その日、三上の帰りが遅かった。
夜遊びに行ったのかなと思ったが、まあ珍しいことではなかったので、渋沢は早々に夕食を済ませて風呂に入り、歌など歌っていたところで
携帯が鳴った。
「渋沢ー、すまねーんだけどさー、金持ってきてくんない?財布忘れたみたいでさー。帰れねーんだ」
半分酔っ払ったような三上の声にちょっとため息をついた。
「いまどこなんだ?」
「んー、××のー、アイジャットって店。終バスなくなっちゃうから早くー」
勝手なことを言って、甘えたような声で早く早くーと言って切ってしまう。
なんだかなー。
が、なんのかんのといっても三上の言うことなので聞いてしまう。
身体をタオルで拭きながらつらつらと考える。
××ならばここから自転車で15分くらいだ。
確かにそろそろ終バスが危ない時間なので、自転車で行くことにしよう。
服を着替えようとしてふと気がついたがパンツをすべて洗ってしまっていて、生乾きのものばかりだった。
風呂に入る前に脱いだものもすでに洗濯機の水の中だった。
まずい。
大変に困ったのだがまあ店にも入らないし、15分くらいのことだし、夜も遅いし、大丈夫かなと思い、パンツ無しでズボンをはくことにした。
渋沢らしくない大胆さだったが、とりあえず三上を迎えに行かなければという使命感と、どうせちょっと行って帰ってくるだけだという気楽さが、
それを実行に移させた。
ファスナーだとからまるかもしれないので危険を避け、パジャマにした。
パジャマをきこんで簡単に上着を羽織って、財布と携帯を持って自転車に乗って出かけた。
走り始めて、やっぱりなんだかスースーするので、やっぱり生乾きでもなんでもいいからパンツをはいてくるべきだったと後悔したが、
とにかく急いで行ってしまえとそのまま走りつづけた。
ノーパンなだけだと言うのに、気分はすっかり全裸気分だ。
さてとりあえずたどり着いて、自転車を降りて気がついたのだがパジャマのズボンのゴムがゆるかった。
そういえば最近それが理由でこのパジャマをあまり着用してなかったのだと今さら思い出したのだが、出てくるときにはノーパンに
気が行っていて、そちらに気が回っていなかった。
これはまずいとぐいっと力をこめて引っ張りあげたところ、ぷつりと感触があってゴムは切れてしまった。
引っ張りあげているところだったので、その場で落下という事態だけは避けられたがどうしようもない事態には変わりはない。
とりあえず、片手でむにゃむにゃとつかみながら店の扉を少し開けてのぞくが、それらしい人影はなかった。
店の人に聞こうとしていると、再び携帯が鳴った。
「渋沢、今どのあたり?」
「ああ、今店についたんだが、どこにいるんだ?」
「あのさー、マスターの奥さんにおごってもらっちゃった。バスに間に合わないから帰んなさいって。今バス停。もうバスくるから乗ってもいい?
渋沢着くなら待ってたほうがいい?」
「…………」
ちょっとがっくりきたのと、マスターの奥さん、というところに妙に引っかかりを感じる渋沢だった。
が、とりあえず、それならそれでよし、「三上と二人で夜の散歩がてら帰る」というのも悪くはないが、どうも酔っ払ってる様子なので
歩かせるのもカワイソウでもあり。
っていうか、ノーパンの上ゴムの切れたズボンの情けない姿で三上と並んで歩くのは、ちょっぴり自分的に辛いところだ。
「すぐに来そうだったら乗ればいい。バス代はあるのか?」
「奥さんがくれた」
「じゃあ気をつけて帰れ。俺ももう引き返すから」
その奥さんってのも、なんか三上に含むところがあるんだろうか?(被害妄想)
いくらなんでも親切が過ぎるように思うが。(被害妄想)
とかつらつら考えつつ、とにかく恥ずかしいのでさっさと帰ろうと(出来れば三上より先について体裁を整えておきたいところだ)
店の外に出てみると、自転車がなかった。
呆然となる。
こんなほんの一瞬のことなので鍵をかけていなかったのだ。
ノーパンとズボンのゴムに気が行っていてそれどころではなかったというのもある。
交番に行こうかとも思ったのだが、ノーパンの上ゴムの切れたズボンといういでたちで駆け込むのもためらわれた。
微妙にバスは出てしまっていそうだった。
タクシーは望めない様子だった。
しようがないのでズボンを押さえてとぼとぼと夜道を歩き始めた。
しかしなんというか、間の悪いことは重なるもので、途中で不運なことに、ぽつぽつと雨が降り始めてしまった。
なんてことだ。
俺は今、パンツをはいていないのに。
ズボンが徐々に濡れてしみてくる。
まずい。このままでは形がくっきりとみえてしまう。
大事な箇所が濡れないように前かがみになりながら、目に付いたコンビニに駆け込んだ。
店内に入り、ふと見るとガラスに映っている自分の姿に愕然となる。
前ばかりをかばっていたのだが、背後が無防備だった。
雨に濡れたズボンは尻にぴったりと張り付き、センターの割れ目まではっきりくっきりと浮き上がらせていた。
棚からパンツを見つけると、なるべく人の少ない瞬間を見計らってレジに行き、すばやく金を払って外へ出た。
ファミレスを見つけて駆け込み、コーヒーを頼んでトイレに向かう。
そういえば、コンビニでトイレを借りればよかったと思いついたのはそのときだったが、何しろ焦っていたのでそこまで思い至らなかったというのもある。
個室に駆け込み、袋を開け、パンツを取り出し、ズボンを下ろす。
はずみで脇にはさんだパンツが便器に落ちた。
あっと思う間もなかった。
パンツは水の中に沈んだ。
なぜ蓋を閉めておかなかったのかと哀しくなった。
もちろん災難はこれで終わったわけではなく、そののち帰りつくまでに渋沢がどのような苦難を乗り越えたかは、枚挙に暇がないのだが、
いいかげん恐くなったので今回はこの辺で。
お出かけの際にはパンツは必ずはいて出ましょう。
=Fin=
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