好きと好きの間

〜Love or Like?〜


なんつーか。
いや、まあなんということもないんだけどさ。
最近ちょっとなんかアレだな。
楽になった。というか。
慣れたのかな、俺。
なんだろ。
前は渋沢が横に立つだけで、なんというかこう、重いと言うか、暑苦しいと言うか、なんともいえない圧迫感で座りが悪いカンジが続いたものだったけど。
なんかやっと慣れてきたのかあんまり重くなくなってきた。
重く、というか、だってだな、こんな風になる前は、それこそ空気みたいに自然にそこにいるカンジだったのに、なんでだろう。
好きだとか言われた途端にどうにも座りが悪くなったのは。
そんでまた、意識するせいか、どうにも横に立たれると息が詰まると言うか。
でもなんというか、別にそれがイヤでたまらないというわけでもなかったし、だからといって楽しいというわけでもないし、どうにもなんと考えていいのか分からなかったけど。
そうか。
慣れたのかな、俺。
こんな風に重圧感が無くなったのならちょっと気も楽になったし、いろいろと落ち着いて考える余裕も出てくる気がする。
だって渋沢だって、ちょっとアレだと思う。
突然好きとかナンとか言われても、こっちはそんなの考えた事だって無かったのに。
っつか、普通考えないだろうと思う。
だけど、それがまた、あんまり嬉しそうにするからさ。
なんかそんなに嬉しいんだったら、そうか、そりゃ良かったなとか、思っちまうじゃないか、そんなの。
っつか、わけわかんねーじゃん。なんつーか。
好きとか言われても。
いや、まあ別に、キライじゃないんだ。
っていうか、まあどう考えてもどっちかと言うと、好きなんだ。
っていうか、多分まあ渋沢に好かれるのはイヤじゃないなあと思う。
あんな風に、まあ完璧っぽく優等生なアイツに(近くで見てるとどこが完璧なんだとか思うことも多々あれど)、頼られたり、甘えられたり、そんなのはなかなか悪くないし。
好きだと言われたりするのも、まあ………イヤじゃないし。
イヤじゃないというか。
好きと言われてまあちょっとその、嬉しかったりしたのもちょっとある。
まあなんと言うか、どきっとしたりしたり……まあちょっとほんのりとほっぺたがあったかかったり(もちろんそんなこと絶対言わないけど)。
そういうのってやっぱり、まあそういうコトではないかと思うんだ。
だからと言って、好き、それが好きかと言うことかと言われれば、なんかそれはよくわからない。
ライクの好きとラブの好きの間には、大きな違いがあるような気がする………するのだ。
渋沢のことはまあキライじゃないのは確かなんだが、じゃあ、好き(ラブ)かと言われれば、それはちょっと待ってくれと言わざるを得ない。
そばに居るのはいい。
なんて言うか、楽しいし、なごむし、落ち着くし、ほっとする。
美味しいものを振る舞ってもらうのも嬉しい。
時々何と言うか、ほこっと気持ちが暖かくさせられるような時、ああそれはもうなんと言うか、うちに居る時みたいな泣きそうな気分になったりすることがある。
2人でコーヒーとか飲んでると、それこそ自宅にいる時みたいにおさまりがいい気がする。
そう、自分の中で、それは既に「いるべき場所」の一つとして定着してるんだ。
だけど、なんだかな、そそそそそその、たとえばキスとか、あるいはもっと口にしたくない不埒な振舞とかを されるのはちょっとなんと言うか、イロイロと困るのだ。
必要以上に接近されると、だからちょっとかなりドキドキする。
そんでまた、異常接近距離で、ニッコリされたりすると、またかなり困る。
なんというか、ヤツの笑顔は、ちょっとかなりイイカンジだからだ。
いつからだろう。なんとも言えず、いい顔で笑うようになった。
その顔は、いいなと思うようになった。
けっこう好きだなと思うようになった。
が、そのままで距離を詰められると、好きだな、が急になんか、チガウ意味を帯びてくる気がしてしまう。
非常に、コマルのだ。
落ち着かない気分になる。
混乱する。
混乱してしまうんだ。
うん。コマル。非常に。



「三上」
控えめなノックの後、ひょこんと顔だけのぞかせて渋沢が名を呼んだ。
「なに」
自分の部屋でもあるんだから、入ってくればいいのに、なんか妙に入り口でぼんやり立っている。
「うん、いや、ちょっと俺、コーチに呼ばれてるんで、今から行ってくる」
「今から?」
「ああ」
ふーん?
「ま、いっけど。晩飯は?」
「遅くなるようだったら先に行っておいてくれていいから」
「わかった」
じゃ、といって渋沢はドアを閉めて行ってしまった。
そう言えばまだ制服のままだったな。
最近忙しいことが多いみたいで、なんだかたびたびこんな風に遅くなったり呼ばれてたり、部屋にいなかったりする。
多分このままだと来年度のキャプテンになるだろうカンジだから、その件なんだろうとは思うんだけど、忙しげな事だ。
でもま、実はそうやって渋沢が忙しくしてるせいかあまりべったりそばにいることが少なくなってそれでちょっと重圧感が薄れたってのもあると思う。
そういえば渋沢があんまり妙にべったりと横に立つことも少なくなった気がする。
だからこんな風になんとなく少し距離を置かれると、ほっとする。
ちょっと距離を置いてもらったおかげで、少し自分の中でも考える余裕が出来た気がするというか。
要するにだ。
なんというか、あんまりアカラサマに好意もあらわにベタベタされることには意識がついて行ってなかったとでも言うか。
だって俺、もともと人見知りだもん、とか、あまりイイワケにもならないことをイイワケにしてみるくらい、ちょっと自分の感情を量りかねている。
が、反面なんと言うか、あんまりそばに立たれなくなると、それはそれで妙に寂しくも思ったりしていたり。
だって最近ずっと気がつくと横とか背後とかにあたりまえみたいにいたしさ。
振り返るとにこっとかしやがるしさ。
けっこう悪くないしさ。
アレがないとないで、なんかつまんないというか、頼りないというか、足りないような気がするというかさ。



あきちゃんも、複雑なのである。




そんなカンジで微妙に距離を感じる毎日。
考えすぎなのかな。
いや、でも今日も休みだってのに、目が覚めたらもう部屋にはいなかったし。
ま、試合前でないので、午後練の日だったから、イイけど、またまたたいがい寝過ごした。
最近あんまり起こしてくれないみたいだし。けち。
まあ、布団ごと引っぺがされたり、転げ落とされたり、しないからいいけどさ。
にしても、なんかどうも妙に気になるんだ。
気になるっていうか…避けられてる?
いや、そりゃあさあ。
もしかしたら、変に自分も、意識しすぎだったかも知れないし。
意識しすぎてっていうか、なんていうか、どう対応していいかわかんなかったのもあるけど、つっけんどんになったりとかしてたとも思うし。
必要以上に冷たくしたりとか、素っ気無くしたりとかだって、心当たりがないわけでもないし。
もしかしたら、それで向こうだって嫌気がさしたりとか、愛想つかせてたりとか、ひょっとしてめんどくさくなったのかもしれないし。
やっぱり好きとか言うのだって、その場の勢いとかだけだったのかもしれないし。
そういえば、あのあたりの頃、お姉ちゃんの結婚問題で気もそぞろだったから、あんまりかまってやった覚えがないから、なんかあいつも 思うところがあったのかもしれないし。
好きっていうのも、そんな意味じゃなかったのかもしれないし………(いや、それならそれでそのあとのアレはどうなんだ!)
うーん。
ベタベタしない渋沢。
そんなものに、こんなにも悩まされるのも、なんだか不本意じゃないか。
つくづく、いてもいなくても気になるヤツだ。
………イヤんなったのかもしれないよなあ………。
そもそも、あいつが俺なんかのどこをどう見て好きとか思ったのかもよくわかんないし。
なんか、そう考えると、それはそれで寂しい……気がするし、まあなんとも勝手なものだ。
応えることもできないのに、そばにいなくなると寂しく思うってのは、なんなんだ。
勝手極まりないな。
そりゃイヤんなっちまってもしようがないよな。
グルグル考えるうちに、それはなんだかだんだん思考が下を向いてきたりしているのに、なんとも気がついてない。
おかしいな。
なんで俺、こんなにあいつのことばっかり考えるんだろう。
おかしいな。絶対変だ。
まあ、あんな図体のでかいヤツがいるのといないのとじゃ気になりっぷりも相当違うもんな!
むー。
腕組みをして考え込んでいると、ひょこひょこと、当の渋沢がドアを開けて入ってくる。
「あ、起きてたのか」
ボケボケとそんなことをいう。
「起きてるよ。何時だと思ってんだ」
ちょっとむっとして、ぷんとそっぽを向いてしまう。
そうだなあ。やっぱ、こういうのがよくないのかもしれない。
よくないのかもしれないが、今さらどういう顔を用意すればいいのかわからない。
どうしよう。
1人内心でうろうろするけど、どうしようもない。
なんかちょっとやっぱり、ほら、困る。
「久しぶりになにか飯作ろうか。食べたいものあるか?」
「え?」
思わず振り返り、きょとんと渋沢を見上げる。
渋沢は、自分の机の前からレシピファイルを抜き出しながら、ちょっと苦笑気味に笑った。
「最近忙しかったからな。なんでも好きな物言っていいぞ」
「……………」
………あー……そーですか。
さっきまでなんだかんだとグルグル考えていたのが、微妙になんだかどうでもいい気分になってしまうのを心の底で自覚しつつ、三上は表情の選択に困った顔になった。
「食べたいもの、ないか?」
渋沢は、ファイルのページを繰る手を止めて、三上の顔をじっとみる。
「………なんか、アッサリしてて、ボリュームあって、脂っこくないモノが食いたい」
「………じゃあカボチャでも炊くか?」
にこ。
あ。
笑った。
なんか、ほっとした。
ホッとしたら、なんか自分でも知らないうちに、笑ってた、みたいだった。
渋沢が、ちょっとビックリしたように目を見開いて、それからえらいイキオイでにこにこにこにこしやがるから、それを見て自分が笑ってたことに気がついた。
臆面もなくにこにこされると、自分の感情の置き所に困った。
嬉しいのかもしれないということを、気がついてるから、よけい困った。
嬉しいんだなということに、気がついたから、よけい困った。
だってさ。
だって。
あー、もう、だってなんかハズカシーんだってばよ。
不機嫌な顔を作ろうとして、でもなんだかそれも妙にうまくいかなくて、やっぱり名前の付けにくい表情のまま小さなため息を1つついた。




だけど、人から見たら、それは「安堵の表情」と呼ばれてしまうものなんだけどな?



=Fin=






  ◇コメント◇

遅れて来た自覚。
というか、まああの…ここに来て初めて意識してると言うか……。
それまではまったくそんな目で見たこともなかったのに、初めてそういう気持ちを自分で意識してみてると言うか……。
つか。
カユいっつの。
もう、少女マンガ爆裂で、ムズムズするんですけど。
ハズカシイよぅ!
まあそんなカンジの話。ああ、恥ずかしかった。


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