宮部みゆき


表は上段が左から標題・作者・出版社・点数(10点満点)、下段が感想となっております。

「理由」宮部みゆき 朝日新聞社3点
宮部がようやく「直木賞」を手にすることになった作品。
今後、この作品が宮部みゆきの代表作として語られることになるのかと思うと、カナシクって仕方有りません。
はっきり言って駄作です。
人物描写の上手くて、感情移入が容易であることが宮部作品の魅力であると私は思っています。
でも、本書はドキュメンタリー風の構成を取ったため、事実が淡々と述べられていくだけという印象しか持てませんでした。
あえて作品の中身に触れるなら、「終わっている人々の破綻の物語である」と言ったところでしょうか?
この、行き詰まった人、身を置く場所の無い人(=異端)を描くというのは、宮部らしいとは思うのですが、同様のテーマでもっと面白いものが書ける人だけに、本書を高く評価することはできません。
せめて「火車」のような書き方であったら、また評価も違ったものになったのですけど。。。
このちょっと硬派な作風が「直木賞」を取るための一発芸であると信じて、次作を待ちたいと思います。

「クロスファイア(上)(下)」宮部みゆき 光文社5点
もしかしたら、宮部作品中最低評価かもしれません。
それでも5点だから、やはり宮部のレベルは高いと言うべきか...
でも、期待を裏切られた気分ではある。
超能力をテーマにした作品が嫌いなわけでは無い。
実際、同じく超能力をテーマにした「龍は眠る」なんかは大好きな作品だし、本書の前編とでも言うべき「燔祭」も結構好きです。
「クロスファイア」と「燔祭」は、念力放火能力を持つ美女、青木淳子を主人公とする物語なのですが、微妙に作品の雰囲気がちがうのです。
「燔祭」の青木淳子は哀しかったけれど、「クロスファイア」の青木淳子は理解できないのです。
もしかしたら、「クロスファイア」の無力な彼女を理解したくないのかもしれません。
その意味で、わたしが期待するのは、圧倒的な威力を持つ武器---装填された拳銃としての青木淳子なのです。
その力を持て余して、破滅へと進んでいく。
そういう話を期待していたから、期待外れだと思ったのかもしれません。
でも、本書は「一人の女性が、男と世間に騙されて、自身を見失い破滅をむかえる。」という、あまり私好みで無い話であったから、好きになれなかったのです。
ですから、この辛い評点はわたしの思い入れがなせる業にすぎず、本書の出来が悪いということではございません。
近いうちに、もう一度、「燔祭」から読み直してみようと思ってます。
# 段ボールに詰め込まれた本の山から「鳩笛草」を発掘できればですけど。

「心とろかすような」宮部みゆき東京創元社8点
パーフェクトブルーに登場する蓮見探偵事務所と用心犬マサのお話です。
5編の連作短編になっています。
表題作の「心とろかすような」は作者らしい茶目っ気十分のオチがあり、なかなか楽しめます。
さらっと読める好短編とは思いますが、ストーリー(謎解き)的には物足りなさが残ります。
「てのひらの森の下で」は以前どこがで読んだ記憶が...
非常にうまくまとまった話ですけど、登場人物に魅力を感じません。
この本に収められてる中で一番好きなのが「白い騎士は歌う」です。
犯人や謎解きはどうでも良いです。(^^;
登場人物が魅力的で、感情移入して、なんか新年早々涙が...
「情けは人の為ならず」って言う諺を思い出してしまうのですが...
「マサ、留守番する」は一番長い話なんですけど、「白い騎士は歌う」を読んだあとでは
ちょっとインパクトに欠けます。
最後の「マサの弁明」については、まぁ、色々と語る必要も無いでしょう。
多分、これは作者の遊び心からきたサービスなんでしょうね。





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