| 枕にまつわるエトセトラ | ||
普通、武蔵森学園サッカー部の備品などの買出しなんかにいくのは3軍たちの仕事だ。 2軍ですらそんなことはしないし、ましてや1軍の、それもレギュラーがお使いなんておハシタ仕事をすることなんかはありえない。 だから、藤代誠二が「おれおれおれ行きますりっこーほーっ!!!」と両手をあげた時は、笠井竹巳のみならず、3軍の1年生までが 首をひねったりどよめいたりしていた。 「おめー、1軍としてだなー、そんなヒマなんてあるのか?練習とかだなー」 こういうときには彼に叱ってもらわなくてはと、みんなに背中を押されてめんどくさげに三上がお説教を始めてみたが、 「三上先パイ、先パイもいっしょに行きましょう!!♪」 「アホか。なんで俺がお使いなんかに行かなきゃなんねーんだよ!!!!」 いや、三上が叱ったからといって、あまり効果は無かった様子だった。(三上でダメなんだから、他の誰でもダメだろう) 「三上先パイ!これには深いわけがあるんですよ!!」 「お、おう?」(気おされている) 藤代は、全部員の視線が集中する中、ずるずると三上を引きずって、部室の隅っこに行った。 隅っこに行ったからって、視線が途切れるわけではないが、そこまで行って、耳元に手をあててヒソヒソやられると、確かに誰にも聞こえない。 「実はですね。今、むさスポ(←武蔵森サッカー部御用達店。武蔵台スポーツ店という名前)のあるむさしの商店街では、夏の謝恩セール中なんです」 「……それで?(イヤそう)」 「3000円に一回の大福引抽選会してるんですよ!!」 「…………それで」 「俺、3等のプレステ2を狙ってるんです!!!!!」 「……………」 がっくし。 「3000円の買い物なんて、自分じゃなかなか出来ないですもん!備品だったらけっこうたくさん買うから何回分ももらえるはずだし! 俺絶対あてる自信あるんですよ!こういうのはめっちゃ得意なんですってば!ねーねーねーねー行きましょうよう」 「…勝手に行ってこいよ…」 疲れたようにそう言って、三上はぷいと背中を向けた。 「1等特賞はグァム島ペア旅行です!」 「どうせ学生じゃ行けねーって。学校だって部活だって試合だってあるし。パスポートもないし」 「2等はらくらく全身マッサージチェアですよ!!」 「……」 そこで三上はちょっと立ち止まり、じとーんと藤代の顔を見た。 「そっちが当たったら進呈しますよ!!」 どこに置くんだよ、と思わないでもないが、いつもお疲れ深い司令塔には、らくらく全身マッサージチェアは魅力的。 「だいたい備品の予算ってのはどのくらいなんだ?」 うまうまとはめられている様子の三上だ。(今ミーティングでまさにその内容を言っていたはずなのだけど、もちろん聞いてなかったらしい) 「今回はボールと、補修ネットと、スパイクの替え金具と、ストップウォッチと、あともろもろでこのくらいです」 「…………………」 非常に深く考え込む。 かなりの大荷物になるが、その分確かに金嵩が出る。当たるチャンスもでかい。 でも、もって帰るのがイヤだ。 いくらいだしっぺの藤代に持たすといっても、限度というものがある。 となると……。 「……荷物持ちを連れて行きゃいいか……」 まあ、だからといって人見知り激しい彼に、2軍や3軍の下級生など一緒にいけるはずもなく。 当然のように渋沢を頭数に勘定して。 「よし。死ぬ気で当てろよ、2等!!」 すでにすっかりと乗せられている三上亮さまだった。 そんなわけで、信じられないことに武蔵森キャプテンじきじきの備品お買い物、などという事態になってしまったのだった。 渋沢的には、そんなことどうでも、三上と(藤代もいるが)お出かけなのでなんでもオッケーである。 (体育会系的には、キャプテン的には大いに問題ありありといえるのだが) さっさと買い物なんかは済ませてしまい(藤代はやはりいまいち役に立たなかった。藤代が三上を選んで引っ張ってきたのはたいへん 正解だったわけだ)、大量のお楽しみサービス券を入手する。 荷物はほとんど二人にもたせて三人はイベント会場へ足を向ける。 にぎやかに人がざわめく福引会場にて、藤代はなんだかコーフンのあまりヘンにテンションを高めている。 「当てます!当てますからねーっ!!」 イッちゃった目付きで両手をぶんぶん振り回しているのでちょっぴり恥ずかしい三上だったが、とりあえずマッサージチェアはほしいので、 (プレステ2はどうでもいい) 「がんばっとけー」 と、おざなりな声援を送っておく。 「もう少し応援してやってもいいんじゃないのか?」 「どうせ聞いちゃいねえよ」 なるほど藤代は、しきりと両手を組んではねじりあげて両手の隙間を覗き込んだり、ヘンな構えを取ったりして、気合を高めている。(←笑) しかし、藤代。 本能だけで生きているような彼。 ヤツならやるかもしれない。 三上はそう考えている。 運悪く運良く(←?)グァム島旅行だって当てちゃうかも知れないくらいだ。 旅行が当たったらいくらくらいに換金できるだろうか。 換金した金でマッサージチェアを……いやいや、その場合、もっと違う何かを買うこともできるかも…… なんだか自分勝手にどんどん思考が進んでいく三上だったが、そんな彼は置いといて。 そして、藤代の順番がくる。 ガラポンの前に立つお姉ちゃんとおばちゃんは、手早くチケットの枚数を数え「じゃあ12回」と言ってくれた。 (お姉ちゃんは、さりげなく1回余計におまけしてくれていた。どうやら武蔵森サッカー部のファンらしかった) 藤代は集中のあまり、試合中にもめったに見られないほどの真剣なまなざしをひらめかせ、しばらくぶつぶつぶつぶつと口の中で何やらを 唱えたのち、「はっ!!!!!」と、気合を込めてガラポンをまわした。 ガラポンをまわすにはいささか激しくガラガラがらがらと高速回転させた後、おもむろに逆回転を始めさせる。 ころり、ころりといくつかの玉がぽたぽたと落ちた。 「三等、三等出ろ、紫出ろ、紫出ろ、紫、紫、紫、紫」 絶え間なく口の中でぶつぶつ呟きつづける藤代。 三上と渋沢は、なんとなくちょっとイヤーな顔になった。 が、しかし。 4つ目くらいに、はたしてころりと紫の玉が出た。 「あっ」 「マジ!?」 なんと。 ホントに見事に狙いのモノを引き当てたのである。 思わず二人の口から驚きの声がこぼれる。 「ぃやったああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっっっっっ!!!!!!! プレステゲットおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっっっっっ!!!!!!!」 両腕を高く差し上げ、ハットトリックを決めたときよりも誇らしげにガッツポーズを振りまく藤代。 テントの奥でお兄ちゃんがガランガランガランと景気よくけたたましく鐘を振り回してくれる。 「やりました!オレ、やりました!!先パーイ!!!」 これには三上も渋沢も開いた口がふさがらなくなった。 まさかホントに当てるとは。 さすがは本能の野生児。 運もべらぼうに良い。 「三上先パイ!!!当てました!!!!次はマッサージチェアを先パイに!!!!!」 藤代は、喜びのあまり紅潮した顔を向けると、興奮のあまりうるうると潤んだ瞳で三上にありがたい言葉を送る。 「お、おう……絶対当てろよ」 三上の方はもう、毒気も抜かれてたじたじだ。 当たるかも。 当たるっていうか、当てるかも。 当てるのかもしれない。 だって藤代だ。 イヤ、きっと当てるだろう。 あああ、当たったら!!(←ちょっと度を失っている様子) 「三上先輩、ゴメンなさーい。4等だったです!」 えへvと舌をだして戻ってくる藤代に、もはやなんというか、かけるための言葉を見つけられない三上だった。 っていうか、それでも4等も当ててくるあたりがなんというかもう常軌を逸してすごい籤運ではないか。 さらに5等の砂糖しょうゆ味噌セットも2つ当てている。 「……いや……うん、いいよ…すごかったよな………」 恐るべき幸運の持ち主、藤代誠二。 「せっかくですから、4等の商店街提供オタノシミ福袋は三上先パイに進呈ー」 藤代はあまり強欲な少年ではなかったので、気前よく福のおすそ分けを申し出た。 「いいよ。お前が当てたんだから、自分でもらっとけよ」 「でも先輩のためのラクラクマッサージチェアが取れなかったんですから。せっかくついてきてもらったのに。それにオレプレステ2があるし」 「ふーん。じゃあいい物だったらもらっとくかな」 そうして3人は交換所へ向かった。 まず藤代はホクホクでプレステの箱を受け取り。 「砂糖とおしょうゆとお味噌はキャプテンに進呈〜v」 「………………それはありがたいな…………」 なんだかずっしりと重たい荷物を増やされてちょっと複雑な顔になる渋沢だ。 「福袋はお好きなものを選んでくださいね」 交換所のバイトのお姉さんは、にっこりと笑って並んだ袋を見せてくれた。 「いいのが入ってるのがイイっす〜」 「あら、いいものばかりですよ?(にっこり)」 藤代はちょっと考え込み、三上を振り返った。 「三上先パイ、どれがいいですか?」 三上はざっと見渡してそれから藤代に顎をしゃくった。 「お前が選べよ。お前のくじ運だったら、たぶんいいもん引き当ててくれんだろ」 ふーんと首を傾げてから、藤代は特に大き目の袋を指差した。 「じゃあ三上先パイのために、たくさん入ってそうな大きいのを!」 (…………彼は大きなつづらの昔話は知らなかったらしい。) そうやって、その大きな福袋は彼らの部屋にやってきた。 もちろん巨大な袋を抱えて帰ったのは藤代だったが。 寮に帰って、とりあえず一息ついて、渋沢がコーヒーなどいれたのをいただいたりして。 「んで、結局中身はなにが当たってんだ?」 がさごそと袋を開いて、それから三上は妙な顔をした。 「なにが入ってたんだ?」 渋沢も覗き込む。 「………枕?」 一番かさばっているものは、どうやら枕? あと、ソムリエナイフやら(まったく不要)、ナゼか泡立て器と菜箸と落し蓋やら(渋沢が使用するだろう)、ふかふかスリッパやら (これは三上はちょっと気に入っていた様子)、シューズキーパーや(これも三上が気に入っていた様子)、ポプリ入りハンガーやら (三上は少し渋い顔をした)、ルームフレグランスポット(なにに使用するのか、しばらく不明だった)やら、ウサギ型アイピロー(これも不明)なんか。 ああ、商店街の福袋なんだなあというラインナップだ。 「無秩序」という名前のキャプションをつけて額に入れて飾っておきたいくらいだ。 「なんなんだー!これは!!藤代め、自分の分でなきゃホントにテキトーなもんだな!」 ずるずると引っ張り出しては並べながら、三上はしきりとブツクサ言っているが、問題の一番容量を占めていた枕を引っ張り出したところで ふと、固まってしまった。 「どうした?」 そちらに目をやった渋沢も思わず思考停止してしまった。 それはいわゆるところの「イエスノー枕」と呼ばれる物体であった。 余談だが、なぜ三上がそれの使用法を知っていたかというと、もちろん実家にいたころの話だが、彼の愛すべき家族たちのうち、 たいへんチャンネルに対して権力を振るうあの人たちが非常に好んで見ていた日曜お昼の例の番組に、それがよく登場していた所為である。 彼の兄などは対外的にはクール&スマートで決めていたのにもかかわらず、自宅では姉達によって散々例の司会者の例の物まねをさせられていたものだった。 気の毒だとは思っていたが、自分がやらされるのはまっぴらゴメンだったので、こっそりと横目でうかがうにとどめておいた。 ……という過去はさておいて。 とにかく、三上はそれの使用法を知っていた。 うっかり知ってしまっていた。 知らないでいたほうが、少し彼のためだったかもしれない。 三上は黙ってそれを両手で抱えあげて振りかぶり、これも思わずモノも言えずに固まっている渋沢に向かって渾身の力をこめてブン投げた。 さすがに優秀キーパーである彼、渋沢克朗は、とっさに反応し、腕でガードをかけたが、動揺があったのか、避けきれず、枕はいやというほど 彼の顔面にクリーンヒットをした。 「………なっ……!」 しかし、有無をも言わさず、さらにもう一度枕をつかみ、渋沢の頭部をぼこぼこぼこと殴りつづける。 「ま、待て、待て待て待て、これはオレか?オレなのか!?」 「うっさい!この俺のやり場のワカンネー怒りをどうしてくれよう!!!」 最後に思い切り顔面にヒットさせて、三上はその枕を部屋の隅っこにまで蹴り飛ばした。 「いいかげんにしねーと、泣くぞ!オレは!!」 ふーふーと頭のてっぺんの毛を逆立てている三上に、いや、いいかげんにっていうか、ちょっと泣きたいのはこっちなんだけどなと思う渋沢だった。 そんな風にして、その枕は彼らの部屋の住人になった。 しばらくそれはそのまま、所在なげに部屋の隅に転がされていた様子だ。 「あれ」 部屋に帰ってきた渋沢は、なにげに三上のベッドを見やって妙な顔をした。 いつものごとく、寝そべって本を読んでいる三上。は、別にいつもとなんら変わりなく、うつぶせに寝転がって、立てた左足を ぶらぶらさせていた。 「なに?」 いぶかしげに三上が顔を上げる。 「……いや?」 コーヒーを淹れながら少し考えて、それから思い当たる。 三上は、問題の枕を胸の下に敷きこんで、クッションにしていたのだ。 さり気に様子をうかがうと、どうやら高さがちょうどいいのか、くるりと抱え込んで機嫌よさそうに小説に没頭している。 そういえば、と殴りつけられたときを思い出してみるが、おそらく程よいクッションが効いたその枕の、意外に感触が気に入ったのかもしれない。 渋沢は、ちょっとこっそり笑いを浮かべて、それからコーヒーカップを2つ持って三上の傍らに腰を下ろした。 「なに勝手に人のベッドに座ってんだ」 こちらを見もせずに、三上が憎まれ口をたたく。 「飲むか?」 「もらう」 差し出すのを受け取ろうと振り返った三上は、ちょっと顔をしかめた。 「なんだよ。にやにやしやがって。気色ワリーな」 「いや、べつに」 あわてて顔を引き締めてみたが、間に合わず、三上はつんとそっぽをむいた。 「気に入ってるのか?」 それ。と聞いてみると、ちょっとヤーな顔になった。 「へんなとこにばっかり気が付きやがって……」 よいしょと上体を起こし、わざわざひっくり返してノーの面を表にして、それから改めて寝転がり、ベーと舌を出して見せる。 なんとなくがっかりしたような顔になって黙ってコーヒーをすする渋沢を見て、こっそり笑いをかみ殺したりしている三上である。 全部コーヒーを飲み干してから、渋沢はもう一度、三上の顔を覗き込んだ。 「やっぱりダメかな?」 三上はもう一度ベーと舌を出して、持っていた本で、ぽんぽんと枕を叩いた。 |
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「みりゃわかんだろ。ダーメ」 「けちだな」 「ケチって……」 ぷっと吹き出して思わずそっちを見たら、ものすごくすねた顔をしていた。 「バカじゃねーの?」 たまらず爆笑してしまった。 そこまで笑わなくても、とかぶつぶつ呟いているのを見ていると、それなりにほだされてしまう気もする。 ま、いいか。みたいな。 ぱたんと本を閉じて、 「渋沢」 振り向いたところの顔を狙って、枕を投げつける。 とっさに片腕でガードして、いちおうそれなりにキャッチはして、それから。 三上がにやりと、ちょっとだけ口の端を上げて笑う。 ので、まあ大体のところを察したらしく。 それってなんだか、わりと正しく有効に活用されたりしていて笑える。 有効活用だかなんなんだかは知らないが、たまに気がつくと、いつのまにか表に返しておいてあったりする。 控えめなんだかずうずうしいんだかわからないヤツだ。 腕組みしながらそんなことを考えてみる。 本人はいないが先に一旦帰ってきた形跡がある。 おとといケンカしたときに蹴り飛ばしたままだったはずの枕がなんかこそっと直されたりしているんだ。(ケンカそのものは当日のうちに終了) むー。あのバカ。 ま、ほっとけばいいか。ムシムシ。 部屋着に着替えて、カバンを片付けて、本棚で読む本を物色しているところにノックがした。 「おー。開いてるぜー」 「しつれーしまーす」 ひょこんと頭を下げて顔を覗かせたのは、藤代と、笠井だった。 「なんか用?」 「いっぱいあるんでおすそ分けでーす」 「アイス買ってきたんですけど、食べませんか?」 笠井がコンビニの袋をちょっと持ち上げる。 お徳用の6本入りソーダバーの箱が薄く透けている。 「なんでまたそんな食いきれないくらいでかいの買ってくるんだよ」 「いっぱい入っててお得だからです!」 「と、誠二が主張しました」 「お前らの部屋、冷蔵庫ないじゃん」 「だからおすそ分けにきたんですよ」 なんだかわかったようなわからないような理屈だったが、とりあえず、ふーんと首をかしげて、許可を出す。 「ま、んじゃ入れば?」 「おじゃましまーす」 とことこと中に入ってきた二人は、別に勧められもしないのにさっさとテーブルに袋を置いて銘々勝手に座り込んだ。 藤代ががさがさとアイスを取り出して箱のジッパーをむしり取る。 「なんだ、ここで食うのか?」 「先パイ達の部屋、いつも片付いてるから居心地いいんです」 「勝手にくつろいでんじゃねーよ。っていうか、お前ら、部屋くらいもうちょっと片付けろよ」 「……俺は片付けてるんですけど…誠二が…」 笠井は恨みがましい目で相方をにらんで口ごもった。 藤代はというと、聞こえない顔でさっさと1本取り出してフィルムをはがしている。 「先パイもどぞどぞ」 「藤代!ごみはそこらに散らかすんじゃねー!ごみ箱に捨てろ!」 すかさず三上の叱責が飛ぶ。 まったく、どうして部屋が散らかるのか、手に取るようにわかるではないか。 「はーい」 悪びれもせず、藤代は散らかしていた紙くずやアイスの包みフィルムをまとめて、部屋の片隅のごみ箱のそばまでいざりよっていって (それくらいめんどくさがらずに立って歩け!と三上の叱責がとんだ)、ベッドの足元になにげなく置かれている枕に目を止めた。 「先パイ、これなんですかー?クッション?」 「あ?」 三上と笠井が振りかえって、それを目にして。 あ。 思わず三上が固まった。 そ、それは。 笠井も固まった。 思わず目線が泳いだ三上が、固まってしまった笠井に気がついてしまい、つまり、笠井が気がついてしまったことにも気がついてしまったらしい。 なんだかたいへん間が悪いカンジ。(←笑) 「なんか先パイのシュミっぽくないですよネー。YESなんてブランドあったかな。キャプテンのかな?」 藤代は、なんとも微妙な空気を察することもなく、ぽふぽふと感触を楽しんでいる。 「あ…せ、せーじ……そゆことは……(汗)」 笠井はもう、なんと言っていいかもわからず動転してうろたえている。 もちろん三上はみるみるうちに本気不機嫌全開の仏頂面になっている。 「勝手に、ほら、勝手に先パイの部屋のもの触ったりすんなよ、な。置いとけ、誠二」 「なんだよー、いいじゃんちょっとくらい。これすごく手触りいいんだよ」 「いいからおいとけって!」 ちぇー、竹巳のけちけちジジィ、とぶつぶついいながらもとあったところに置きなおそうとする藤代に、 「裏返しとけ!」 思い切り不機嫌な声が飛んだ。 あーあ、となんとなく気の毒な顔になる笠井。 「はいはーい。裏返しで……って、だっさー!絶対これ、三上先パイのシュミじゃない!なんですか!これこれ」 笠井は頭を抱えてしまった。 なんか勝手に大受けして大爆笑している藤代はもう手の施しようもないので一発殴って放置して、せめて申し訳なくも三上先パイに詫びておかねばなるまい。 「痛いだろ!なんだよ竹巳!!思いっきり殴っただろ!!」(←騒いでいるが無視) 「………もうホントに、なんと言っていいか………」 「ならなにも言うんじゃねー」 それでも律儀に返事はしてくれるところがイイ人なんだが、とにかく気の毒というか。 申し訳ないついでに、どうしても気になって仕方なかったのでいちおう控えめに聞いてみた。 「あの……どうしたんですか。ソレ」 「どっかのバカが福引で当てやがった!」 そう言って、ぷいとそっぽを向いてしまった。 「…………スミマセン」 結局それも誠二かー!? 丁重に2本目のアイスを差し出しながら申し訳なくて居たたまれない気持ちになる。 しかし、この様子では、おそらくしばらくは機嫌を直すことはあるまい。 可哀想になー、と、いろんな意味でため息をつく笠井であったが、そこでなんだかナイスバッドタイミングにドアが開いた。 「ただいま。……と、なんだ、お前たち、きてたのか」 ……………なんて間の悪い人なんだ、キャプテン。 思わず遠い目をしてしまう笠井だった。 「あ、オカエリなさーい、キャプテンもどうですか?アイスー」 「ああ、ありがとう。アイ………」 そこで渋沢は藤代がもたれているものに気がついた。らしい。 思わずさすがにギョッと目を見開いた渋沢に、珍しいものを見てしまったと後悔しながら笠井はあわてて立ち上がった。 「あ、あの、あの、誠二、そろそろ部屋に帰ろうか」 「え、なんだよ急に。キャプテン帰ってきたとこじゃん」 「もうホント、ジャマしたら悪いんだよ。居座ってたらよくないよ、メイワクだろう、ほら、立てってば」 もうー、ワケワカンネーよ、お前、と、ブツクサ言いながら、藤代もしぶしぶ立ち上がり、残ったおやつを詰め込んで袋を持った。 「じゃー、なんかよくわかんないけど帰りますね。オジャマしましたー」 「いいから黙って出ろって、お前」 もう泣きそうになりながら藤代を押し出すと「スミマセン」と深々と渋沢に頭を下げ、そそくさと逃げ帰っていく笠井だった。 ………帰った笠井はそれで済むが、渋沢が気の毒なことにはかわりはないのだ。 =Fin= |