VSOLJニュース(327) いて座に新星が出現 著者:前原裕之(国立天文台) 連絡先:h.maehara@oao.nao.ac.jp いて座は私たちの銀河系の中心方向に見える星座で、8月上旬から中旬には 21時ごろ南中し、南の低い空に見ることができます。いて座の中にはこれま でにも多数の新星が発見されていますが、8月6日に新たな新星が出現しまし た。この新星を最初に発見したのはハワイとチリでそれぞれ4台の口径14cmの 望遠鏡とCCDカメラを使って超新星のサーベイを行なっているAll-Sky Automated Survey for Supernovae (ASAS-SN, "Assassin")のグループで、8月6.96日(世 界時, 以下同様)に撮影した画像から13.1等の新天体(ASASSN-16ig)を発見し ました。この天体の位置には前日の5.96日の画像には17.3等よりも明るい天 体は存在しないことから、8月6日のうちに急激に明るくなったものと考えれ ます。福岡県久留米市の西山浩一(にしやまこういち)さんと佐賀県みやき町 の椛島冨士夫(かばしまふじお)さんのチームも8月8.532日に撮影した画像か らこの天体を独立に発見しました。西山さんと椛島さんの観測によると、こ の天体の位置は 赤経: 18時 01分 07.80秒 赤緯:-26度 31分 43.4 秒 です。千葉県の清田さんや愛知県の山本さん、福岡県の高尾さん、東京都の 伊藤さんらによって報告されたこの天体の測光観測の結果によると、この天 体の明るさは8日にはVバンドで12.8等、9日には11.8等で、発見時よりも明る くなったことが分かりました。 岡山県の藤井さんは8.558日に、ブラジルのCacellaさんは9.093日に、それ ぞれこの天体の分光観測を行ないました。その結果、この天体のスペクトル には強いHα輝線の他、Hβや中性酸素の輝線がみられることが分かりました。 またHα輝線はP Cygniプロファイルを示し、吸収線は輝線に対して秒速1700- 2000km青方偏移していました。これらのスペクトルの特徴から、この天体は 古典新星であることが判明しました。 これまでに報告された観測によると、この新星は8月10日に11.5等と発見後 最も明るくなった後、11日には11.9等にやや暗くなりました。新星はいて座 にある明るい星雲のM8の南およそ2度の位置にあります。この新星が明るくな り始めたと考えられる8月6日にこの付近を撮影した画像をお持ちの方は、新 星が写っているかどうか調べてみて下さい。 2016年8月12日 参考文献 Stanek et al. (2016), ATel #9343 Arai and Cacella (2016), ATel #9359 CBET 4295 新星の画像(清田さん) http://meineko.sakura.ne.jp/ccd/ASASSN-16ig.jpg 新星のスペクトル(藤井さん) http://otobs.org/FBO/fko/nova/asassn-16ig_20160808.png