読売新聞2002年7月10日 夕刊

        排ガス沿道汚染の犯人?

ナノ粒子  影響調査   がん、花粉症との関連追求    環境省が来年から

 

自動車の排ガスに含まれる粒子状物質のうち、ナノ粒子と呼 ばれる超微小粒子が注目されている。個数では大多数を占めな
がら、極めて軽いナノ粒子は、汚染物質の総重量を基準とする 従来の排ガス規制では重視されなかったが、呼吸器系の奥深く
まで入り込み、発がん性や、花粉症などアレルギi疾患の原因 が懸念されている。燃費向上のための最先端技術などでナノ粒
子の発生数は増える傾向にあるとされ、環境省は来年度からナ ノ粒子による健康影響評価に着手する。.(石黒 穣)
 

ディーゼル車の排ガスに含ま れる粒子状物質は、一九九〇年 代に入って健康被害の主犯と指 摘されるようになり、環境省は
今春、二〇〇五年から最大85%削減という大幅な規制策を打ち 出した。ところが、粒子状物質 の削減対策は、総重量を左右す
る直径百ナノ・メートル(一ナノ・メートルは十 億分の一メートル)以上の粒子をもっ ぱら標的にしており、粒子状物 質を捕捉する

フィルター(DPF)設計でも、いかに大きな粒 子を逃がさないかに主眼が置か れてきたoこの流れに変化が出ている。
交通安全環境研究所(東京・ 調布)は今年度から、直径五十ナ ノ・メートル以下のナノ粒子の発生状 況に関する研究を本格化

させて いるo手始めに、粒径ごとの個 数を明らかにする計画だが、ナ ノ粒子は水蒸気や温度によって も形態が微妙に変化する

など不 安定で、計測システムの開発も 並行して進めている。
後藤雄一・エミッション技術 研究室長は、「粒子状物質とい えばディーゼル車が主に考えら れてきたが、ナノ粒子を考慮す ると、

排出畳の多いガソリン車 も規制対象になる可能性があ る」と述べる。燃費向上に貢献 しているガソリンエンジンの直 噴射方式は、

高圧をかけて燃料 を細かい霧状にするため、構造 的にナノ粒子が発生しやすいと いう指摘があるからだ。
この研究は、環境省が今年度 から始動させたプログラムの一環で、国立環境研究所(国環研)でも、沿道でナノ粒子が拡散す
る汚染の仕組みの解明を進めて いる。
一方、人間が作り出したナノ 粒子は、元来自然界にないため、人体に備わっている生体防御機構では対処できない可能性が

指摘されている。 ナノ粒子は 表面に有害な化学物質を付着させた構造を持つ と疑われている。このため鼻孔 や気管支では

捕捉されにくく、 肺の奥深くに沈着、あるいは血 管を突き抜けて直接血液に入る 懸念も示唆されている。
しかしこの分野の研究はまだ 始まったばかり。このため、環 境省は、来年度から国環研でマ ウスを便った健康影響評価に
乗り出す計画で、来年度予算 の概算要求で数億円を要求す る。
ナノ粒子対策は、欧州が先行 してきた。スイス政府は、ナノ 粒子と疾患の増大との関係を指 摘した報告をまとめ、これを受
けて国連欧州経済委員会は昨年 三月・将来のナノ粒子規制導入 に向けた専門家グループを発足させた。ナノ粒子の計測法を絞
り込んでおり、現在排ガス粒子 の粒径データの収集に着手して いる。
取得データを基に、どんな規 制が必要かを検討し、来年六月 に報告をまとめる。専門家グル ープの粒子測定プログラム議長
で^英国運輸省のマイケル・ダ ン氏は、「我々の検討結果に基 づいて、政策決定者が新基準を 決定する」と説明する。
自動車の大量輸出国の日本に とって、欧州での規制はひとご とではない。国内でナノ粒子対 策がにわかに動き始めた背景に
は、バスに乗り遅れまいとの危 機感もある。メーカーもその動 向を固唾をのんで見守ってい る。