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平成11年 8月20日号通算80号 |
の日本酒を飲む会 ニュース |
「吟醸酒はいいけど高いからなぁ」という言葉をよく聞く。たしかに安い酒に比べれば吟醸酒は高い。それでうまけりゃいいんだけど,まずいのもある。
高くてまずいのについては別に書くことにする。今月は安い吟醸酒を紹介しよう。それはどうしてできるのかである。
ファミリーレストランチェーン店に入ったら,テレビで有名な銘柄の大吟醸があるではないか。それが安いのだ。300mlで800円。これは安い。注文して飲んでみた。飲めた。まあ,良心的な地酒メーカーなら本醸造でもこのぐらいの品質レベルは間違いない。でも,一方は大吟醸,一方は本醸造だ。
宣伝だけをよりどころに市場を押さえてきたメーカーたちは,テレビCM不信族が発見して育てた吟醸市場を放っておくはずがない。その市場に入り込むのにテレビCMに合わせ,廉価戦略をとった。それが廉価大吟醸なのである。多くの消費者は,すでに市民権を得た「大吟醸」のレッテルに目を眩ませるだろう。その多くは本物の大吟醸を知らないのだから。
本物論やうまいまずいは別にして,どうしてこんなに安く大吟醸を出せるのだろうかを解明してみる。
飲食店で800円のその酒の小売価格がいくらかは私は知らない。推定するまでもなく,この酒はゼッタイに安い。これが正しければ高くてうまい大吟醸は,「ボリ過ぎ」なのだろうか。その辺を推理してみよう。
まず,大吟醸の定義だが,精米歩合50%以下,アルコール添加量白米1トンに純アルで120リットル以下,あとはどうでもいいのだ。どんな米を使ったか?米からどれだけ酒を搾ったか?正確なアル添加量は?市販商品のアルコール度数は?うまさを左右するポイントは抜け穴だらけなのだ。
テレビなどで宣伝している○○仕込みだとか●●法だとかをやると,約2割,酒が余計にとれる。それで酒粕の相場が上がったことは前に書いた。
次にアルコール添加量だが,品評会に出す吟醸づくりでは80リットルなのだが,120リットル目一杯入れてもドーッテコトはない。つまり酒をどれだけ搾ろうと,アルコールは目一杯入れようと,どこにも表示する必要はないのだ。だから表示していない。
市販商品になる時,アルコール度数を何度に調合するか,これは表示されている。
それらを整理してみよう。
1.酒の歩留まり
A法 350リットル
B法 420リットル
2.アルコール添加
A法 80リットル
B法 120リットル
3.(1+2=)
A法 430リットル 1.0倍
B法 540リットル 1.26倍
4.市販アルコール度数
A法 18% 1.0倍
B法 15% 1.2倍
5.トータル
A法 1.0×1.0=1.0倍
B法 1.26×1.2=1.53倍
つまり,米を同じだとすると,A法でつくるのとB法でつくり調合するのとではなんと1.5倍の量の違いが出るのだ。B法の酒は,少しだがアルコールが少ない分,酒税も安くなる。それはさておいて,
A法の酒が1,000円なら,
B法の酒は667円でできる。
これは手品でもなんでもない。この二つの製法,調合法は,レッテルにある表示でわずかにアルコール度数だけはわかるが,あとはすべて「闇の中」なのである。アルコールを多く添加した分は間違いなく原価が下がっているはずだし,まして,どんな原料米を使っているのかは知る由もない。大吟醸の表示だから精米歩合50%を切っているのは確かだが。
このような酒づくりは違法でもなんでもない。「良心的ではない」と非難するわけにもいかない。もし,「良心的な」表示とはと問われれば,「ある」と答えることができる。良心的な酒蔵がこれと同じような製法で同様な品質をつくりだしたら,たぶん「特別本醸造」と表示するだろう。「特別」とは自社の他の本醸造よりも5ポイント以上精米を高めているということである。
この基準を当てはめれば,他の大吟醸(品評会出品酒)より5ポイントは精米歩合は低いだろうから「別特」と表示するか。
この「良心的表示」は,ひたすら蔵の「良心」に委ねられている。
それで流れはどう進むのだろうか。グレッシャムは「悪貨は良貨を駆逐する」といった。貨幣(金貨)の額面と大吟醸の表示は同じだ。とすると品位の低いものが市場を闊歩するだろう。そしてやがて「大吟醸ってこんなもんか」と市場から捨てられることになる。すでに「吟」と名付けたビールが前例としてあるではないか。
「それを防ぐのはつくり手の良心」というのは,泥棒に法律を作らせるようなものかも知れない。一部の吟醸酒ファンの先達たちの力で流れは留められるだろうか。
幻の日本酒を飲む会は昭和50年12月(1975)にスタートしました。この12月には第25年目に入ります。
この小さいサークルが吟醸酒を世に出し,ブームを担ったことは,間違いありません。
学術団体である日本醸造協会から,平成5年度石川弥八郎賞をいただいたので,世間はそれなりに功績を認めているのですが,さりとて25年目を迎えたからといて何かをしてくれることはないでしょう。自ら両手両足の指を折って年を数えるしかありません。
さて,この四半世紀記念に,何をやりましょうか。こんなふうにという希望がございましたらお寄せ下さい。 篠田次郎
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篠田次郎