日本列島の地質CD-ROM版(2002)より引用

1.2 磁気異常

 磁気異常は,現地で測定した磁場と地球の大局的な磁場(世界中の地磁気観測から決定される国際地球標準磁場)との差であり,磁化強度や磁化方向の異なる岩石の分布を反映している。
 太平洋プレートでは,正負の磁気異常が交互に並んだ縞模様が見える。この縞模様は,中央海嶺で湧き出した苦鉄質マグマが固結する過程でその時の地球磁場の方向に磁化しつつ,海洋底の拡大に伴って側方に平行移動することによって作り出されるもので,度々反転する地球磁場の変遷を記録している。日本海溝付近では,太平洋プレートの縞模様が海溝を越えて島弧側まで伸び,その先で徐々に消える。これは,磁化したプレートの沈み込みを反映している。同様の地磁気縞模様はフィリピン海プレート内の四国海盆にも存在する。その縞模様は,ちょうど扇子を広げたときの骨組のように,四国海盆の拡大を記録している。磁化強度が弱いため,縞模様は太平洋プレートほど明瞭ではない。大陸から分離して生じた日本海では,明瞭な地磁気縞模様が存在しない。いくつかの磁気異常は日本海拡大の拡大軸に対応するといわれているが,全体に特徴のない磁気異常が広がっている。
 千島弧や東北日本弧,伊豆-小笠原弧,西南日本弧,琉球弧には島弧に沿って並ぶ火山に対応する磁気異常が共通して認められる。同様に,四国海盆拡大に伴って伊豆-小笠原弧から分離したかつての島弧,九州-パラオ海嶺や,その西側の奄美海台,大東海嶺,沖大東海嶺などにも強い磁気異常が点々と帯状に並ぶ。また,東北日本弧には,利尻島,礼文島付近から東北地方太平洋岸を経て房総半島の付け根付近まで続く磁気異常の帯がある。これは白亜紀の島弧火山列に対応するものである。北海道中央部の日高山脈沿いに延びる,長さ500 kmの磁気異常は,千島弧と東北日本弧との衝突境界沿いに露出する超苦鉄質-苦鉄質火山岩類の分布に一致している。
 西南日本弧では,磁鉄鉱を多く含む珪長質深成岩類が分布する山陰地方に強い磁気異常が認められる。磁鉄鉱の少ない珪長質深成岩類が分布する山陽側の磁気異常は弱く,これと対照的である。堆積岩類を主とする付加コンプレックスが広く分布する太平洋側の地域での磁気異常はさらに弱い。また,琉球弧の背弧盆である沖縄トラフの北西側には,伏在する火山岩によると思われる強い磁気異常がトラフに沿って点在する。