VSOLJニュース(378) 反復新星のへびつかい座RSが15年ぶりに新星爆発 著者:前原裕之(国立天文台) 連絡先:hiroyuki.maehara@nao.ac.jp 新星は、白色矮星と低温度の主系列星ないし赤色巨星から成るの連星系で、 低温度星から白色矮星へ水素が流れ込み、白色矮星の表面に降り積もった水素 がある臨界量を超えると爆発的な核燃焼を起こし、非常に明るくなる現象であ ると考えられています。新星爆発では白色矮星の表面に積もった水素だけが飛 び散るので、爆発後も白色矮星と低温度星は健在です。そのため、一度新星爆 発を起こした後、しばらくすると白色矮星の表面には低温度星から流れ込んだ 水素が降り積もり、爆発を起こすのに十分な量になれば再び新星爆発を起こす と考えられています。典型的な新星の場合、一度爆発してから再び爆発するま でには数千年から十万年程度の時間がかかるとされており、普通の新星では人 間の一生の間程度の時間では、同じ星が複数回の新星爆発を起こすのを見るこ とはできません。ところが、新星の中にはごく少数ですが、新星爆発を1年から 数十年程度の間隔で繰り返す天体も見つかっており、これらは「反復新星(※1)」 と呼ばれています。銀河系内ではさそり座U(vsolj-news 012)やらしんばん座T (vsolj-news 268)、いて座V3890(vsolj-news vsolj-news 357)など、10個程度 が知られています。このほど2006年2月の新星爆発(vsolj-news 150)以来15年ぶ りに新星爆発を起こしたへびつかい座RSも、このような反復新星として知られ ていた天体です。 へびつかい座RSは1901年にW. P. Fleming(女性天文学者でHDカタログの編纂な どの業績でも有名)によって、当時ハーバード大学天文台で行われていた写真に よる変光星サーベイから、1898年6月に増光を起こした変光星として発見されま した。この天体はその後も1933年、1958年、1967年、1985年、2006年にも新星 爆発を起こした事が知られており、普段は11等前後の明るさのこの天体が新星 爆発を起こすと4等級まで明るくなります。これまでの研究から、この天体は太 陽の1.35倍程度の質量の白色矮星と赤色巨星から成る軌道周期453.6日の連星系 であることが分かっており、共生星としても知られています。 今回の新星爆発では、ベルギーのE. MuyllaertさんやアイルランドのK. Geary さん、ブラジルのA. Amorimさんらによって、日本時間8月9日朝の8月8.91-8.93 日(世界時; 以下同様)にへびつかい座RSが5等級に明るくなったが発見されまし た。さらに、その後の観測から9.124日には4.8等ほどまで明るくなったことが 分かりました。日本時間8月9日夜にはほぼ極大光度に近い4等台から5等程度の 明るさで見ることができると思われます。このほか、フェルミ ガンマ線宇宙望 遠鏡の観測によると、この天体が新星爆発にともなってガンマ線でも明るなっ たことも報告されました。今後の明るさの変化などが注目されます。 2021年 8月 9日 参考文献 cvnet-outburst 753 vsnet-alert 26131 CBET 5013 Cheung, C.C., et al., 2021, ATel #14834 ※1:"recurrent nova"の日本語訳で、「回帰新星」、「再発新星」などと呼ば れることもあります。