月刊「兵庫教育」(兵庫県立教育研修所発行)より

土と芽(教師の随想)

勤労生徒に対する資格取得指導

西 川 敏 弘

兵庫県立神戸工業高等学校 情報技術科 教諭 

(執筆年月:平成5年11月)


 

 「仕事を持つ彼らが学校の授業以外のことを学習するということが本当に可能だろうか?」そんな思いが自分自身のどこかにあった。

 生徒に公的な資格や検定資格を取得させることは、生徒に自信を与え学習意欲を向上させることができ、職業観の確立に寄与するということを理解していたつもりでいたが、仕事に疲れた生徒たちに接し、私自身の指導が無理な注文をしているのではないかと迷った事がある。

 こんな私の複雑な思いを吹き飛ばしてくれたのが、生徒たちの資格試験に臨む熱意と、試験に取り組んだ生徒が「確実に成長してくれた」と感じられることであった。

 その背景には、若くして社会に出た彼らが社会の厳しさの中で職業資格の大切さを感じ、「働きながら学ぶ」ということの大切さを知った結果ではないかと思う。

 

 県立神戸工業高校は、明治45年創立という八十余年の伝統があり、機械・電気・建築・土木・情報技術の5学科をもつ定時制工業高校である。各学科には高等学校卒業者を対象とした専修コースも設置されており、資格取得や工業専門教育の生涯学習機関としての定時制工業高校の未来像についての研究が行われている。

 以下、私の所属する情報技術科について述べる。本科は平成元年に設置された新しい学科で定時制では全国唯一である。生徒は専門分野に対する興味関心は一様に高いが、基礎学力や、理解度にばらつきが大きく、中学時代に登校拒否傾向であった者、全日制普通科・職業科を中退した者や専修コースでは大学卒業者も多く、学力差にかなりの開きがある。

 本科生については、希望した学科ではあるが定時制課程であるということに劣等感を抱く者も多い現状である。

 

 本科では、生徒を躾や資格取得で厳しく指導してきているわけであるが、生徒の将来のため実力をつけさせたいということにほかならない。

 さらに「卒業できればよい」という消極的な考えに陥り、結果として卒業さえもできなくなってしまう生徒の現状に対する意識改革の手段として意義があるのではないかと考えているからである。

 現実に、資格取得に挑戦する生徒は、資格取得を自分の将来の希望につなげている。

 

 「先生、今の会社に、この学校の卒業生が居てんねん」そういってA君は自分の勤務先のことを話しはじめた。

 現実の社会で、卒業生が立派に活躍している姿は彼等にも励みになる。彼はその卒業生から、在学中に資格を取得するよう勧められていたのである。

 

 B君は、中学のときは不登校傾向であったが、今はほとんど欠席はない。1学期の計算技術検定に合格したことで、勉強ができる喜びを体験したようだ。合格証書はまだかと発表翌日より何回も催促された。本校では、進路指導部が「進路ニュース」を発行しているが、単なる進路情報だけでなく、卒業生の頑張りが紹介されたり、在校生への資格取得啓発を行っている。その中で、検定合格者全員の顔写真の紹介が行なわれたことがある。生徒が嫌がるのではと心配したが、実際には喜んで記念にファイルする生徒も多かった。

 B君は計算技術競技の兵庫県大会の選手にも選ばれ、積極的に学校行事にも参加するようになってきている。

 

 このように科目の中で、関連する資格に挑戦させるための基礎力を確実に身につけさせることにより、教育水準を確保することが定時制高校の評価を高めることになり、結果的にその生徒の進路を保障できるのではないかと考えている。そのために授業等においても指導に工夫をしてきた。

 

 そして、通産省情報処理技術者試験第2種の合格者も現われ、2年連続で短期大学に合格した。

 

 以上述べてきたように、生徒も多様化していることから、資格試験情報や指導方法についての情報交換について、「商用パソコン通信」や「教育ネット兵庫」の活用を図っているが、今後さらに教師側の指導力、専門技術力を高め、地域社会から期待され、開かれた特色ある定時制工業高等学校となるよう努力していかなければならないと感じている。

 (注)執筆年月:平成5年11月


関連情報:平成10年3月地元神戸新聞で資格取得の取り組みが紹介


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