日本列島の地質CD-ROM版(2002)より引用

1.9 地殻熱流量

 地殻熱流量は,地球内部から熱伝導によって地表に運ばれる熱の流れを示すものである。図では,海域と陸域の熱流量を7段階に分けて色で表わしている。大局的に見ると,太平洋プレートで低く,火山フロントに沿って高い。火山フロントの背後から縁海にかけては中間的な値であるが,沖縄トラフだけは高い。
 太平洋プレートは,日本周辺では最も古い海洋地殻であり,冷却していて熱流量は低い。太平洋プレートが日本海溝に沈み込む海溝付近での熱流量は一般に50 mW/m2より低い。
 東北日本弧,特にその本州部分は,島弧モデルの古典的研究が行なわれたところである。地殻の東西断面の深部構造が熱流量の特徴を用いて議論された。海溝から北上山地,阿武隈山地までの低熱流量,火山フロントから背弧海盆である日本海までの高熱流量が際立った対照をなしている。火山フロントとそのすぐ背後にある地域は,高熱流量ではあるが熱水や地下水の流動によって変動が大きい。
 北海道では,日高山地の西側から石狩低地帯を経て稚内へ続く地域に,低熱流量の領域が存在する。この地域は,重力の負の異常(ブーゲ異常)などにも顕著に見られるように厚い堆積物が埋積する沈降帯であり,その西に存在する北海道南西部の火山岩地域とは明瞭な違いとなっている。
 四国海盆では熱流量が大きな変動幅を持って観測され,海洋地殻または堆積物の中の水の循環の影響と解釈される。南海トラフの熱流量は,220 mW/m2に及ぶ高異常の点があるなど,通常の熱伝導モデルでは説明できない。これは,間隙水が断層を通って深部から上昇することによると解釈される。九州-パラオ海嶺から西のフィリピン海プレートでは,全般的に熱流量は低くその変動幅も小さい。
 九州南部の霧島から鹿児島湾に延びる地溝帯は,大規模なカルデラが連なり火山活動が活発な地域で,顕著な高熱流量域となっている。さらに南方の琉球弧においては,帯状配列をしており,琉球海溝と南西諸島では低い熱流量,沖縄トラフでは平均的には高熱流量である。沖縄トラフには,局所的に極端に高い熱流量(熱水上昇)と低い熱流量(海水浸透)とが共存する特徴を示す海洋底熱水活動がみられる。
 日本海の最西端をなす対馬海盆は,熱流量が86から119 mW/m2と比較的変動幅も少なく,均一な熱流量を持つ大和海盆や日本海盆(いずれも平均熱流量値は110 mW/m2程度)と類似している。