番外編@
人生でもっとも長い日!!1996年7月13日(土)
さあ、今年で30歳だ。何をすれば良いのだろう?
いきなり変な書き出しだけど、このときの俺は、何かに挑戦したい気持ちで一杯だった。特に無理だと言われている事については、やたらとムキになって挑戦したくなる。この時考えたのは、俺は自転車で1日何キロ走れるのか?と言う事だった。これは簡単なようで難しい。口ではこれが出来るという事と、実際の行動に移す事は全く違う。
もし自分がこういう環境だったら何々するとか、何々出来たとか日常でも良く聞かれる言葉だけど、良く考えると「でも出来なかったんジャンか!」と思う事が多い。そういう意味で、俺が一日走れば「○○キロは走れるぜ」では無くて「一生懸命走ったら○○キロ走った。」というものが欲しくなったのだ。
「よしやろう!!」
この時頭の中で決めた事は、30歳で300キロ。35歳で350キロ。40歳で40キロ??(400キロは無理かな?)と言う事だった。
地図を見ながら計画を立てる。今回の計画は距離が目的であり、それ以外は何も無い。峠とかを越えるのも時間がかかるので意味が無い。一日で家から出て家に帰ってくれば、全く荷物は必要とならず、軽装で思い切ったチャレンジが出来る。精神的にも肉体的にもものすごいプレッシャーだ。平坦な道約150キロを地図で探す(往復300キロ!!)。
見つけた!!国道6号線、つまり水戸街道。ここは限りなく平坦な道が続き等高線も全然変らない。和光市に住んでいたので、距離を計ってみると水戸市を越え日立市まで行かねばならない。しかも一日のうちで往復するのだ!!
都市名を見ているだけで、無理そうだ。マウンテンバイクは、平均時速20キロぐらい。単純計算すると15時間走らなければ、300キロにならないのだ。5時間の休憩を考えても20時間。昼には日立で折り返したい。150キロを昼までには走破しないと、苦しくなってしまう。
出発日は誕生日ちょっと前の7月13日。出発時間は午前2時に決定。遅くなっても昼には着くだろう。あとは野となれ山となれ!
いつものとおり、出来るかどうかの不安が先行していってしまうため。みんなに300キロ走る事を宣言して、自分を逃げられないようにした。内心止めときゃよかったと思っていたのは言うまでも無い。
会社から帰って気持ちを高めながら夜9時過ぎから寝る。起床は午前1時。眠れないと思っていたらすぐ眠れてしまった。あとは天気を天に任せるのみだ。
午前1時に目覚ましがなる。気合が入る。起きるとすぐ頭ははっきりとしていた。
「行くぜー!!」
出発だ!水戸街道までの道のりは良く知っている道だったのと、水戸街道に入ってからは一直線なので道に関してはわからないところは無い。アドレナリンが吹き上がった。目から火が出そうだ。
「ん・・・。」
「ん・・・・・・・?」
「ん・・・・・・・・・・・????」
走り始めて、1キロ程。後輪からアスファルトの感覚がじかに伝わってきた。
「ありゃー!パンクした−−−−!!」
体の事は良く気にしていたものの自転車のコンディションの事は全く考えていなかった。
「何で、パンクすんだー!!」
気持ちが急になえてしまう。正直止めたくなった。しかし止めるわけには行かないのだ。「30歳記念。1キロで断念!」頭の中でスポーツ新聞の1面の見出しが浮かんだ。そんなわけ無いんだが、自分にとってはそれ程の一大イベントなのだ。パンク修理しながら頭の中で自分に応援して、何とか気を取り直した。
修理が終わり、約30分ほどのロスを取り戻すために再スタート。
「明るくなるまで休憩しねーぞ!!」
走った!暗い夜道を走った!他の人には理解できないこの自分だけのイベントを走りまくった!!
「俺はいったい何者何だろー?なんてだ走ってんだろー?」一般的な理論が頭の中を駆け巡る。
「俺自身に挑戦してんだ!」自分の中で自問自答していた。
信号の多い千葉市内を抜けて取手に入った頃、朝焼けが見えてきた。信号の間隔が急に長くなりスピードが出やすい。
「よーし!行けるぜー!」
だんだん日が昇ってくると、気温が急激に上昇してくる。最近は日中がすごく暑くて毎日35度ぐらいになる。今日もそんな天気だ。そんな中でも気を抜かず懸命に走る。土浦を抜け水戸市に入った。周りを見ると観光したいような町並み。しかし今日は目的が違うのだ。
午前10時ごろ水戸駅につくと、一気に疲れが放出してきた。
「きつい。きつすぎる。しかも暑過ぎる!」
これから日立に行って戻ってくる事などとても考えられなかった。そんな体力があるとはとても考えられない。でも、止めるわけにも行かない。
「目標を日立市にしよう。日立に行ったらどうするか考えよう。」
急に気持ちが楽になった。「あと少し走ればいいんだ。」と言う事が、自分を勇気つける。
その後走り始めてから、急に視界が狭くなった。なんと言っても時計についている温度計の表示は40度を超えている。しかも雲ひとつ無い日差しの中、歩いているだけでも辛いのだ。
休憩の感覚が徐々に短くなってきた。はじめは日差しと気温という敵が無かった事と、強い目的意識に刈られた事で70キロを無休憩で走破。それから30キロで休憩となり、次は15キロで休憩。走り始めると休憩したくなる最悪の状態。しかも我慢して走っていると、記憶が跳び始めてきた。休憩して地図見ていると、ここの走っていた10キロが思い出せないなどの症状が出てきた。
「あと、少しだ。頑張るんだ。とりあえず日立だ!!」
メーターを見ていると、あと10キロをきった。走る!走る!!
「やった−日立だー!!」
やっとの思いで、日立に到着。しかし、俺はすでに廃人のようになっていた。ジュースを飲みながら、到着した駐車場の日陰で気絶してしまった。
「足があちー!」日が傾いてきて、足に日が差していた。30分ほど経ったのだろうか?起きると時間は昼の12時だった。一瞬何しているのかもわからなかった。正気に戻り、予定通りであったことに、感動した。「何だ出来るじゃねーか!」
「帰り道は、道が分かるところから遠回りしよう!!」突然思い立つ。なぜなら300キロを越えなければならないからだ!!どこまで距離が伸ばせるのだろうか?最後までチャレンジしたい。30歳で300キロオーバーだ!
新たな目標を掲げて、日立市を出発!!
「あちーよー!助けてクレー!」たまに叫びながら走っていた。帰り道は、記憶の跳び方も半端ではなかった。1時間ぐらい何をしていたかわからないような走行時間もあった。
コンビニの駐車場でそれから2度気絶する。
「もう、二度としねーぞ!!」心の中で叫んでいた。
土浦のセブンイレブンで、きれいな夕日を見た。なぜか気持ちを落ち着けさせる。パンをかじりながらジュースを飲み、ここで300キロ達成の確信をする。「あとは自分との勝負だ!!」
暗くなるにつれて、体力を奪う日差しから開放され、徐々に達成感を感じながら走りつづけた。
三郷のセブンイレブンで休憩していると、トラックの運ちゃんに話し掛けられた。
「どこからきた?」
「水戸です。」
「そりゃ−すげーナー。がんばれよー。」
嘘ついてしまった。本当の事いうのが変人だと思われそうで、言えなかった。「和光市から日立行っての帰り道です。」と言ったら運ちゃんも何も言わずに行ってしまいそうだ。
「人に言うために走っているのではなく自分だけへの挑戦だからいいのだ。」と思った。(でもHPで発表してるじゃねーか?)
又走り始めると、今までの道のりが走馬灯のようによみがえってくる。「やったー!よくはしったー!あと少しだ頑張れ−!」
遠回りしたので、メーターが300キロを越える。「うれしー!!!」
ついに到着!家の玄関で倒れておき上げれなくなった。
全走行距離308キロ。平均巡航速度20キロ。午前2時出発午後10時到着。走行時間15時間。休憩他で5時間。
和光市から日立市そして和光市へ。
30歳記念の完成だ!ちなみに35歳記念の距離でのチャレンジはしないとこの日固く誓ったのだった。
おわり!!
チャレンジや冒険は、長期間無くても出来るのだ。たった一日の出来事なのだが、俺にとっては長い長い一日の冒険の旅だった。