| 1999/08/29 | 
								
									| ウイニング・ボールを君に | 山際淳司 | 角川文庫 | 1999年8月25日初版発行 | 
											毒毒度:-3 | 
								
									| “時間はどこにも余っていない。悔いのないように活用してあげないと、たちどころに崩壊していってしまうのだ” 今週はスポーツ・ノンフィクション・ウィークと宣言しておきながら、結局吸血鬼と死体と共にすごしてしまった。で、罪ほろぼしではないが、山際氏最後の作品集。映画監督・北野武へのインタビューも印象的。かの「監督」の著者、海老沢泰久の解説によれば「山際さんは普通の作家なら見逃してしまうような何気ない話を何気なく書くのがじつにうまい」そういえば、山際氏の作品では「ぼく」という響きが心地よい。「ぼく」と書いて唯一嫌味にならない人だ。私でも、僕でも、自分でもない、「ぼく」。
 「いつも同じペースで生きるのではなく、時折、意識的にターニング・ポイントを設定すべきである」
 「ぼくはそう思っている」
 この教えは、私の人生において全然守られていません。
 
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									| 1999/08/28 | 
								
									| 死体を探せ! | 布施英利 | 角川ソフィア文庫 | 1999年8月25日初版発行 | 
											毒毒度:5 | 
								
									| 死体を手がかりにした現代文明論。東京芸大にて芸術学を学んだという著者に興味を持ち、購入。 (この学科は私の第一志望であったので)
 養老孟司という解剖学の権威のもとで死体とつきあうという変わった人生を歩んでいるようだ。美術評論家であり、作家。ミステリを書きHPも開設している。「写真術は、死体生産術」とかれはいう。そして脳死問題へ触れる。写真は、解剖図で死体を見ることを起源とする。死体は「時間が止まる」ということを教えてくれた。西洋の写真的なまなざしは、死体を見ることによって培われた。他方、「瞬間」という時間感覚を十分に養っていない我々の社会では、「死の瞬間」を決定することを容認できない。つまりは、脳死問題も容易には受け入れられないのである。
 文中、グリーナウェイの映画に関するキャプションが明らかに入れ替わっている校正ミスがおしまれた。
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									| 1999/08/27 | 
								
									| ヴァンパイア・レスタト(下) | アン・ライス、柿沼瑛子訳 | 扶桑社ミステリー文庫 | 1994年11月30日第1刷発行 | 
											毒毒度:4 | 
								
									| “わたしは地中に抱かれていた。わたしの渇いた肉体を覆う分厚い湿った土の間を、静物がずるずるとすり抜けて行くのがわかった。もし再び立ち上がることがあるのなら、夜空に輝く満天の星をほんのわずかでもかいま見るときがあるのなら、もう二度とおぞましいことはすまいと心に誓った。決して無実の者を殺したりはしない。もし弱い者を狩ることがあるとしたら、誓ってもいいがそれは絶望している者や死にかけている者だ。もう二度と<闇の業>を使ったりはしない。” ガンガン読みまくる夏の終わり。魅力的なヴァンパイアでした。R.R.マーティンに繋がるロマン派の祖。 | 
							
							
								
									| 1999/08/24 | 
								
									| ヴァンパイア・レスタト(上) | アン・ライス、柿沼瑛子訳 | 扶桑社ミステリー文庫 | 1994年11月30日第1刷発行 | 
											毒毒度:4 | 
								
									| “血、血、血--それが癒し、解消してくれたのはじゅうじゅう音をたてる金属棒のような喉の渇きだけではなかった。それはわたしが切望して止まなかったすべて--人生における欠落感、苦痛、欲望、それらすべてを満たし、癒してくれたのだった” ヴァンパイア・レスタトを主人公とする<ヴァンパイア・クロニクルズ>第2作。第1作「夜明けのヴァンパイア」はルイというヴァンパイア(映画ではブラッド・ピットが演じた)に人間の青年(クリスチャン・スレーター)がインタビューする会見記であった。ルイの眼から邪悪な存在として描かれていたレスタト(トム・クルーズ)側からの物語が本書である。1984年にロック界のスーパースターとして華麗に君臨するレスタトが、裕福ではない地方貴族の息子としての人間の生から、パリでの舞台俳優時代、老ヴァンパイア・マグナスにより闇の世界の住人とされてからの物語を語り始める…。 | 
							
							
								
									| 1999/08/23 | 
								
									| 狂気の左サイドバック | 一志和久 | 新潮文庫 | 1997年10月1日発行 | 
											毒毒度:-4 | 
								
									| “俺がオフトだったら、監督として考えるなら、お前は情報漏洩しないためにも絶対に行かないといけない。イラン戦まではオフトは絶対にお前を必要としている。イランの監督はお前が出ると思っているから” カズをして「都並さんは、たとえ自分が選ばれなくても、全日本を応援する人。妬みとかひがみがない。本当に全日本を愛している人」と言わしめた都並敏史。ラモス瑠偉をして「アジアナンバー1の左サイドバック」言わしめた都並敏史。1993年、夢のW杯出場にあと一歩というところで、左足首の疲労骨折がかれを襲う。 なぜドーハの悲劇は起こったか、なぜアメリカ行きの切符を逃したか。それは狂気の左サイドバック都並敏史を欠いていたからなのだ。執拗に左サイドを突いてきたイラン。カタールにいる間中、激痛と戦い、一方で骨が砕けるかもしれないという恐怖をも克服しなければならなかった都並の苦悩はそのまま、日本サッカーの苦悩であった。1999年、都並の姿はスポーツ番組のコメンテーターとして見ることができる。相変わらずの熱血サッカー少年ぶりが微笑ましい。永遠の日の丸小僧都並敏史に栄光あれ。 | 
							
							
								
									| 1999/08/20 | 
								
									| 吸血鬼伝説 | ジャン・マリニー、池上俊一監修、中村健一訳 | 創元社「知の再発見」双書 | 1994年6月10日第1版第1刷発行 | 
											再 毒毒度:2 | 
								
									| “幻想芸術は、過去の信仰が否定される間げきをぬうようにして、誕生する” 創元社「知の再発見」双書というシリーズはコンパクトなサイズの中に多くの図版を使い、歴史・文化史をわかりやすく伝えようという試みである。私が好むのは土着の吸血鬼ではなく、ドラキュラ以後。
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									| 1999/08/18 | 
								
									| ヴァンパイア・コレクション | スティーヴン・キング他、ピーター・ヘイニング編、風間賢二他訳 | 角川文庫 | 1999年3月25日初版発行 | 
											毒毒度:3 | 
								
									| “さてと、そこで一つだけ忠告しておこう。一杯やったら、まっすぐ北に向かって走ることだ。何をしようといっこうかまわんが、ジェルサレムズ・ロットへ行く道だけは、どうあっても避けることだ” 古典、ヴァンパイア映画から現代までの吸血鬼が大集合…というふれこみなのに、全訳でないのが納得いかない。中途半端はいかんよ、角川くん。 | 
							
							
								
									| 1999/08/16 | 
								
									| 監督 | 海老沢泰久 | 新潮社 | 1979年3月25日発行 | 
											再 毒毒度:-3 | 
								
									| “野球だってそんなに捨てたものじゃないと、はっきり感じることができた。野球はただのボール遊びではないのだ” スワローズがあまりに弱く、若松監督も罵倒されがちなので、監督という職業を再考するべく再び手にとった。フィクションだが、1978を知っている者にも知らぬ者にもノンフィクションと言って通用してしまう名作。衣笠の性格描写をはじめとして、随所におそろしいほど的確が表現が見られる。エンゼルスという架空の球団名には最初馴染めないかもしれない。しかし、しだいにジャイアンツやタイガースやドラゴンズをボコボコにしてくれる快感に、1978の熱狂が重なってくる。Number PLUSのベスト・メンバーでもやっぱり監督は広岡達朗でしたね。ノムさんファンには悪いですが。なお、新潮社の単行本は絶版、現在は文春文庫で。
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									| 1999/08/16 | 
								
									| フィーヴァードリーム(上) | ジョージ・R・R・マーティン、増田まもる訳 | 創元ノヴェルズ | 1991年11月9日初版発行 | 
											毒毒度:3 | 
								
									| フィーヴァードリーム(下) | 
								
									| “朝は訪れては去り--また訪れるのだが、昼をもたらすことはなく そして人々はみずからの荒廃と恐怖のうちに 情熱を忘れ、すべての心は利己的な 光への祈りのうちへと凍てつくのだった…” ロマン派吸血鬼もの。吸血鬼と人間の友情、吸血鬼同士の愛情。バイロンの詩がフューチャーされているので、原詩をさがさねば。
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									| 1999/08/15 | 
								
									| 奴らは渇いている(上) | ロバート・R・マキャモン 田中一江訳
 | 扶桑社ミステリー文庫 | 1991年5月28日第1冊発行 | 
											再 毒毒度:4 | 
								
									| 奴らは渇いている(下) | 
								
									| “世界が昼と夜のはざまにおののき、権力が真夜中の王宮を支配するものたちに握られている、どこか暗黒の果てに。悪は復活するだろう。おそらく、こんどとはちがった形で、しかし、おなじおそるべき目的をもって。” キングの模倣といわれようとも、キングをこえるマキャモンの迫力。一番最初に読んだのは、「ベスト・フレンズ」だったけれど、長編を書かせてもダレない。ジェットコースタームービーチックな展開がたまらない。いちいち映像が浮かぶのはもう慣れっこですが、ほんとにこのひとって映画好きなんだなあ。キャスティングを考えながら読むのもいい。例えば、コメディアン、ウェス・リッチャーの恋人ソランジにナオミ・キャンベルはいかが。
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									| 1999/08/14 | 
								
									| 呪われた町(上) | スティーヴン・キング、永井淳訳 | 集英社文庫 | 1983年5月25日第1冊発行 | 
											再 毒毒度:2 | 
								
									| 呪われた町(下) | 1983年6月25日第1冊発行 | 
											再 毒毒度:2 | 
								
									| “マーステン館はその最後の悪を盗みとられて、ただのありふれた家としてそこに建っていた” 盆休み初日はずーっと寝ていて、夕方起きてからずーっと本読みっぱなし。HPのために再読。ご先祖さまをしのぶと、ヴァンパイアものになるわけだ。もどかしさとか、ちょっとB級のアメリカン・ムービー。でもって、キングの小説でのお約束、町が一個壊滅する。
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									| 1999/08/11 | 
								
									| ニューヨークは笑わない | 山際淳司 | 小学館文庫 | 1999年9月1日初版第1刷発行 | 
											毒毒度:-5 | 
								
									| “ぼくの記憶に間違いがなければ、その年の1月31日の東京は雨で、江川卓は赤いネクタイをしめていた。スーツはたしか濃紺で、かれの背広姿はまだどことなく板についていなかった。” 例えば、冬がはじまろうとしているニューヨークで江川引退の記事を読み、9年前の1979年1月31日、江川の阪神入団と、阪神と巨人のトレードが同日に行われたときのことを思い出すというふうに。旅の途中でもかれは、観察したり、記憶のファイルから取り出したり、再び丁寧にしまったりということを忘れない。珍しく、ストレートにスポーツそのものではない、山際淳司の作品集。巨人軍の監督を解任されて4ヵ月後の王貞治へのインタビューの話が、いい。かれはここで「ぼく」ではなく「私」と書いている。これは珍しい。 | 
							
							
								
									| 1999/08/10 | 
								
									| 風の挽歌 グイン・サーガ第67巻 | 栗本薫 | ハヤカワ文庫JA | 1999年8月15日第1刷発行 | 
											毒毒度:-2 | 
								
									| “ヤーンは与えたまい、また奪いたまう。ヤーンは巡り合わせ、またひきさき給う。人生とは、別離と邂逅のつきせぬくりかえしなのだ。そうでしょう、グイン将軍” お約束の一冊です。ご存じ、一人の作者による世界で最長のファンタジー。完結までおあと33巻。最後の一行はもうすでに決まっているらしいが、読みたくもあり、読みたくもなし。ちなみに私は、カメロンとイリス時代のオクタヴィアのファン。もちろんナリス様は無視できないですが。 | 
							
							
								
									| 1999/08/09 | 
								
									| 笑わない数学者 | 森 博嗣 | 講談社文庫 | 1999年7月15日第1刷発行 | 
											毒毒度:0 | 
								
									| “犀川創平君。君の方程式の解は、今や不定だ” うーん、最初の100ページで見えてしまいました。いいのかこんなんで。前日に神宮でライトスタンドの向こうにホテル・ニューオータニの麦藁帽子が見えたときトリックを確信。あんまり簡単すぎるので、もっと大がかりなヴァージョンも仮定してみましたけど、時間の無駄でしたか。
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									| 1999/08/05 | 
								
									| 断崖の骨 | アーロン・エルキンズ、青木久恵訳 | ミステリアスプレス文庫 | 1991年3月31日初版発行 | 
											毒毒度:-2 | 
								
									| “これまできれいな頸静脈窩をいくつも見てきたけど、きみのはダントツに愛らしくてセクシーだな” 「スケルトン探偵」と呼ばれるギデオン・オリヴァーを主人公とするシリーズ3作目、翻訳順だと4作目。ギデオンは新妻ジュリーとイギリスの片田舎をハネムーン中。「スケルトン探偵」は単に骨の専門家なのであって、オドロオドロしい意味ではない。読みやすいし、後味がよい。シリーズ全作、隠れた名所巡りもできるし、健康的とすら言える。「冷たい部屋と博士たち」を読んだあとだったので、学問とか、学閥とか考えさせられた。  | 
							
							
								
									| 1999/08/04 | 
								
									| 血まみれの月 | ジェイムズ・エルロイ、小林宏明訳 | 扶桑社ミステリー文庫 | 1990年7月25日第1刷発行 | 
											再 毒毒度:7 | 
								
									| “あなたは醜さに忍び寄って、その醜さを麻痺したような愛におきかえようとすることを選択しました。そして、その道を歩くのは痛々しい行為です” 涙の翌日に、こんな泥々でよいのか。エルロイの重さをかみしめる。この段階でかれはまだ内なる暗黒を完全には表現しきれていない。原作はかなりの悪文らしいが、そこは翻訳者の力。読者は、このホプキンス・シリーズからLA4部作へと徐々に狂っていくのがおすすめ。
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									| 1999/08/03 | 
								
									| もう一度投げたかった --炎のストッパー津田恒美 最後の戦い--
 | 山登義明 大古滋久
 | 幻冬舎文庫 | 1999年6月25日初版発行 | 
											毒毒度:-10 | 
								
									| “弱気は最大の敵” NHKの番組スタッフが活字にしたもの。優れたスポーツマンが志なかばにして病に倒れる、これほど心引き裂かれることはない。カープファンの中には津田恒美投手が生きているということ。毒はありません。安心してお読みください。
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									| 1999/08/01 | 
								
									| 冷たい部屋と博士たち | 森 博嗣 | 講談社文庫 | 1999年3月15日第1刷発行 | 
											毒毒度:0 | 
								
									| “だいたい、役にたたないものの方が楽しいじゃないか” 一旦はじめてしまったら最後までいくしかないでしょう、森作品。でも、こんなに簡単に私ごときに解明されていいのか、謎。犯人はピュアともいえるけれど、同時に幼すぎる。あのー、もしもし、人間関係の秘密は稚拙すぎませんか。 | 
							
							
								
									| 1999/07/28 | 
								
									| 噛みついた女 --ヒューストン連続殺人--
 | デヴィッド・L・リンジー | 新潮文庫 | 1987年10月25日第1刷発行 | 
											再 毒毒度:5 | 
								
									| “冬は立ち去った。春は弱気で短命だった。あげくに、街のあるじのような顔をして夏がもどってきた--あたかも、姿を消したことなど一度もなかったように” サイコものは数々読んだ。ベスト100とかあったらおそらく85は読んでいるだろう。読み散らかしていて記憶に残るものは少ないのだが、この作品のインパクトは持続した。スチュアート・ヘイドンというキャラはかなり気に入っている。なぜ舞台がヒューストンなのかは、シリーズの回を重ねて、「届けられた6枚の写真」でわかる。 | 
							
							
								
									| 1999/07/27 | 
								
									| わが故郷に殺人鬼 | デヴィッド・ウィルツ、汀一弘訳 | 扶桑社ミステリー文庫 | 1991年10月28日第1刷発行 | 
											毒毒度:2 | 
								
									| “当時のわたしは最高の隠れ家は景色のなかでなく、人間の魂のなかにこそあるのだということを知らなかった” その後FBIのジョン・ベッカーシリーズを手がける作者の初期の作品。HP開設めがけて過去のものも再読しているのだが、これはお初。ジョン・ベッカーシリーズは既読ゆえ、これを後に読むとやっぱり少々物足りない感。 | 
							
							
								
									| 1999/07/26 | 
								
									| 真夜中の切り裂きジャック | 栗本 薫 | ハルキ文庫 | 1997年4月18日初版発行 | 
											毒毒度:3 | 
								
									| “ちょっとコーヒー買ってきて。そこの自動販売のじゃいやや。ベラミまで行て、いつもの二ついうて頼んで来て” そうしてみるとやはりこの作家は私の読みたいものを書いてくれる。否、私の書きたかったものを書いてくれている…おそれおおくてすみませんが。ジャンル的には耽美、ホラー、芸道小説…壮絶な7編の短編集。「ベラミのコーヒー」ってもしかして築地にあるあの「ベラミ」?ほんとか。 | 
							
							
								
									| 1999/07/23 | 
								
									| すべてがFになる | 森 博嗣 | 講談社文庫 | 1998年12月15日第1刷発行 | 
											毒毒度:0 | 
								
									| “その独立性が優れた客観力を作った。勢力の均衡が指向の方向性に対する鋭敏さを生むのです” 珍しくひとにすすめられて。犯罪のトリックはそれほど難しくはない。日頃泥々したので訓練しているせいか、人間関係の秘密もわかりやすかった。中盤300ページに「綺麗」が17回登場するのには少々閉口。あと3回出てきたら途中で辞めていたかもしれない。
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