第4章 沖縄の課題
以上見てきたように、那覇−上海航空路の開設は、どの当事者にとっても効果の大きいものではあるが、実現のためには、それにふさわしい環境整備が不可欠である。特に接続の結節点となる沖縄において最も大きい努力が必要とされるだろう。また日本の中央政府との調整は難航を極めるかもしれない。しかし、これらの項目は、経済的自立を果たすという長期目標からすれば、いずれ達成すべきものばかりであり、結局その恩恵は沖縄に返ってくることとなる。
沖縄において必要とされる環境整備
1. 速やかなトランジットの確保
台北−上海間4時間を目指すには、那覇での乗り換え時間を1時間程度にすることが必要である。出入国管理を迅速に行ない、乗り換え手続きを時間内に行ないうる環境を整備するとともに、トランジット客は日本のビザを必要としないといった制度の整備が必要であろう。
2. 迅速なビザ取得環境の整備
台北−上海間が4時間で結ばれるとはいっても、当初そのように直行できる旅客の数は限定されるであろう。というのも、台湾において中国のビザを取得するあるいは、中国において台湾のビザを取得するのは相当の困難を伴うであろうからである。したがって、当初の直行客は、マルチビザを持つもの、あるいは、双方のビザを持つ第三国者などに限られることになろう。
すると、現在の香港がそうであるように、その他の多くのものは沖縄でビザを取得することになる。そのため、那覇に台湾、中国のビザ発行機関を設置し、しかも迅速にビザが発給できる体制(出来れば当日中、遅くても翌日渡しを目指す)を整える必要がある。
3. ノービザ渡航の検討
那覇−上海航空路に限らず、国外からの沖縄への訪問客を増加させるには、ノービザ渡航の本格的検討に入ってもいいのではないか。例えば、いま台湾が取っているような、1週間以内ならノービザで訪問可能といった制度が取られるのが望ましい。これは特に中国からの旅客需要掘り起こしに大きな力となるだろう。
この制度が日本全体の入国管理状況から見て急進的にすぎるとすれば、範囲を沖縄に限定することも可能である。もし沖縄に入った外国人がさらに本土へ渡る際には、新たにパスポートコントロールを行なえばよい。沖縄は島嶼地域で、本土に渡るのにも必ず海路か空路を経なければならないため、本土に渡る外国人のパスポートコントロールも容易である。
4. 増加する外国人観光客への一層の配慮
沖縄が複数の国や地域を結ぶ結節点になり、ここでビザの発給を受ける多様な国籍の旅客が増加するにつれて、これらの旅客が安心して利用できる比較的安価な宿泊施設の提供も必要になってこよう。もちろん、このようなビザ発給待ちの旅客が新たな観光客として沖縄の観光収入の増加に貢献するであろうことは言うまでもない。このような短期滞在の外国人観光客にターゲットを絞った観光政策が求められる。例えば、ビザ待ちの外国人観光客向けの半日ミニツアーの整備といったことも具体的検討課題になってこよう。
5. 全県FTZ(自由貿易地域)の早期設置と投資環境の整備
以上見てきたように、那覇−上海航空路開設、及びそのための環境整備に伴って、沖縄へ立ち寄る外国人観光客の飛躍的増大が見込まれるが、これを単に観光客の増加に留めておくのでは不十分である。なぜなら、この航空路の設定により外国人の旅客が増大するのは、主に台湾と中国のあいだに直接航空路を設定できないという外的要因によるのであり、もし政治的状況の変化によって台中間に直行便が開設されれば、単なる中継地としての沖縄の価値は激減するであろう。それは、航空機の航続距離の増大により、その存在意義を急速に失ったアンカレッジの例にも通じる。
もともと、那覇−上海航空路は、国際通商拠点としての沖縄の復活を最終目標に据えた、いわば呼び水政策であって、中長期的には沖縄で香港並みの金融・投資・貿易サービスを提供できるべく環境を整備する必要がある。そうなってこそ、始めて隣接地域の政治的状況に左右されずに恒常的に旅客が見込まれることになる。
この環境整備のため、出来るだけ早期に全県フリートレードゾーン政策を実施に移す必要がある。台中直接交流開始後は、華人にとって単なる中継地として沖縄を利用するインセンティブは急速に低下するので、それまでに、沖縄が国際通商センターとしての地位を確立し、それ自身の魅力で人々を引き付ける体制を確立する必要があるのである。