アリガタメイワク

誰も気がつかないうちに







「やっぱコーヒーもらうわ」
そう三上が言ったので、渋沢は少なからず驚いた。
三上が自分からコーヒーを欲しいと言うのは実に珍しい事だった。
っていうか、リクエストをするほど飲むものに対して執着などなさそうだったから。
たいていなにかしらを入れてやれば黙って飲んでいる様子だったので、気に入らなくはないんだろうな、というか。
絶対味を分からせてやると意気込んだわりにはあまり成果も上がっていないかと、ちょっと考え込んでいた頃だった。
地道な努力と言うものにはけっこう慣れているんだけどね。(というか、それ系のこつこつ何かをするのは割と好きだ)
そうか。成果は出ていたんだ。やっぱり。
「カーンジわりーな。何その顔」
あ。
つい、出てしまったらしい。
というか、三上は異常に渋沢の表情に聡い。
普通の奴にならまず絶対悟られる事の無いような微妙な感情をなぜかことごとく見透かされている。
どんなに笑顔を作っていても、「何その顔」の一言で終わらされてしまう。
今だって多分そんなに言うほど嬉しそうだったわけではない・・・・と思うけど、やっぱり三上は当たり前みたいにそれを感知して 事実を突きつけてくる。
おもしろい。なんて面白いやつなんだ。
渋沢克朗は、そう考えて、つくづくと目の前の人物を眺めた。
目の前の人物・・・・・三上亮は、なんだかちょっと始末の悪いやんちゃ猫みたいな表情で渋沢の煎れたコーヒーを飲んでいる。
「・・・なんだよ。じろじろ人の顔見てさ」
渋沢の遠慮の無い視線に耐えかねて、三上が上目遣いに抗議した。
「いや、悪かったな。なんでもない」
渋沢は自分も自分のカップを傾けた。
美味い。
さすがは封切り。
香りもひときわ良い。
「嬉しそうな顔しちゃってさ」
三上はあきれたような顔でフンと鼻を鳴らす。
どうやら照れているらしく、やたら突っかかってくる。
ので、ついつついてやりたくなってしまった。
「美味いか?」
わかりやすく、にやっとしてやると、意図が通じたらしく、いやあな表情になった。
「・・・・やなやつ・・・・・」
「何?聞こえないな♪」
「美味いよ!すごく。スッキリしました!どうもありがとうございます!」
やけっぱちみたいに余計な情報までくれてしまう三上だ。
やたらゴテイネイな言葉づかいが飛び出したところを見ると、ちょっとフテくされる寸前なので、楽しいのだが つつくのはこのあたりで切り上げだ。
「スッキリしたのはよかったな。気分も機嫌もよくなったみたいだし」
気分はともかく機嫌はどうだろうな、と思いつつ。
それにしても。
コーヒーを飲んで、スッキリする。
これは相当な進歩と見て良いのではないだろうか。
確かにさっきまでの幾分かの顔色の悪さはなく、確かに機嫌も悪くなさそうにしている。
コーヒーがあって、本があって、天気がよくて。
ふむ。
渋沢の知る限り、三上的には確かに機嫌がよくなりそうなシチュエーションだった。 (違うバージョンではサッカーボールが有れば、というのもあるが、それはまあおいといて)
そこらに散らばった新刊の帯のかかった小説達をふと手に取った。
「よくもまあこんなに・・・・目がちかちかしないか?」
ざっと見ただけでも10冊あまり積み上げられたり崩れたりしている。
「1日で読みきるわけ無いじゃん」
しないしない、と言って、三上はカップを突き出した。
「?」
「おかわり。くれない?」
悪びれた様子も無く、にかっと笑って催促した。



おもしろい。なんて面白いんだ。
つまり渋沢克朗は、あまりにもあからさまな成功例で開眼してしまったわけだ。
人の味覚をコトほど左様に変えてしまえるなんて、思っても見なかった。
たぶん三上はもはやネスカフェは飲めまい。
気の毒だが(ホントは気の毒なんて思ってないけどな)お前の口はもう知らなかった頃には戻れない。
わははははは。
面白すぎる。
渋沢克朗、多分鴨の卵とかを手に入れたら孵してみる事に夢中になりそうな子供だった(はずだ)。
孵した雛が自分に着いてくる事に有頂天になるような。
じゃあ三上は自分の手に入れたインプリンティング可能な雛の卵だったのか?
というのともちょっと違う気もしながら、でも三上が自分の好みの味をおいしいと思ってくれるのは何とも嬉しいなぁ、 とか考える渋沢だった。
だって三上は面白い。
自分としては今までに無く気に入っている人間だと思う。
それも「ものすごく」。
多分、今、例の自分内ランキングで言ったらひょっとして既にトップスリーくらいに楽に入っているんじゃないかと。
そんな感じ。
家族に次いで、くらいかなあ。
あ、そんなに上位だったんだ、と、改めて自分にびっくりしたりして。
だから、というか、自分にとって好ましいものを三上も好きになってくれたら嬉しいなあ、と考えたのもかなりある。
自分の好きなコーヒーをそんな風に嬉しそうに「おかわりくれない?」とかいわれちゃうともう、 「全部なんでも持っていってくれ♪!」という気分だ。
他のものも。
出来るものなのかな。
ふむ。
コーヒーの味の違いがこんなにも分かるようになったと言う事なら元々味オンチとかそういう事ではないはずだ。 (っていうか、三上、普通です。渋沢のほうが変って自覚無し)
飲み物だけでなくて食べるものにも。
好みを変えてみるなんてことは出来るものだろうか。
母は、ある程度の年齢までなら味覚はきちんと訓練すれば治ると言っていた。(渋沢は多少マザコンのケがあった)
絶対素質はあるに違いない。
それが第2段階だ。
前回の目標を立派に達成しきった渋沢は、非常な満足とともにそんな遠大な計画を立てていた。
っていうか、どう考えても迷惑な計画だったが、わりと関係無く心に決めてしまう渋沢だった。
おそらく三上本人が知ったら明らかに顔をしかめるような計画だし。
・・・・それって、アリガタ迷惑と言うものでは?
でもま、そんな事はおくびにも出さずにサワヤカに笑って(三上の目には「なにか企んでやがる」の笑顔)とりあえずコーヒーの おかわりを入れてやる渋沢だった。



ええかげんにせえよ、お前。




=Fin=






  ◇コメント◇

渋沢サイドで同じシーンを。
なんかとにかくずるずると意識し始めてるカンジ。
でも、無自覚よン♪
そりゃもう、中学生なんだから、まどろっこしくよねっ♪るりるり(笑)



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