| 隣の中西くん 4 | ||
「納得いかないっす!!!」 唐突に食堂に響き渡った藤代の叫び声に、一瞬注目が集まったのだが、まあ藤代が叫んだり騒いだりするのはあまりにもいつものことだったので、「ああまたか」とばかりにさらりと流されていったのは致し方ないことであった。 しかし運悪くその場に居合わせた者達にとっては目をそらすにも勝手に目にも耳にも入ってしまうので、諦めて顛末を楽しむくらいしかない。 まあ具体的には藤代の隣にいてしまった笠井と、ほんの隣のテーブルに居合わせてしまった中西と辰巳と近藤だったわけだが。 彼らだって、何も好き好んでその近くにいたかったわけではないのだが、そうは言っても先にいたところに後から近くにこられたのでしようがない。 というか、藤代がくるのはうるさいがうるさいだけなのでまあいいのだ。 問題はそこに渋三もいたことなのだ…。 というか、まあこの2人も、ほっておけば2人でおとなしく世界を作っているのでまあかまわないといえばかまわない。 かなわないのは藤代がいちいちそれにツッコミを入れては大声で騒ぐのがうるさくてうっとおしいのだ。 「うるせーよ藤代。なんか知らんが納得しとけよ」 「でも近藤先パイ!聞いてくださいよ!キャプテンがヒドイんですよ!」 「渋沢はだいたいいつもヒドイじゃないか」 「まあそうですよね」 あまりにも冷静な中西のツッコミと、間髪を入れない笠井の返事に一同は妙に納得をする。 うん。渋沢はだいたいまあいつもヒドイ。 納得。 「じゃあ納得したところでうるさいから座っておとなしく食え、藤代」 「いや、そうじゃなくて!納得できませんよ!聞いてください」 もはや騒ぎは終わったと、もそもそ食事に戻る一同をしつこく引き戻し、藤代は唾を飛ばして熱弁を振るった。 「キャプテンは俺にニンジンを食べろっていうんですよ!」 「やっぱりいつものことじゃないか」 「まったくだ。ニンジンくらい食べろよ」 「そうじゃなくて!」 ばんばんばんと机を叩くので大変にやかましい。 同情する気も失せる。(もとより誰も同情していないのだが) 「俺にはニンジンを食えっていうくせに、なんで三上先パイのネギは食ってるんですか!?」 「………は?」 そこでようやく気がついたのだが、確かに渋沢の味噌汁にはごっそりとネギが盛り上げられている。 「なんですか、座るなりモノも言わずにキャプテンがお椀を三上先パイの前に置いたりしちゃってるんすよ!んで、三上先パイがネギを移しかえてる真ん前で俺に「ニンジンは食えって言ってるだろう」とかいっても説得力ってもんがないっす!俺は納得できないな!」 当の渋沢はうるさいなあと言わんばかりの顔で、ネギだらけの味噌汁をずるずるとすすっている。(三上は多少バツの悪い顔をしていた) 「なんでですか!ズルイじゃないっすか!なんで三上先パイのネギは食べてるんすか!?」 しかしいくら藤代が主張しても、渋沢は今ひとつピンとこない顔をしている。 「三上がネギを食べられないから」 ごく当然のことだった。 「今さらいわれてもなあ。そりゃたこ焼きが食べられないのはかわいそうだとは思うんだけどな」 そういう問題なのか!? 「じゃなんで俺のニンジンは食べろって言うんですか!?」 「お前がニンジンを嫌いだから」 これも渋沢にはごくごく当然のことだった。 「ニンジンを食べないと頭がよくならないぞ?いつまでも幼稚園児みたいに偏食ばっかりしてるんじゃない。みっともない」 「ズルイっす!絶対納得できない〜〜〜〜っっっ!!!」 うーん……… 思わず回りの全員がなんとなくビミョウな顔つきになって首をひねってしまった…。 それはまあなんと言うか、多少なんとなく藤代に同情できなくもないかも知れない気もしないではないかもしれない。うーん。 しかしだ。 なんと言うか、藤代のニンジン嫌いはなんとなくどうも同情を引かないんだよなあ。不思議なんだが。 そこに三上が困ったようにボソッと口を開いた。 「いいよ渋沢。俺ネギくらい食うよ。頑張ればなんとか食べれない事ないし…」 しかしすかさず渋沢がいたわるように反論する。 「三上。だってお前、ネギを食べるとその時の食事全体が無理に食べてる感じになって食べた気がしないって言ってたじゃないか。匂いがずっと残って何を食べてもネギの後味が離れないから辛いって」 「あー…うん。でもさあ。やっぱり。カッコも悪いしシメシつかないし…」 「いや三上。それは好き嫌いは感心しないが、楽しくない食事をムリに強要するのはいけないと思う」 「渋沢……」 っていうか、いつでもどこでも即座に2人の世界だ。 置いてけぼりを食らった藤代はたまったものではない。 「………俺には思いっきりムリムリ強要してるじゃないっスか………!」 「ああ、藤代。お前もいいかげん早く好き嫌いを治せよ?」 「なんじゃそりゃーっ!」 しかし渋沢はもはや藤代のことはさておいて、三上のネギ入り味噌汁の続きをモリモリ食い始めていた。 「あきらめてニンジン食えば?」 あまり慰めるつもりもない笠井だった。 =Fin= |