寄合酒

 ええ、相も変りません、馬鹿馬鹿しいおあそびをば一席聞いていただきまして、失礼をさしていただきます。
 酒なくて、なんの己が桜かな、酒は百薬の長、飲む方から申しますというと、百薬の長、飲まぬ方から言いますというと、命をば削る鉋と申しまして、随分勝手なことを言うたもんでございますけども、まあ、ここにございました我々同様という、この、気楽な連中が、まァ、七、八人も寄り集りまして、
「おい、飲もか」
「ほおい、飲もか」
飲もか飲もかのうわばみ同様な奴ばかりが、寄り集りましたんで、
「よう、久しぶりやな、ええ、今日は、顔がそろてるやないかえ、どや、皆で、一杯飲もか」
「はい、飲も飲も、なんぼでも飲も」
「ふん、相変らず、厚かましいな、お前は飲むこというたらお前、喉鳴らしてんなあ。なあんぼでも飲もてお前、そういう厚かましいこと言うな、阿呆。我々友達やないかい。わしがおごろうと言う奴は、一人もおらんねや、そやろ。で、どやい、顔がそろてんのんさいわいや。一つ、皆でこの頭割りでいこうと思うねんけどな。えっ、いや、顔がそろてるさかいな、頭割りで飲もかっちゅうねや」
「ええ、あたっ・・・・・・、あた、頭割りねえ・・・・・・、そのう、あっ、頭割りて、やっぱり、割木でいくのんか、おい」
「ほんまに変ってるな、このがきは。友達が酒飲むのに、割木持って喧嘩すんねやあるかあ、阿呆、そうやないがな。出し合いで行こうっちゅうねや」
「えっ」
「分らんがきゃな、このがきは。出し合いして飲もうかっちゅうねや」
「へえ、だっ、出し合いして・・・・・・、ほらあやめといた方がええやろ・・・・・・」
「なっ、何がえ」
「なにがて、へへ、んな、今まで友達と飲み合いしてるけどお前、出し合いして飲むなんて、おら、初めてやさかいな。ほんで、誰から出すねん」
「ほんまに変ってけつかんなあ、このがきは。誰から出すてお前、きかんでも分ったるがな、こうして列んだら順番やないかえ、お前から先出さんかえ」
「・・・・・・、ヘヘっ、あや、あっ、あっさり言うなあ、お前は、そらまあ、・・・・・・・、お前のこっちゃ、いやとは言えへんけどなあ・・・・・・、わい今日、ちょっと、暇がいるさかいな・・・・・・、だれどこう先ぃ出して貰われへんやろかな」
「誰ぞ先ぃて、暇いるほど出さんでもええがなちょっと出したらええねやん」
「その、ちょっとが暇いんねや。それなあ、はっは、ああ、つらいなあ、こらあ」
「ええ」
「いえ、話さな分らんねんけどな、実は、わたい今日あんたメリヤスのパッチはいて来てんねん」
「話しがおかしいと思たらそれや。何を出すつもりやお前は阿呆やなあ。そうやないがなあ、わいの言うのは。お金の出し合いやがなあ、お金の」
「ああ、お金の出し合いかい、ほっ、ほっ、ほっ、それ知らんさかいにお前、また一時はどうなるかしらん思た。ウー、それやったらええは、ほんで、あの、どのぐらい出そなあ」
「どのぐらいて、偉そに言うな阿呆。我々友達やないかい、あんまり大きなこというても仕方がないねや。そやなあ、一人前、片手でどうや」
「えっ」
「いや、一人前、片手でどうやっちゅうねや」
「へええー、やっぱりあの一人前、五万円でっか」
「ほんまに大きい出たな、お前は。我々友達に五万円ってな金があるかあ、阿呆。五万円も出すぐらいやったら、俺一人でおごったらあ、阿呆。五万円とちがうがなあ、ずうっと下や」
「うっふ、五銭か」
「ええかげんにせえ、阿呆。五万円から五銭にとばして、どないする。五銭で酒飲まれへんがな。中をとれ、中を。五百円」
「あっ、五百円か。あは、五百円いうたらお前、わずかやなあ」
「うん、偉いこと言うた。五百円いうたら少しやなあ」
「うん、すまんけどちょっとたてかえてえな」
「ほんまに、あっさりいくなあ、お前は。出すのんかしらんと思たら、なかったらしゃないわい。ないもん無理から出せ言えるか、阿呆。おい、お前はどないや」
「ええ、まことにあいすまんこって。ええ、実はわたい今日ちょっとせいてましたんでなあ。ええ、あのう、財布を持ってくんのん忘れましたんやけども」
「あっ成程なあ。や、そういうたら誰しもあるこっちゃ。ええ、いや、よろしいよろしい。今日は、あのう、わたしがたてかえときまひょ。ついでがあったら持って来とくんなはれ。よろしか。おいっ、その次は」
「わたい財布持ってるでえ」
「・・・・・・、ああ、財布持ってるか。ほな、ちょっとすまんけど五百円出してんか」
「いや、中の金忘れた」
「阿呆か、このがきゃ。金がなかったらなんにもならへんがい。いつまで空の財布振りまわしてんねん、阿呆。おいっ、その次は、・・・・・・、おいおい、うれしいな、ええっ、その次は言うなり、スーッとふところ手つっ込んだ、なっ、こうしてお前端から見てても気持ちがええがな。何事でもああいう具合にスッとあっさりいかないかんねや。おいっ、えらいすまんなあ」
「なっ、何がえ」
「いやあ、なにかてお前、五百円出すねやろ」
「いや、おらそんなもん出さへんで」
「ふうん、ほんだお前、五百円出すてなんでふところへ手つっ込んでんねん」
「いやっ、飲む話しが決ったさかいな、ぼちぼちお前、パッチの紐ゆるめてんねん」
「ほんま厚かましいなあ。聞いたか、おいっ、出すもん出さんともうパッチの紐ゆるめてんね、あのがきゃ。そういう厚かましいことをすな、阿呆。我々友達やないかい。あるならある、無いなら無い、一言でええがな。あっさり言うたらええねや、あっさり、けったいな真似せんと。おいっ、その次は」
「ないでえ」
「ほらまた、あっさりしてんな、おい。言うたらすぐにあないして、人なぶりやがんねん、あのがきゃ。おい、その次は」
「通り抜け」
「お前とこ、路地尋ねてんやあるか、阿呆。おいっ、その次は」
「いえ、これから、ズウッとない」
「人のことほっとけ、阿呆。むかつくなあ、おい、自分ないのに人の世話までやいてけつかんねん、あのがきゃ。あかんあかん。我々友達や、金のこと言うたら間違いや。どうせ金集まらんわ。しかしや、金が無いさかいていうてお前、このまま別れる訳いかへんがな、そやろ。いつこれだけの顔がそろうか分らんねや。こうしょ、このう皆でなっ、あのう持ち寄り散財やろ、持ち寄り散財。ああ、なんでもかまへん。皆こう、いったん、こう、家へ帰ってやなあ、でまあ、おかずの残りでも、漬けもんでもかめへんさかい、ひと品持って来たらここで一杯飲める。簡単でええやろ。ええっ、あっ酒は心配せんでもええ。酒は俺が言い出したんやさかい、ちゃんと都合しとくさかい。その代り言うとくでえ。お前らなんでもかめへん。ちょっとこう、つまむもん持って来い、つまむもん。分ってるか。ええか。早よ来いよう」
「ええ、遅なりまして」
「おう、えらい早やかったなあ、お前が一番早い。何持って来た」
「ええ、あの、ちょっと、ぼうらら一本持って来わしてんけどなあ」
「何を」
「ええ、ちょっとあの、ぼうらら一本持って来ましてんけどな」
「おい、ええ年して舌がまわらんなあお前は。ぼうららやて、情けない。それも言うなら、ぼうだら。ああ、もうええ、もうええ。お前どうせ舌がまわらんねや。別に言い直さんでもかめへん。おうら、また大きなやっちゃな、高かったやろ」
「タラや」
「いや、品物のタラわかったんねや。値段が高かったやろ」
「いや、いや、そやから言うてまんがな。品物がタラで、あんた、値段も、タラやねや」
「おい、ちょっと待ちや、おい。きょうびお前、品物がタダっちゅなあ、おかしやないけ」
「いや、その、話さなわからんねやけどな、家へ帰ったら、お前、カカ、おか湯炊いとったんで。一杯飲もっちゅうお前、まんざらおか湯も持ってこられへんがな、そやろ。何か買おかア言うてな、横町の乾物屋行った。あそこのおっさん、新聞好きやろ。向う向いて、あんた、一生懸命こう、新聞読んどったんや。ほんなあの表のあんた、四斗樽の中にな、ぼうららいっぱい、こう、漬けたったんで。で、その中で一番大きそうなぼうらら一本ひょいと、こう背中に背ったろうてな、ほれ、片方の手で、おなじ大きさの、ぼうらら、持ってな、『おっさん、これなんぼでござりまっせえ』、言うたったんで。ほな、あの百円や言うさかいな、『七十円にまからんか』、言うたら、まかりまへん言うさかい、『ほな、ほなもうええ、おま、おま、お前とこ、だいたい物が高いぞ。今、お前これ、公設市場でお前、七十円で買うてきたとこや。ほな、同じ大きさで、そない値が違うねやったら、もう一ぺん向う行って買うてこう』、へへっ、ほんで一本かついで帰って来たった」
「そんな悪い事すな、阿呆。舌もまわらんのに、ゴジャゴジャ言いもって、棒鱈一本かついで来やがんねん、あの阿呆。そんなことすな、もう今さら返しに行けるか阿呆。そこへ置いとけ、そこへ」
「あの、えらいすんまへん、ちょっと、このう、かずのこなおしといとくなはるか」
「ああ、かずのこ、珍しいな。そんな、かずのこ、どないした」
「ああ、どないした言われると、ちょっとつらい」
「おい、また、あんなん出て来たで、おい。何がつらい」
「いえ、その、あの、何がつらい、言われると、よけつらいのんで。いや、話さな分らんねんけどな、この男が、あんた、ぼうだらかついでる間になあ、横手であんたかずのこの上へな風呂敷をブアーッとこう、かぶせたったんで。『おっさん、すまんけどはやまくで、小豆一升秤ってんかあ』て、こない言うたらなあ、『うちゃ、乾物屋でんがな。小豆やったら、隣りの雑穀屋へ行きなはれ』って、こない言うさかい、『わぁ、おっさん、まちどうてえらいすまなんだな。ほな、また、今度寄して貰うわ』っ、言うなり、風呂敷を、ボェーッ、って、バーッ、かずのこついて来よった」
「ほんなもん、ついて来るか、阿呆。つかんで来やがんねん、阿呆んだらもう。今さら返しに行ったらどつかれるわ、おまえら。そこへ置いとけ、そこへ」
「おえっ、ちょっとすまんけど、この鯛一枚なおしといてくれ」
「ほうらまた、立派な鯛やな。そな鯛どないした」
「さあっ、どなした言われると」
「あんな奴ばっかりやな。どない・・・・・・」
「いえ、そう、話さな分らんけどな、いま、お前、帰ろうと思て表出たん。魚屋の奴荷降してな、よその家、入っとったんや。荷の間から、お前鯛の尻尾がめえたんねや。どこの赤犬や知らん、出て来やがってな、鯛、くわえるなり、ツッツッツッと、走っていきやがったん。どこ行きやがんねん、ボエーッつて、後、追って行ったったらお前、路地ン中へ入りよったんで、あたり見回したらお前、人が居てへんさかいな、下駄ぬいで犬の頭へバシンて、かつげたったんや。ほな、この犬がまた、粋ないやっちゃ。クワンっちゅうてはなしやがんねん。犬の食わん鯛皆で食おか」
「なにをぬかしやがんねん、阿呆んだら。犬の上まいて来やがんねん、阿呆んだら、そんなことしたら、犬は怖いで犬は。今さらしゃないそこへ置いとけ、そこへ」
「あの、もし、もし、えらい、えらいすんまへん、ちょっとこの、かつを節、二本、そっちへ、はよ、なおしといとくなはれ」
「ええっ」
「ええ、あの、あんまり大きな声で言われしまへんねんけどな、帰ろうと思て表飛び出ったら、あの、向いの、あのかつを節屋の坊々、わたいによう、馴ついてまんねん。『坊々、なにかして遊びまひょか』て、こない言うたらなあ、『おっちゃん鬼ごとしまひょ』て、こない言うさかいなあ、『ああ、よろしおまっ、こっちゃ鬼なったげます、けど、鬼に角なかったらいかんさかいな、家へ帰って、大きなかつを節二本持っといで』、イッヒッヒッ、ほで、こんな大きなん、二本持って来よったんで。ええ、これこう、頭へくくりつけけな、『坊々、かもか』てこない言うたらな『おっちゃん、怖い』ぬかしてけつかんねん、イヒッ、『坊々、かもか』っちゅうて、『おっちゃん、怖い』、イヒッ、とうとう、あんた、家のねきまで追うていったたんでええっ、ここやな思うさかい、大きな声で、『坊々、かもか』言うたって、『おっちゃん、怖い』って、スーッつと家中へ飛んで入りよった。その間にスーッつとふところへ入れて、それみんなでかもか」
「何をぬかすねん、阿呆。このがきは一番悪いねん、子供をだましやがんねん、ほんまに情けない。お前らはそれでええわ阿呆。その子が後でおこられるがな。もう、もうええ、もうええ、同じ町内やが、取ったまま、放っとかれへんがな。後で俺金払てまわるさかい、そこへ置いときなはれそこへ」
「ああ、えらいすんまへん、あのう、根深十羽に味噌の包みを二つ、皆、それぞれここへ持って来てまんねんけどな」
「ああ、さよか。やあ、結構結構、ええっと、そうだんな、まっ、これだけ揃ろたら、どないぞして酒飲めるやろ。あっ、言うときまっせえ、えらいすんまへん。あんたら、こう、皆知ってる通りなあ、女子手が無いねん今日は。男手ばっかりやさかい、皆でその手分けをして、手分けをして。よろしか。あっ、えらいすんまへん。あんた、そのう、ちょっと、あのう、そやな、酒の燗やったっとくなはれ、酒の燗。ほんで、君すまんけど、あの、鯛の料理、分ってんな、ほんで、ぼうだら、かずのこ、ねぎと、あんたすんまへん、あのゥ、かつを節が二本おましたやろ。そうそうそうそう、それ二本とも擦いてえ、釜でぐらぐらっていわして、だしをこしらえて、だしを。出来るだけ早してや。分ってんなあ。ああ、あの、もし、もし、あんたあんた、鯛の料理分ってんねやろな。鯛の料理、料理する前に、鱗をよう、ふいときなはれや」
「なっ、なんです」
「いえっ、鯛の料理する前にね、鱗をようふいときなはれっちゅうねや」
「ああ、鯛の鱗拭きまんのか。あはは、やっぱり、ぞっきんかふっきんで」
「阿呆かお前は。人をなぶって、そやないがな、包丁で、バリバリと」
「あっ、さよか、包丁で。あんた拭いとけ拭いとけ言うさかいあんた」
「えっ」
「エッヘッ、阿呆らしいあんた、こんな鯛の一匹や二匹、あんた、すぐ出来まんねん、へっ、バリボリ バリボリ バリボリ バリボリ バリボリ バリボリ、バリッ、バリボリ、バリボッ、・・・・・・、バリボリ バリボリ バリボリ バリボリ、・・・・・・、バリボリ、バ、アッ、・・・・・・、ウフッ ウフッ ウフッ、鱗が心悪いな。へっ、シッ、シッ、あっち行き、あっち行き、・・・・・・バリボリ バリボリ、バリッ、シッ、あっち行きっちゅうねや・・・・・・、おーい、赤犬が来てグーウー言うてるでえ、おい・・・・・・」
「グーウー言うてるて、お前、追うたらええがな」
「追うてるけど、向う行けへんがな・・・・・・、おいこれ、さっきの犬とちがうか、おいっ」
「俺ら、知らんでそなもん。とってくるさかいついてくんねやないか阿呆んだらお前は・・・・・・、情けないがきやなあ、追うて向うへ行かなんだらしゃあない、バァンと食らわしたらええねやん」
「ボッ、ボンとか・・・・・・、どこを食らわそ」
「どこでもええがな、ボーンと食らわしたら向うへ逃げて行くがな」
「あっ、ほうか。どこでもええのか。ほっ、ほんだまあ、尾やったらええやろ、ふん、いよっ、バリボリ バリボリ バリボリ・・・・・・バリボリ、バリボッ、シッ、シッ、あっち行けっちゅうねん。おっ、おーい、へへっ、尾、尾食らわしたけど、まだグーウー言うてるでえ、おい」
「ほんま、情けないがきやな、このがきは。そんな大きな犬が尾ォくらいでこたえるかあ、阿呆んだら。ド頭を食らわさんかい、ド頭を」
「どっ、どたまか、−ボン−・・・・・・、バリボリ バリボリ バリボリ・・・・・・バリボリ、しっ、しゃい、どっ、ド頭食らわしたけど、まだグーウー言うてるがな」
「ほんまに、どうしょうもないがきゃなあ、ほんだら、しゃあないから、胴二つ三つボンボンと喰らわせ」
「・・・・・・おい、これかめへんのか、おいっ」
「遠慮することあらへんがな、ボンボンっと食らわしたらええにゃん」
「ほうか、ほだ、お前が、食らわせいうたら食らわすけどなあ。・・・・・・おーい、もう向う行きよったで、おい」
「ああ、向う行たらええ、はよ鯛料理せえ」
「・・・・・・、おい、あの、鯛もう一枚あんのか、おいっ」
「もう一枚あるかて、お前、そこにあったやろが」
「やあっ、あった、あったけど、お前、赤犬が来て、グーウー言うたら、お前、喰らわせ言うたやろ、で、尾やったらあかん、ど頭食らわせ、ど頭食らわしたが。で、あかんで言うたらお前胴、二つ三つボンボンと食らわせ、言うンで、胴二つ三つ、ボンボンと食らわしたら、お前、もう、鯛がないがな、おい」
「えらいことしゃがったな、あのがきは。言葉の聞きまちがいや。犬に皆やってしまいやがんねん、あのがきゃ。いつまで包丁持ってんねん。そっち片付けあほんだら。ああ、もしもし、もし、あんたや。何をそこでポヤーッとしとる。なんやその辺から、プーンとお前、焦げ臭い臭いがしてるがな。いやプーンとこの、こ、ええっ? かずのこ煮いてる・・・・・・、変ってるなお前は。かずのこを煮いて・・・・・・、ええっ、なんぼ煮いても柔こならん? 当り前やないか、阿呆んだら。かずのこ煮く奴あるか、おい。かずのこは塩でもむねん。いえ、かずのこはしっ、塩、ええっ? ねぎを塩でもんで、そんな阿呆なことすん・・・・・・、難儀やなあ。分らなんだら、先に尋ねんかぁ阿呆やな、お前はほんまにもう。あっ、もし、あんたや、あんたや、あんた何してなはんね。手が空いてる? それがいかんがな、遊んでる場合やないがな。間に合わいでも友達や。皆こうしてあんた、手分けしてやってんねん。ちょうどええ、あのう、二人でな、あのう、み、味噌すろ、味噌。ほんで、あの、擦り鉢持っといで。いや、擦り鉢。おいっ、どこ行くねん、どこへ。に、二階行ってもあれへんがな、二階行っても。いや、目の切った物、目より上に置いたら、そのうちに苦情事が断えん。いや、はしりの下見い、はしりの下。いや、はしり。ああ、それそれ。それが擦り鉢。ほうら頭が働らかんなあ、お前ほ。擦り鉢だけで用事がでけへんがな。鑿と言えば槌や。ああ、そうそう、鑿と言わ、・・・・・・、本当の槌持って何すんねんお前。・・・・・・、擦り鉢割るつもりか阿呆やな、お前は。そうやないがな。擦りこぎ、擦りこぎ。擦りこぎ、知らん? ええ年しゃがって、ほんまもう、恥を知れ恥を。こんなかいらしい子でも、擦りこぎ言うたら知ってるがな。あの、すり、擦りこぎていうたら、そう、こう、こういう、この、先の、よう、な、恰好の、こう、ええっ、わっわからん? 難儀ながきゃなあ。わっ、わからんだらわかりやすうに教えたる。擦りこぎというたらなあ、先のこう、よう馴れた、ほで、こう、長うて、先で丸うて、こう、ブラーンとしてるやっちゃ。ええ、そうそう、先のよう馴れた。なっ、長うて、あのな、あの、お前そっち向いて何してんねん、おい。そっち向いてもあれへん。こっちを向け、こっちを。ああ、そうそう。今こっち向いたお前の真ア前にあるやろ。いえ、まあっ、・・・・・・、いや、お前、そのね、うろうろするさかい、ややこしいねん。いや、うろうろせんでもええねん。わたいの言うてるとこ、立ってる、真ア前。・・・・・・、いや、ブラーンと。いや、ちがう。あのね、あの、どない言うたら。・・・・・・いや、ちゃ、そら、こき竹や。竹と違う。木ィでこしらえたやつ、木で。いや、そら天秤棒や。ほんまに、どない言うたら、・・・・・・、せやないがな。擦り鉢がこれだけのもんや。木でこしらえた、もっと小さいもんや。ええ、そう、木でこしらえた・・・・・・あのう、また爪楊子持って何してんねん、阿呆。ほんま、どない言うたらわか、・・・・・・、ああっ、いまいま、今、あんたの右手にさわったや、右手に。ああ、それそれ。それが擦りこぎや。覚えときなはれ。あっ、言うときまっせえ。持って来る前にな、ちょっと頑をぬらしといなはれ、頭を。ええ、持ってくる・・・・・・アハハ、ああ、自分の頭を漬けて何をすんねん。へえっ、アタマちゅうたら自分の頭をジャブンってやってしまうねん。そんな頭でどないして味噌擦んねんや、阿呆やなお前は。どたまの皮、めくれるがな。そう、擦りこぎの頭をっ、あのねえ、擦りこぎの頭をジャブッと、そら、手水鉢やがな、阿呆やなお前は」
 ワアワア騒いでおります、我々寄りますと、こういう間違いがおこります。お馴染みの、「寄合酒」という、馬鹿馬鹿しいおあそぴで失礼いたします。
(完)