試験にでる運動生理学

本教室では年度末に実技試験と運動生理学の筆記試験を実施します。
そこで、本コーナーでは、この試験対策のためのオンラインセミナーを行ないます。
ウソですよ。試験など行いません。
ここでは、教室で行ったトレーニングやアドバイスをフォロー/復習するための解説を中心に、ボクシングや他の運動競技や健康増進に役立ちそうな、運動生理学に関する情報を紹介したいと思います。
各トレーニングの目的を十分理解して、モチベーションを高めて下さい。
なお、各項目の記載は、各種雑誌、セミナー、メール、Webサイト等から入手した最新の情報を反映して、逐次更新するとともに、解説項目も増やしていきます。
※このコーナーに対する「間違いの指摘/質問/意見/要望メール」をお待ちしております。

目次

  更新履歴
 準備運動の役割   心拍数上昇   筋温上昇   ウォームアップストレッチ
 整理運動の役割   軽運動   腹式呼吸+口すぼめ呼吸   クールダウンストレッチ
 基礎体力トレーニングの役割
 正しい減量のしかた
 筋力トレーニングのすすめ
 なわとびトレーニングのすすめ
 体幹筋群の筋力トレーニングのすすめ
 筋力トレーニングの具体例

準備運動の役割(筋肉痛や傷害の予防とパフォーマンス向上)=======================================================

○心拍数上昇:
運動筋で消費される酸素を十分供給するとともに、運動筋内から産出される代謝産物をスムーズに回収・処理するために血流量を増大します。

○筋温上昇:
1、血液によって運動筋まで運ばれてきた酸素化ヘモグロビン(酸素と結合したヘモグロビン)から酸素を離れやすくして、筋内への酸素取込みを促進をします。
2、筋内でのエネルギー産出過程に関わる酵素を活性化して、エネルギー産出を促進します。
3、結合組織(筋繊維を束ねる筋膜鞘や筋から腱に移行する部分、腱、靱帯)の柔軟性や弾性を増加させて、筋内抵抗軽減、筋出力増大、筋肉痛や傷害の予防を行います。
4、神経系の反応速度を向上させ、関連筋群の協調性向上による、合理的フォーム習得と動作スピード向上が行えます。

○ウォームアップストレッチ:
1、仕事中の片寄った筋肉使用による筋肉硬縮をとり、血行促進と疲労物質除去を行います。
2、準備運動におけるストレッチでは、筋出力低下をともなう静的ストレッチではなく、動的ストレッチをメインに行います。これによって、動作中に必要とされる動的柔軟性向上と深部筋温上昇が得られるとともに、神経系を刺激して筋出力と関連筋の協調性向上がはかれるので、競技パフォーマンスの向上と傷害予防が行えます。
 本教室ではボクシングに有効な肩のウォーミングアップと動的ストレッチのために、シャッフリングを取り入れました。これはPNF(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation:神経筋促通手技法)理論に基づくもので、スポーツ動作には対角らせん動作/ひねり動作が伴った方がより合理的な動作となり、パフォーマンスが向上するという考え方です。ボクシングの動作で具体的に言えば、右ストレートを出す場合に右腕の伸展と同期して腕を内旋した方が、パンチのパワー(力×スピード)が増加するということです。日常的な動作では水銀式の体温計を振る時の動作がこれにあてはまります。ひねりを加えた方が自然な動作となります。

●整理運動の役割(筋肉痛や傷害の予防と疲労回復促進)=======================================================
○軽運動:
筋肉と肝臓や腎臓に十分な血液を送り、筋内で発生した疲労物質である乳酸、アンモニア等を、血液を介して肝臓や腎臓に運んで処理する効果があります。
メイントレーニングの直後に運動を急停止すると、骨格筋の収縮によって抹消血管に送られた血液を心臓へ帰還させる、ミルキングアクションと呼ばれる効果が停止するため、血液の下肢貯留・帰還血液量減少が起こり、脳貧血によって失神する場合もあるそうです。

○腹式呼吸+口すぼめ呼吸:
腹式呼吸による副交感神経系亢進によって疲労回復機能が促進されると共に、口すぼめ呼吸による細気管支解放によって、一回換気量増加、換気効率改善、酸素化能改善、呼吸数減少等の効果があります。

○クールダウンストレッチ:
クールダウンストレッチでは、伸張状態で20秒〜40秒静止する静的ストレッチを行い、筋肉硬縮による筋内毛細血管圧迫→血行不良→疲労物質/発痛物質処理不可→筋疲労/筋痛の流れをストップさせます。

基礎体力トレーニングの役割=======================================================

ボクシング競技は、他の運動競技と同様に、精神的能力、技術的能力、身体的能力で構成されています(武道で言う心技体とは少し異なるかも知れません)。

1、精神的能力とは、ここではファイティングスピリッツとボクシングセンスを示します。
具体的には、闘争心、肉体的苦痛に耐える力、精神的プレッシャーに耐える力、相手の動きを読み最適な戦術を選択する分析判断能力等を示します。
2、技術的能力とは、反射的・合理的動作能力を示します。
具体的には、スピードとバランスを保ったリズミカルな動作の中で、タイミング良く、スピーディに、ナックルにウェイトをのせてパンチを出す能力、および、バランスを保ち最小限の動作で相手のパンチをよける能力を示します。
3、身体的能力(体力)とは、上記技術的能力を力強く持続する力を示します。

これらの能力はそれぞれ独立したものではなく、相互に影響を与え合う関係となっています。
特に、トレーニングによって大きな向上が期待できる3の身体的能力は、1や2の弱点をカバーするとともに得意な能力を強化することが可能であり、この能力を強化する基礎体力トレーニングは重要な役割を持っています。
ここでは、特に2の技術的能力と基礎体力トレーニングとを関連づけて解説します。

A、スピードとバランスを保ってリズミカルに動ける能力(フットワーク):
これは、前後左右方向にバランスを崩さずにスムーズに移動する能力で、相手の動きに素早く反応して自分に有利なポジションをとり攻撃に結び付けることができます。このための基礎体力トレーニングとしては縄跳びを様々なパターンで跳ぶトレーニングが重要です。また、アジリティトレーニングも有効です。

B、タイミング良く、スピーディに、ナックルにウェイトをのせてパンチを出す能力(攻撃技術):
「タイミング良く」を実現するには、左右ストレート・フック・アッパーどんな種類のパンチでも、何時でも出せるように、バランスを保つことが重要です。下記のパワー曲線のピークがパンチのインパクトの瞬間に同期することも「タイミング良く」に含まれます。もちろん反射神経も重要な要素です。
「スピーディに、ナックルにウェイトをのせてパンチを出す」を実現するには、
(下肢)→(腰の回転)→(肩の回転)→(上肢)→(拳)
というパワー(=力×スピード)の伝達行程が重要です。
人間の身体構造は直立二足歩行に適した構造となっているため、下肢の筋力が上肢の筋力に比べて大きく優っており、下肢はもっとも重要なパワー源です。
そこで、上記の順番にパワーをスムーズに、そして、増幅して伝達することが重要です。
腰の回転パワーを増幅して肩の回転パワーにつたえるためには、体幹の筋群(腹筋群、背筋群、脊柱起立筋等)が大切です。そして、肩の回転パワーを増幅して拳部につたえるためには、上肢を肩部や胸部とつなぐ筋群、及び上肢の筋群が大切です。
パンチを出す動作は下肢・体幹・上肢の動作が協調したものですので、パンチのパワーを向上させるには、この複合運動をスムーズに行わせるための神経系のはたらきが重要となってきます。このためには反復練習によって反射化することが大切です。
すなわち、反復練習と基礎体力トレーニングが大切であるということです。

参考:NSCA(National Strength & Conditioning Association:米国の健康と競技力向上を目的とする非営利教育団体)の報告によれば、右ストレートパンチにおける腕、体幹、脚の各部の貢献度は、各々24%、37%、39%となっています。
 

C、バランスを保ち最小限の動作で相手のパンチをよける能力(防御技術):
防御技術は次のように分類されます。
a、フットワーク=サイドステップ、バックステップ
b、ボディワーク=ダッキング、スウェーバック、ウィービング、スリッピング
c、グラブ=パリーイング、ストッピング
d、グラブと腕=ブロッキング
これら防御技術で重要なことは、上記の「バランスを保ち最小限の動作で相手のパンチをよける」ことです。
なぜなら、攻撃に結びつく防御技術でなければならないからです。
相手に攻撃される距離にいるということは、こちらからも攻撃できる距離に相手がいると言うことです。
特に、相手が攻撃している間は、相手は防御できない体制にあるということで、相手の攻撃をかわした直後は攻撃のチャンスでもあります。
従って、防御中もバランスを保ち即座に攻撃に移行できる姿勢を維持することが大切です。
もちろん、最終的にバランスを保って俊敏に動作させるのは、反射神経や運動神経系ですが、
この防御動作を向上させるためには、下肢と体幹の筋力が重要となります。
強い筋力は俊敏で柔軟な動作の原動力となります。

そこで、防御技術向上のためには、下肢と体幹部の筋力と筋持久力の向上が重要となります。

#本教室で行う下記の基礎体力トレーニングは、道具を必要とせず場所も選ばず、どこでも手軽に行えます。

○スクワット:
下肢筋力は、ボクシングに限らずほとんどの運動競技の競技力向上のために重要であるだけでなく、上記ミルキングアクションによる血液循環促進など健康増進のためにも重要です。
閉脚スクワット、開脚スクワット等の種目を行い、負荷対象筋に変化をつけます。
できる人は、片足ずつ行うとことにより大きな負荷が加えられ、より強化できます。
やりすぎると膝の傷害の危険がありますので、無理はしないようにして下さい。
また、ストレートランジ(前後開脚スクワット)や、サイドランジ(左右開脚スクワット)などバリエーションをつけることも効果的です。

○腹筋:
本教室で行うフォームで行うことにより、腸腰筋、大腿直筋等の股関節屈筋群を使わずに腹筋に負荷を加えることができるので、腰によけいな負荷を加えずに安全な腹筋トレーニングを行えます。
また、ひねりを加えることにより腹斜筋群や腰方形筋(体側部の筋)にも負荷を加えることができ、骨盤や上体を支持する筋力を効果的に鍛えるとともに、ボクシングの動作に有効な筋力強化を行うことができます。
また、腹筋を鍛えることは、腰椎過前彎による腰痛を予防する効果もあります。

○背筋:
本教室で行うフォームで行うことにより、よけいな脊椎圧迫をともなわない安全な背筋運動が行えます。

○腕立て伏せ:
両手の間隔、手の向き、スピードを変えることにより様々な種類の筋を鍛えることができます。
できる人は、片腕ずつ行うと非常に効果的です。パンチを出す時に働く体幹の筋力も鍛えられます。
 

正しい減量のしかた-=======================================================

  本教室には、「選手を目指す人」だけでなく、「やせたい」、「健康のため」等の目的で参加している方も多いのですが、「競技力向上」、「美容」、「健康」の、いずれの目的にも体脂肪を減少させる(=「減量」と略す)という共通の要素が含まれていると思います。
そこで、ここでは効率的に減量する方法を整理して紹介します。(水分除去による試合用の一時的な体重減については別途紹介します。)

最初に、体脂肪の蓄積と代謝の基本について確認しておきます。
A,体脂肪量は脂肪細胞の数と個々のサイズによって決定されます。
B,脂肪細胞の数は、一旦増えると一生変わらず、やせてもその数は減らないと言われています。(個々の脂肪細胞のサイズが小さくなるだけです)
C,脂肪細胞数が増える時期は、妊娠末期3ヶ月、生後1年、思春期の3回あると言われています。この時期にカロリーオーバーになならいように気をつけると良いのですが、思春期以外は自分の意志ではコントロールできませんね。
D,脂肪細胞のサイズが大きくなる直接的要因は過食と運動不足です。過食の様々な要因や運動不足による脂肪蓄積のメカニズムについては下記の説明の中で紹介します。
E,脂肪細胞のサイズが小さくなる要因は、脂肪エネルギーの燃焼です。詳しくは、運動刺激に応答して脂肪組織から血液中に放出された遊離脂肪酸が、筋細胞内のミトコンドリアまで運ばれ(一部は肝臓でグルコースに変換されてから運ばれる)、ここで力学的エネルギーや熱エネルギーとして代謝します。

 それでは、まず、減量するためのノウハウにについて、結論を先に述べます。
(1)  運動:有酸素運動と無酸素運動をそれぞれ、適切なタイミング、適切な負荷で行 なう。
(2)  食事:適切な質と量の食事を5〜6回に分けて摂る。
(3)  サプルメント:ビタミン・ミネラル・アミノ酸、食物繊維、植物油や魚油由来のサプルメントを適量摂ると共に、水分を多く摂る。(上記カロリー制限食の中で、十分摂取できない栄養素をサプルメントとして摂って下さい。)
以下、各々について詳細に説明します。

(1)  運動
 運動不足は消費エネルギーを減らすだけでなく、筋が血糖を取り込む際に必要となるインシュリンが働きにくくなる、いわゆるインシュリン抵抗性が増大し(インシュリン感受性が低下するとも言う)、インシュリンの過剰分泌をともないます。
インシュリンの過剰分泌は、摂食中枢を刺激して摂食量を増加させるとともに、肝臓・脂肪細胞の脂肪合成促進、血中遊離脂肪酸の脂肪細胞への取り込み促進、脂肪分解抑制など脂肪蓄積作用が起こります。
 それでは、脂肪を落とすためにはどのような運動が良いのか以下に説明します。

 脂肪酸はTCAサイクルで酸化されてエネルギーに変換されて消費されるので、有酸素運動をすれば良いということになります。実際、無酸素運動より有酸素運動の方がインシュリン感受性の改善に有効であることが報告されています。
 しかし、私たちは一日中運動しているわけではありませんので、普通に生活している時にも脂肪を代謝してエネルギーを消費することも大切になります。
これには、基礎代謝や安静時代謝を高める必要があります。これらの代謝は主に体温を維持するための熱を生産するエネルギー消費です。身体の中の熱源は肝臓と筋ですので、筋量が多くかつ発熱量の多い人は脂肪がつきにくいことになります。
 一方、筋が収縮するときは、消費するエネルギーの50%以上が熱として放散されることは60年以上前に発見されましたが、安静時に筋が熱を生産する仕組みは長い間謎でした。しかし、最近、これが脱共益タンパク質(UCP:Uncoupling protein)によるものであることが分かってきました。このタンパク質は最初、冬眠をする動物の褐色脂肪細胞中にみつかり(UCP-1)、脂肪を燃料として効果的に熱生産を行うためのタンパク質であることが分かりました。続いてヒトの白色脂肪にも同様のものがあることが分かり(UCP-2)、さらに、別のUCP(UCP-3)が、骨格筋、特に速筋繊維に多くあることが分かりました。
そして、マウスやラットでは次のことが分かっています。
・急性の運動後(30分程度の走運動など)に速筋で特にUCP-3が上昇
・高脂肪食を1ヶ月与えると、筋でのUCP-3の発現が減少し、同時に体脂肪が増加
・持久的トレーニングを継続すると、筋でのUCP-3の発現が減少
また、1999年にはヒトの筋においてもUCP-3の発現について研究され、持久的アスリートでは、その発現が少なくなっていることが分かりました。
これは、持久的トレーニングを継続すると、筋が「エネルギー節約型」になることを示しています。さらに、このことは、持久的トレーニングを長期間継続すると「油断すると太りやすい体質」を作ってしまう可能性があることも示唆しています。

以上のように、有酸素運動は、体脂肪を運動中に減らすという視点では効果的ですが、UCP-3の視点からみれば、体脂肪を蓄積する要因ともなる可能性が出てきました。
また、
・筋量が増えれば、それに比例して、UCP-3が増えること
・UCP-3が速筋(無酸素運動で肥大しやすい)で多く発現する
という事実からレジスタンストレーニングによってUCP-3が増え、太りにくなる可能性が高いと考えられています。

 私自信の経験(ボディビルコンテスト前の減量期のトレーニング)から言えることは、有酸素運動と無酸素運動の両方をそれぞれ適切なタイミングで行うことが、体脂肪減少に効果的であるということです。
適切なタイミングとは、
・有酸素運動は、血糖値が少ない時間帯、すなわち起床直後に行い
・無酸素運動は、食後2時間後ぐらいで、血液中、筋中、肝臓中に十分なグリコーゲンまたはアミノ酸が十分ある状態の時に行う
ということです。
有酸素運動を行う際、注意することは、起床直後であるのでウォーミングアップを十分行うことと、脂肪燃焼のために運動強度は高くしないということです。
(ただし、運動強度については異論もあります。運動強度をある程度押さえた方が運動中の脂肪燃焼量は大きいのですが、運動後の筋その他のダメージの修復過程において燃焼される脂肪量を考慮すると、運動強度が大きい方が脂肪燃焼量が大きいと言う説です。)
私は、フルマラソンを走っていた頃はこれを行っていましたが、今は、腰痛でマラソンを止めてしまったことと、根性がなくなり、朝起きれなくなってしまったので、会社の施設で、昼休みにマシンランニングを行ったり、終業後にスイミングを行っています。
もちろん、この後ボディビルジムに行き、無酸素運動とサンドバッグ打ちを行います。これらのメニューを1日ですべて行うことはまれですが。

(2)食事
運動を行っても、消費エネルギー以上のエネルギーを摂取すれば、余剰エネルギーは体脂肪として蓄積されます。(脂肪だけでなく、炭水化物でも、タンパク質でも、摂り過ぎて力学的エネルギー・化学的エネルギー・熱エネルギー等に変換されない食物は体脂肪に変えられて蓄積されます。)
この過食の要因については、
・満腹中枢へのセットポイント(満腹感の出る血糖値レベル)の異常、
・インシュリン過剰分泌、
・セロトニン受容体等の脳内アミン機構の乱れ、
・コレシストキニン等の脳内ペプチドホルモンの乱れ、
・ストレス
・レプチン感受性の低下
等、様々な要因が研究されていますが、詳細な説明は省略します。

以上の説明は、理屈ばかりで、具体的にどうすれば良いか分からないと思いますので、以下に食事の質、量、頻度という切り口から、脂肪を身体に蓄積させない方法について説明します。
体脂肪を蓄積させないためには、炭水化物:タンパク質:脂肪=5:3:2(摂取カロリー比)の比率で食材を構成し、総摂取カロリー量を(基礎代謝量+運動代謝量+消化に要する熱量)以下におさえ、安定した血糖値を維持してインシュリン分泌量を安定させるために、上記総摂取カロリー量を5〜6回に分けて摂取することが理想です。
消費エネルギーと摂取エネルギーの管理を行うことは大切ですが、正確にやろうとすると一日中そればかり考えていなければなりません。
そこで、なるべく多種類の食品を5〜6回に分けて摂り、1日に1回、同じ条件でウエストと体重を測り、ウエストと体重の変化をフィードバックして、食事の量を調整すれば良いと思います。
私の場合、食品を陸・海・空(卵と鳥肉しかありませんが)から片寄らずに摂り(マゴハヤサシイ(マ=豆類、ゴ=ゴマ等の種子類、ハ=ワカメ等の海草類、ヤ=野菜、サ=魚、シ=しいたけ等の菌類、イ=芋等の穀類)に従って摂ったほうが良いかもしれません)、カロリーセーブの日をオン、ノーセーブの日をオフとして、1週間7日を、最初は2オン5オフの食生活、それが限界に達すると、4オン3オフ、6オン1オフと段階的に厳しいカロリーセーブを行っていきます。段階的に、そしてオフの日を作って行わないと、精神的に苦しいし、筋量を失ってしまいます。
また、たまに脇腹を指でつまんで皮下脂肪厚を主観的に測定して下さい。部分的な電気抵抗を測定して体脂肪率を推定する機器を利用したこともありましたが、詳しくは説明しませんが、信用できないことが分かったのでやめました。BMIも無意味だと思っています。

注)グリセミック指数
 最近、マスコミでグリセミック指数という用語が良く紹介されており、減量の決め手であるかのごとく報道されていますが、あまり過信しない方が良いというレポートが出されていたので以下に紹介します。
 まずグリセミック(GI)とは、食品が引き起こす血糖反応に基づいた食品のランキングで、1981年にカナダのジェンキンスらが発表したものです。これはグルコースあるいは白パンをGI=100として、これと比較した各食品の血糖値の増加のしやすさを数値で表しています。
すなわち、マスコミは、この値が大きい食品は血糖値を急激に上昇させるので肥満の原因になり、GIが小さい食品は血糖値を急激に上昇させないので肥満を防止すると紹介しています。
しかし、このグリセミック指数は同じ食品でも条件によって変わるので過信しない方が良いとレポートでは述べています。その条件の一部を以下に紹介します。
生か、調理されているか/調理時間はどのくらいか/調理方法は/食品中のでんぷんの粒子のサイズ/食品は加工されているか/加工方法は/食品の酸性度は/食べあわせた食材の微量養分含有量/摂取した時間等です。
詳しくはhttp://www.somos.co.jp/solution/013.htmを参照して下さい。また、http://www.somos.co.jp/solution/025.htmに紹介されているように、アメリカ糖尿病協会(ADA)も「GIは難しいコンセプトで、これを基にして食事療法を組立てることは薦められない」としています。

(3)サプルメント
 サプルメントは摂取せず、食事からすべての栄養素を摂ることが理想ですが、摂取カロリー制限中で、十分な栄養素が摂れない栄養素についてのみ、サプルメントで摂取するという考え方をして下さい。
とはいっても、減量トレーニングを実施している最中であり、必要とする栄養素も普通の生活をしている人とは違ってきますので、次のようなサプルメントはお薦めです。
・魚油由来のサプルメント:サケ、ニシン、サバ等に含まれるオメガ3脂肪酸は筋肉のインシュリン感受性を高めるので、インシュリン分泌過剰が抑えられることにより、脂肪の蓄積が抑えられます。
・食物繊維:消化がゆっくりと行われ、血液中への糖の分泌がゆっくりりとなるので、インシュリンの分泌が穏やかになり、脂肪の蓄積が抑えられます。
・ビール酵母:クロミウムが多く含まれ、筋肉のインシュリン感受性をより敏感にして、摂取した糖分が脂肪組織より筋肉中により取り込まれるので、脂肪組織への脂肪蓄積が抑制されます。
・カフェイン:脂肪組織において脂肪の分解を促進し、神経と筋肉の接合部分における神経からの神経伝達物質の分泌を促進して、筋収縮をより強いものにするので、有酸素トレーニングの前に摂ると有効です(ただし、カフェインはドーピングチェックの対象となっていますので要注意です。)
・水:減量するには代謝量を増やす必要があります。代謝過程の多くは加水分解であるし、栄養素運搬と老廃物の除去に水分が必要となります。
・ビタミン、ミネラル、アミノ酸:大切です。必要量摂って下さい。(詳しくはまた補充します。)
・その他:ガルシニアガンボジア、バナジルサルフェート、カルニチン等々さまざまなサプリメントが脂肪燃焼サプルメントとして販売されていますが、効果の評価がまちまちで分かりません。
今後、効果の確かめられたものがあれば紹介します。

私は、トレーニング前にトナリン(=CLA:Contugated Linol Acid/異性化リノール酸)を原料とするサプルメントを摂っています。
これは、
・脂肪酸遊離促進
・筋内のミトコンドリアへの脂肪酸取り込み促進
・脂肪酸の脂肪細胞への取り込み抑制
・負荷トレーニングによる筋細胞の破壊抑制
等の効果があるそうです。

(4)低インシュリン(低グリセミック指数=低GI)ダイエットの落し穴
 体脂肪を増やさないためには、低GIダイエットが望ましいことを上記(2)の注に示しましたが、説明が不充分でしたので補足しておきます。
同一カロリーの通常食と低GI食+脂肪食を与えたマウスによる実験で、後者の方でより著しい肥満が起こったという報告があります。
これは、インシュリンの分泌が低くとも、脂肪食によって、GIPホルモンの分泌が高まり、脂肪細胞に対するインシュリンの作用を増強してしまったためと考えらられています。そこで、このGIPについて解説します。
 GIPとは消化管抑制ペプチドと呼ばれる胃酸の分泌を抑制するホルモンで、脂肪が膵液リパーゼによって分解され、小腸から吸収された時に、十二指腸から分泌されます。GIPがエネルギーの大きな脂質を摂取したという信号となって、消化活動を減速し余分なエネルギー吸収を抑える働きをしているものと想像されています。これは脂肪食が「腹もち」が良いしくみの一因ともなっています。
 ところが、GIPが逆に肥満を招くことが分かってきました。
これを裏付ける資料として、GIPを作ることができないマウス(GIPノックアウトマウス)と、通常のマウスに高脂肪食を与えたところ、通常のマウスでは体脂肪量が倍以上に増えたのに対し、ノックアウトマウスでは体脂肪が全く増えなかったという報告があります。
また、脂肪が余分に蓄積されると、脂肪組織からレプチンというホルモンが分泌され、摂食中枢に働いて食欲を下げるという機構があります。このレプチンは作れないがGIPは作れるレプチンノックアウトマウスと、レプチン&GIP両ノックアウトマウスに同じ内容の食事を与えると、前者では極度の肥満になるが、後者では肥満の程度が低いことも分かっています。

これらの報告、およびGIPとインシュリン分泌に関する他の報告から、このGIPの脂肪細胞に対するたらきを整理すると、以下のようになります。
1)(血糖上昇)+<インシュリン分泌>→(脂肪細胞によるグルコース取り込み)→(中性脂肪合成/蓄積)→(脂肪細胞肥満)
2)(血中リポタンパクコレステロール=脂肪+タンパク質+コレステロール)+<LPL=リポタンパクリパーゼ>→(脂肪酸+グリセロール)→(中性脂肪合成/蓄積)→(脂肪細胞肥満)
という体脂肪蓄積の両プロセスにおいて、GIPはインシュリンの働きを増強して1)のグルコースを資源とした中性脂肪合成蓄積プロセスを促進したり、LPL活性を高めて2)の脂肪を資源とした中性脂肪合成蓄積プロセスを促進する効果を持っていると言えます。

以上をまとめると、トータルカロリーが一定であれば、余分な摂取エネルギーが体脂肪に変換される量は、各栄養素の消化および体脂肪に変換するために要するエネルギーの差を除けば、変わらないと理解していましたが、認識を改めなければいけないことが分かりました。  
これまで、トレーニングで受けた筋肉のダメージの修復や各種ホルモン生成に必要なものであるという理由から、減量中以外にはそれほど制限せずに脂肪を摂っていましたが、すこし考え方を改めなければいけないと思ってます。
私見ですが、GIPが血中のグルコースや脂肪を取り込む効果を持ち体脂肪蓄積を促進することから、GIPは悪者のように思えますが、GIPが血中のグルコースや脂肪を取り込む理由は、血中にグルコースや脂肪が増加しすぎると、糖尿病や高脂血症その他もっと深刻な疾病の原因となるので、これを抑える為ではいなかと思っています。体脂肪の増加は比較的簡単に自覚できる指標ですので、この変化を体が発する危険信号と認識させ生活習慣の改善を促す働きをもっているものと解釈できると思っています。
この私見が正しいこと、またはまちがっていることを裏付ける情報があったらお知らせ下さい。
 

筋力トレーニングのすすめ =======================================================

 ここではボクシング競技における筋力トレーニングの目的と方法について紹介しま す。
すでに「基礎体力トレーニングの役割」 に総論を述べていますので、このコーナー は各論(パワーアップ編)ということになります。
総論を良く理解してから本コーナーを読んで下さい。

1、目的:筋力トレーニングの目的は主に次の2つに分類されます。

 A 攻撃能力の向上
 B 障害予防

2、方法:以下、上記目的の分類に従って各々の方法について紹介します。

A 攻撃能力の向上--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

A-1 総論の復習******************************

攻撃力向上のための筋力トレーニングの役割は、「スピーディに、ナックルにウェイ トをのせてパンチを出す能力」を向上することで、具体的に
は、下肢で生まれたパワーを、
(下肢)→(腰の回転)→(肩の回転)→(上肢)→(拳)
という順番に、スムーズに(スピーディーに)、そして、増幅して伝達することです。
そのために、下肢および体幹の筋群と、肩甲骨まわり及び胸部の筋群を含めた上肢の 筋群のパワーアップが必要となります。

A-2 パワーとは? ******************************
(物理が苦手であった人はスキップして下さい)

パワーとは仕事率とも言い、単位時間あたりに出力される運動エネルギーで、力×速 度で表せます。
運動エネルギーとは、ここでは筋収縮過程において、筋内の化学的エネルギーが力学的エネルギーに変換され、外部に出力できる仕事量を意味し、力×距離で表せます。(すなわちエネルギーは仕事を行なう能力を示します。)
したがって、運動エネルギーを時間で割ったもの(単位時間あたりの運動エネルギー )がパワーということになります。
そして、下記の等式から上記の通り「パワー=力×速度」であることが分かります。
パワー=運動エネルギー÷時間=(力×距離)÷時間=力×(距離÷時間)=力×速度

A-3 いかにしてパワーを高めるか?******************************
以上のように、パワー=力×速度ですので、パワーアップには力をアップする方法 と、速度をアップする方法が考えられます。しかし、力のトレーナビリティ(練習効果の出やすさ)が100%(2倍)以上であるのに比べ、速度のそれは20%程です。そこで、筋力トレーニングを行うことはパワーアップのために有効であるといえます。

A-4 筋肉の基礎知識******************************
(理屈はどうでもよい方は、「A-5 具体的なトレーニング方法」 にスキップして下さい。)

筋力トレーニングについて理解してもらうために、まず筋組成や筋生理について簡単 に説明しておきます。
ここで説明する筋肉とは、各種臓器を構成する平滑筋や心筋ではなく、体を動かす骨格筋を示します。(あたりまえですね)

A-4-1 筋線維の種類 #################

筋肉は目で見たその色彩から赤筋、白筋、中間筋に分類されます。
これらの色調の違いは以下の3種類の筋線維の構成比率の違いによります。
この3種類の筋線維は、遅筋線維、速筋B型線維、速筋A型線維と呼ばれます。
遅筋線維(沍^線維)は、筋収縮速度は遅いが(速筋B型線維の1/10、速筋A型線維の1/5)疲労しにくい性質を持っています。エネルギー供給は主に有酸素的過程によるものであり、そのために有酸素的過程によるエネルギー生産工場であるミトコンドリアや、血液中の酸素を筋肉中に運搬するミオグロビン等を多く含み、また、毛細血管密度も高くなっています。沍^線維はこのミオグロビンや血中ヘモグロビンによって赤く見えます。
速筋B型線維(B型線維)は、筋収縮速度は速いが疲労しやすい 性質を持っています。エネルギー供給は主にATP−CP系と解糖系の無酸素的過程によるものです。
速筋A型線維(型A線維)は、上記両線維の中間的性質を持ちます。
各線維の構成比率は、ひらめ筋(遅筋線維が多い)と上腕三頭筋(速筋線維が多い)に代表されるように、部位によって異なるほか、一卵性双生児と二卵性双生児の研究から遺伝的な影響を強く受けて決定されることが分かっています。

A-4-2 筋とエネルギー代謝 #################

上記の筋線維の説明の中に出てくるエネルギー供給という言葉について説明します。
筋収縮にはエネルギー供給が必要となり、そのエネルギー供給過程は次の3つに分類 されます。
1)ATP-CP系/非乳酸系(無酸素系)
2)解糖系/乳酸系(無酸素系)
3)有酸素系
筋収縮の最も直接的なエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)がADP(アデノシ ン二リン酸)とP(リン酸)に分解される際に放出されるエネルギーです。しかし、筋内に貯蔵されているATPはほんの数秒間分しかないので、運 動を続けるためにはADPからATPを再合成する必要があります。そして、その再合成するためのエネルギーが上記1)、2)、3)のエネルギー 生産過程によって供給されます。
1)はCP(クレアチンリン酸)がCr(クレアチン)とP(リン酸)に分解する際にエネ ルギーが放出される過程です。
2)はグリコーゲンやグルコース(ブドウ糖)が分解されて乳酸が生成される際にエ ネルギーが放出される過程です。
3)は筋細胞内のミトコンドリアにおいて酸素の供給のもとで行われるエネルギー 産出過程で、クレブス回路やTCAサイクルや酸化的リン酸化過程と呼ばれます。
各過程のエネルギー供給の限界は1)=約8秒、2)=約33秒で、3)はエネルギ ー源がグリコーゲン、グルコース、脂肪酸、乳酸等ですので、酸素が十分供給される限り無限ということになります。

A-4-3 筋線維とトレーニング効果 #################

筋肉は筋力トレーニングにより様々な適応を示します。
持久的トレーニングによりミトコンドリアの数や容量の増加、酸化系酵素活性の上 昇、グリコーゲン含有量増加、毛細血管数増加がみられます。
短時間高強度運動負荷トレーニングにより、解糖系酵素活性上昇やグリコーゲン増 加、筋原繊維の太さや数の増加がみられます。
トレーニングにより速筋線維が遅筋線維の機能を獲得することが分かっていますが、トレーニングによって遅筋線維が速筋化したという研究報告は、ヒトでも動物でもありません。ただ、ウサギについて、速筋線維につ ながっている神経と遅筋線維につながっている神経をつなぎ替えると、遅筋線維が速筋化したという報告はあります。

A-5 具体的なトレーニング方法******************************

パワーアップトレーニングとしては、プライオメトリックトレーニングとアイソ トニックトレーニングを組み合わせて行うことが効果的です。
プライオメトリックトレーニングとは、ドロップジャンプ(台の上から飛び降り、切 り返して飛び上がる)に代表されるように、伸長性動作から急激に短縮性動作に切り返すことで、瞬間的に極めて大きな筋力を発揮させるとともに神経の同調性を高めるトレーニング法です。
アイソトニックトレーニングとは、ベンチプレスの動作に代表されるように、一定の 負荷に対して筋を収縮させながら行う、等張性収縮による筋力トレーニングです。
また、アイソメトリックトレーニングとは、左右の手の平を胸の前で合わせて押し合うことによる胸筋群の負荷トレーニングに代表されるように、筋長を一定にして筋力トレーニングを行う、等尺性収縮による筋力トレーニングです。以下の説明中で、このトレーニング方法に関連した言葉として等尺性最大筋力という表現が出てきます。

以下に具体的なトレーニング方法について紹介します。

A-5-1 筋力トレーニングの原則 #################

1)十分ウォーミングアップされている状態でおこなう。
2)アイソトニックトレーニングによる基礎的な筋力トレーニングで十分な力を発揮できるようになってから、プライオメトリックトレーニングによる専門的筋力トレーニングを行なう。
3)アイソトニックトレーニングは、正しいフォームで、プログレッシブオーバーローディング法(漸増負荷法)に従って行う。
4)専門的筋力トレーニングはボクシング動作に近いフォームで行なう。
5)シャドウボクシングと組み合わせて行う。
6)左右別々に力を発揮する種目も組み合わせて行う。

A-5-2 基礎的筋力トレーニング#################

・スクワット(ハーフスクワットで良いです)
・ハイクリーン(正しいフォームを獲得しないと腰痛の原因となります)
・ベンチプレス(傾斜の小さいインクラインベンチを利用することが望ましい)

上記基礎的筋力トレーニングの目標最大負荷重量の決定方法を以下に説明します。
ひとつの関節のまわりの運動(単関節運動)の様な単純な運動における、等張性収縮での負荷(力)と速度の関係(力-速度関係)は、双曲線を描きます。すなわち、負荷(力)が大きくなると、それに反比例して速度が低下します。
上記のように、(パワー=力×速度)ですので、パワー-力関係は放物線様の曲線を描き、等尺性最大筋力の30%の時に最大パワーが発揮されます。
一方、複数の関節の運動が複合した多関節運動においては、力-速度関係は直線を描き、等尺性最大筋力の50%の時に最大パワーが発揮されます。
これは等張性最大筋力の60〜70%に当たります。
従って、動作する際に発揮する力が等張性最大筋力の60〜70%になる時、最大パワーを発揮できると言うことです。
ということは、動かす対象の負荷の1/0.7〜1/0.6倍、すなわち、約1.5倍の等張性最大筋力を発揮できることが最低限必要と言うことです。
ボクシングの場合、筋力で動かす対象は、下半身では自重、背筋や上半身では自重の1/3と評価できるので、基礎的筋力トレーニングの目標最大負荷重量は、スクワットで自重の1.5倍、ハイクリーンで0.5倍、ベンチプレスでは両腕で力を発揮するので、1.5×1/3×2=1.0倍ということになります。
ただし、1回挙上ではなく5回程度はできるようになってから専門筋力トレーニングに移って下さい。
また、最初は目標最大負荷重量の約30%の重量から始め、正しいフォームを獲得してから漸増負荷法に従って重量を上げて行って下さい。
トレーニングの方法は多数あり、ここでは紹介しきれませんので詳細は専門書を参照して下さい。
目標最大負荷重量をクリアしたら筋力トレーニングをやめるのではなく、筋肉トレーニングによって増える体重が、自分の戦いたいウェイトクラスの範囲以内で筋力をアップするべきです。
なぜなら、力=(質量)×(加速度)ですので、瞬時に加速して大きな速度を獲得するには、上記対象重量より大きな負荷に抗する力が必要だからです。

A-5-3 専門的筋力トレーニング#################

以下のトレーニングは直後にシャドーボクシングを組み合わせることが大切です。
・フォールダウンプッシュアップ:直立姿勢から前方の壁に、または、膝立て姿勢から床に、倒れ込んで腕で支えた後、切り返してプッシュアップ
・クラッピングプッシュアップ:プッシュアップして手をたたく
・ワンハンドプッシュアップ:
・ダンベルシャドウボクシング:
・ケーブルマシントルソーツイスト:ケーブル負荷によるパンチングフォームトレーニング

(随時、追加・修正します)

B 障害予防 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ここでは、ボクシング選手の障害予防のために筋力トレーニングが果たす役割と、トレーニングの方法について紹介します。

B-1、頭部/頚部 *******************************

頚部の筋群、結合組織が強く、その弾性が高いほど、頭部に対するパンチによる衝撃が吸収されやすくなるので、頚部の筋力トレーニングはむち打ち症や脳髄/頚部脊髄損傷を予防する役割を果たします。
また、頚部を安定させることによるパンチ力増強にもつながる効果もあります。
トレーニング方法として比較的簡単で効果があるのは、マニュアルレジスタンス(徒手抵抗)による方法です。
パートナーに頭部の前部、後部、側部を、屈曲、伸展、回旋の様々な方向に抵抗を加えてもらうことにより頭部を支える様々な筋群が強化されます。

B-2 体幹 *******************************

強い腹直筋、腹斜筋群(腹部側面の筋)、腹横筋(下腹の筋)等の腹筋群は、内臓を保護するほか、特に腹斜筋群は体幹の素早い捻りや反転等のボクシングで多用される動きの際におこる傷害を予防する役割を持っています。また、腰部背面の筋である脊柱起立筋の強化は、腹筋群と協調して姿勢のバランスを維持し腰痛を予防する役割を持っています。
腹筋の筋力トレーニングの方法としては、股関節屈筋群を使えないフォームで行うことが重要です。すなわち、背中を丸めて上体をわずかに起こすクランチと言う種目です。また、仰臥位で膝をたて、片方の足首をもう一方の膝の上に置いたフォームで、上体をひねりを加えて起こすダイアゴナル・シットアップも効果的です。
腰部後面の脊柱起立筋はスーパーマンと呼ばれる伏臥位で体幹をそらす種目や、ハイパーエクステンションが効果的です。特に、ハイパーエクステンションを行う姿勢で、ダンベルやプレートを持ち、そのままひねりを加えることで、体幹回旋筋の強化を行うことができます。
 

B-3 肩 *******************************

力をこめた多様なパンチ動作は、複雑な構造を持つ肩関節に様々な方向からストレスをかけるため、肩関節傷害予防のために肩関節周囲筋の強化が重要となります。
特に、
1)肩甲骨(背中から触れる背骨の両脇の平べったい骨)の安定性に寄与する筋群(僧坊筋、肩甲挙筋、菱形筋、前鋸筋、小胸筋=興味のある方は専門書を参照したりWeb検索して下さい。)
2)ローテーターカフ(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋=同上)
等の強化が重要となります。
また、パンチ動作における前側の筋群のオーバーユースによる、前部と後部の筋力バランスの崩れを原因とする傷害の危険性があるので、
3)三角筋(肩の筋肉)後部
の強化が重要となります。

以下、上記1)、2)、3)について順次具体的な強化方法を紹介します。
1)=>肩甲骨を左右に開いて前に出す、引き付ける、引き下げるという動作をイメージして行って下さい。具体的には、ケーブルロウイング、プッシュアップ、プレスアップ(ベンチにすわり腕を伸ばして手の平がベンチに触れるように置き、肩でベンチを押して腰を浮かす動作)等です。
また、腕立て伏せの姿勢で肩を前後左右にスライドさせて下さい。
2)=>ローテーターカフは、上腕骨頭を回旋したり(腕を捻る時の動作)、肩関節外転(左右に開く動作)に際し上腕骨頭を関節窩に固定する働きを持っています。インナーマッスルですのでアウターマッスルが働かないレベルの負荷で、トレーニングを行うことがポイントです。(ダンベルなら1〜3Kg)
具体的には、腕をL字形にして手に負荷を加え、上腕骨を回旋(捻る)動作をします。ケーブルやゴムチューブで負荷をかける場合は、立位で行い、ダンベル等で行う場合は床に仰向けや横向きに寝て行います。それぞれ、脇を閉じた位置と90度開いた位置で行います。
もう1つは、直立姿勢で腕を下に伸ばし手の平を前に向けた状態でダンベルを持ち、左右に挙げて降ろす動作を行います。
3)=>ベントオーバーラテラルレイズ(上体を前にかがめ、腕を伸ばして持ったダンベルを左右に開いて挙げます)を20回程度できる負荷で行います。

(またの機会にもっと分かりやすく説明します。)

B-4 手 *******************************

パンチによる強い衝撃力を受ける手は、当然骨や靱帯の傷害を起こしやすい部分です。特に中手骨(手の甲の部分の骨)と手根骨(手首に近い部分の骨)やその周囲の靱帯が傷害が多い部分です。
骨に適度な刺激を加えることにより、刺激が加わっている部分に滑芽細胞が移動し骨強度の増加が図れるので、拳を握ってプッシュアップを行う拳立て伏せを行って下さい。骨強化の方法としてはサンドバッグ打ちよりも安全な方法です。
また、手首の周囲筋を強化するするために、ダンベルを使って回内ー回外動作(前椀をひねる動作)、屈曲ー伸展動作(リストカール、リバース・リストカール)、トウ屈ー尺屈動作(親指側に屈曲する動作とその反対の動作)といった手首の強化運動を行って下さい。

なわとびトレーニングのすすめ =======================================================

 ここではボクシング競技における「なわとび」トレーニングの重要性と方法について紹介しま す。
日本体力医学会発行「体力科学」2002年4月号に「なわとびにおける跳躍周期の差異がヒト下腿三頭筋の筋、腱-弾性系におよぼす影響」という論文が掲載されており、ボクシングのなわとびトレーニングに参考になりそうなので、ここに紹介します。

この論文のテーマは、身体を動かす動力源を筋と腱の複合体としてとらえて筋と腱のそれぞれの機能的役割を明らかにすることです。そして、そのテーマを達成するための 手段として、なわとび動作における跳躍周期を変えて各種身体出力を測定しています。
詳しくは本論文を読んでいただくとして、結論は跳躍周期を上げることによって、すなわち、なわとびを早く跳ぶに従って、なわとび動作における腱の弾性系関与の割合いが増加してくるということです。

「ヒト下腿三頭筋」、「筋、腱-弾性系」となじみのない単語が出てきてチンプンカンプンという方もおられると思いますので、簡単に説明しておきます。
「ヒト下腿三頭筋」とは、人間の脚のふくらはぎの筋肉のことです。
身体を動かす骨格筋は骨-腱-筋-腱-骨という順序で、関節をまたがってつながっています。
この「骨-腱-筋-腱-骨」の部分が関節を身体運動の動力源となるわけですが、エネルギーを使って収縮するのは筋の部分だけです。筋は収縮するだけで自力で伸展することはありません。外力や拮抗筋の収縮によって伸展されるだけです。
腱は付着している筋の収縮や関節角度の変化によって強制的に伸展されると、その弾性力によってもとの長さに戻ろうとして力を発揮します。
陸上の短距離選手と長距離選手の腱の柔軟性(伸展度)を比べると短距離選手>長距離選手となっています。すなわち、短距離選手の方が腱伸展度が大きく、より大きな弾性エネルギー蓄積することができるということです。
この筋腱複合体については、放送大学「保健体育’01」の第4回の講議で福永哲夫東京大学大学院生命環境科学系教授(バラエティー番組でお馴染み?)が分かりやすく解説していますので御覧下さい。(このパートは年間6回放映しています。最近では2001年5月5日に放映されました)

この論文の結論も含めて、「なわとび」トレーニングの重要性と方法を以下のようにまとめることができます。
1、「なわとび」はボクシング競技の練習には欠くことのできないもので、パンチのパワーの源である下半身と背筋を鍛えられるとともに、フットワークの基礎練習として重要なものであるので、初心者からチャンピオンまで、すべての技術レベルの選手に必要な練習メニューとなっています。
2、具体的には、動的バランス、スムーズなウェイトシフト、リズム感、筋持久力、腱弾性力等の獲得が行えます。
3、トレーニング方法としては、ショートステップ、左足右足交互ウェイトシフト、前後ステップ、サイドステップ、ツイストステップ、ツイスト&サイドステップ、ツイスト&バックステップ、もも上げステップ、ダッシュステップ、その他バランス感覚を養う為に効果的なステップを取り入れてトレーニングすることが必要です。
4、2重跳びは プライメトリクトレーニングとなり下腿三頭筋の瞬発力アップのトレーニングとなります。
5、上記論文に示されるように、なるべく速いステップで跳ぶことにより腱の鍛練につながるものと推測されますが、経験的にもこれは正しいものと考えます。

体幹筋群の筋力トレーニングのすすめ =======================================================

本コーナーでは体幹筋群の筋力トレーニングの重要性を説明します。筋の名称など解剖学用語を用いた難し気な説明がありますが、これは私の理解を整理するためのものですので、いちいち記憶する必要はありません。しかし、各筋の働きを理解しておくことは、各種障害に対処するために、またはパフーマンスを向上する為に大切だと思います。
私の間違った理解があればご指摘下さい。また、ご意見をお待ちしております。

1、 総論

最初に、前記「筋力トレーニングのすすめ」の「A攻撃能力の向上:A-1総論の復習」をもう一度くり返します。

攻撃力向上のための筋力トレーニングの役割は、「スピーディに、ナックルにウェイ トをのせてパンチを出す能力」を向上することで、具体的には、下肢で生まれたパワーを、
(下肢)→(腰の回転)→(肩の回転)→(上肢)→(拳)
という順番に、スムーズに(スピーディーに)、そして、増幅して伝達することです。
そのために、下肢および体幹の筋群と、肩甲骨まわり及び胸部の筋群を含めた上肢の 筋群のパワーアップが必要となります。

以上、前記「攻撃能力の向上のための筋力トレーニング」において体幹筋群にふれた部分を引用しましたが、以後の説明も”攻撃能力の向上のため”の体幹筋群の役割に絞って進めます。もちろん防御のためにも体幹筋群は重要ですが、本説明では、焦点を絞る為”攻撃能力の向上のため”に限ります。

2、体幹筋群の役割の位置付け

上記の総論の復習のパワーの伝達について、各伝達プロセスで働く筋群を対応させてもう少し詳しく解説します。
体幹の筋群の役割の位置付けを確認して下さい。

伝達プロセス1(下肢)→(腰の回転)              :臀筋群を含めた下肢筋群
伝達プロセス2(腰の回転)→(肩の回転)       :体幹の筋群
伝達プロセス3(肩の回転)→(上肢)→(拳):肩甲骨まわり及び胸部の筋群を含めた上肢の 筋群。
上記のように、体幹の筋群は腰の回転力を肩の回転力に変換/伝達する役割を持っています。

3、体幹筋群の概要

上記伝達プロセス2の(腰の回転)→(肩の回転)において働く、体幹筋群について説明します。
体幹筋群はおおまかに屈筋(腹筋)群と伸筋(背筋)群に分けられ、これらは互いに拮抗筋となっています。
●屈筋(腹筋)群は腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋等で構成されています。これらは屈筋や回旋筋として作用すると同時に、腹圧を高め体幹回転/回旋の軸を安定化します。特に、腹横筋は、投動作における筋電図検査で最初に興奮が確認されいる例が示されているように、体幹回転/回旋動作の軸を安定化する役目を持っていると考えられています。
●屈筋群の仲間として、脊柱起立筋の外側(わき腹の後ろ)に位置する腰方形筋があり、脊柱の側屈に作用するとともに体幹の回旋にも作用します。
●伸筋(背筋)群は脊柱の両側に位置し、以下の深層、中間層、浅層の筋群で構成されています。
深層:棘間筋(脊柱を後方にそらす)、横突間筋(脊柱を横に倒す)
中層:横突棘筋(半棘筋、多裂筋、回旋筋=脊柱を回旋させる)
表層:脊柱起立筋(腸肋筋、最長筋、棘筋=脊柱を起こす)

(注)胸筋や肩甲骨まわりの筋群等は体幹部に位置しますが、上肢の筋群に分類します。

4、体幹の回転/回旋動作における体幹筋群の役割

体幹筋は腰の回転を肩の回転につなげる役割を持っていると同時に、肩の回転スピードを加速する役割も持っています。いわゆる伸びるストレートパンチや速いフックの源となります。 そこで、体幹筋群の強化が重要になります。

それでは、なぜ体幹筋群を強化する必要があるのかを説明するために、まず、簡単な力学的な理屈(てこのはたらき)を説明します。これは小学校5年で学んだ簡単な理屈です。

力学的な理屈

A       M   C    B
          ▲
上記はシーソーの絵のつもりです。
Mが回転の中心となっていますので、
(A〜M)=(M〜B)=4×(M〜C)
という関係になっています。
そこで、AとBまたはCに重りをのせてシーソーをつり合わせるためには、
(Bにのせる重量)=(Aにのせる重量)
(Cにのせる重量)=4×(Aにのせる重量)・・・・(1)
という関係が必要です。(回転モーメントのつり合い:詳細は省略)
また、Mを中心に回転する場合の移動量は、
(Bの移動量)=4×(Cの移動量)・・・・・・・・(2)
という関係になります。

(体幹回転/回旋動作における体幹筋群の役割の力学的説明)

上記の体幹筋群のうち体幹の回転(回旋)に関与する筋をまとめると以下のようになります。、

1)腹斜筋 群:肋骨と骨盤の間に斜めにつながっている筋。(外腹斜筋、内腹斜筋)
2)腰方形筋 :上記参照。
3)背筋群     :中間層の多裂筋や回旋筋

以下、上記のシーソーの絵を参照して体幹筋群の役割を説明します。
(Mは脊柱の中心、Cが回旋筋が働く位置、A、Bが肩と考えて下さい。実際にはCの位置は上記よりも中心のMから遠い位置ですので、下記の4という数字はもっと小さい値となります。=上記腹斜筋群、腰方形筋、多裂筋や回旋筋等の背筋群がそれぞれ作用する位置が分からないので正確な数値を示すことはできません。

腰の回転を、Cの位置に作用する回旋筋の働きで、A〜Bの肩の回転に伝達するためには、(1)式に示されるように(実際には4より小さな値)大きな回旋筋の筋力が必要となって来ます。例えば、(A〜M)=4×(M〜C)とすると、Cに作用する力の1/4の力がAに反対方向に働きます。
一方、(2)の式に示すように、Aの移動距離はCの移動距離の4倍となるのでスピードに影響します。すなわち、Cに働く回旋筋の収縮スピードの4倍のスピードでAの位置が回転/回旋します。

以上のように、回旋筋群を強化することにより、腰の回転力をロスなく肩の回転力に伝達することができます。また、回旋筋群の収縮スピードを向上することにより、肩の回転スピードの飛躍的な向上が得られます。

注:上記の理屈は、最近話題になっているインナーマッスルの重要性の説明にも適用できます。

(まとめ)
体幹を回転/回旋する際は、上記のように、回転/回旋の軸を安定化する筋群と、直接体幹を回転/回旋させるための様々な筋群が協調して働くことが必要となります。
そこで、どのような姿勢からでも、スムーズにスピードがありパワーのある回転/回旋動作を生むには、これらの筋の協調性/同調性が重要となりますので、反復練習による運動神経系のトレーニングが必要となります。
このトレーニングの具体的な方法の基本はシャドーボクシングです。
このシャドーボクシングと筋力トレーニングを組み合わせて行って下さい。

5、体幹固定の重要性(パフォーマンス向上と障害予防のために)

 以上、ボクシングの攻撃力向上の為に、体幹筋群の協調性を向上を含めた筋力トレーニングの重要性について述べましたが、この中で、体幹筋群の回転/回旋の軸の安定化が重要であることに触れました。そこで、この体幹の回転/回旋軸の安定化/固定化がパフォーマンス向上と障害予防のために、いかに重要であるかを詳しく説明します。

 体幹は、身体の中心にあり、文字どおり四肢を「枝」とする「幹」として存在し、四肢の運動に対して土台としての安定性が要求されるとともに、四肢の運動に連動した働きも要求されます。すなわち、2種類の体幹固定能力が要求されます。
この2種類の体幹固定能力とは完全固定能力と相対固定能力です。

完全固定能力とは、ボクシングの場合、パンチが相手にヒットした際にナックルを介して伝わる力に対抗すべく、体幹全体を強固に固定する能力のことであり、打ち抜く力やナックルの効いたパンチなどの源となり、ハードパンチャー指向の選手にとって重要な能力となります。
この完全固定に必要な要素は腹腔と胸郭の固定です。このために、腹筋群と背筋群の同時収縮と横隔膜下制による腹腔内圧の上昇と、顎を引き、奥歯を噛みしめて頚椎も固定力を高めることが必要です。

相対固定能力とは、回転/回旋軸を安定化/固定化し、回転/回旋動作をスムーズに行えるよう協調筋をコントロールすることです。以下詳しく説明します。
脊椎の生理的彎曲(骨と筋と靭帯とが協調して効率的に重力に抗するために最適化したカーブ)により、体幹の回転/回旋動作に際して、すべての椎体間で同様に回旋可動域を分担することは不可能です。
すなわち、回転/回旋しやすい場所としにくい場所があります。回転/回旋しやすい場所は、中部と下部胸椎で、しにくい場所は上部胸椎と腰椎です。
そこで、回旋ストレスを腰部に集中させないために下部体幹部の緊張を維持する、特に両側の腹斜筋の緊張を維持する一方で、胸椎の回旋可動域を確保するために、胸郭を挙上しつう肩甲骨を胸郭から解放する必要があり、僧帽筋上部線維の緊張を緩和するためいわゆる”肩の力を抜く”ことが必要となります。
早い話が、腹筋群と背筋群を強化しつつ、肩の力を抜くワザを覚えると言うことです。この腹筋群や背筋群の強化には体幹回転/回旋運動をともなう、すなわちボクシングの動作に近いフォームで強化することが大切です。詳しくは次の「具体的トレーニング方法」を参照して下さい。

6、筋力トレーニングの具体例

 ここでは、体幹筋群の強化のための具体的レーニング方法だけではなく、筋力トレーニングの具体例全般について紹介します。
筋力トレーニングについては、「基礎体力トレーニングの役割」で総論 、 「筋力トレーニングのすすめ」で各論をそれぞれ紹介しましたが、具体的なトレーニング方法についての説明が十分ではなかったのでここでフォローしておきます。
尚、各論で紹介した「筋力トレーニングの原則 」と 「基礎的筋力トレーニング」は大切ですので十分理解しておいて下さい。

まず、ボクシング競技力向上のために必要となる体力要素を整理すると次のようになります。
1、スピード(クイックネス、アジリティ)
2、バランス(特に動的バランス)
3、柔軟性(特に動的柔軟性)
4、持久力(筋持久力/スピード持久力、全身持久力)
5、筋力(最大筋力)
これらは重要度の高い順に並んでいます。すなわち、上記「基礎体力トレーニングの役割」「筋力トレーニングのすすめ」の中で述べているように、ボクシング競技にはスピード系の要素が最も重要です。そこで、スピード系の動作能力を向上させるための筋力トレーニングを最初に紹介します。
なお、上記では、スピード、バランス、柔軟性を別項目にしていますが、スピード要素の中のクイックネス、アジリティの向上には動的バランスや動的柔軟性の向上が不可欠であるので別項目にする必要はないかもしれません。
また、前記の  いかにしてパワーを高めるか?  の説明のところで攻撃能力のパワーアップを図るにはスピード向上より筋力向上が効果的であると述べましたが、これはパンチの破壊力そのものの向上に寄与する割り合いについて説明したもので、相手の攻撃を防御して適格に相手にパンチを当てるためには、スピードの向上が大きく寄与するものと考えます。

6ー1 スピード系のトレーニング
スピード系の動作とは、一般にその動作形態によってスピード、アジリティ、クイックネスに分類され、それぞれ以下のように説明されています。
1、スピード:循環運動による移動スピード(短距離走など)や動作スピード(自転車競技など)
2、クイックネス:1つの動きの瞬間的な非循環運動(跳ぶ、打つ、投げるなど)
3、アジリティ:循環運動に非循環運動を含んだ複合的スピード(サッカーのオフェンス動作のカットランなど)

それぞれをボクシング動作に当てはめると
1、スピード:ボクシング競技には上記で説明している動作形態はないと思います。
2、クイックネス:パンチング動作やパリイング、ダッキング、ステップバックその他各種防御動作
3、アジリティ:防御動作と攻撃動作を組み合わせた複合的スピード
と言えます。

それでは、以下にクイックネスやアジリティを向上するためのトレーニングを紹介します。
各トレーニングのほとんどは プライオメトリックトレーニング となっており、各筋・腱に瞬間的に大きな負荷がかかってきます。特に、B)のハイクリーン、C)のランジ、E)プッシュアップ・メディシンボールトレーニングは特に大きな負荷がかかってきますので、上記 基礎的筋力トレーニングによって十分に基礎的な筋力を強化してから行なって下さい。

A)なわとび(下肢筋群)
なわとびは、ボクシング競技の基本重要要素であるフットワーク=ステップワーク能力を向上させるために重要であり、ボクシングの攻撃防御のいずれにも有効なトレーニングです。詳細は なわとびトレーニングのすすめを参照して下さい。また、同様の体力要素を向上させるトレーニング方法としてキャリオカラダードリルがあります。

B)ハイクリーン(下肢、体幹、上肢筋群)
ハイクリーンはパワークリーンとも呼ばれ、クイックリフトというトレーニング方法の1つで、足関節、膝関節、肩関節、肘関節、手首の関節の各関節をコントロールする筋群が協調して爆発的に働く動作であり、パンチング動作を改善するために重要であるとともに、スピーディに自分の身体をコントロールして前後左右に移動させるクイックネスやアジリティの能力向上のために重要な種目です。
ハイクリーンは上半身のみならず下肢の伸展力をフルに動員してウェイトを挙上するために、本質的にジャンプ動作に酷似した動作です。しかし、ジャンプ動作に比べて上体により大きな負荷がかかっているため、全身の筋力発揮の協調が必要となります。また、腰背部の障害予防のために正しいフォームの習得が必要となります。

ジャンプ動作とボクシング動作とは関係ないのではないかと思われる方が多いと思いますので以下に説明しておきます。
「攻撃能力の向上」に述べているように、ボクシングの攻撃動作はリングの上を滑るように前後左右に移動し、キック動作によって下肢で生まれたパワーを、
(下肢)→(腰の回転)→(肩の回転)→(上肢)→(拳)
という順番に、スムーズに(スピーディーに)、そして、増幅して伝達します。
この滑るように移動するためのキック動作や、パンチを出す際のキック動作は、関節角度や重心移動により力を発揮する方向は異なってきますがジャンプ動作と本質的に同じものです。そして、キック動作に続く身体の移動やパンチング動作における体幹や上肢の使い方は、ハイクリーン動作における下肢の伸展力をフルに動員してウェイトを挙上する際の体幹や上肢の使い方と共通するところがあります。

ハイクリーン動作のフォームについてここでは詳しく解説しません(ハイクリーン&ファーストプル等で検索して下さい)が、ハイクリーンの中間の動作であるファーストプル(デッドリフト)の後の、(セカンドプル→クリーン(キャッチ)→バーを腰の位置まで降ろす)という動作を10〜20回連続してくり返すトレーニングをお勧めします。下半身、体幹、上半身の連係動作の神経系および筋力を強化する事ができます。
 

C)ランジ(下肢、下背部)
ランジは、左右・上下ダッキングやウィービング等の動作パフォーマンスを改善するトレーニングです。
ランジには、スプリットランジ(片方の足を前に踏み出してしゃがんだ後キックしてもとに戻る)や、サイドランジ(片方の足を左/右に踏み出してしゃがんだ後キックしてもとに戻る)などがあり、階段などの段差やダンベルやバーベル等を利用することにより高強度のトレーニングが行えます。

D)ツイステッドクランチ/ツイステッドバックエクステンション(体幹筋群)
これらは名前の通り腹筋、背筋のトレーニングをひねりを加えて行なうもので、腹筋や背筋を鍛えるとともに体幹の回旋筋群を強化するトレーニングです。
バックエクステンションは適度なウェイトのバーベルプレート等を持って行なう方が効果があると思います。
腹筋系としては、腹筋台で上体を途中で止めた状態で左右ストレートや左右フックのシャドー連打を行なったり、腕を左右に伸した仰臥姿勢から両脚の間にメデシンボールをはさみレッグレイズしたのち、左右に脚を倒して元に戻す方法など工夫して下さい。

その他、トルソーツイストマシン(「トルソー」=「胴」をひねる動作の負荷トレーニングマシン)も効果があります。

E)プッシュアップ=腕立て伏せ(上肢)
プッシュアップは、ストレート、フック、アッパーのすべてのパンチのパワーを増強するトレーニングです。
特にお薦めは、スラッピングプッシュアップとワンハンドプッシュアップで、胸筋、三角筋(肩の筋)、三頭筋(肘関節伸筋)を強化する他、肩甲帯を屈曲/外転させる(肩を前に出す)前鋸筋を強化することが出来るので、伸びのあるパワーパンチを打つために有効なトレーニングです。

スラッピングプッシュアップは、腕たて伏せの姿勢から腕を曲げたのち最大スピードで伸ばして突き上げて上体を浮き上がらせ、床から手が離れた瞬間に手をたたく方法です。胸の前で拍手したり、手を後ろに回して腰の後ろで拍手したり、頭の上で拍手したりと色々な方法がありますが、胸の前で何回連続で拍手できるか、または、胸の前で1回拍手するスラッピングプッシュアップを連続で何回できるかを、他人と、叉は、自分自信の記録と比べるのが手軽な競争手段となり、トレーニングに対するモチベーションが高められると思います。

ワンハンドプッシュアップは名前の通り片腕で腕立て伏せを行なうもので、通常の姿勢では無理なので、脚を大きく開いて行なったり、膝立ての姿勢で行なうことをお薦めします。このトレーニングは上半身だけではなく体幹をひねる筋群を動員して、拳部に力を集中するための負荷トレーニングとして有効なトレーニングです。
 

F)チンニング=懸垂(上肢)
チンニングは主にフックやアッパーのパワーを増強するトレーニングで、肘関節屈曲と肩関節内旋の動作を強化することができます。
肩関節内旋とは気をつけの姿勢から、肘から先を直角に曲げ、肘を支点に手のひらをへその前に動かす動作で、使われる筋としては腕ずもうで使う筋の1つです。

G)ウェイト負荷シャドーボクシング(全身)
ウェイト負荷シャドーボクシングは、名称の通りダンベル等のウェイトを持ってシャドーボクシングを行なうもので、このトレーニングの直後に負荷無しでシャドーボクシングを行なうと、軽く動け効果を実感できます。

H)水抵抗負荷シャドーボクシング(全身)
水抵抗負荷シャドーボクシングは、以前、健康運動指導士の実技講習会を受けた際に始めて体験しましたが、予想外に大きな負荷がかかることを実感したと共に、複雑なコンビネーションブローを行なう際の重心移動や筋-神経系の連係を体得するために効果があると感じました。初心者にもベテランにも有効なトレーニング手段だと思います。

履歴=======================================================

2003.06.21:  筋力トレーニングの具体例 20030621 更新
2003.05.03: 筋力トレーニングの具体例 更新
2002.12.31:  筋力トレーニングの具体例 追加
2002.11.12: 低インシュリン(低グリセミック指数=低GI)ダイエットの落し穴 追加
2002.08.10:「体幹筋群の筋力トレーニングのすすめ」更新
2002.07.20:「体幹筋群の筋力トレーニングのすすめ」アップロード
2002.05.06:「なわとびトレーニングのすすめ」アップロード
2002.01.14:「正しい減量のしかた」(2)食事の(注)グリセミック指数追加
2002.01.02:「筋力トレーニングのすすめ」B-3、B-4追加
2001.12.07:「筋力トレーニングのすすめ」修正および追加
2001.12.04:「基礎体力トレーニング」修正、「筋力トレーニングのすすめ」アップロード
2001.07.20:「基礎体力トレーニング」補充、「正しい減量のしかた」アップロード
2001.06.25:「基礎体力トレーニング」アップロード
2001.06.20:「準備運動の役割」、「整理運動の役割」アップロード