出羽鶴酒造見学レポート

出羽鶴酒造へ

 大曲の駅へ伊藤洋平さんをはじめ3台の車で向かえに来てくださり,蔵まで運んで頂いた。僕は佐渡技師長の車に載せて頂き,そこでいろいろとお話を伺うことができた。

 天気は悪くなかったが,降り積もった雪の量が半端でない。田んぼのずっと向こうまで真白である。人も全然見えない。今年(1998年から99年にかけて)は130cmの積雪があり,雪下ろしを2回もやった。佐渡さんが子供の頃にヨンパチ(48)豪雪があり,その時は4〜5回くらいの雪下ろしをやった記憶があるそうだ。

 出羽鶴の生産高は5000石,系統は山内杜氏系だそうだ。まだ普通酒の割合が多いが,(本醸造以上の)特定名称酒にも力を入れている。そのために蔵も特定名称酒用にリニューアルしたそうだ。

 開放サーマルタンクを導入しているが,(機械任せにしないで)手動でオン・オフしている。自動温度計測だと測定箇所が1箇所であるが,人間がやれば何箇所ものポイントを測定することができる。

 蔵には17名の蔵人がいて,全員が地元の人で通勤している。
 蔵人のうちの4名が女性だ。秋田県内では最も早く(20年前)女性が入った蔵である。
 土日も休みなく酒を作っているけれどローテーションで休みを取るようにしているので,17名の蔵人のうち実際に仕事をしているのは14〜15名になる。

仕込みタンク

 白衣に着替えた後,仕込タンク(写真)に行く。やまとしずくの1500kgタンク(純米吟醸,麹は有機の美山錦50%,掛米は同じ米55%),山廃12号(麹有機美山錦60%,掛米トヨニシキ60%)などがズラーっと並んでいて圧巻だ。

 次に速醸酒母室を見に行くのだが,途中に山廃酒母室(専用の部屋)があった。山廃造りは微妙なのか中には入れなかったが,逆に気合が伺える。速醸主母室(写真)では,メロンの香り,バナナの香りのするものなどがあり,部屋にいるだけでとても気持ちが良くなってくる。

蒸米

 連続蒸米機は昭和44年から使用していて,最大3000kgまで連続して出せる(1500kg/H)ものらしい。昔は実際に 3000kg 仕込んでいたそうだ。

麹室

 1昼夜たった麹(写真)があり,もう1昼夜おいてから出て行くそうだ。
 麹室は暖かいけれど湿度は低く(40〜45%)する必要がある。吟醸用の麹の場合には 40%以下にする。ただし西の方の蔵では逆に湿度を高くするところもあるということで,ここでも酒屋萬流だなあと思う。

 湿度を低くするのは,麹の菌糸が米の内部に伸びていく(はぜこむ)ようにするためだそうだ。麹菌は水分を好むので米の表面を乾かすと,水分の多い米の内部へ入っていくのだそうだ。

洗米

 山田錦50%精米したものを浸せきしていた。洗米した米が手にべとべと付くようでは駄目である。今年は米(の質)が不作だったので,いつもより丁寧にやっているので意外と融けなかったそうだ。米が融けすぎると何がいけないかは,最後のお話で解る。

吟醸タンク(開放サーマルタンク)

 開放サーマルタンク(写真1写真2)の脇に少し古い249号タンク(2.163l)(写真)が置いてある。このタンクで造った酒はよく入賞するので,縁起をかついで使うことにしたそうだ。

 そこで出品酒の選定方法について伺う。出品酒は5本あるタンクのそれぞれで時間を分けて搾って候補にする。候補の中で最も良いものが出品酒になる。

搾り

 いまでも槽(写真)を使って搾っているそうだ。搾りたての酒が残っているかもしれない,との説明に我々は飛びつく。「残っていないみたいです」の声に一同がっかりするが,パイプ中に少し残っているみたいだ。パイプを持ち上げて,酒をジャバジャバと桶に落とす。さっそく桶から汲み上げて味見(写真)である。まだ新酒の荒さがあるが,出羽鶴らしいしっかりとした味だ。

きき酒

 さっき蔵の中で飲んだ搾りたての酒と同じ仕様で2週間前に搾ったもの(出品酒仕込み36号ホだそうだ)と, 純米 松倉を味わう。良い。

洋平さん、佐渡技師長のお話し

 きき酒を終えて一段落したところで,伊藤洋平さんと佐渡技師長のお話を聞く。

 昨年から山廃のやまとしずくも出羽鶴で作るようになったそうだ。秋田酒造には出羽鶴と刈穂の2蔵があるが,出羽鶴は春先がよくて、刈穂は秋によくなってくるという特徴があるそうだ。

 米が融け過ぎると,酵母が栄養過多になって,余分な酸が出たりして雑味が多くなるのが良くない。米を融かさないために,限定吸水による洗米で水分を調節している。蒸米がうまくできないと良い麹はできない。良い麹を作るためには良い蒸米が必要である。

 今年は米が不作だと思った割には融けないで酒粕が多く残った。大吟醸というからには粕は50%以上にならなければだめという杜氏もいるくらいだ。


 1俵3万円の米を35%まで精米して,さらに50%が粕として残る。つまり、0.35×0.5 = 0.175 で玄米の17.5%しか使っていないことになる。
 確かにぜいたくではある。だから美味しくあじわいたいなと思った。