第30回木陰浮月粋人盃例会

 6月16日,武蔵小杉の栄鮨で30回目の粋人盃を行ないました。前々から栄鮨さんで会を行ないたいと思っていてもマスターの店も忙しく,そうそうお願いできずに米百俵,越の井月以来の久々の実現となりました。

 さて今回楽しんだ吟醸酒は,私の酒友・熊本の酒販店たわらや酒店の宇野功一さんの協力によって行なうことができました。

 彼がまだ学生の頃,西の酒米のルーツとなる神力(しんりき)の種籾を手に入れました。明治時代から昭和の初期にかけて神力米は西日本一帯で栽培されており,明治40年には50万歩にもおよびました。空前絶後の大品種であり東北地方の亀の尾とともに一世を風靡しました。戦前戦後を通してこの記録を塗り替えるのは「コシヒカリ」の登場を待つしかありません。

 時代とともに品種は改良されてゆき,いつしか「神力」は絶えてしまいました。彼はこの品種をいつか酒にしたいと常々考えておりました。日本酒をとおしてさまざまな人との交流の中で彼は原誠一さんという篤農家の方に出会います。

 原さんは自分の作った米で酒を造りたいと考えていました。この2人の劇的な出会いで神力の作付けがスタートしました。多くの日本酒ファンとともに7g・316粒の種籾は平成8年3月に熊本・千代の園酒造さんの協力で遂に純米吟醸「神力」として半世紀ぶりによみがえりました。栄鮨さんの料理といっしょに今年で三造りを終えた神力を3年分いっきに楽しみました。その年,その年の酒造りの気合をしみじみと感じました。

 酒鮨のマスターも「神力」の味の幅にあわせた料理を提供してくださり,参加された皆様の盃もずいぶんとハイピッチで進み,あっという間のひとときでした。

 「神力」を提供してくださった宇野功一さんとファンの皆様,そして栄鮨のマスターにこの場をかりてお礼申し上げます。「ありがとうございました」。
 また3年したらば,今度は6年分まとめてたのしみたいな・・・。