VSOLJニュース(352) 小嶋さんがいて座に明るい重力マイクロレンズ現象を発見 著者:前原裕之(京都大学) 連絡先:maehara@kwasan.kyoto-u.ac.jp 群馬県嬬恋村の小嶋正(こじまただし)さんが7月13日にいて座の中に発見した増 光天体は、新星ではなく重力マイクロレンズ現象の可能性があることが分かりま した。小嶋さんは2018年7月13.494日(世界時、以下同様)に焦点距離200mmのレン ズとデジタルカメラを用いて撮影した画像から、10.8等に増光している天体を発 見しました。小嶋さんの観測によるとこの天体は7月2日に撮影した画像には写っ ておらず、またこの天体の位置はUSNOカタログのRバンドで15等の天体の位置と ほぼ一致することから、最近になって4等級も明るくなった天体であることが分 かりました。この天体の位置は 赤経:18時01分01.84秒 赤緯:-29度51分23.8秒 (2000.0年分点) で、いて座γ星の近くです。 超新星のサーベイを行なっているAll-Sky Automated Survey for Supernovae (ASAS-SN)の観測によると、この天体はもともと14.6等ほどでしたが7月4日には 13.9等、7日に13.3等、10日に12.8等、11日に12.5等、12日には12.0等と、小嶋 さんによる発見以前から明るくなり始めていたことが明らかになりました。さら に、ASASSNによって観測された増光の様子が重力マイクロレンズ現象による明る さの変化と矛盾しないものであることが分かりました。 重力マイクロレンズ現象は、星と私たちの間にある別な天体が、その星とみか けの方向がほぼぴったりと重なった場合に、背後にある星からの光が私たちとの 間にある天体の重力によって曲げられ集光されることで、星が明るくなったよう に見える現象のことです。銀河系の中心方向の星や、大小マゼラン銀河の星の観 測から、これまでにも暗い例は数多く発見されていますが、小望遠鏡でも見るこ とができる明るさのものは、これまで知られている中では2006年10月に多胡さん がカシオペヤ座の中に発見したもの(7.5等; vsolj-news 162)や、2017年10月に 小嶋さんがおうし座の中に発見したもの(10.8等; vsolj-news 335)など数えるほ どしかなく、非常に珍しい現象と言えます。 これまでの観測によると、この天体は7月14日には10.7等と発見時とほぼ同じ明 るさでしたが、15日には11等台まで暗くなったことが分かりました。重力マイク ロレンズ現象であれば、10日ほどで14等程度まで暗くなってゆくと思われ、今後 の明るさの変化が注目されます。 2018年7月16日 参考文献 CBAT "Transient Object Followup Reports" TCP J18010186-2951258 Dong, S., et al. 2018, ATel #11853