●あと10000冊の読書(毒読日記)  ※再は再読の意 毒毒度(10が最高)

1999-10

1999/10/31
トマソン大図鑑空の巻 赤瀬川原平 ちくま文庫 1996年12月5日第1刷発行
毒毒度:2
凡例に続き、高所、でべそ、ウヤマ、カステラ、アタゴ、生き埋め、地層、境界、ねじれ、阿部定、もの喰う木、無用橋、純粋タイプ、蒸発。各ジャンルの名作登場。
とにかく手にとってご覧ください。

1999/10/31
青の物語 ジャン=ミッシェル・モルポワ、有働薫訳 思潮社 1999年4月20日発行
毒毒度:1
“青は音を立てない”
“青はおずおずとした色だ。下心も、前触れも、たくらみもなく、黄色や赤のようにとつぜん視線に飛びかかることもなく、自分のほうに視線を引き寄せ、少しずつなじませ、急かさずにやって来させ、けっきょくは視線はこの内気な色彩に沈みこみ、何も気づかぬままに溺れてしまう。”
“じつを言えば、青は色ではない。むしろ印象であり、雰囲気であり、空気の特別な響きである。積み重なった透明さ、空虚に加えられた空虚から生まれ、空でのように人間の頭の中でも、変わりやすい透明なニュアンスである。”

自分のイメージ、雰囲気が何色か?というとウォッシュドアウトの藍色、と思っている。
フランス現代詩のなかでも、とりわけ繊細、かつ、この詩人の魂に近づきやすいといわれる詩集。美しくも的確な表現というものはあるのだと知らされる。

1999/10/30
ステンド・グラス 下村純一 クレオ 1997年3月25日初版第1刷発行
毒毒度:-1
かつて薔薇窓という響きに酔いしれていた時代があった。12世紀シャルトル大聖堂の時代、ゴシック様式と結び付いたものが好みである。
本書ではアール・ヌーヴォーのステンド・グラスを中心に、 ゴシック様式から現代のものまで50点が紹介されている。現代建築の扉や、階段の踊り場のステンド・グラス等なかなか見るべきものはあるのだが、大聖堂の薔薇窓の美しさまでは伝えきれてはいないようだ。コスト、紙面の大きさから、やむをえまい。

1999/10/29
TCC広告年鑑1999 東京コピーライターズクラブ編 宣伝会議 1999年11月1日発行
毒毒度:6
“もう、あんな時代じゃないんだ。コピーでかすりキズなんかつかないんだよ、ひとのココロに”
“ねえ、ぼくらはどうやって、ひとに何かを伝えればいいの?どうやって勇気を誇り、
愛を匂わせ、弱音を吐けばいいんだろう。まいったよ”
“コピーは選ばれし者ではなかった。”
“ただ、ぼくは、ひとつの結論だけを怖れます。「広告にココロは必要ではない」”

シゴト本ですな。広告の創造という作業をわからなくなりたかったら今すぐ手にとりましょう。ページを繰ると、ばかばかしいのもありますが、随所で泣かせられます。編集委員長の山本高史の序文(冒頭の引用はその一部)には特に。「モノが売れなかった広告に最高賞やって委員会」といわれてもセガ・エンタープライズ湯川専務シリーズを書いた岡康道はもう写真の写り方からしてカッコよさダントツ最高賞。(個人的には岡氏の作品は『艦長!!…あなたは間違っている!』の長野新幹線CFの方が好き)
こうしてみると賞取るコピーライターは文学部出身が少ない。法学部出身者が多いのが目につくな。

1999/10/28
トマソン大図鑑無の巻 赤瀬川原平 ちくま文庫 1996年12月5日第1刷発行
毒毒度:2
路上観察学会発足時から20数年間のトマソン物件が厳選され、ジャンル別になっている。
写真もヘンだが、つけられたコメントがいちいちおかしい。
ちなみにトマソンとは読売巨人軍に在籍した助っ人名で、いい性格だったけどあんまり打てなくなって退団したらしい。つまり、本来外国人助っ人というのは打つためにいるのに、無用となってしまったということから、トマソン。

1999/10/27
木枯し紋次郎(13)奥州路・七日の疾走 笹沢左保 光文社文庫 1997年12月20日初版1刷発行
再 毒毒度:-3
“お頼み申します、お願いします-- と、これだけじゃあ生きていけやせんよ”

木枯し紋次郎第3期にあたるシリーズ。これは読んだことないだろうとたかをくくっていたら、一巻まちがえていて実は既読。この巻は珍しく長編大作となっている。紋次郎の足どりのごとく、きびきびした文体が好み。

1999/10/26
猫の宇宙 赤瀬川原平 柏書房 1994年10月25日第1刷発行
毒毒度:2
“露光に気をつけないと、真っ暗になるぜ。浅草。”

圧巻は見開きページ、暗がりに白い猫。引用はそのコメント。
「正体不明」シリーズの作者の、猫もの写真集。本物の猫と、作者が収集している置物猫。
トマソン階段という写真があり、「トマソンって何だっけ?」行き止まりとか使っていもののコト?
というわけで調べましたよトマソン。
トマソンの定義「使いようがなくて無用になっているけれども、何かたたずまいが変な物」
高所にある扉、埋め立てられた門、用途を失ったまま残された階段
路上観察の一分野、機能を失った構造物
赤瀬川、南伸坊、松田哲夫が四ツ谷を歩いていて見つけた変な階段がきっかけで超芸術をトマソンと名づけたとのこと。
赤瀬川原平 超芸術トマソン ちくま文庫(CD-ROM版あり)
      トマソン大図鑑無の巻 ちくま文庫
      トマソン大図鑑空の巻 ちくま文庫
私が過去に撮った写真だと、スポーツ競技会会場等での全然カンケーないものが目につく。ただしトマソン物件ではない。昔はB級写真とか言ってたなあ。紐犬、鳥の死骸、バイクの死骸、変な看板…。

1999/10/23
迷宮 清水義範 集英社 1999年6月30日第1刷発行
毒毒度:1
“部屋に入ったとたんに、匂いがしたんです。前日が、すごく蒸し暑い日でしたからね。その暑さの中で、血が蒸さっていくような、いやな匂いです。それと小便が混ざったような匂い。変な言い方だけど、死の匂いっていう感じかな。それがわっと襲いかかってきて、もう手遅れなんだ、と思いました”

言葉は真相を明らかにしない。
一件の猟奇的殺人に関する「犯罪記録」「週刊誌報道」「手記」「取材記録」「手紙」「供述調査」、そして「さらに8日後」にて物語は終わっている。もともと「超末法アナグラム」「解釈された事情」「余話の中の接点」「供述調査」「取材記録」「逆転」「ロックン・アイスクリーム」という題名で「すばる」に初出。単行本化にあたり、大幅加筆したとされている。私としては加筆されてどう変わったのかが知りたいところだ。

1999/10/22
歓びの娘 鑑定医シャルル 藤本ひとみ 集英社文庫 1997年9月25日第1刷発行
毒毒度:1
“自分が完全に破壊されてしまう場所まで、突き進まずにはいられない”

極端に走る私の性格からして、シリーズにはまることはたやすい。昨日の昼休みに銀座の書店で平積みになっていたこのシリーズを2冊購入したのだがほぼ一日で読了。電車に乗る機会がいつもより多くあったせいなのだが、一気読みにはぴったりの量。随所に印象的なフレーズはあるが、こなれているとはいえないかも。スタイリッシュなシャルルの発言や行動が時々滑稽さを伴うのは、学問的知識の有する哀しさなのだろうか。
余談。書店で思ったこと。どうでもいいけれど、集英社文庫の洋もの背表紙の色はどうにかなりませんかねー。サスペンスフルなものにまったくそぐわないと思うのですが。

1999/10/22
見知らぬ遊戯 鑑定医シャルル 藤本ひとみ 集英社文庫 1996年5月25日第1刷発行
毒毒度:1
“愛と憎しみは双生児なんだ”

最近、中世とかルネサンス時代という私好みの歴史小説を手がける著者だが、この作品は現代パリを舞台とする、若き天才鑑定医の事件簿。
クラクラするほど多数の登場人物でもないし、カタカナにしろ覚えやすい名前ばかりなので、翻訳ものにあまり馴染みがなく、心理学に興味があるひとにおすすめ。背中までの白金色の髪をソバージュにしているという主人公は、コミックから抜け出したよう。イメージ的には、ラインハルト・フォン・ローエングラム(銀河英雄伝説)の容姿と頭脳。
さて余談。解説は福島章先生(精神医学者)で、猟奇殺人が発生するたびテレビで解説などしているかれはいまや、わが国の犯罪心理学の権威だ。かつて入学早々オリエンテーションで聞いた、放火魔には蓄膿症が多いというかれの説は印象的だった。火を見るとすっきりするのだそうで。入学時の心理テストで何らか問題があると判断された学生は在学中に面談があるというあのシステムは今も生きているのだろうか。ちなみに私は呼び出されることなく卒業の運びとなったのだが。

1999/10/20
呪われし者の女王(下) アン・ライス、柿沼瑛子訳 扶桑社ミステリー文庫 1995年10月30日第1刷発行
毒毒度:3

1999/10/15
呪われし者の女王(上) アン・ライス、柿沼瑛子訳 扶桑社ミステリー文庫 1995年10月30日第1刷発行
毒毒度:3
絢爛豪華なヴァンパイア・クロニクルシリーズ3作目。
ヴァンパイアがどうやって誕生したのかが語られ、ごひいきの登場人物とともに世界中を旅することができる。ヴァンパイアって美形ばかりとしみじみ。

1999/10/13
夏の終わりにオフサイド 山際淳司 角川文庫 1989年6月20日再版発行
毒毒度:1
“「おれは思いだしたよ。Behind the clouds is the sun still shining」
 「いやなことおぼえてるな」--古賀は照れたようにいった。
 「お前らしくないことを書くから妙だなと思っておぼえていたんだ」
 「でもね、わかったことがあるんだ。雲の向こうで輝いてる太陽っていうのは、いつも輝いてるんだ。そうだろ?」
 「そうだな。太陽にとっては曇りの日なんてないんだ。いつも、快晴」
 「それはね、つらいことだぞ。休みなくなんだ」”

勢いに乗って本日2冊目。
なんと初読みです。今まで何故読まなかったかというと、元三流アスリートとしてはあまりにも身近な話で悲しくなるから。夏が終わりかけている、「A touch of Glory」にほんの少し至らなかった人たちの物語がほろ苦い。そういえば数日前に読んだ『野球雲の見える日』には、Every B.B.C has a silver lining.ということわざがでてきた。どんな野球雲もその裏側は日の光を受けて銀色に輝いている。つまり、ゲームの哀しい結末の裏側にも喜びがある…。さて明日のゲームではどんな喜びがあるだろうか。

1999/10/13
スタジアムで会おう 山際淳司 角川文庫 1996年4月25日初版発行
再 毒毒度:-3
“忘れてもいいようなディテールが、Tボーンステーキにこびりついて離れない肉のように記憶のすみにからみついている。スコアブックには残らない記憶だな”

明日は野球観戦、神宮最終戦だ。仕事は忙しいのだが、無理やり行くことにした。
そのためにはやはり心の準備が必要でしょう、というわけで山際氏とともにしばし非日常の世界を悦しむ。

1999/10/12
剣の輪舞 エレン・カシュナー、井辻朱美訳 ハヤカワFT 1993年2月28日第1刷発行
毒毒度:2
“天の高みからみれば、人生の偶発事は、魅惑的でふうがわりな人物をちりばめたおとぎ話の風景のように見える。”

その昔、書店で手にとって結局購入しなかった「吟遊詩人トーマス」の作者の処女長編。
貴族と、騎士と、栄光と退廃。主人公は剣士リチャードと謎の同居人アレクというゲイのカップルで、なかなか清々しくもお耽美。

1999/10/10
野球雲の見える日 山際淳司 角川文庫 1990年9月10日初版発行
毒毒度:-3
“シーズンオフは実際のゲームを見るのではなく、ゲームについて語られたり書かれたりしたものを読む季節でもあるのだ”
“スタンドには、非日常的な瞬間を求めて人が集まり、グラウンドには日常を生きている選手たちがいる。それがプロ野球というものである。その日常の中で非日常を作りだすことのできる選手が<スター・プレイヤー>であり、人気者になることができる。”

横浜スタジアムで、野球観戦の予定だったのだが体調悪く、中止。スタジアムへ思いをはせて読む。三原監督追悼のOB会を描いた「西鉄ライオンズが復活した日」、江夏豊の引退式「一本杉球場にて」に涙する。
スポーツを書く、スポーツを読むことを教えてくれたのは山際氏だ。かれには野球体育博物館の存在も教えてもらった、もちろんこの本の中で、であるが。1991年の一時期、図書室を予約して通いつめたときのことを思い出す。確か回数券で入場していた。調べものの結果、人間の記憶と記録の違いに驚かされたものだ。

1999/10/10
角よ故国へ沈め 小川国夫・佐伯泰英 平凡社 1978年2月10日初版第1刷発行
毒毒度:3
“牡牛を殺すだけのことに、巧妙な技術をあみ出さなければ気が済まない、それがスペイン人なんだ。
牡牛の世界の囚人になったのだよ。
牡牛が人間の素質を引き出すことを知ったのさ。”

闘牛とステンドグラスにはまっていた過去があり、この本はその名残である。小川国夫の文と佐伯泰英の写真との見事なコラボレーション。白、赤、黒の美しい本である。佐伯泰英の写真はモノクロなのだが、黒い牛と、血の色が見える。

1999/10/08
帰ってきた紋次郎 かどわかし 笹沢左保 新潮文庫 1999年5月1日初版発行
毒毒度:1
“たったひとつの峠を越えるあいだに限ろうと、見かけた相手の中には大したお人がおるものよ。しかも、そのお人とは二度と再び、巡り合うことがないのじゃ”

シリーズ第4期3作目。舞台は信州、行徳〜木更津、福島県棚倉、下仁田街道、深谷、日光近く。結構なじみのある地名なので風景や、歴史にふれる部分など興味深く読む。掛け茶屋や煮売屋といった食べ物屋の描写で、当時の旅人の食生活を知る。38歳になった紋次郎には、以前に比べて科白が多いように感じる。もちろんおしゃべりにはほど遠いのだが。

1999/10/07
帰ってきた紋次郎 同じく人殺し 笹沢左保 新潮文庫 1998年9月1日初版発行
毒毒度:2

1999/10/06
帰ってきた木枯し紋次郎 笹沢左保 新潮文庫 1997年9月1日初版発行
毒毒度:2
“当然のことだが、28歳の紋次郎ではなかった。もともと若いときから、老けて見える紋次郎だった。だから、特に、老いたる紋次郎という印象は受けない”
“十年前の紋次郎とは比較にならない風格、貫祿、異様なすごみが加わっているという点で、いちばん変わったのではないだろうか。ただ年齢を意識することが、老いを自覚させるのかもしれない。”

木枯し紋次郎38歳。もう28年も放浪を続けている計算である。昭和で幕を閉じたかに見えたシリーズは平成7年2月「小説新潮」にて復活した。

1999/10/04
消された子供(下) エリザベス・ジョージ ------ ------
毒毒度:3

1999/10/01
消された子供(上) エリザベス・ジョージ ------ ------
毒毒度:3
ハヴァーズが主役だ。しかも今回彼女にはロマンスが用意されている。

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