上海特急を鑑賞して

監督 ジョセフ・フォン・スタンバーク

出演 マレーネ・ディートリッヒ

クライヴ・ブルック

困難がある中でこそ二人の愛は深まり、それが観客を感動させる。このパターンは小説でも映画でも共通のようだ。もっとも、パターンという言葉の響きからくる浅い感じよりも、ここには人生の深い意味があるのかもしれない。

「上海特急」という映画もそうだ。時は内乱の中国。上海特急が発車する駅の雑踏はあの当時の雰囲気と中国という巨大な国家の生み出した混沌とでも形容すべき魅力を持つ。

あの重々しい蒸気機関車が沢山の人間とごちゃごちゃした住居と動物の間をゆっくり歩くように進んでいく様も今の日本とは異質だ。そして、一等車に乗りあわせた上海リリーと

いう美貌の謎の女、英軍の軍医でもあるハーヴィ大尉、その他に中国人の謎めいた女、それに神学博士という紳士、病人というちょつと怪しげなドイツ人、フランスの退役少佐とそれぞれが個性があって、楽しめる。

ただ、上海リリーとハーヴイ大尉が五年前、愛し合っていて、誤解から別れるようになり、互いに音信不通になった二人が、この上海特急の一等車で偶然 出会うというのは かなり偶然すぎるという感じがしないでもないが。小説だったらおやと思うことでも、映画はおやなんて思っている暇を与えないで次のスリルと愛の物語に運んでいってくれるから、つい夢中になる。

今の日本のマスコミなどで報道されるモラルを失った世相という観点から見れば、ハーヴィ大尉は勇敢で、色々な意味でとても格好のよすぎる男性なんだろう。僕は以前 西部劇に夢中になったことがあるが、あそこで出て来る主人公の男はたいてい独特の魅力がある。

僕は小説を書くが、現代の日本を書く時 あんな風な男を登場させることが出来たらばと夢見る。そんな日本を夢見ることもある。

 { 音風祐介 }