日本列島の地質CD-ROM版(2002)より引用

1.8 温 泉

 「温泉」とは,一般にはその土地の年間平均気温より高い水温を持つ湧水と定義される。その限界温度はヨーロッパでは 20℃,アメリカで 70°F(21.1℃)であるが,日本の「温泉法」(昭和23年)では25℃である。環境庁が監修した「鉱泉分析法指針」では,多量の固形物質,またはガス状物質,もしくは特殊な物質を含む地中からの湧水を「鉱泉」と呼んでいる。また「鉱泉」のうち,地上に湧出した時の温度が25℃未満を冷鉱泉,25℃以上を温泉と区分している。
 図には,文献調査により3,865ヶ所の温泉・鉱泉を取りまとめ,温度及び湧出量を色及び大きさで表示した。また,温泉の熱源として関係が深い第四紀火山岩類の分布もあわせて示した。地質学的に見ると,日本の温泉は第四紀火成岩関連型(I 型),広域熱伝導卓越型(II 型),深層熱水型(III 型)に分類できる。
 高温かつ大規模な温泉のほとんどは第四紀火山地域に分布している(I 型温泉)。これらの温泉は火山活動と関係が深いことから「火山性温泉」と呼ぶことができる。ニセコ,酸ヶ湯,玉川,那須,箱根,別府,雲仙等,日本の代表的温泉のほとんどはこのI 型温泉である。
 知床,西南北海道,東北脊梁地帯のI型温泉の周辺,伊豆,及び山陰日本海側には,高温泉が比較的集まって分布している(II 型温泉)。これらの地域は新第三紀中新世から第四紀にかけて活発な火成活動があった地域であり,広範囲にわたり高い地温勾配が期待できる地域である。
 新第三紀鮮新世以降の若い地層で覆われた堆積盆地(帯広,石狩,津軽,新潟,鬼怒川,常磐,北陸,大阪,佐賀,熊本等)の深部には比較的高温の温泉資源が賦存している(III 型温泉)。このような地域では,1,000-2,000 mの深さまで井戸を掘ることにより高温の温泉を得ることができる。なお,この種の温泉は火山活動と無縁なことから,「非火山性温泉」と呼ぶことができる。
 温泉の中には,有馬(兵庫),白浜・湯の峰(和歌山),湯田(山口),嬉野(佐賀)のように,その成因(特に熱源)が十分明らかにされていない著名な温泉がある。しかしながら,中生代以前の古い地層には高温の温泉はほとんど見られない等,一般には温泉分布と地質分布の間には密接な関係のあることを図から読み取ることができる。