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試写会日記 B

 

 

「マルコヴィッチの穴」 (2000.7.3 梅田ピカデリー)

 人を食ったタイトルにそのまんまの設定、これで一体何が撮れるのか?事前から興味津々、有名俳優のカメオ出演よりも新人監督スパイク・ジョーンズなる人物のセンスを窺い知るチャンスを待ち望んでいた。原題は"BEING JOHN MALKOVICH"。これも設定そのまま、邦題と合わせてみれば「ジョン・マルコヴィッチになる穴」...???そう、これはそんな「穴」を巡る奇妙キテレツな物語。

 「誰でも15分間だけマルコヴィッチになれるっていうヘンな映画があるらしいぞ」と聞いたときに確認しておいた監督の名前が、映画『スリー・キングス』のエンドロールに流れているのを見て「もしや...」と思い、人に聞いたら同一人物とのことだった。風変わりな戦争映画でエキセントリックな役柄を演じたスパイク・ジョーンズとは、果たしてどんな人物なのか。これまでビースティ・ボーイズのプロモーション・ビデオや、アガシとサンプラスが路上でラリーをするナイキのCFを演出したことなどですでにアメリカでは有名らしいが、私はいずれも観たことがない。プレスシートによれば、これまた最近監督デビューしたソフィア・コッポラと結婚しているとのことである。

 劇中、自分自身の役で何度となく登場するジョン・マルコヴィッチは、監督と脚本家というクリエイターのおもちゃとして屈辱的な芝居を強要されてても、とにかく堂々と演じ、実力派俳優としてのプライドを捨て去っているかのように見える。しかし実のところは、マルコヴィッチ自身も架空の”ジョン・マルコヴィッチ”像をもてあそぶ一員として悪ノリしているのだろう。そう考えればセレヴとして自分のイメージを最も大切にするアメリカ俳優のなかにおいて、俳優としての技量が高ければ高いほど誤解を招く恐れのあるこの役を演じた彼のこの余裕ある姿勢はエライ。色気のまったくない妻役を演じたキャメロン・ディアスについても同様に、イメージダウンのリスクを承知で演じているといえるだろう。
 有名人気俳優に役者として多少の危険を承知で出演させるほど魅力的なこの脚本は、ちょっと一筋縄ではいかないヘンテコアイデアが盛り込まれている。下手に理屈で納得させようとする部分もあるが、ほとんどはモンティ・パイソンにも通じるような意味のない知的ギャグだ。例えば、言語学博士号を持ちながら全然言葉の通じない女性役員が登場するあたりなんかはいかにもそれっぽい。「意味を考えたければ勝手にこじつけてくれっ!」というようなスタンスで、思いつきのようなユーモアをそこココにスパイスとして効かせる。なかなかの確信犯だ。
 撮影は『バッファロー’66』で一躍注目されたランス・アコード。彼の作品選択眼も、今後注目に値するだろう。

監督: スパイク・ジョーンズ


(C) PolyGram Holdings,Inc. All rights reserved.

脚本/製作総指揮: チャーリー・カウフマン
製作: マイケル・スタイプ
サンディ・スターン
スティーブ・ゴリン
ヴィンセント・ランディ
撮影: ランス・アコード
プロダクション・デザイナー: K.K.バーレット
編集: エリック・ザンブランネン
衣裳: ケイシー・ストーム
音楽: カーター・バーウェル
出演: ジョン・キューザック
キャメロン・ディアス
キャスリーン・キーナー
オースン・ビーン
メアリ・ケイ・プレイス
W・アール・ブラウン
カルロス・ジャコット
ウィリー・ガースン
スパイク・ジョーンズ
チャーリー・シーン
ジョン・マルコヴィッチ

 

 

「ミュージック・オブ・ハート」 (2000.6 梅田ピカデリー)

 夫に裏切られた一人の女性がニューヨークのハーレムにある学校の臨時音楽教員として雇われる。その学校は個性的な運営方針で知られ、生徒達のほとんどは恵まれない階層の子供たちだった。劣悪な環境下に育つ彼らにヴァイオリン教育を通して音楽の素晴らしさを教え、それを奏でることで自信をつけさせていく彼女の授業は評判を呼び、やがてカーネギー・ホールでの有名音楽家たちとの夢の共演を果たすことになる...という実話に基づいた物語。

 夫婦生活のために自分を犠牲にしてきた女性という役柄はメリル・ストリープによく似合う。がしかし、主人公ロベルタは勝ち気で骨太で包容力もある人物だけに、薄幸でか細いイメージのある彼女ではなく、まるでベット・ミドラーあたりが演じているかのような印象を受けた。この前に観たメリル・ストリープの出演作はといえば『母の眠り』だが、そこでの彼女は病に冒されゆく母親であり、この作品でのエネルギッシュで快活そのものの音楽教師役は正反対の役柄。ところがそれをギャップを感じさせずに演じてしまっているところは、さすが第一級の実力派女優といえる。監督が如何に演出をほどこしたかを考える以前に、彼女はただ役になりきって演技しているのだと得心させられる。それほどに説得力を持つ演技力。
 ところで監督は...なんとウェス・クレイヴン。そう、あの『エルム街の悪夢』や『スクリーム』シリーズで知られるホラー専門の監督、と思われていた人物。本人は非ホラー作品も手掛けることを嘱望していたらしいが、これまでにホラー監督としてあまりにも名を轟かせ過ぎたために、逆にこういった純粋な感動作品の場合にはその名が興行的に不利に働くものと思われる。敢えてこの映画を撮らせたミラマックス社長は実に勇気ある人物といえるだろう。しかし内容からみればウェス・クレイブン監督が手堅い演出手腕を持つ監督であることは明らかであり、正攻法で積み上げていく様はまるでドラマ経験の多い職人監督であるかのようだ。それだけに意表を突いてくるような場面は当然なく、トントン拍子で話が展開する。

 音楽家の破滅的人生を語る映画は数多いが、こうした音楽教育の有用性について触れた映画はこれまであまりなかったかも知れない。どうせなら、音楽による心の浄化作用をもっと真摯に訴える作品であればそれなりの評価が得られただろう。しかしそこは娯楽監督、有名音楽家たちとの豪華共演でお茶を濁し、作品としてのメッセージは表に出さずに締めくくられる。

監督: ウェス・クレイヴン


(C) 2000 Miramax Film Corp. All Rights reserved.

脚本: パメラ・グレイ
製作: マリアンヌ・マッダレーナ
撮影: ピーター・デミング
編集: パトリック・ラッシャー
プロダクション・デザイナー: ブルース・アラン・ミラー
衣裳: スーザン・ライアル
音楽: メイスン・ダーリング

原作ドキュメンタリー:

『スモール・ワンダーズ』
出演: メリル・ストリープ
アンジェラ・バセット
グロリア・エステファン
エイダン・クイン
ジェイン・リーブズ
クロリス・リーチマン
キーラン・カルキン
チャーリー・ホフマイヤー

 

 

「サイダー・ハウス・ルール」 (2000.4.26 リサイタル・ホール)

 人生の機微を知り、巧みにそれを折り込みながら一つの物語に仕立て上げることに長けた小説家と映画監督が作り出した佳作。小説家ジョン・アービングは現代アメリカを代表する作家の一人であり、ある特異な運命を背負った男の歩む道をエキセントリックなユーモアで描き出すストーリーテラー。映画監督ラッセ・ハルストレムは、「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」の完成されたスタイルと独特のユーモアが世界中の人々の心を暖めた、スウェーデンの生んだ異能。いずれも人生を達観した人物が周囲の出来事に翻弄されながらもマイペースに生きつづける様に人間賛歌のメッセージを託し、常にユーモアを忘れないその余裕の姿勢がファンを魅了してきた。この組み合わせに不自然さは微塵もなく、撮られるべくして撮られた映画のようにも感じられるが、アービングはこの映画の企画をすでに10年間もあたため続け、予定していた監督の病臥などを経て苦労の末にようやく完成に漕ぎ着けたと聞く。それだけに作家の熱意は並大抵ではなく、初めて自ら脚色を手掛けるなどその思い入れのほどが偲れる。

 映画は1940年代の孤児院に始まる。導入のナレーションを兼ねた医師役マイケル・ケインのユーモラスで信念を感じさせる演技が絶妙のバランスであり、この作品の質と価値の大半を担っている。孤児の一人である主人公ホーマーの父親代わりとして彼の面倒を見てきた彼は、医師として自分の持てる技術の全てを惜しみなく彼に伝授する。しかし人工中絶が禁止されていたその時代、独自の理念の下で中絶手術を施す医師に対し、ホーマーは生命を摘みとる手術に良心の仮借を感じていた。学校に通わずして高度な医術を身につけた彼は、やがて孤児院を離れて自活の道を歩むことを決意する...

 この物語は一人の少年の成長を通して、生命の価値と人生の価値を秤にかけたかと思えば、生きることの喜びと苦しみを次々に対比させ、人間の自立とそのために必要な犠牲を残酷なまでに描出し、果ては恋愛を超えた愛情の存在を示唆するという、逆説と正説の入り混じった高度にグロテスクな人生論として完成されている。なぜにグロテスクなのかと言えば、この映画には家族の不在がテーマの根底にあり、あの隔世の感の漂う孤児院だけがこの世の欺瞞(すなわち"サイダー・ハウス・ルール"←映画を観れば分かります)に汚されない感性を保つことが出来る場所として存在しているからである。医師が毎夜話の最後に聞かせる言葉には、生命の価値を尊ぶ意味と世界の欺瞞に対する反意が含まれているのだろうか。

監督: ラッセ・ハルストレム

製作: リチャード・N・グラッドスタイン
原作/脚色: ジョン・アービング
撮影: オリヴァー・ステイプルトン
プロダクション・デザイナー: デイヴィッド・グロップマン
編集: リサ・ゼノ・チャージン
衣裳デザイナー: レネー・エールリッヒ・カルフェス
音楽: レイチェル・ポートマン
出演: トビー・マグワイア
シャーリーズ・セロン
デルロイ・リンド
ポール・ラッド
マイケル・ケイン
ジェーン・アレキサンダー
キャシー・ベイカー
エリカ・パドゥ
キーラン・カルキン
ケイト・ネリガン
ヘヴィ・D
K・トッド・フリーマン

 

 

「マン・オン・ザ・ムーン」 (2000.4.13 リサイタル・ホール)

 ミロシュ・フォアマン監督+ジム・キャリー主演という組み合わせに期待しつつも違和感を感じずにいられないのは、やはりJ・キャリーのこれまでのキャリアによって彼のイメージの輪郭があまりにはっきりとし過ぎてしまっているからだろう。遠まわしに言わずとも「ジム・キャリーはしつっこくてキライだ」と言えれば簡単なのだが、不本意ながらも「マスク」以降の全主演作品を観てしまっている私は、彼に少なからぬ映画俳優的資質を感じているようである。無垢なキャラクターを演じることの多い彼がその持ち味を存分に生かした映画「トゥルーマン・ショー」において、得意の即興芸をほとんど用いずして役柄をこなし、かつ”ジム・キャリー”以外の何者でもない存在感を示した力量に今後の動向が注目に値することを感じていた。しかしそれにしてもミロシュ・フォアマンと組むとは一体・・・?
 今回彼が演じるのは70年代後半から80年代初頭にかけてアメリカで活躍したという実在のコメディアン、アンディ・カウフマンである。日本では無名に近いが、彼の斬新な笑いのセンスはロビン・ウィリアムスをはじめとする現代の人気俳優、コメディアンに受け継がれているという。もちろん私もアンディ・カウフマンという人物を知らなかった。映画を観ても彼がどのような笑芸で人気者になっていったかはダイジェスト的に編集された部分から推測できるのみであり、この点に今回のフォアマン監督の演出意図が隠されているようである。つまり映画はカウフマンの笑いの面白さは借用せずに、人間としての興味深さを掘り下げることで彼の笑いの本質を探ろうとしている。
 カウフマンの観客を裏切る奇行とも受け取れる芸の深化は、単に悪戯好きの悪友との自己満足の戯れに過ぎないのかも知れないし、確信に満ちた天才による実践行動なのかも知れない。しかしいずれにせよ、彼が最後に期待したこの世の奇跡はあくまで彼自身がそれまで実践してきた芸と同じ”騙し”であるにもかかわらず、それを信じた純真さこそが独自の芸へと邁進させた原動力であるかのように映画は締めくくられる。
 帰りがけに、カウフマンが夢見て実現したカーネギー・ホールでのショーの観客に振舞われたミルク&クッキーをいただいた。袋の中を覗くと、クッキーはやはり”moonlight"であった。

監督: ミロシュ・フォアマン


(C) Marubeni/TOHO-TOWA.

脚本: スコット・アレクサンダー
ラリー・カラズウスキー
製作: ダニー・デビート
ステイシー・シェール
マイケル・シャンバーグ
撮影: アナスタス・ミチョス
プロダクション・デザイナー: パトリツィア・フォン・ブランデンスタイン
共同編集: クリストファー・テレフセン
リンジー・クリングマン
衣裳: ジェフリー・ガーランド
音楽: R.E.M.
出演: ジム・キャリー
ダニー・デビート
コートニー・ラヴ
ポール・ジアマッティ
ヴィンセント・スキアヴェリー
ピーター・ボナース
ジェリー・ベッカー
レスリー・ライルス
ジョージ・シャピロ
ボブ・ズムダ
ジェリー・ローラー
トニー・クリフトン
クリストファー・ロイド

 

 

「ザ・ビーチ」 (大阪サンケイホール)

 「トレインスポッティング」の大ヒットで一躍世界を制した、イギリスの新鋭監督ダニー・ボイルがレオナルド・ディカプリオを主演に迎えて撮った、ハリウッド進出第二弾。
 プリミティヴな冒険を夢見てバンコクを訪れたバックパッカーが秘境に作られた現代のコミューンに受け入れられ、やがて崩壊していく彼らとの生活を描いた失楽園物語。人間のささやかな裏切りが最後にはすべての関係を破綻させるというボイル監督の「シャロウ・グレイヴ」や「トレインスポッテイング」に共通するドラマ構造が本作にもみられ、彼の趣味を匂わせている。

 いかにも現代っ子らしいディカプリオが、6、70年代のムーヴメントを引きずったかのようなコミューン生活で次第にワイルドな風貌に変わっていくが、無邪気で臆病な性格は最後まで変わらない。前半の独白がそうした性格からにじみ出る若者の感情を素直に表現しているのに比べ、後半の感情を捨てた彼の単独行動には理解を超えるものがあった。細かい点は気にせずにそのギャップを楽しむべきなのだろが、最後にはまた臆病な若者にもどるその感情過程がまったく割愛されている点はやはり気になる。ボイル監督作品に決してリアリティを求めようとするわけではないが、故意の物語展開の破綻に根拠を見い出すことが出来なかったのは確かである。あるいはカットされたのだろうか?いずれにせよ、多少の手荒さは覚悟の上で見るべきリゾート・ムービー(?)である。

監督: ダニー・ボイル
脚本: ジョン・ホッジ
製作: アンドリュー・マクドナルド
原作: アレックス・ガーランド
撮影: ダリアス・コンジ
プロダクション・デザイナー: アンドリュー・マカルパイン
編集: マサヒロ・ヒラクボ
衣裳デザイナー: レイチェル・フレミング
音楽: アンジェロ・バダラメンティ
出演: レオナルド・ディカプリオ
ティルダ・スウィントン
ヴィルジニー・ルドワイヤン
ギヨーム・カネ
ロバート・カーライル
パターソン・ジョセフ
ラース・アレンツ=ハンセン

 

 

「アメリカン・ビューティ」  (2000.2.3 梅田ピカデリー1)

 人にとって本当の人生とは何か?そんな根元的な命題を普通のホームドラマの設定で問いかける・・・というほどシリアスでもないのだが、リストラ・サラリーマンの人生最期の浮き沈みをブラックな笑いとともに描いたドラマ。
 監督はこの作品が映画初監督となるイギリス演劇界の俊英サム・メンデス。特に奇をてらった部分があるわけではなく、どちらかといえば場面場面で的確な描写がなされていると思うのだが、なぜか奇妙な後味の残る演出。主演のケビン・スペイシーによるところが大きいとはいえ、この掴みどころのない雰囲気は監督の意図するところと思われる。ケビン・スペイシーの何気ない仕草を計算されたアングルで撮ることによって、観客を笑いに導くショットにはなかなか新鮮味があるのだが、その可笑しさだけで作品を持たせようとするようなセコさはない。
 ケビン・スペイシー自身に関して言えば、これまでコメディ映画の出演経験がないにも関わらず、まるで往年のジャック・レモンのごとく中年男の悲哀を笑いに変換する術を披露している。従来の知的でミステリアスな役どころから一転、その風貌に見合ったうだつのあがらない男の役を彼ならではのユーモアと巧妙な演技で完成させており、ドラマがどこまで続こうとも退屈することはない。

 恐らく物語のあらすじを書いても大方の興味をひくことはないだろう。この軽妙な、まさしく軽くて奇妙なこの物語に、大筋では現代ならどこにでもありそうな話との違いを見つけることはできない。平凡な市民の感情レベルで自然に納得のできるプロセスで進行するドラマという点では、極めて現実的内容であり、恐らくどこの国の中流家庭に置き変えても成立するような物語である。それだけに映画を見ている間はずっと、この確信犯的作品の本当の狙いを探ろうとしていたのだが、思わせぶりなドラマ構成とナレーションが曖昧なテーマの存在を示唆するのみであり、ついに最後まで私はメッセージの核心に触れるようなことはなかった。しかしながら、たとえ私のように本意を読みとることも主人公に共感することもなかったとしても、中年男の本音を覗き見るような興味だけでこの映画を楽しむことはできるだろう。
 数十年前であればタブー視されるようなテーマを含んでいようとも、それがこの作品の特質であるとは思えず、むしろ現代生活の実態をデフォルメする上である程度のリアリティを維持するための技巧的処理として活用されているように感じた。その限りにおいては(劇芸術として)なかなかテクニカルな作品であり、エンタテインメントとして水準以上の品質をも併せ持つ映画であった。

監督: サム・メンデス


(C) 1999 DREAMWORKS L.L.C.

脚本: アラン・ボール
製作: ブルース・コーエン
ダン・ジンクス
撮影: コンラッド・L・ホール
プロダクション・デザイナー: ナオミ・ショーハン
編集: タリク・アンウォー
クリストファー・グリーンバリー
衣裳デザイン: ジュリー・ウェイス
音楽: トーマス・ニューマン
出演: ケビン・スペイシー
アネット・ベニング
ソーラ・バーチ
ウェス・ベントレー
ミーナ・スバーリ
ピーター・ギャラガー
アリソン・ジャーニー
クリス・クーパー

 

 

「グリーンマイル」 (2000.2.2 フェスティバル・ホール)

 スティーブン・キングの短編小説をベースに申し分のない脚本術と演出力を見せつけた『ショーシャンクの空に』のフランク・ダラボン監督による新作。前作と同じく刑務所内の物語であり、今回の原作もキング。この組み合わせに"オスカー男"トム・ハンクスが加わり、シリアスで深遠なテーマを持った物語を作りあげた。キングの常識に囚われないストーリーテリングもさることながら、3時間の長尺を無駄なく綴った監督の演出力にまず驚く。なんといってもほとんどのシーンが死刑囚が収監された刑務所内の小さなセクションでの出来事なのである。
 さらにこの作品が優れてエンタテインメントの上質を保つのは、その展開の先読みを許さずに観客の感情を巧みにコントロールしている点にある。初めのうちは登場人物たちの愛憎が招く複雑に絡みあったエピソードが、ひとつのドラマとして自然な流れに収束されていくことに気付かせない。しかし徐々に人間のカルマが恐ろしくも物悲しい結末へと導く過程が見えてくると、それがこの世界の日常の一部であることの恐怖感が徐々に我々を襲い始める。ただでさえ一筋縄ではいかないスティーブン・キングのホラーは、ここへきて単純に"見える"恐怖から"見えない"恐怖を作り出そうとしている。物語の結末に恐怖を感じる人もいれば、ある種の感動を覚える人もいるだろう。この一見相反する二つの感情を同時に喚起する点で、三つの才能が結実した十分な成果と言うことができるだろう。

音楽: トーマス・ニューマン


(C)CASTLE ROCK ENTERTAINMENT 1999

衣裳デザイン: キャサリン・ワグナー
編集: リチャード・フランシス-ブルース
美術: テレンス・マーシュ
撮影監督: デヴィッド・タッターソル
原作: スティーブン・キング
製作: デヴィッド・ヴァルデス、フランク・ダラボン
脚本・監督: フランク・ダラボン
出演: トム・ハンクス
デヴィッド・モース
ボニー・ハント
マイケル・クラーク・ダンカン
ジェームス・クロムウェル
マイケル・ジェター
グラハム・グリーン
ダグ・ハッチソン
サム・ロックウェル
バリー・ペッパー
ジェフリー・デマン
パトリシア・クラークソン
ハリー・ディーン・スタントン

 

 

「スリーピー・ホロウ」 (2000.2.1 北野劇場)

 ティム・バートンの映画に期待されるもの・・・それは大方、ダークなアイロニーの込められたストーリーと登場人物たちのユニークかつf愛すべきキャラクターの特異性に尽きるだろう。この嗜好のマイノリティであったはずのアンチ・ハリウッドな趣味がアメリカをはじめとして広く世界に受け入れられていることを考えれば、多くの人は潜在的にオタク的要素を抱えているのではないかと思えてくる。しかし実際にはティム・バートンの自己完結された嗜好は、もともとがコミックや怪奇映画を発端としているが故に根本的に大衆性を帯びているはずである。
 かつては誰もが持っていた極度に敏感な幼児的感性を保ちつづけることで表現者として独自の地位を獲得した男、それがティム・バートンであり、彼の作品には我々の内部に埋没したその幼児的感性を呼び覚ます何かがある。ハサミ男のおとぎばなしには弱者であることの悲しみを前提にした残酷さが、レトロフューチャーなイメージの火星人の襲来では容赦のない裏切りが、いずれもまるで子供じみたいたずらのようにも見えながら、しかし確実に我々観客を動揺させてきた。その一方で、愛すべきキャラクターを創造するポップな感性も衰えを見せず、一度見れば脳裏に焼きつくほど非現実的にディフォルメされた個性を生き生きと描きつづけている。

 さて本作品はティム・バートンとジョニー・デップの組み合わせとしては『シザーハンズ』『エド・ウッド』に続く3作目にあたる。
 舞台は18世紀末、NY北方の村スリーピー・ホロウで起こった怪事件を解決するべく派遣されたNYの若き捜査官イカボッド・クレーン(=ジョニー・デップ)が、持論の科学捜査を駆使して事件の核心に迫っていくサスペンス・ホラー。
 ストーリーはアメリカでは有名な古典的お伽話をベースにしているという。アメリカ版金田一耕介のような赴きもあるが、角川映画にみられるおどろおどろしさは感じられず、意外にもティム・バートン独特の毒気すらきれいに拭いさられている。主人公を完璧なヒーローに仕立てあげず、根は気が弱く少し間が抜けたキャラクターとして描いている点ではもちろんティム・バートンらしさが垣間みられるのだが、ファンタジックなラブ・ストーリーの要素を加えたために全体としては調子が狂ってしまったのではないかという感がある。さらにアンドリュー・ケビン・ウォーカーによる脚本にしては、伏線のトリックの安易さに失意を覚えた。とは言え、クセのない魔物語を期待するなら十分に満足のいく内容であり、あくまで「ティム・バートン監督作品」ということにこだわらなければ出来のよい部類の映画呼べるだろう。
 見所はどんなオファーでも断らないと言われている男、クリストファー・"ウォォォー"ケンの扱い方。仔細は省くがティム・バートン監督の悪戯心が伝わってきて作品中最も楽しめた。

製作総指揮: フランシス・フォード・コッポラ、ラリー・フランコ


(C)1999 BY MANDALAY PICTURES
LLC PARAMOUNT PICTURES.
ALL RIGHTS RESERVED

製作: スコット・ルーディン、アダム・シュローダー
監督: ティム・バートン
脚本: アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー
撮影: エマニュエル・ルベツキー
衣裳: コリーン・アトウッド
美術: リック・ヘインリックス
音楽: ダニー・エルフマン
出演: ジョニー・デップ
クリスティーナ・リッチ
ミランダ・リチャードソン
マイケル・ガンボン
キャスパー・ヴァン・ディーン
イアン・マクダーミッド
マイケル・ガフ
クリストファー・リー
ジェフリー・ジョーンズ
マーク・ピッカリング
リサ・マリー

 

 

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