●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

1999-09

1999/09/26
サウスウインド〜内田新哉画集 内田新哉 サンリオ 1999年2月20日発行
毒毒度:-10
“いつも世界のどこかを一台きりで走り続けているロードレーサーを知ってる?
彼は風を追いこそうとしていつもうっかり風を生んで走ってるんだ”

たまには詩画集もよいでしょう。
自転車のある風景。風景を旅するロードレーサーの姿が美しい。
プレゼント本にしたことがあります。

1999/09/24
19分25秒 引間徹 集英社文庫 1998年6月25日第1刷発行
毒毒度:1
“「感想を述べてもいいですか」
 「感想を聞くのは大好きだ」
 「あなた、少し気狂ってますよ」
 「うん、そうだな」男は満足げにうなずいた。
 「俺もそう思うんだが、なかなか世間が気づいてくれない」”

なぜ世の人々はオリンピックにこだわってしまうのだろう。
選手の側に五輪フェチが存在するのはなぜだろう。
義足をつけて、オリンピック記録を上回る記録で歩き続ける男。オリンピックへの執拗な誘いを断固拒否しつづける男。作者とはすばる文学賞新人賞受賞直後に会っていると思う、マイナーな競技の、さる競技会で。状況から見て、同姓同名とは考えられにくい。

1999/09/23
蜃気楼の少女(グイン・サーガ外伝) 栗本薫 ハヤカワ文庫JA 1999年9月15日発行
毒毒度:1
“だが、一粒の種は地におちれば必ず、こうしてまた次の、別のいのちの芽ぶきをもたらす…そうして我々は長い長い時のはざまで生き、また死んできたのではなかったか。--俺は、好きだ。蜃気楼の娘よ。俺はノスフェラスが好きだ。”

約2週間近く本とはお別れだったので、ヤク切れ状態。リハビリにはベストの選択と思う。救出したシルヴィアを護りつつノスフェラスを旅するグインに蜃気楼の娘が見せた夢は、カナン滅亡の謎であった。外伝の方がファンタジー色が強い。同じ登場人物でも、本伝は人間臭い。

1999/09/13
帰ってきた紋次郎 さらば手鞠唄 笹沢左保 新潮文庫 1999年9月1日発行
毒毒度:2
“彫りの深い顔立ちだが、表情というものがない。伸びた月代(さかやき)の下に、虚無的に暗い眼差しがあった。左頬に古い刀傷の跡が、引き攣れを作っている。口には長さ五寸(15センチ)ほどの楊枝を、無造作にくわえていた。手製の竹の楊枝で、先がとがっている。”

浮世を離れる前の一冊としてはベストの選択。シリーズ第4期、文庫版4作目。
木枯し紋次郎登場のくだりには、何度くりかえし目にしてもわくわくさせられる。渡世人の表情、傷、口にくわえた手製の奇妙に長い楊枝、薄黒く変色して割れ目のできた三度笠、縞模様が見えないほどに傷んだものを繕った道中合羽、肩の振り分け荷物、錆朱色の鞘を鉄環と鉄鐺で固めた長脇差…。

1999/09/10
そして今夜もエースが笑う 山際淳司 角川文庫 1987年4月10日初版発行
毒毒度:-3
“スポーツを解読していくと、いろいろなものが見えてくる。それは逆からいうと、スポーツが人間に関するもろもろのことを、つまりすべてを含んでいるからにほかならない。”

山際氏の作品集のうち繰り返して読むベストスリーが、この『そして今夜もエースが笑う』と、『空が見ていた』と『エンドレス・サマー』なのだが、残念なことにこの作品は目録からはずれてしまうようだ。
80年代のスワローズファンは必読。表紙が、当時のYSキャップ。「アルファベット・スタジアムからのメッセージ」と名づけられた24のスポーツシーン(XYZがひとつになっているので26の物語ではない)に続いて、エピローグではヤクルト・スワローズの荒木大輔、ある夜のピッチングが語られている。珍しいのはプロローグがツール・ド・フランスの話である点。最も、テレビ放映を見たあとで、ヨーロッパからFAXを取り寄せてみたといういささか消極的な取材なのだが。当時、NHKによるツール・ド・フランス放映は、世間の目を自転車レースというものへ向けさせたという意義がある。かれには実際目で見て、もっと自転車について語ってほしかった。

1999/09/08
わが体内の殺人者 ルネ・ベレット、高野優訳 ハヤカワ文庫NV 1992年5月31日第1刷発行
毒毒度:2
“患者の頭の中を覗きこむか…精神科医の夢だ。残念なことに、不可能だがね”
珍しくラテン系の作家が書いたサイコ・サスペンス。

買ったまま数年放置していた本。他に読むものなかったのでというのは本に対してかなり失礼。精神科医と狂暴な患者が実験によって脳の中身が入れ替わるという話。マルク、マリ、ミシェル、マルシャン、マリ=テレーズ等々中心人物のほとんどの頭文字がMなのでカタカナ名の本になじめない人には拒否されるかも。ごちゃごちゃした話をあのフランス語でやらかしているかと思うとけだるくなるでしょう。実験の仕組とかは深く考えないで一気に読みましょう。ラストシーンだけ切り取って映画のワンシーンで見たい。(映画化されたらしいが、どうもミスキャストの気が…)

1999/09/06
欲望の未来 永瀬唯 水声社 1999年6月30日第1版第1刷発行
毒毒度:2
“あえていおう。リプリーこそが、彼女こそが、ハイブリッドたちの女王になるだろう、と。”

サブタイトルは「時計じかけの夢の文化誌」、現代文化に関する評論集。
朝日新聞に載った大原まり子女史の書評で興味を持った。何にひかれたかというと、映画エイリアン・シリーズに関する考察。ちなみに購入するまで、ガンダムに関係している人とは全く知りませんでした。エイリアン研究家を自称しながら、ついにまだエイリアン4を見ていない私としては早々に4を見てきたるべき2000年、「エイリアン5」の登場を待つことにしよう。

1999/09/05
サザンクロス パトリシア・コーンウェル、相原真理子訳 講談社文庫 1999年8月15日第1刷発行
毒毒度:2
“ハマーの指は引き金にかかっていた。それを引く口実を与えてほしかった。”

買ったまま約1ヵ月放置していたコーンウェル新シリーズ2作目。
警察署長ハマー、ハマーの片腕ウエスト、元新聞記者にして警官ブラジルという主人公3人は揃ってリッチモンドに移っている。リッチモンドといえばケイ・スカーペッタが検屍官をしているまちだ。で、一箇所だけケイの存在をほのめかす会話があったりして。マリーノはいなさそうですけれど。少年犯罪、コンピュータウィルス等、かなり今日的な問題が描かれている。このシリーズは風刺がきつい。検屍官シリーズよりも日本の読者には受け入れられにくいと思うのだが、どうだろう。今後、毎回ババという名前の登場人物(全部別人)が出てくるかもと期待しているのだが。

1999/09/03
わが母なる暗黒 ジェイムズ・エルロイ、佐々田雅子訳 文藝春秋 1999年7月20日第1刷発行
毒毒度:6
“わたしは飢えていた。愛とセックスが欲しかった。頭の中の物語を世に出したかった。これまでの生活と縁を切らなければならなかった。これまでの生活を全廃してしまうほどの力で新しい生活を築かなければならなかった。わたしはその考えが気に入った。それはわたしの極端に走る性向に訴えた。自己否定の側面が気に入った。全面的な変節の雰囲気が気に入った”

エルロイ最新作。
エルロイが10歳のとき母親が殺されてしかも未解決という事情は旧知のこと。かれは、母の事件の再調査を通じてどこへ到達したか、そもそもどこから来たのだ。すべてがここにある。死んだ女たち、殺した男たち。キャシイもロイドもここにいる。少年時代のエルロイの切り札、「自分自身が精神的につくりあげた世界に引きこもって住むという能力」、殺人者となるか、作家となるか。
邦訳されていて未読のエルロイは「ハリウッド・ノクターン」のみ。


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