平成10年度 卒業論文発表会 原稿

日時・場所: 平成11年2月17日(水) 自然棟520号室

卒論題目: β-ジケトンにより安定化された金属アルコキシドの電子状態と紫外可視吸収スペクトルの計算

発表者: 兵庫教育大学自然系理科 細見 隆昭


1 研究目的

 金属アルコキシドを出発原料とするゾル-ゲル法は、酸化物薄膜を簡易に作製するプロセスとして注目されている。しかし、金属アルコキシドは水との反応性が高く、扱いが困難な場合が多い。そこでアルコキシル基の一部をβ-ジケトンで置換し、キレート化する、いわゆる化学修飾より安定化する手法がよく用いられる。 この化学修飾された金属アルコキシドを用いて作製した薄膜では、一般的な熱処理のみならず、紫外線照射により、重合反応がおこることが報告されている。しかし、β-ジケトンの種類によるキレート環の分解速度や安定性、紫外線の吸収波長などはまだ十分に研究されていない。 そこで本研究では種々のβ-ジケトンにより安定化された金属アルコキシドについて、MOPAC分子軌道計算により構造最適化し、DV-Xα法によりキレート環の電子状態や紫外可視吸収スペクトルを計算した。

2 研究方法

AcAc  本研究ではまず、Fig.1.に示したアセト酢酸エチル(EAcAcH)、アセチルアセトン(AcAcH)、および、ベンゾイルアセトン(BzAcH)で化学修飾されたAl(O-sec-Bu)3から生成する化合物をChem3DTM上で作成し、MOPAC(PM3法)で構造最適化した。このモデルについてDV-Xα法により第一原理計算を行った。 実際の光吸収では、電子は遷移状態を経て吸収されると考えられるので、光の吸収エネルギーをより正確に計算するため、スレーターの遷移状態法計算を行った。またキレート環を構成する原子の最外殻からの遷移確率の計算を行い吸収強度を求めた。 同様にTiを中心にしたアルコキシドについても計算を行ったが、この際にはMOPAC(MNDO-d法)により構造を最適化した。

3 結果と考察

 absobance 計算の結果、得られた紫外可視吸収スペクトルをFig.2. に示す。 これらのアルコキシドの場合、最も長波長側のピークが光反応に関係すると考えられるが、その位置は、EAcAc(288nm)、AcAc(310nm)、BzAc (340nm)となった。実測値はそれぞれ260,290,330nmであり、今回得られた計算によるスペクトルのピークの位置は実測とよく一致することがわかった。 Tiについても同様の結果を得ることができ、今回の2つの分子軌道計算法を用いた方法は、化学修飾したアルコキシドの紫外可視吸収スペクトルの算出に極めて有効であることがわかった

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細見 隆昭 <E-mail hosomi@hi-ho.ne.jp