振り返れば

シュルンドが大きな口を開けて暗闇の世界に手招きしておりゾッとする。

 

2P目 再び傾斜のないガレ岩を右に斜上。

 

3P目 傾斜の強いフェイス、1,2Pよりいくらか岩は安定しているもののフル装備を担いでのクライミング

    は結構シビアだった。 第1の核心

4P目、5P目 ブッシュを急登しやっと主稜上に出る。

 

6P目 主稜上の岩峰を避けてルンゼを左にトラバースし小さな尾根を乗越し赤茶けた広いテラスへ。

    真上は濡れた垂直の大岩壁 積雪期は氷の壁だろう。

 

7P目 テラスから右側壁を小さな尾根に登り返す。 浮石交じりの濡れて滑る岩 ここも騙し騙しで悪い。

    第2の核心

 

8P目 主稜上の岩峰の上へ戻る為、ルンゼをトラバース。傾斜強く残置シュリンゲ、アブミあり。積雪期は

    ここら辺からルンゼを直上すると思われる。

 

9P目 主稜上 カンテを登る。平林さん曰く 「ヨーロッパの岩を登っているよう」確かにルート上で一番

    しっかりした岩で左側は正面ルンゼを隔ててDリッジが鋭く切り立っており高度感がある。

    この時点で14時を回り残りの標高差からしても明るいうちに稜線に抜けるのは無理と判断できた。

 

10P目 リッジからブッシュを登り見晴台のようなコルへ。Dリッジを眺めながら小休止。平林さんが落ちた

    ハングの核心部も良く見える。

 

11P目 ブッシュ交じりの主稜上を登る。

 

12P〜15P目

    主稜上のブッシュが煩わしく左のルンゼに入る。難しくはないがランニング取れず、ランナウトしっぱなしの緊張する登りが続く。喉の渇きに耐えられず岩のホールドの小さな窪みに水が溜まっているのを見つけては口をつけてすする。ルンゼの中では確保支点取れないため、ロープ一杯手前で左右の尾根上

    の潅木に支点を求めるがルンゼから尾根に斜上する草付も悪く、引き抜けそうな貧弱な草を掴んで

    浮石をプッシュホールドで這い上がる微妙な登り。15P目で18時を回りヘッ電装着。

    この長いルンゼの登攀は忍耐力を試されているかのようで第3の核心。

    

 

16P目 ルンゼが更に草付多くなり若干傾斜が緩んだところからバケツ状の踏み跡あり。ヘッドランプで探りながらこれを右上し主稜に乗る。潅木を登ると2人が横になれそうな広いテラスに着いた。

     上は潅木に覆われ落石の心配も無さそうなのでここでビバークとする。1930  

         

水は佐藤の水筒に250cc程度しか残っておらず、これは明朝 出発前にお茶にすることにする。

「水の代わりにウイスキーで我慢しましょう」 我慢するといっては失礼なマッカラン12年を

コッヘルで飲み交わす。 疲れた体の頭から足先までジワーと染み渡り不思議と喉の乾きも癒される。

十五夜前の満月で明るく不安感もない、むしろ核心はもう抜けているし充実感に満たされたビバーク。

 

露出した木の根に生えたコケから水滴がゆっくり垂れておりコッヘルを置いてみる

21時頃、体を潅木で確保してシェラフに包まる。

1時位まで熟睡するも雨の音で目が覚める。ガスが出て霧雨になっているだけかと思ったがやがて

本降り。諦めてシェラフカバーずぶ濡れも構わず寝ようとするが眠れず。

平林さんも堪らず起き出して二人でツェルトを頭から被ってうたた寝をする。 ツェルトの表面に雨がたまり

出し、せっせとコッヘルに移す。結局5時頃まで水集めに夢中になり1.5リットル程の水を確保した。

「ラーメン食えるぞ、お茶も飲めるぞ!」

 

紅茶を飲んで、ラーメンを1食分作り腹ごしらえ。雨は降ったり止んだりになった。

 

 

919日  雨、時々 曇り

6:33 出発 ⇒ 10:43 鹿島槍北峰 ⇒ 13:00 キレット小屋 ⇒ 

14:20 口ノ沢のコル幕営 2,416

  

17P目 いきなり傾斜の強い強烈な木登りとヤブ漕ぎで開始。

 

18P〜19P 

直上するヤブのリッジを避けて右から潅木帯を巻き19P目で稜に出る。

 

20P目 再び稜上のヤブを避けて左へトラバース気味に草付き交じりの岩を登りコルへ

 

21P目 尾根を右から回りこんで傾斜の強いブッシュ 最後と思いがむしゃらに行ったため却って腕力消耗

 

22P目 傾斜の落ちたハイ松帯。 木登りもこれで終わり。

 

23P目 小岩壁を右から回り込みガスっているが視界の開けた主稜上、「稜線近し」と実感

 

24P目 気持ちの良いハイ松帯の尾根、2本足で登って稜線に出る。

 

25P目 稜線上リッジを行く。

 

26P目 ロープ不要の稜線をピークへ。 「ザイル要らないなァー」 「せっかくだからピークまで繋いで

    行きましょう!」 ロープ一杯で北峰ピーク 1043

 

ガスで眺めは無いが厳しかった登攀を象徴しているようでそれもいい。

この先 剱までの縦走が残っているが、それも今は忘れて安堵感に浸った。

ここで平林さんは冷池経由 赤岩尾根下山 佐藤はキレットへと別れる。

 

八峰キレットは後立山の難所だが疲れているとはいえ、北壁を登ってきた身にすれば、岩がしっかりしているのがうれしい限りでなんと言うことはない。

キレットの長いハシゴを登り稜線上、風の当たらない岩陰で紅茶を温める。

紅茶を飲みながらも安心感からドッと疲れが出て今日中に五竜岳を越えて五竜山荘のテント場まで6時間行動は無理だと考えた。

まだまだ先は長い。1度リセットしてまた明日から頑張ろう。そう割り切ってキレット小屋で水を補給し

口ノ沢のコル 「幕営禁止」の看板の前にテントを張る。時間は早いが鹿島槍から来る一般登山者は皆キレット

小屋、この悪天で五竜からくる人も無く幸い人気は無い。

ラーメンを茹で空腹を満たし夕方まで寝る。 17:30頃起き出してジフィーズを作りまた19:30には

寝てしまった。

 

北壁で1日遅れ、今日もここまで。「天候が崩れることなく全日行動できたとしても明日からは10時間行動で

行かないと剱まで届かないなぁ。」そんなことを考えながら眠りに入る。

920日 朝 曇り時々雨 午後より晴れ

 

6:50 出発 ⇒ 939 五竜岳 ⇒ 1019 五竜山荘 ⇒ 1300 唐松山荘 ⇒ 

1528 餓鬼尾根上 大黒鉱山跡 ⇒ 1651 餓鬼山 山頂

 

今朝も天気が今ひとつ。 少し乾いた衣類をまた濡らしながら出発か。と少し気が重いまま出発。

しかし雨は大降りになることなく時々晴れ間も覗いて気持ちのいい稜線歩き。

北尾根の頭、G5、G4と楽しい岩稜登りが続く。クサリがたくさん張りめぐらされ往来があればかなり待ち時間がかかりそうだが、幸いほとんど人と行き違うことなくスムーズに通過。G4付近は東斜面を覗き込めば

入山日に間違えて詰めた見覚えのあるシラタケ沢が、降り返れば鹿島の北壁が、西のほうに目をやれば

大窓から池ノ平山、小窓、チンネ、そして剱。

 

五竜岳への登りは雨が強くなり視界悪いがこの山頂に立つのは初めてだ。 好きな後立の山を又ひとつ知った。

五竜山荘への降りは岩場のトラバースで濡れていると一般道としては結構いやらしい。山荘前に着く頃急速に

天候が回復。 しかし山荘前は風の通り道で居心地悪く、早々に出発。 唐松までは岩場も少なくなりのんびり

歩き。 今日は唐松を越えて黒部に向かって行ける所まで頑張ると決めているので無駄にペース上げずに行く。

 

1300 唐松山荘 唐松岳は春に登ったのでピークは省略。餓鬼尾根は水が取れるか解らないので500cc300円の水を5本購入。雪渓が残っていないので水は自販機で購入。どうも唐松山荘は印象が良くない。

 

水でずっしり重くなったザックを背負って餓鬼尾根の下降開始 いよいよ黒部に向かうのだ。 この尾根は以前

河村さんと春に登ったがやたらに長かった。 春ならいざ知らず、この時期は少なくとも大黒鉱山跡までは

テントを張れる場所は無いだろう。

山荘前のテント場を抜けて唐松岳山頂から伸びる尾根の南側斜面のトラバースにかかる。 あまり歩く人もいないのだろう。 登山道はガレて所々崩壊しており左側の切れ落ちた狭い巻き道を行く。巻き道が終わると視界のない潅木の中を延々と降り 14時を過ぎると要らぬところで快晴となり気温も上がって汗だくになる。しかし

水は節約しないと北壁の時のようになるのはゴメンだ。

 

やがて 沢に近いくらい標高が下がり傾斜もゆるみ地塘が現れると木道に導かれて1528 大黒鉱山跡 着

 

ここは広場のようになっていて幕場としては申し分なく見えるが地塘があるだけに虫が多いしヘビも出た。樹林に囲まれ視界もない。少し迷うが今日中に餓鬼山の登りを消化してしまえば明日以降 楽になる。そう言い聞かせ先に進むことにする。 しばらく行くと水場の看板。7分ほどわき道を降ると沢にでた。 ここまで担いできた水、山荘で1,500円も出して買った水、悔しいので散々にがぶ飲みして顔を洗ったり足を冷やしたり、大休止。 この河原も幕場にいい。しかし餓鬼山まで行くのだ。 

道は餓鬼山に向けて長い急登となり息が上がる。 ここは以前 山頂を巻くルートだったものを忠実に尾根を登るように近年付け替えたらしく道はいい。 樹林の合間に展望のきく狭い小ピークが現れ山頂はもうすぐと思うもののなかなか着かない。 この山は長い山稜をもっており急登が終わってもその先が長い。

クマザサを分けて1651 やっと餓鬼山 山頂。ルートガイドでは広い山頂の写真が写っているが、今は手入れをしていないようでクマザサや小さい潅木に覆われ狭い山頂に様変わり。無理やりテントを設営して降ってきた

尾根と唐松岳を眺めながら夕食と思った矢先、雨が降り出しやがて大降り。

幕営は誠にいいタイミングだった。

 

19時頃就寝するも 強い雨音、それに近くに動物の気配を感じて熟睡できず夜中に起き出してお茶を飲みながら夜明けを待つ。

 

921日 曇り のち晴れ 

 

6:13 出発 ⇒ 6:54 避難小屋 ⇒ 7:35 餓鬼の田圃 ⇒ 8:51 南沢出合

⇒ 9:56 祖母谷温泉 ⇒ 10:43 欅平 11:29発 ⇒ 16:32 阿曽原

 

昨晩の雨で濡れた草で足元をグショグショにしながら餓鬼山の降りを開始。丸太の急階段で歩幅合わず滑って

非常に歩きにくい。 避難小屋は広くはないが清潔で居心地がよさそうだ。

餓鬼の田圃からの降りはこれまでの登山道ではワーストに入るものだった。 足場は黒く滑る岩、足元の見にくい生え放題の草。木の枝を拾ってストック代わりにするも滑らぬように急降下を続けるのは結構な神経を使う。

足にマメなど出来たことのない僕が珍しく右足、親指と小指にマメが出来るほどだった。

猿が木の上から僕を監視し、カモシカが走り去っていく。

泥化した急降下で明るい南沢に出てほっとしたのもつかの間、沢通しに祖母谷出合までは行けずここもまた

草を分けながらの滑る高巻。

餓鬼の田圃まではあんなに整備が整っていたのにこの荒れ方はどうなっているのか?

下の南沢が見えない位、大きく高巻き、やがて冶山工事の音が聞こえ出してやっと祖母谷出合。

トボトボと欅平に向け林道を歩き出すと途中で道が崩壊して工事中。左斜面に急造した歩行者道でまた高巻。

 

ここで登山道が荒れていた理由がわかった。 土砂崩れで祖母谷までのこの林道は通行止めになっており

欅平から餓鬼尾根登山道には入れない、したがって手入れなどしていないと言うことだ。

 

名剣温泉の先にはゲートが出来ており「土砂崩れのため、これより先は通行止め。通行される方は一切 自身の責任において行動してください。」と書いてあった。 ただそれでも祖母谷温泉は営業中だった。

 

欅平に着くと当然、観光客でにぎわっている。むしろヨレヨレで降りてきた僕の存在の方が場違いであるかのように感じるほどだ。 「それもいい。黒部にそんなきれいなカッコで来ちゃいけないよ。」人目をはばからず水平歩道入口に陣取り 靴を脱いでしばらく昼寝。ここが終点ではない。4月にあっさり黒部横断を諦めここからトロッコでそそくさと富山に逃げ帰ったっけ。 リベンジする理由は幾らでもある。 今日は阿曽原で露天風呂に

入ろう。 水平歩道をトコトコ行くだけだ。

 

水平歩道に入るまでの小一時間 鉄塔3本目までの登りはきつい。この登りを終えればもはや長い水平歩道の

4分の1くらいは消化したようなものだ。

時間的にも行き違う人はほんの2人位。 「風呂、風呂」と念じながら歩く。 奥鐘山 西壁をゆっくり見上げる余裕もない。 「風呂は何時まででも入れるのだろうか? もう今日は終わりデース。」なんて言われたら

ガッカリだ。

 

水筒はほとんど空っぽにした。 オリオ谷、志合谷出合で幾らでも飲める。 水平歩道がアップダウンを繰り返すようになると阿曽原は近い。 やがて山小屋特有の焦げたにおいが漂い始める。1632 阿曽原 着

 

阿曽原に着くと16時〜17時 男 17時〜18時 女 18時〜19時 男 19時〜20時 女

20時以降 混浴となっていた。1時間も待てないと到着早々 露天風呂へ 湯に浸かると北壁や餓鬼尾根のヤブで作った擦り傷がヒリヒリ痛む。それが収まると安堵感に包まれ沈む夕日に滝の音、何ともいえぬ爽快感。

 

風呂に浸かりながら明日からの行動を考える。 今日は21日 天気は長期予想がはずれ秋雨前線活発。

明日、明後日 降水確率50%〜60% 

 

積雪期偵察をやると剱を越えて24日までに馬場島下山が難しくなる。全日行動出来てギリギリ、池ノ平あたりで停滞となったら剱山頂は踏めない。

 

この山行の目的は何か?

鹿島北壁主稜 、積雪期横断の為の下ノ廊下偵察、そして北方稜線から剱、早月尾根、馬場島下山。

 

昨年春の黒部横断敗退、夏のマイナーピーク敗退、11月の別山尾根、平蔵谷コル手前まで行きながらの敗退、そして今年の黒部横断敗退、昨年から何と剱本峰の遠いことか。そして思い出深い早月尾根馬場島下山。

やはりここからなすべき第1の目標は剱を越えて馬場島下山。明日以降も毎日10時間行動で予定を組めば

偵察も可能かもしれないが、無理な計画で又、剱を逃したくない。手堅く縦走を成功させようと考える。

 

風呂から上がり食事を済ませてからまた風呂へ 20:30 就寝 阿曽原は標高低いせいかヤブ蚊多し。

10箇所以上刺された。

9月22日 雨 11時頃より曇り

 

7:31 出発 ⇒ 1103 仙人小屋 ⇒ 1340 仙人池ヒュッテ ⇒ 1443 池ノ平

 

朝 目が覚めると雨。 今回の山行は3日目以来ずっと雨に縁がある。 乾かしても切りがない。

予報は「曇り ところにより雨」 小屋のオバちゃんは「ここはトコロだね。」と

少し様子をみて小止みになったところで出発。 阿曽原峠を過ぎ 下に仙人谷が望めるようになるまでは

暗い樹林の急登で気が重い。 早くも疲れる。昨日の餓鬼尾根のいやな降りで無駄な筋肉を使いすぎたようで

足もだるい。 「今日は池ノ平まで ゆっくりゆっくりでいい。北方稜線の体力を温存しなければ」そう言い聞かせ、無駄にペースを上げることなく登る。

 

仙人谷を隔てて奥切尾根が立ち上がっている。 積雪期の仙人山までのルートとして考えているが、この春に見たところ黒部川出合、末端から取り付くのは到底無理。 この阿曽原峠周辺から一度 仙人谷に降りて取り付く

案を考えていたが、見下ろすと仙人谷から切り立った壁を形成しており、それも難しいようだ。仙人谷から

取り付くには仙人温泉位まで行き斜面が緩くなったところからということになりそうだ。

 

仙人小屋を過ぎ 仙人谷の詰めに入れば明るく開けた稜線への登山道が続き だいぶ気分が良い。枝沢から

仙人ヒュッテへの木道を行けばいよいよ裏剱とご対面。 「ここまで着たかぁ」としばし感傷にふけるも

11月は平蔵谷コル手前で敗退している。 「今回は山頂を踏むぞ」そう思いながら池ノ平へ

 

縦走を始めてから今日が一番へばった。 しかし後は剱に登るのみ、タラタラと登山道を歩けば疲れも感じるが

北方稜線からはそうタラタラも行けないし疲れたなどといっている暇はないだろう。

 

小屋の脇にテントを張り中でガスを炊いて乾燥室状態にし濡れた靴、靴下、カッパ、リュックを乾かす。外でラーメンを作りながらガスに見え隠れするチンネや八峰を眺める。

 

明日の天気は午前中は良いが午後から雨、台風14号の影響で稜線上 風強し。24日も雨と。

 

積雪期に行っているのだから北方稜線上での雨や強風はたいしたことは無い。

そう言い聞かせる。「しかし悪天で視界が無いのは困るなー」

 

小窓の頭までのルンゼをトラバースしながらの登り。

本峰手前 長次郎左俣の頭を長次郎雪渓側から大きく巻いてルンゼを降って登り返すところ。ここら辺、視界が無いのは厄介だ。 悪天につかまったら三ノ窓で幕営すればいい。 しかし翌24日はもっと悪い。

午後から雨といっても昼過ぎから荒れ出すのか? 午後遅くなってからか?

行くのであれば昼ごろまでに本峰を踏んで早月尾根上部を通過し早月小屋へ一気に降る。これしかない。

そんなことを考えながらほとんど眠れぬ夜を過ごす。

 

 

9月23日 晴れ 時々 ガス 15:30頃から雨

 

5:35 出発 ⇒ 6:51 小窓 ⇒ 8:08 小窓の頭 ⇒ 8:31 三ノ窓 ⇒ 

9:23 池ノ谷乗越 ⇒ 10:41 剱本峰 ⇒ 12:55 早月小屋 ⇒ 15:57 馬場島

 

朝、小屋の主人に聞くと やはり午後から天気悪く 雷注意報も出ていると。

「一般道で剱沢から下山したほうがいいんじゃないですか」と

ここで本峰を踏まず剱沢から室堂では鹿島槍北壁を越えてきたのに、黒部横断してここまで来たのに

「今日 早月小屋まで抜けちゃいますから」 「そうですか、気をつけてね。」

 

青空が広がり「本当に荒れるの?」と思いながら出発。 池ノ平山経由で行きたいところだが、時間との競争

なので小窓雪渓を詰める。 雪渓は早朝で固く締まっておりアイゼンをつけてカキカキ登る。

 

やはり雪渓登りは単調で疲れる。しかしなんとなく体調は昨日よりずっと良い。気が張っているせいかリュックもこれまでより軽く感じる。

 

小窓での小休止も早々に小窓の頭に向かう。

小窓から踏み跡に沿って草付を登り、薄暗い狭いルンゼを詰めて左側壁の岩を登り明るい岩稜帯へ出る。

岩稜を踏み跡に沿いやさしいところを選んで登り左にトラバースしていき明るいルンゼを渡って又岩稜へ出る。

 

岩稜を登り左にトラバースして行きガレを少し行って暗くガレたルンゼを渡り脆い岩を登り小窓の頭へ続く

岩稜へ。 やや傾斜の強い岩を2,3手ハイ松に助けられ登りきると小窓の頭。

 

稜線のハイ松帯を行き小窓の王へ。(稜線を行かずに少し下をトラバース気味に行く踏み跡もあった。)

小窓の王からガレを降って三ノ窓。

 

だれもいない三ノ窓。 天気少し下り坂でシルエットのように鹿島槍の双耳峰。大休止したいところだが

鹿島槍は「早く先に行け!」と言っているよう。 いま思い出すとなぜかあの時、三ノ窓からは唐松、五竜から

爺ヶ岳、針ノ木まで見えるはずなのになぜか僕の目には鹿島槍しか目に入らなかったような。

「鹿島槍は剱山頂でゆっくり眺めればいい」と先を急ぐ。

 

池ノ谷ガリーはさすがにペースが上がらない。ガリー中程の大岩を通過するあたりでガスが立ち込め視界が10Mほどになってきた。「いよいよきたかな?」

 

池ノ谷乗越から頭へ抜ける壁もガスったり、晴れたり。頭から少し降ってテントの張れそうな砂地を左に見て

岩稜通しに行く。 

 

長次郎の頭 長次郎側の岩棚をトラバースするルートがあるがきわどいので池ノ谷側を少し巻き気味にほぼ岩稜通しで行く。

 

長次郎左俣の頭 付近は岩稜通しだと最後コルへ懸垂となるのでかなり手前から踏み跡に沿って長次郎谷側の巻き道に入る。

あまり下降し過ぎないようにトラバース気味に行き右側の岩棚に沿って行くと急なガレたルンゼの下降点に出る。

これを最後まで降り稜上のコルへ登り返す。

 

コルからはピークを2つ越えるが下手に巻き気味に登るとガレにつかまり登りにくいので稜線をあまり外さないように岩の硬いところを行く。

 

こうして何箇所か迷いながらも最後は長次郎谷側から回り込んで1041 剱本峰。

 

残念ながら展望はなし。鹿島槍ももはや見えず。 しかしそれは大きな問題ではない。

「ここまで来た!」その事実で充分。しかも予定よりずいぶん頑張って作戦通りスピーディーに山頂に立った。

 

前回 早月尾根を降ったのは何時だったか? ずいぶんクサリ場が増えたような気がする。登山道が荒れたのか、

不要のクサリなのか、 いずれにしても感慨にふけるのはまだ早いと言っているようにそれなりに気を使う

急降下が続く。

時折、晴れ間が出て、天気はまだもちそうだ。別山尾根 前剱からの核心部も良く見える。

また11月にあそこから山頂に立ちたい。

 

早月小屋に降ると登山者が急に増えた。明日頂上ピストンするのだろう。

ポカリスエットを買って喉を潤す。

早月尾根は小屋を境に下部はだいぶ穏やかで降りやすくなる。早月の降りを開始してから時間的にみても

このまま一気に馬場島まで下山と心に決めている。

小屋から小走りを交えスピード下降開始。 目標 富山で一人完登祝い。

 

1500M位でペースが落ち今度はゆっくりと山行最後の余韻を楽しみながら降りる。松尾平のあたりはまさにうってつけだ。

 

大きな看板の登山道入口に着く頃、雨が降り出し 馬場島山の家に入ったところで本降り。

 

昨年来、遠かった剱は長い山行の最後に雨を降らせるのを待ってくれた。