Sports
medicine
健康か病気かという判断は、概して肉体の作業能力に基づいて行われる。作業能力とは特定の課題を遂行するための心理的・物理的能力であると定義される。スポーツでの虚弱症候群(Kollapssyndrome)は厳密な意味で臨床医学に属し、これが観察されるのはほとんど競技場に限られていたため、これまで内科や神経科の教本には取り上げられなかった。
スポーツ医学はもともとスポーツ外傷学から出発し、当初はスポーツ事故の救急措置に関するものであった。その後まもなく感覚器官ならびに運動器官の慢性障害にも関心が持たれるようになり、特定のスポーツ種目に多発する事が多いため、スポーツ障害と呼ばれるようになった。今日では医学的な治療や手当てという従来の課題に加えて、スポーツ障害及び障害の予防をめぐる仕事がますます増加している。
スポーツ医学とは学際的な学問であり、運動、トレーニング、スポーツならびに運動不足が健常者と患者に対して与える影響を性別、年齢別に分析し、その所見を予防、治療、リハビリテーションならびにスポーツそのものに役立てる学問である
突発性、急性のスポーツ外傷と異なり、長い間スポーツを継続する間に、 小さな力が繰り返し加えられることによって生じる障害をいう。 関節炎、骨膜炎、腱鞘炎、疲労性骨折、腰痛症などがある。また
野球肩、野球肘、テニス肘、水泳肩、ランナー膝、ボーリング母指などの
特定のスポーツと密接な関係を持つ障害も多い。スポーツ障害の予防は、適切なトレーニングを実施することと、その都度ストレッチングやアイシングなどの手当てを施し、疲労を蓄積させないことである。特に成長期の青少年では、一種類に偏ったスポーツやトレーニングを避け、全身的な体力に向上を図ることが必要である。
参考 『スポーツ医学』
著者 K-D.Hu"llemann
(1989 オーム社)
筋肉を挫傷したときも、靭帯を捻挫した時も、骨折した時も、ほとんど全てのスポーツ外傷に適応できる最初の治療法である.
休息(Rest)
運動その他の活動を引き続いて行うと、怪我が悪化する事があるので休息が必要となる。怪我をしたら直ちにその部位を使うのを止めること。三角巾か松葉杖を使うこと。
氷冷(Ice)
氷は、血管を収縮させるため、破れた血管からの出血を抑える。傷口に集まる血液量が多ければ、それだけ治るのに時間がかかる。
圧迫(Compression)
圧迫は、放置しておけば回復を長引かせる腫れを抑える。怪我をすると周囲の組織からその部分に血液と体液が流れ込み、組織を膨張させる。腫れは、細菌を殺す抗体を運ぶので、有益である場合もある。しかし皮膚が破れていないときは、抗体は不要で、腫れは回復を長引かせるだけに終わる。
高挙(Elevation)
怪我の部位を心臓よりも高く持ち上げ、重力の働きによって余分な体液を排出するのである。
怪我をすると数秒で腫れてくることが多いので、RICEはできるだけ早く始めなければならない。医師の指示を待つ必要はない。
まず怪我の部位にタオルをかぶせる。その上にアイス・パックか氷の小片か塊を乗せる。皮膚を傷めることがあるので、氷を皮膚の直接に当ててはならない。
圧迫するためには、怪我の部位の周辺を氷の上から伸縮性の包帯を強く巻く。強く巻きすぎて血行を妨げる事がないように注意しなければならない。血行が妨げられた場合、しびれ、痙攣、痛みが現れる。こうした症状のうちいずれか1つでも現れたら、直ちに包帯を取ること。それ以外は30分間アイス・パックと包帯をそのままにしておくこと。次いで、皮膚を温め血行を良くするために、15分間包帯を取る。それから再度包帯をする。
この手順を3時間繰り返す。3時間後まだ腫れがあり、痛みが強くなるようであり、しかもまだ医師の診察を受けていない場合は、直ちに医師に診てもらうこと。
スポーツ障害の例 ―――― シン・スプリントについて
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シン・スプリントとは、下腿前部の鈍痛を大雑把に表現するためにコーチやトレーナーや一部の医師が用いる言葉である。シン・スプリントは、ランナーやランニングバックに最もよく起こるが、ほとんど全ての走るスポーツマンがこの障害にかかる可能性をもっている。シン・スプリントはシーズンはじめに起こる症状である。
下腿前部に痛みが生じるのは、4つの異なる理由による。
@ 下腿骨の後面から始まり、足のアーチを支えている後脛骨筋の挫傷もしくは断裂。約75%の向うずねの痛みは、この筋肉の使いすぎによるものである。
A 下腿の骨の骨膜の炎症。これは脛骨骨膜炎と呼ばれる。これは、後脛骨筋の障害の約10%の割合で生じる。
B 前区画症候群は(脛骨前症候群)、下腿前部の3つの筋肉への血液の供給が妨げられることによって生じる痛みを伴う障害である。
C 脛骨疲労骨折は、下腿骨にひびが生じることである。
これら4つの状態は運動に伴って痛みを誘発する。休養をとれば、痛みは消える。この痛みは1〜2インチ(約2.5から5.1cm)内の範囲に集中する。
シン・スプリントの例 ―― 後脛骨シン・スプリント
原因
後脛骨筋は下腿骨(脛骨)の後面を起始とする。下腿の前部にある向うずの骨を触り、手を下腿の内側に滑らせると、後脛骨筋の起始部を触れることができる。この筋肉の本体は強い腱を形成し、この腱は内果(内くるぶし)の後部を下がって足のアーチの上部(足の舟状骨)に付着している。この腱が足のアーチを支えている。
痛みは使いすぎ――運動のストレス――からくる。足を下ろすたびに、後脛骨筋が緊張して足のアーチを支える。1マイル(約1.6km)走るのに、毎分50〜70回も各足のこの筋肉にストレスをかけている。
偏平足(極端な回内)の人の場合、後脛骨筋腱が、よく発達した足のアーチの人の場合よりも激しく働かなければならない。偏平足である事は、走ったり運動するたびに後脛骨筋腱を絶えず引っ張ってしまうことになる。
このストレスは後脛骨の後面の筋の起始部まで直接達する。偏平足の場合、筋肉の付着部が脛骨からもぎ取られることがある。この場合90%は、骨からの剥離は緩慢に進行するが、症状は時が経つにつれて重くなる。
診断と治療
後脛骨シン・スプリントによる痛みは、初期の段階では運動を中止してから2〜3時間後に始まる。この痛みは、筋線維の断裂から生じる鈍い痛みである。症状が進むと運動を再開するとすぐに痛みが始まるようになる。最善の治療は安静である。1週間、ランニングや運動を止めることである。
圧痛のある個所を、1日2回20分間、氷で冷やす。これを2日間行う。その後、1日2回の温熱療法を開始する。毎日6〜8錠のアスピリンを飲んで炎症を和らげる。
後脛骨筋のストレッチングや強化運動を行う。後脛骨筋の強化運動としてトゥ・レイズ(つま先立ち)を行う。また、後脛骨筋ストレッチングには傾斜面を利用するか、ウォール・プッッシュ・アップを行う。安静、氷冷、アスピリン、ストレッチングが1週間経っても効果を表さない場合、医師に診てもらう事である。
治療法として、オーソティクスが利用される。オーソティクスとは、足のアーチの扁平かを防ぎ、脛骨の筋肉の付着部の緊張を除く注文製のアーチ・サポートである。硬いプラスチック製のアーチ・サポートはあまり快適ではない。半硬質のタイプのものが適当である。どの靴を履くときも、このオーソティクスを着用すると良い。
このように靴による矯正を行っても、筋肉の付着部の傷が治るには2〜3週間かかる。さらに1週間はランニングを一切止め、その次の10日間のランニングはスピードを半減させ、距離も半分にする。このときまでには傷も完全に治り、通常の全力運動に復帰できる。アーチ・サポートによる矯正が適切であれば、この怪我が再発することはない。
参考 『スポーツ・ヘルス』
著者 ウィリアム・サウスメイド
マーシャル・ホフマン
(ブックハウスHD)
高温または高温環境下で、激しい身体活動を続けると、体温調節による体熱の放散が十分行われなかったりするために種々な症状を呈する。
一般に高温による身体への影響は、その程度や持続時間のほかに、いろいろな因子によって左右される。主なものとして運動の強度、時間、高温に対する慣れ、衣服、睡眠不足、疲労、飲酒、年齢、健康状態、食塩及び水分の摂取量などがあげられる。
(1) 熱痙攣
高温環境で強い身体運動を続けると、多量の発汗が起こり、水分と塩分の喪失が起こる。この際、水分のみを補給すると、塩分欠乏状態になる。
はじめに、めまい、耳鳴り、づつウ、吐き気、呼吸困難などを訴える。四肢、腹部その他の骨格筋の激しい痛みを伴う痙攣が起こる。そして、血液の濃縮、血中・尿中クロール、ナトリウムの減少をみとめる。
応急処置としては、冷所で安静をとらせ、食塩水あるいは食塩、重曹などを与える。予防としては、飲料水に0.1%くらいの食塩水や食塩を与えるのがよい。
(2) 熱疲労
酷暑に続く夏、特に猛暑のはじめ数日間にまだ暑さになれない時期によく見られる。症状は、脱力感、倦怠感、疲労感、頭痛、めまい、食欲不振、悪心、多汗、顔面蒼白、頻脈、呼吸速迫、血行降下などである。意識が混濁したり、失神することもある。 これらの症状は、内臓から皮膚血管へ血液の分布が偏るというような血管運動神経の失調か、あるいは細胞外液の減少によって起こるものと考えられる。体温は正常かむしろ低下する。血液のクロールには著変がない。
男子より女子のほうがかかり易く。高温になれている者はかかりにくい。睡眠不足、飲酒、水分・塩分の摂取不足は本症の発生を促す。
冷所で安静を取らせ適当な水分・塩分をとらせる。ブドウ糖液の注射を行う。
(3) 熱射病
高温により体温の放散が妨げられる一方、運動により熱産生が高まるために、熱のうったいを起こし、体温の異常上昇をきたす。最も特徴的な症状は中枢神経の障害、発汗停止、体温の上昇である。
症状は急激に始まるが、ときには高温環境を離れて数時間後に発症する。前駆症状として、頭痛、めまい、悪心、嘔吐、視力障害などを訴えることもあるが、体温が上昇するにつれて、意識障害が起こり、興奮、痙攣、昏睡などの脳症状を呈する。顔面は紅潮し、発汗停止のため皮膚は乾燥して熱く、体温はしばしば40℃を超える。初期には脈拍は充実して大きく、頻脈、脈圧大、最大血圧上昇、拍出量増加、呼吸は深く大きい。瞳孔はやや拡大し、筋は弛緩している。重症では脈拍微弱で速くなる。血圧降下、顔面蒼白、呼吸も浅くなる。体温が41.5℃を超え、末梢循環不全を示すと予後は悪い。
参考 『スポーツ医学』
著者 石河利寛 松井秀治
(杏林書院)
疲労性骨折 (Stress fracture
or fatigue faracture) |
小さい力でも 骨の一部 過度にに繰り返し負荷が加わることによって生じる。一般的に 痛みは軽く 通常3〜4週間でトレーニングが再開できる。スタート・ダッシュ ハードル練習による 中足骨疲労骨折、 長距離走による脛骨疲労骨折、うさぎ跳びやバレーボールのローリング・レシーブによる ひ骨疲労骨折、中高年のゴルフによる 肋骨疲労骨折が多く発生する。
激しいスポーツや 慣れない運動の後で筋肉に生じる痛みをいう。筋の緊張亢進であり 凝りや腫れ 関節を動かしにくくなるなど、局所的な機能障害を生じる。 この原因には 筋線維の損傷(筋線維損傷説)、局所筋脛縮による 筋血流の減少(脛縮説)、 過度の筋伸張運動による筋肉中の結合組織損傷説(結合組織の損傷説) の三つがある。
過換気症候群 (Hyperventilation
syndorome) |
運動・疲労など身体的要因や 緊張・興奮などの心理的要因による必要以上の換気が持続すると 動脈血中の二酸化炭素分圧の低下と血液中のphの上昇をもたらし 呼吸性のアルカローシス(アルカリ血症)になる。この状態では 脳血管の収縮による脳症状、結成カルシウムイオンの低下やアルカローシスによる筋肉症状、交感神経刺激による胸部症状を起こす。発作時の症状は 発作性呼吸困難、めまい、胸部圧迫感、胸痛、四肢の痙攣、手・口唇のしびれ感、発汗 などである。 発作がおきたら 応急処置として紙袋など(ビニールは窒息のおそれあり)で口と鼻を被い 自分の呼気を再吸収するかゆっくりと鼻で呼気を行う呼吸法が効果的である。
3000m以上の高地で発生する病気。 原因は酸素の欠乏で 症状は呼吸困難、疲労、頭痛、嘔吐、不眠、食欲不振など。 また 7000m以上では 生命が危険であるとも言われこのクラスの登山には 酸素吸入マスクを使用する。
潜水すると 水深10m当たり 約1気圧の圧を生じる。このような高圧下で呼吸され 過剰に体液中に溶けた窒素ガスが 浮上時に急速に減圧されると、浮遊し気泡として体液内に生じ 空気血栓や血行障害を起こす。これが潜水病 あるいは潜函病である。 症状は 関節痛、筋肉痛、前胸部痛で、そのほかに めまい、耳鳴り、運動麻痺、呼吸困難が起こり 重症になると死亡に至る。
女性テニスプレーヤーに多い オーバートレーニング症候群。原因はテニスのストロークによる 腕の筋肉への過剰な負担。特にボールがラケットのスイート・スポットを外れたときの衝撃が原因になるといわれ、技術的な問題を無視できない。重症になると握力が低下し コップや受話器も持てなくなるので 初期の段階に適切な処置が必要である。
野球プレーヤーに多い オーバートレーニング症候群。特に成長期の少年野球(リトルリーグ)で大きな問題となっている。ボールを投げる動作で 腕の加速・減速時に生じる力は 肘関節に大きなストレスになる。はじめは投球時の痛みや 伸展制限であるが やがて肘が曲がらなくなったままになる。予防方法は、一週間に6イニング、一試合2イニング、一日150球以上投げないなどのコントロールある。
ランナーズ・ニーあるいはジョガーズ・ニーとも呼ばれる。長距離ランニングによる膝への過剰な負担による障害である。 ランニング中の膝には、歩行中の数倍の負担がかかる。ランニング中に痛みを覚えたら すぐに中止することが望まれる。無理をすると痛みは慢性化し、膝関節は変形し 水が溜まることもある。予防方法は大腿筋の強化、ジョギング後のアイシングまたは温熱療法、着地時の衝撃を和らげる靴の選択 などである。特に中高年からジョギングを始める人は、歩いたり スクワット・トレーニングを行うな度大腿筋の強化を図りながら順次トレーニング量を増やしていくことを配慮しなければならない。
過度にジャンプしたために生じる故障である。バスケットボール、バレーボールの選手に多い。膝蓋骨が 膝蓋腱に接続するが、ジャンプ中とその直後に痛むという特徴をもっている。
青少年期の膝の痛みのうち もっとも一般的なものである。成長が著しい10代の子供たちにだけ見られるものである。膝蓋腱が 膝蓋骨を脛骨に接続する付近に、痛み、圧痛、腫れを伴う。オスグット・シュラッテル病は 自然治癒し、成長が止まると痛みも自然に消えるのでほとんどの場合、特別な手当ては必要としない。 しかし、その過程でスポーツから離れたり他の合併症を発生することもあるので 無理のないスポーツやトレーニングを選ぶなどの配慮が必要となる。