喜びのソネット 音風祐介作

あなたは自由自在に姿を変える美しい花。

煙突がそびえ、煤煙が私を襲っても私を守るはあなたの瞳。

私が傷つき真っ青になっても、私に微笑をもたらすのはあなたの愛。

あなたは風のように、突然 私の前に現れ、そして忽然と消える。

あなたの住居はどこなのか、私は地図を調べる。

あの街角であなたを見失った、しかしあなたの家はない。

今度は本屋の見える喫茶店でぼんやり窓ガラスを見ていた時、

カラスが舞い、しとしとと霧雨が降り出したその街路樹に、

あなたはひまわりのように健康そうな容姿を星のごとく現わした。

ああ、道は雨に黒く濡れ、行き交う人は忙しそう。

それでもあなたは悠然と瞳を輝かし希望のサインを送る。

その神秘な瞳に宿る解きがたい不滅の法。

牢獄に一条の光が差し込む、その希望の窓の様なあなたの瞳。

瞳の奥から小鳥のごとく飛翔してきた光はわが胸をさす。

 

いつの頃からか、私はあなたの存在に気がついた。

それまでは私がどんなに恋焦がれても姿を現わすことはなかった。

私は自分が歩いている坂道でいつかきっとあなたに会えると確信していた。

坂道は時にぬかるんだり、車が勢いよく走り去ったり歩きにくかった。

周囲は美しい田園ではなく、都会の混沌がおおっていた。

私は時にバスに乗って急いで薔薇園や茶園の近くまで来てから降りた。

そこでは少しは良い空気が吸えると思い、深呼吸をして青空を見た。

私があなたに出会ったのは坂道に疲れ横道に入った時のことだった。

そこは公園になっていて、暖かい光が全てをおおっていた。

私はそこに蜃気楼の様に浮かぶあなたを見た。

ざわざわと緑の梢が風に揺れ神秘な音楽を流していた。

ああ、何という胸のときめき、あなたは紫の衣服を着ていた。

歩きにくい坂道、家々のポストに童話を投函しながら夕日を見る。

沢山の車が排気ガスを出す、そのバス停に清める宝石の様にあなたがたたずむ。

 

坂道はどこまで続くのか、どこかで祭りの太鼓が響いている。

私はあなたを見うしない、心は暗たんとしていた。

先程のあなたの声のささやき、燃えるような命の美は消え去っていた。

耳に残る、目に残る、慈悲の姿が太鼓の音と共に私の胸を打った。

私の胸は張り裂け、涙は泉のごとく噴き出そうとしていた。

夕日が遠い森にかかり、そこの神社で祭りが行われるらしかった。

夕空に浮かぶ雲の色の変化の美しさもあなたの美には会釈をするだろう。

雲は 町に多くの色の人生を送る、あなたは風のごとく命を私に吹き込んだ。

しかし、今は私の心に黒い雨雲がたれ、悲しみは増すばかり。

私は坂道を走り、祭りの人にまじって踊りを踊る。

ああ、歌と踊りこそ私の心にやさしい慰めを与える果物のようなもの。

それ、踊れや歌え。何時の間にか月夜になっていた。

絶望のはてに祭りの太鼓と共に歌い踊るのだ。

月夜と共にあなたの息を感じる、その希望の坂道のために。

 

私は森で踊り、歌いそして眠った、やがて目覚め朝日と共に坂道に立った。

しかし、私は何故か苦しかった、先程そばに流れる清流の水を飲んだのだが。

その川は汚染されていたのだ、私は苦しみのあまり坂道に倒れ意識を失った。

私はその町の病院で目をさまし、そこで多くの人の世話になった。

私は恩返しに、多くの花束を町の人に送り、別れをつげ再び旅を続けた。

坂道は長い、いつはてることもない道はまるで遠い異国へと行くかのよう。

私の身体には逞しいエネルギ−がよみがえり、様々のものを学ぶ意欲に燃えていた。

私は坂道で図書館により、沢山の本を読んだ。

私は美術館や音楽堂に寄り、素晴らしい芸術に触れた。

そんな時、ふと あなたの存在を感じ、私は緑や花を見た。

風が吹き、私の心にさわやかな命が流れ込んだ。

おお、その時 私は見た、滅びることのないあなたの白い手を。

旅の坂道に花束を、そこで学ぶことの感謝のために。

不思議なあなたよ、私の花を受け取るために差し出されたあなたの手。

坂道は喜びの道となり、私はあなたの手にふれながら歩いた。

不思議なことだ、あなたはいつも私と共にいたではないか、永遠の昔から。

私はこの坂道で何度 死んだことだろう、喪服はバスの停留所のようなものだった。

坂道を登りきり、この山道の頂上に着いた時 真実が明らかにされるのだろう。

しかし、今はただ 歓喜にあふれ 周囲の景色を見渡す。

学問と知恵は あなたなしでは空しい。

あなたがいればすべては美しい光で埋まる。

悪魔よ立ち去れ、美しい笛の鳴るこの坂道にあなたと共にあるこの喜び。

ああ、緑の街路樹 星のまたたき 月夜そして又昼の陽光、全ては友達だった。

空気や水を汚し、命を傷つける悲しき者よ、共に目覚めようではないか。

君の中にも、かの愛の人が住み共に歩いていることを。

おお、不滅の光と慈悲を放つ生命の神秘に栄光あれ。

坂道には沢山の科学の宝庫があり、そこで知恵は磨かれる。

頂上にいるあなたは神秘な力で、旅路を応援するために心の宮殿でほほえむ。

{了}

音風祐介