宇宙工房 advanced「はやぶさ」編

2007 03/08

宇宙研の衛星・探査機のペーパークラフトを宇宙研で作るという謎の活動を続けている宇宙工房、今回はちょっぴり上級編です。小惑星探査機「はやぶさ」(1)のペーパークラフトを製作します。

- 小惑星探査機「はやぶさ」 -

宇宙研(JAXA/ISAS)の小惑星探査機*。2003年5月打ち上げ、世界初のイオンエンジンを併用したスイングバイを経て2005年9月小惑星「イトカワ」付近に到着。「イトカワ」の科学観測ののち、2005年11月に2度の着陸、サンプル採取、最離陸を試みました。2010年に地球付近へ帰還し、サンプルの入っている(と思われる)カプセルの地上への投下を行う予定です。

宇宙研の他のプロジェクトと同様、予算や人員の規模は決して大きくありませんが、その大きな成果は日本の科学・技術界に大きな活力を与え、マスメディアやインターネットで活発に紹介・議論されるなど社会的な反響もありました。

*対外的には小惑星探査機と紹介されることが多いが、正確には工学実証探査機(MUSESシリーズ)に区分されており、小惑星探査のための新規諸技術を試験するためのミッションである。

「はやぶさ」のペーパークラフトは各所でダウンロードできます(1)。難易度別で2種類ありますが、もちろん難しいほうを選びます。

そしてもちろん、作業をする場所は、「はやぶさ」運用室(またか!)。

書類がいっぱい。邪魔しないように作業します。

部屋の外の廊下には「はやぶさ」への応援メッセージや記録写真などが貼ってあります。2chのはやぶさスレに転載された「はやぶさ」を擬人化したキャラクターの絵や、大正製薬から大量の「リボビタンD」が贈呈された(有名なエピソード)時の大正製薬の方からのお手紙なども貼ってあります。

曲面をきれいに作る方法

ペーパークラフトの組み立て手順の基本をちょっとおさらい。ペーパークラフトは細かい部品を先に完成させ、より大きな部品にそれを付けていき、最後に全体を組み立てるんでしたね。

さて、「はやぶさ」ペーパークラフトで作る細かい部品は、円柱形や円錐形など曲面を作らなければいけないものが大多数です。小さい部品になると紙を曲げて曲面を作るのは非常に大変なので、きれいに作るテクニックが必要です。

円柱形の場合

紙を筒状に丸めて円柱を作る場合です。円柱形のもの(ペンなど)で太さが近いものに巻きつけるのが基本ですが、ちょうど良い太さのペンをいちいち調達するのは大変。そこで、講義室や会議室によく置いてあるこのアイテムをちょっと拝借してきます。

これは伸縮式の指し棒ですが、1本であらゆる太さに対応できるので、ペーパークラフト用の道具としても重宝です。

小さい部品になるほど「曲げる」のは大変で、力を入れすぎるとすぐ「折れ」ます。これは小さいほうが紙の弾力が支配的になるためです。そこで紙に水を含ませ(あまり濡らすとしわが寄るので注意。濡れたティッシュなどで軽く湿らす程度)、やわらかくするとすんなり曲げられます。

これは「サンプラーホーン」(サンプルを採取するための筒)の円柱部分。このように差し棒に巻きつけ、十分乾かした後、取り外します。濡れた状態では紙は破れたりシワになったりしやすいので慎重に扱ってください。紙の性質上、濡らして形を変えたあと十分乾かすとその形が紙に定着するので、その後の作業は大変楽になります。

円錐形の場合

扇形や円形の紙を曲げて円錐形やお椀型を作る場合です。やはり水を含ませてやわらかくすると良いでしょう。

パラボラ型の「ハイゲインアンテナ」(最も利得の高いアンテナ)は、丸い形のもの(ボールや、マグカップの底など)に押し付けて曲面を作ります。よく乾かして糊付けした後、仕上げにもう一度水を含ませてこんな風に平らな面に伏せて押し付けると、アンテナの縁の凸凹がなくなってきれいなお椀型になります。「再突入カプセル」も同様。

サンプラーの先に付けるかなり小さな円錐形は、こんな風にペンの先などに押し付けて曲げると良さそうです。

太陽電池を真っ直ぐにする方法

ペーパークラフトの組み立て手順の基本をもう1つおさらい。切り抜くときは、細かいところやややこしいところから先にカッターを入れ、最後に大きな直線などを切って切り抜くんでしたね。

さて、このペーパークラフトの完成写真(はやぶさファン!)見ると、太陽電池パドル(両翼についてる青い部分)がずいぶん垂れ下がっています。紙一枚でできていて構造的に弱いからです。今回は切り抜きで少し工夫して、これを真っ直ぐかつ丈夫に作ってみましょう。

これは切り抜きの途中の写真。太陽電池パドルの周囲に、背景の色が見えているので、少し余分に切り取ったことが分かるでしょう。余分に切った部分はどこへ行ったのかというと、――細かい工夫はいろいろしたのですが大雑把に言えば――裏に折り返しています。裏から見るとこのような感じ。

紙を折って使うと、その折り目に沿った方向は非常に強度が上がります。これは折った部分が梁のような役割をするためで、建築の基本にも通ずるものです。このページなどが参考になるでしょうか;日本建築構造技術者協会:紙でためす‘かたち’と‘つよさ’

針金とか竹ひごなどを骨組みにすることもできますが、紙で少し工夫すればできることを紙以外でやるのは私の紙クラフトの流儀に合わないので、やりません。

ともかくこの工夫で強度が増した結果、通常は切り抜かない、太陽電池を支えるアームの内側の部分を切り抜くことができ、普通に組み立てるよりもずっとリアルになります。

アームがかなり細いので、カッターの刃が勢いづきすぎると腕の付け根などを切断しそうになります。危ない切り込みが入ってしまった場合はその部分に接着剤を染みこませて固めれば、切り込みがそれ以上広がるのを防げます。

というわけで完成…

…しました。紙模型とはいってもなかなかどうして格好いいです。

次回は、突然ですが最終回とさせてもらいます。今年度で大木社長が宇宙研を離れるのに伴い、宇宙研の片隅でやっていたこの宇宙工房も今年度でひとまず活動終了とします。

参考資料

  1. 小惑星探査機「はやぶさ」
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