大阪市鶴見区 鶴見緑地

トビイロケアリ
Lasius japonicus Santschi, 1941

ヤツデの花の蜜をなめるトビイロケアリ
2009年12月8日


ヤツデの花の蜜をなめるトビイロケアリ

ヤツデは12月に花を咲かせます。ヤツデの花は、ネギ坊主のように小さな花が球形に集まったものです。本物のネギ坊主は1本の花茎の先端にひとかたまりの花しかありませんが、ヤツデの場合は花茎がいくつも枝分かれして、それぞれの枝の先端に花のかたまりをつけます。

ヤツデの花の、ひとつのかたまりの中のすべての花は同時に咲きます。しかし、他のかたまりとは花の時期がずれます。

最初に咲く花のかたまりは、花びらと雄しべが目立ちます。やがて花びらと雄しべは落ちてしまいますが、花が終わったわけではありません。花の真ん中から5本の雌しべが伸びてきます。これは、ひとつの花に、雄花的役割の時期(雄性期)と、雌花的役割の時期(雌性期)があるのです。

雄性期でも雌性期でも、ヤツデの花は蜜を出 しています。ただ、訪れる昆虫は限られてい ます。たいていの昆虫はすでに冬支度を終え ている時期だからです。ハエの仲間が多いの ですが、暖か日にはミツバチやアリもヤツデ の蜜を飲みに来ます。

玉のような汗という表現がありますが、ヤツ デの花は玉のような蜜を出します。雌性期の 花の蜜を求めてやってきたのはトビイロケア リです。このアリは右の触角が短いようです 。右の触角の先端は切断されているのです。

働きアリは概して勇猛果敢です。一族の利益 のためなら命をも惜しみません。生きた獲物 に襲いかかったときに、反撃を受けて触角の 先端を切り取られたのか、あるいは、ほかの 巣のアリと争ったときにやられたのでしょう か。

満身創痍であっても、働けるかぎりは働く。 そのために働きアリは生まれてきたのだから 、当たり前といえば当たり前のことです。い ま飲んでいる蜜も、自分の腹を満たすためで はありません。巣に持ち帰り、巣の仲間と分 かち合うために、せっせとヤツデの蜜を集め ているのです。

そうした働きアリの行動は、女王アリが出す フェロモンで制御されているといいます。そ のことから、働きアリは支配者の命令で働か される哀れな奴隷と捉える向きもあります。 それなら私たちの身体も、ドーパミンやエン ドルフィンなどという神経伝達物質によって 、脳神経系に支配されている奴隷ともいえな くはありません。

1月になって、最後のほうに咲くヤツデの花 は雄花です。ひとつの花を雄性期から雌性期 に変えていく方法では、いちばん最後に雌性 期をむかえた花に受粉させるための雄花が必 要となります。花粉を提供した雄花は実を結 ばずに枯れます。

せっかく花を咲かせても、ほかの花を結実さ せるためだけに働き、自分は実をつけずに終 わる雄花は、植物ホルモン系に支配された奴 隷でしょうか。

雄花は雄花としての役割を果たし、働きアリ は働きアリとしての役割を果たす。それは意 識しなくても、食べたものは消化され、肺は 酸素を取り込み、心臓は血液を循環させ、必 要な場所に必要なものを届ける身体の仕組み と同じことでしょう。

それを、神経系やホルモン系、フェロモン系 を利用した支配と見るか、役割分担を円滑に 機能させるための連絡、連携と見るかだけの 違いで、支配と見ようが、連携と見ようが、 アリの暮らしもヤツデの生活も、結構うまく いっているのです。

(2010.G.10)


前の画像          次の画像


「場所別の生き物写真」にもどる

転載禁止
サイト内の画像・文章の無断転載を禁止します
Copyright (C) 1998-2011 NAKATANI,Ken'ichi  All Rights Reserved.