縦振電鍵送信術入門

                                         JA1HHF
                                         日 高  弘

1.モールス符号

モールス符号は点(短点)と線(長点)で構成されます。点と線ならびにそれらの間隔は次のような決まりがあります。(無線運用規則の別表1号注を参照)

 1)1線の長さは3点に等しい。
 2)1符号を作る各線または点の間隔は1点に等しい。
 3)2符号の間隔は3点に等しい。
 4)2語の間隔は7点に等しい。

練習初期は線が長くなってもかまいません。ただし点や線それぞれの長さは同じ長さでなければ符号として好ましくありません。自分の打出す符号をテープ式印字機で見ることができれば理想的ですが低周波オシレーターによるモニター音をテープレコーダーに録音して聞いてみるとか電鍵操作に熟練した人に聞いてもらって不具合を指摘してもらうのもひとつの方法でしょう。


2.縦振電鍵によるモールス符号の送信練習について

モールス符号を電鍵操作により送信するにはどんなステップがあるでしょうか、送信しようとする文字のモールス符号を覚えたばかりの入門者は次のようなステップで送信することになるでしょう。

 1)送信する文字を見る
 2)文字の符号を判断する

 3)符号の視覚像を連想する
 4)電鍵を操作する

送信練習の前に完全にモールス符号を覚え、受信はひととおり覚えておかなければなりません。受信ができなければ自分の打出す符号の良し悪しや乱れなどの判断はできません。電鍵による送信練習は先ず電鍵との取組み、点と線の送信の基本を習得することが必要です。正しい符号の送信技術を習得し、さらに高速送信を自分のものとするためには基本的な練習からスタートすることをお薦めいたします。


3.縦振電鍵について

縦振電鍵にはいろいろな形のものがありますが、基台が大きく重量が十分あり標準的な構造の電鍵を使用します。標準的な電鍵ではツマミの先に電気接点があり、その先順に支点、バネ調節ネジ、間隔調節ネジがあります。

練習初期の段階では間隔調節ネジを回して間隔を0.51.0mm程度に調節しロックナットを締めます。
次にバネ調節ネジを回して取りあえず手首の上下動作で好ましいと思う強さに調節しロックナットを締めます。電気接点部分のネジには手を触れない方がよいでしょう。

これらの調節は電鍵操作を習いながら適時調節し自分に合った最良の状態にします。

練習初期において練習のたびごとに電鍵の調整をおこなう人がいますが、これでは練習にはなりません、習いたてでうまく打てないのは電鍵やその調節が理由ではなくまだ練習不足に起因することが大きいのです。熟達者に電鍵を調節してもらえるチャンスがあるなら、あくまで「ベテランにとって好ましい状態」ではなく「初心者に適した調節」をお願いしなければなりません。


4.縦振電鍵のツマミをつまむ方法

手指の動作にはどんなものがあるでしょうか、触る、掴む、握る、指で引っ掛ける、指を差し込む、押す、引く、つまむ、平手で叩く、ゲンコツで殴る、手招きする、手で追い返すしぐさなどいろいろあります。 電鍵のツマミに対して手指はどの様な動作に該当するのでしょうか、電気通信術(電鍵操作)の講座では、ちょっと難しい言い回しですが「電鍵を把持する」という言葉が使われていました。「ツマミをつまむ」では引っ張り上げる様な感じにもなるため「把持」としたのではないかと思います。ここではツマミを「つまむ」と言う表現にしておきます。

縦振電鍵操作において送信速度を上げたい、綺麗な符号を送りたいとなると手首の動かし方が重要なポイントになってきます。手首の動作は一定の軌道に沿った動きをしなければなりません。

電鍵ツマミの正しい「つまみ方」はツマミを人差し指と中指、親指でつまんだ部分から手首の関節、肘までの腕を水平にします。人差し指と中指の指先の腹はツマミに均等な力がかかるようにし、親指はツマミの裏側に当てます。
  
このときほかの指は軽く握るようにします。ツマミをつまんだ人差し指と中指、親指は鶏卵を軽く握ったような形にします。(写真1

 写真 1 

ツマミの上の人差し指と中指2本に隙間ができたり、指先に力を入れ過ぎて人差し指と中指が「ノ」の字形に反り返ってはいけません。(写真2

 写真 2 



5.正しい姿勢

電鍵ツマミのつまみ方と共に重要なのは姿勢です。姿勢が悪いと正しい符号を送信することは出来ません。正しい姿勢とはまず椅子に座って背筋を真直ぐ伸ばし、両足も身体の幅に開いて床の上に置きます。肘から先の腕と手首は水平になるように肘を支点として直角に曲げます。手首が上を向いたり下がってはいけません。水平に伸ばした腕と手首の延長に対し電鍵のツマミが高い、あるいは低い位置にある場合は椅子の高さを調節したり肘と腋腹との間隔を調節してツマミをつまんだ手指、手首の関節から肘までを水平に保ちます。これが符号を送る前と送った後の待機の状態(姿勢)になります。

背筋を伸ばした姿勢に対して肘がわき腹に近づき過ぎると窮屈になり、離れ過ぎると肩に負担がかかってきます。肘は脇腹から適度に余裕のある位置とします。


6.第1段階の練習

この段階の練習は按下法とも呼ばれツマミをつまんだ指先だけに力を入れるのではなく手首の上下運動も使います。
点と線を送信するための基本動作を第1段階として練習します。

1)点送信の基本

1.1) 腕と手首を水平に保つ(待機の状態 写真3
1.2) 手首の関節部分を上にあげる(手甲と腕が山形 写真4
1.3) 急速に手首の関節を下げ指先に力を入れる(手甲と腕が谷形 写真5
1.4) 電鍵の接点が「カチッ」となったら間髪を入れず手首を跳ね上げて手首の関節部分を上にあげる写真6

1.5
) 最後に手首を水平に戻す(写真7
 (これで点が1個、モールス符号の「E」が送信されます)

写真3 写真4 写真5 写真6 写真7


2)線送信の基本

2.1) 腕と手首を水平に保つ(待機の状態 写真8
2.2
) 手首の関節部分を上に挙げる(手甲と腕が山形になる 写真9
2.3
) 指先と手首に力をかけてすばやく手首の関節を下げ「カチッ」と音がしたらその瞬間手首をその位置でピタリと止めて接点を押したままツマミを押さえるここで注意することは接点が閉じたらそれ以上手首を下げないことで、そのためには「カチッ」となったら手首に力を入れるとよい写真10

2.4
ツマミを押したまま手首の関節部分を上にあげ手首の関節部分があがった点で指から力を抜き接点を開く(写真11

2.5
) 最後に手首を水平に戻す(写真12
 (これで線が1個、モールス符号の「T」が送信されます)

写真8 写真9 写真10 写真11 写真12


1段階の練習ではキーを按下(手首の動きでキーを押し下げる)し終わると手首の関節部分が最下位から最上位に戻り、次に手首と腕を水平にします。点と線では手首の振幅が異なることに注意して下さい。(写真5写真10
手首を振り下げるとき点の方が大きな振幅になります。ここでの練習は速度を早める必要はありません。何度も繰返してみて手首の振れが均一であり、ツマミから指が動いたり、肘の移動が起こらないようにします。



7.第2段階の練習

第2段階の練習は点や線の連続、あるいは点や線の組合せによる符合の送信練習をします。 第1段階の方法では電鍵ツマミを按下し終わったら必ず腕と手首が水平になり待機の姿勢に戻りましたが第2段階の練習では点や線を送信して手首が上に跳ね上がったところから次の点や線を送る動作に入ります。点と線の組合せによる符合の送信を終了したら、手首と腕は水平に戻して待機します。 待機する形で文字や語の3点或いは7点相当の間隔をつくります。

次のモールス符合を繰返し送信練習してみましょう。
 E I S H 5 
HH(連続)  T M O 0(ゼロ)

モールス符合の受信練習ではアルファベット順に覚えることが多いと思いますが、送信
練習では点や線の集合をリズミカルに練習した方が符合の送信感覚がよく掴めるようになり「S」が「H」になったり 「H」が「5」になったりするミスが少なくなります。

モールス符合は点と線の組合せというよりこのような点の集合と線の集合の組合わせであると考えた方がよいでしょう。

1)点の送信練習における注意点
練習初期における点の送信は線を送信するときよりも手首の振り下ろし方を深くします。
写真5写真10を比較してみてください)
ある程度上達後、点と線は同じ振幅で手首を振るようにします。 練習初期段階では点を大きく振るようにしないと速度が上がっていくうちに点の振幅が線を送るときより小さくなる癖がつき、符号が乱れる原因になります。

2)線の送信練習における注意点

2.1)手首を下げて「止め」の力を加えるとき肘を吊り上げがちになりますが肘は動かさないようにします。

2.2
)ツマミを上から押さえる2本の指は開いたり「ノ」の字形に変化させてはいけません。

2.3
)線を出し終え次の操作に移るまでの間に手首を回す癖をつけないようにします。
2.4)線を出した瞬間、拇指がツマミから離れたりツマミの側面を前方に滑りだしたりしないようにします。

練習を開始するときは常に上に示した点と線の集合の送信練習を行なってください。

次に似通った符合の送信練習をしてみます。


  EAIU NGDZ SVBX TMOK
  AWJP KYCR FLSH MGQY

  12345  67890  98765  43210

  AWJ1U2 V3EIH5 B7DZ8L TMO0YQ
  RUV4HS NG9DB6 KCAUFL WPNDXK

第2段階の練習では手首の力に頼るばかりでなく手首を按下したとき指先に入っている力で手首を跳ね上げるように練習します。指先は圧下しながら手首を上昇させようと
する反動をおこないます。このような電鍵操作は反動式と呼ばれていますが最初からこの方法を習得しようとするのは大変難しいでしょう。反動式による方法は指先の力によって電鍵のツマミを按下したり開放したりすると同時にそれに伴って手首の上昇、下降の運動をおこさせることになります。このときの電鍵操作は指先の力が主力であって、手首の運動は指先の力によって生まれてくるものです。手首が上昇した位置に復帰する直前に指先の力を抜きます。
反動式の電鍵操作は按下式の電鍵操作による練習を経て到達するものと考えてよいと思います。
第2段階の練習で反動による方法を習得すると第1段階の練習より高速で電鍵操作がおこなえ、持久力がついてきます。

8.第3段階の練習

第3段階の練習は高速度送信へのステップであって、第2段階の練習を十分行なって、持久性を増したり高速化するにつれて到達していくものであります。
それだけに動作はほとんど無駄の無いものとなり神経や筋肉の活動は極限に近いものとなります。

この段階でのツマミをつまんだ3本の指先は第1段階や第2段階の鶏卵を包み持った
形より、つまんだ形の曲線がやや扁平になります。(写真13
こうすることにより手首の重心は指先の方に移動し、その結果として手首の運動は軽く迅速さを増してきます。 もちろん手首は細かい動きになります。

 写真13


手指の筋肉について言えば、指の骨に付いた筋肉を主に使います。熟練した反動式による高速度送信の動作は初歩的な按下式の動作を時間的に早くしたものではありません。
高速度送信を自分のものとするには練習途中で日を置いた休みを取らず毎日連続的に練習を積重ねなければなりません。

高速度送信では点を早く送らなければなりませんが、線もできる限り短くしなければなりません。線を短くすることの方が高速化への効果が顕著で点と線の比率は1対3から1対2に向かって近づいても構いません。

この段階の練習の過程では紙面に書かれた文章を送信するほか、頭の中へ入れた文脈を送信する練習もおこなってください。

第3段階の練習中は電鍵の調整を適時おこなって自分に最適な調整点を把握しなければなりません。反動式の電鍵操作では電鍵の電極間隙を0.20.5mm前後に調整します。


9.手崩れ現象

1)手崩れ

電鍵操作の練習が高速化へ進んできたら突然、うまく電鍵操作ができなくなる現象を手崩れといいます。
手崩れを起こす原因は次のようなものが考えられます。


1.1 ) 不規則な練習 
1.2
) 点を短く打つ 
1.3 ) 過激な手首の運動による疲労
1.4 ) 電鍵の調整不良 
1.5
) 無理な高速送信
1.6 ) 熟練者並に送信したいという心理的なプレッシャー
1.7 ) まだ上手に送信できないという精神的不安感

2)手崩れの矯正方法

手崩れが単に肉体的疲労であれば数日間は電鍵操作を休み、手首の疲労をとるように休養、温浴などをおこないます。心理的あるいは精神的なものであると思われたり、あるいは何がなんだかわからないというなら精神的にも肉体的にも十分な休養を摂ってから練習を再開します。このときは電鍵の接点間隔を大きくして点や線の基本からゆったりした速度で電鍵操作の練習をおこない、調子をとり戻すまでは絶対に速度を上げないで練習を重ね、回復を期します。
                                 おわり

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