日本列島の地質CD-ROM版(2002)より引用

1.3 重力異常

 図は,陸域で約30万点,海域で約100万点の重力データに補正を施して作成したブーゲー異常図である。ブーゲ異常は,実際の岩石密度から仮定密度を一律に差し引いた残差密度がつくる重力異常で,陸と海の地形による引力の影響を補正して地下構造(岩石密度の分布)を解釈できるようにしたものである。ここでは,仮定密度を大陸地殻の平均密度である2.67 g/cm3とした。
 日本列島及び周辺地域の重力異常の大きな特徴は,大陸地殻からなる島弧が負の異常を,海洋地殻からなる海洋底が正の異常を示すことである。太平洋プレートは,350-400 mGalの変化の少ない高重力異常を示し,高密度のかなり均質な構造のリソスフェア(プレート)であることがわかる。伊豆-小笠原海溝の西側に広がる四国海盆のブーゲー異常は250-350 mGal程度で,太平洋プレートに比べれば100 mGalほど小さい。また,同じく背弧海盆である日本海盆,千島海盆では,200-250 mGalの重力異常になっている。これは,太平洋プレートよりも海洋底が若く,リソスフェアが比較的薄いことを反映している。現在開きつつある背弧盆であるといわれている沖縄トラフの異常はさらに低い。
 太平洋プレートが沈み込む千島弧,東北日本弧,伊豆ー小笠原弧の前弧側にある地形的な高まりは帯状の高異常を示す。これは,浅いところに密度の高い岩石が分布していることを示しているが,その隆起はプレートの沈み込みに関連があると考えられている。この高異常帯の中で小笠原海嶺は 400 mGalに達する高重力異常の地域で,その頂部にある父島や母島には苦鉄質火山岩類が露出し,海洋性地殻の特徴をもつ。
 島弧は海洋地殻からなる地域に比べて一般に低異常となっている。かっての島弧または大陸の断片といわれている九州-パラオ海嶺,奄美海台,大東海嶺などの地形の高まりも,周囲の海洋底よりもブーゲー異常が低い。大陸地殻の薄い伊豆-小笠原弧は,ほかの島弧と比べてやや高い異常を示す。
 千島弧が東北日本弧に突き上げている日高山脈の東側と西側,本州に衝突している伊豆-小笠原弧の前面の関東平野,中部九州に衝突している九州-パラオ海嶺の前面にある宮崎沖は島弧の中でも特に低い異常が認められる。これは,沈降して砕屑物が厚く堆積しているためである。