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会話の0.2秒を言語学する

会話の0.2秒を言語学する」(著:水野太貴、発行:新潮社)を読みました。
会話では、一人の話者が話し、それが終わると別の人が話し始めますが、それぞれの
話者の話のターンが終わって話者が交替することを「ターンテイキング」といいます。
そのターンテイキングには平均0.2秒しかかからないという研究結果があり、
本書は言語オタクの著者がその謎解きをする中で、言語学や言葉の社会的関係などを
親しみやすく説明しています。

私は学生時代の卒論で同級生に誘われて「パソコンによる言語理解システムの構築」に
取り組みました。認知心理学、認知科学、発達心理学、チョムスキーの変形生成文法、
日本語文法(格文法を含むあれこれ)、日本語言語処理などの書籍を読み漁って勉強し、
NEC PC-9801上のLispでお遊びのようなプログラムを作成した記憶があります。
その時の知識はすっかり過去のものになりましたが、その時のことを思い出して、
本書を読みながらとてもわくわくしました。

本書に書かれた会話のターンテイキング図を要約すると以下になります。
本書P.205「図15 200ミリ秒のターンテイキング図式化修正版」(要約)
話者A:発話

話者B(聞き手)
 | 【文構造の解析】⇒【意味の理解】⇒【語用論的な推論】
 | ⇒【ターンテイキングの準備】⇒【応答内容の整理】
 | ⇒【応答内容を文にする】⇒【応答】(ここまで平均200ミリ秒)
話者B:発話

話者A(聞き手)

世界の言語の会話のターンテイキングとして平均0.2秒ですが、日本語話者の会話で
見ると 0.007秒とのことです。
おそらく、例えば英語はSVOの構文で目的語まで聞かないと意味を理解するのが難しい
のに対して、日本語は目的語の後に動詞が来るので目的語に対する縁語の動詞を予測
することで意味の理解を先読みし、非常に短い時間でターンテイキングしているのでは
ないかと考えます。

また本書を読むと、文の理解には、文の一次元的情報だけでなく、構成句の樹形図の
ような二次元的情報が必要になるとあります。
本書P.68 「図3 樹形図は文のあいまい性を説明できる」
文:警官は叫びながら逃げる男を追った
 

+−−−−+
|    |
名詞句  動詞句
警官は   +−−−−−−−−−−−+
      |           |
      名詞句         動詞
       |          追った 
       +−−−−−−−+
       |       |
       動詞句     名詞句
     叫びながら逃げる  男を
 

+−−−−+
|    |
名詞句  動詞句
警官は   +−−−−−+−−−−−−+
      |     |      |
      副詞句   名詞句    動詞
     叫びながら  逃げる男を  追った 


競技かるたは 1/100秒(0.01秒)を競う競技といわれます。
日本語話者の会話のターンテイキングの時間 0.007秒とほぼ同じです。
選手は、読手の読みを言語的処理(言葉)でなく音楽的処理(音の流れ)で聞き、
次元的変換(音の流れ⇒脳内空間の札の配置⇒物理空間の札の配置)を行って
出札を取ります。
ちなみに、競技かるたを始めたばかりの初心者(日本語話者)が読みを聞いても
反応が遅いのは、読みを言葉として聞いてしまうことで次元的変換がスムーズに
されないことも要因の一つと考えます。

競技かるたを念頭におきながら本書を読むと、いろいろ感じることも多く
とても興味深いです。

参考URL:
VALUE BOOKS/会話の0.2秒を言語学する
YouTube MrFuji from Japan/【海外の反応】ペラペラ外国人が日本語の疑問を直撃!ゆる言語学ラジオ水野が解説


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