今日も小さい三上の日常は波乱万丈だ。
松葉寮にはいろいろな困難が渦巻いている。
しかし、とりあえずはキモチ平和なカンジで、渋沢のポッケにおさまって、のんびりボケボケ移動中。
何しろ、寮内を移動するにもサイズがサイズであるゆえ、とんでもない距離を移動しなければならない。
自室内の移動くらいならともかく、例えば階段1つとってももう三上に取っちゃフリークライミングの世界だ。
だもんで、移動はもっぱら渋沢まかせ、三上はポッケでうつらうつらと寝ていたりする。
その日も渋沢は、わりと幸せな気分でほてほてと廊下を歩いていた。
と、背後から、どダダダダダダだーーーっと、轟音が響いてくる。
「先パイ先パイ先パーーーーーイッっっ!!!!!」
ああ、これは、いつものパターンで行くと三上にタックルかますときの藤代だな、とかぼんやり考えて振り向こうとした渋沢だったが、
約35度くらい振り返ったところですでにコンタクトはなされていた。
「キャプテン、三上先パイはーーーっっっ!!???」
どんごろがったーん!!と、派手なタックルで、藤代に抱きつかれたまま転げ倒されて、初めて普段の三上の苦労を思い知る。
ああ、いつもなんでさっさとよけたりしないんだろうとか思いながら静観していて悪かったな、とか考えながら、涙をこらえて起き上がった。
「藤代・・・・もう少し、なんというか、静かにおとなしく常識的に声をかけるとかなんとかしてくれないかな」
ぶつけたおでこをさすりながら、よっこらしょと立ち上がる。
いつのまにか、笠井が横に立っていて、すみませんと頭を下げた。
しかし、藤代はあまり関係もなさそうに、にこにこごそごそと渋沢の全身を探りまわっている。
「ねえねえ、キャプテン、三上先パイは?一緒じゃないんですか?お部屋で待ってんのかなー」
「あちこち手を突っ込むのはやめてほしいんだが。三上は胸ポケットだ」
なんだかあちこち手を突っ込まれたりなでくりまわされたりして、困ってしまう。
藤代じゃあんまり楽しくないんだよなー、などとタメイキをつきながら、丁重に自分から引き剥がした。
「でもキャプテン、胸ポケット空じゃないですか」
ちょっぴり上目遣いに、藤代が不満を述べる。
「何言っているんだ。三上ならここでさっきから・・・・」
改めて自分のポケットに手をやって、そこに何の質量感もないことに気がつき、渋沢はサーっと青ざめて硬直した。
「・・・・・・キャプテン?」
固まってしまった渋沢に、藤代と笠井がこわばった顔を向ける。
「・・・・み・・・・・・・・」
「・・・・・まさか・・・・・」
「三上落っことしちゃったーーーーっっっ!!!」
ちょっぴり渋沢らしくない絶叫に、いかに渋沢が動転していたか、よくあらわれていた。
と、後に笠井が述懐していた。
さて、気持ちよく居眠りこいていたところを、唐突に吹っ飛ばされて、投げ出された三上は。
なにがなんだかわからないうちに、頭から、何かの中にダイブさせられていた。
で、衝撃のため、しばらく目を回していたため、直後、錯乱気味の渋沢(と藤代も)が、三上の名を連呼しながらその辺を這いずり回っていたのを知らない。
しばらくして、ようやく意識が戻った三上が、やっと気がついたのは、誰かの洗濯籠の中だった。
「・・・・・・どこここ?」
ちょっとくらくらする頭をふりながら、身を起こしてみる。
籠は、順番待ちらしく、洗濯室の床に置かれている。
つまり、投げ出されたとき、非常に幸運なことに、そこらの廊下に出してあったこの籠の中に投げ出されたということなのだろう。
おかげでひどい怪我もせずにすんだというか。
しかし。
籠の持ち主が中に三上が入っていることに気がつかず、こんなところまで連れてこられてしまっている。
洗濯機があいていたら、気絶したまま洗濯物といっしょに回されていたかもしれないと思うと、これは一応危機一髪というヤツだったのかもしれない。
とりあえず、ため息をついてから、三上は洗濯籠からの脱出を図った。
誰の洗濯物だか知らないが、汗臭いことこの上なく、なんだか知らないが無性にムッとする。
これだから、体育会系のヤツラってのはよー。
制汗デオドラントスプレーとか、使いやがれ、タコ。
身だしなみにはけっこううるさい三上は、誰だか知らない洗濯物の持ち主に、ひとしきりぶうたれながら、籠のふちまでよじ登った。
中から軽そうなフェイスタオルなどを何枚か引っ張り出し、床に投げてひろげておいて、その上に飛び降りる。
その場に渋沢がいたならば、肝をつぶしたかもしれないが。
身の軽い三上とはいえ、ちょっぴりフィールドアスレチックスな行為は、やっぱりなかなか心臓に悪い。
こんなところでこんなサイズでケガでもしようものなら、治療のしようもないだろう。
が、三上本人は、わりと無頓着に危険行為を繰り広げる。
だからこそ、過保護にポッケにナイナイして連れ歩いていたわけだが、とりあえず、今の三上は一人で部屋に帰りつかなくてはならない。
低めの籠でよかったな、などとのんきに考えてさっさとその場を後にする。
洗濯室を出た三上は、しばしあたりを見回した。
「・・・・・・どこだ、ここは」
サイズが違う身で見上げると。
いったい何階の洗濯室前であるのかすらわからなかった。
「まいったな、こりゃ」
そもそもどこの階で渋沢からはぐれたのかがわからない。(寝てたから)
誰か通りかかったら連れて行ってもらうくらいしかないのだが、一軍のヤツラならまだまだしも、例えば3軍の下級生なんかに見つかったりして
つれて帰ってもらったりするのはなんだかものすごく屈辱的だから絶対ヤダ。
まあ、建物の構造上、階段方向はわかっているのでそちらに向かって歩き始める。
「・・・・・・・・・・・」
ぽてぽてぽてぽてぽてぽて。
「だーーーーーーーーっっっっっ!!!遠いんだっちゅーんじゃ!!!」
2部屋分歩いたところで軽くキレてみた。
身の丈10センチの身には、ほんの十数メートルの距離がとてつもなく遠い。
階段が、そこに見えているにもかかわらず、たどり着く気配も見えない。
小さいってことは、ホントになんというか、いろいろとまどろっこしい。
なんというか、いろいろとため息をつくことこの上なし。
はふ、と息をついて再び歩き出した三上は、次に差し掛かった部屋の扉が薄く開いているのに気がついた。
人によったら助けてもらおう、と思ってしまったのは、三上にしては珍しいが、まあそれだけヤケだったのかもしれない。
その部屋のドアが開いているのは実はものすごく珍しいことだったのだが、どこの階だかわからなかった上、ネームプレートがはるか上空過ぎて
確認も不可能だったからでもある。
一応無駄にノックなどして(音が小さすぎて誰も気がつかない)全身の力をこめてもう少し扉を押し開け、中をうかがう。
「・・・・・?」
そして。
誰の部屋だったかに気がついたときには、もう手遅れだったというべきか。
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