| 2001/04/28-9566 | 
								
									| 図書館長の休暇 | ジェフ・アボット 佐藤耕士 訳
 | ミステリアス・プレス文庫 | 1999年12月15日初版発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “ごらんのとおりわたしたちは、あまりいい家族じゃないわ。甲斐性のないろくでなしや、底意地の悪い男、頭のいかれた女ばかり。おまけにわたしの最初の夫は人殺しときてる。さあ、どこからはじめるの?” 孤立した島で起こる怪事件にまたしても首を突っ込んでしまうジョーダン。なんたって実の父親ボブ・ドンの過去にかかわることなんだから大変。しかもジョーダンの恋人キャンディスまでもが命を落としそうになる…重大な秘密も明らかになって…。このシリーズは気に入っていたのに今回は読後の爽快感がない。ジョーダンは感情的すぎるし、イヤな一族の個別化が十分ではない。シリーズ特有のユーモアと軽妙さが感じられなくて残念。しかも、次作は未だ発表ならずとか。 | 
							
							
								
									| 2001/04/25-9567 | 
								
									| カミュの客人 | 村松友視 | 光文社文庫 | 2001年4月20日初版1刷発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “毒は上に浮くのと下に沈むのと二種類で、中ほどには毒がないということですね。上も下も毒は毒、中ほどの無毒がいちばんつまらない世界” 青山の閑静な住宅街の一角にアール-ヌーヴォーのランプを看板に掲げた酒場、その名をカミュという。マスターの秋月、文学中年の桜田、芝居をやっている弥生、謎の老人小松原…。大人っぽい、よくできた虚構である。カミュと言えば私的にはブランデーよりも『ペスト』『異邦人』のアルベール・カミュ。はたして、『異邦人』と、その習作ともいえる『幸福な死』がひきあいに出されるところなど、ありふれてはいない味わい。オールドファッションドか、クラシックか。 | 
							
							
								
									| 2001/04/23-9568 | 
								
									| ベイビイ・キャット-フェイス | バリー・ギフォード 真崎義博 訳
 | 文春文庫 | 2001年4月10日第1刷 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “女が男に人生を預けてしまったら、男はすぐにそれを壊してしまうものよ” 毒も慣れてくると…。神やら啓示やら奇跡やらが相変わらずの暴力の合間にちりばめられていて、これをシュールレアリスティックと呼ぶのはどうかなあ。断片的な殺人記録が、実は…というのはエルロイっぽいとも言えるが、圧倒的に量が違うし。 | 
							
							
								
									| 2001/04/23-9569 | 
								
									| アライズ・アンド・ウォーク | バリー・ギフォード 真崎義博 訳
 | 文春文庫 | 2001年2月10日第1刷 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “トムビレーナはまず彼を撃った。頭が吹き飛び、血と脳と骨のしぶきが撒き散らされてスピットにかかった。スピットはたしかに反撃に出ようとはしたのだが、脳の命令が利き手の人指し指に伝わるまえに、二発目の散弾が彼の耳介眼窩下平面を破壊していた。” そうとは知らずに出会っている敵同士。ありとあらゆるスレ違いの逆を行く展開に目眩がするヒマもない。前作で何度も奇跡的な命拾いをしたマーブル・レッスンという少女のことが気になっていたのだが、なるほど後日談。結局すべての断片的な出来事は繋がっていたのだ。 | 
							
							
								
									| 2001/04/22-9570 | 
								
									| ナイト・ピープル | バリー・ギフォード 真崎義博 訳
 | 文春文庫 | 2000年12月10日第1刷 | 
											   毒毒度:3 | 
								
									| “ほとんどの連中は自分が何を欲しいのかもわかってないんだ。たいていは、そこまでも考えていないわ。自分ではわかっていると思っている人もいるけれど、たいていはおなかや、女のあそこや男のあれが不平を言ってるという程度のことなんだ。何か食べてやっちまえば、それでおしまいさ。わかってないのはお金が人を卑しくし、クズにするってことだよ。汚いことをするときの最高の言い訳はお金だからね。でもあたしたちなら、そんな下司な連中を出し抜くことだってできるのさ” 「ジーザスの花嫁」と名乗る女が二人、しょーもない男を抹殺しはじめる…暴力、レイプ、聖職者の欺瞞、近親相姦。映画『ワイルド・アット・ハート』の原作者による掌篇集。今回〈サザン・ナイト・トリロジー〉と呼ばれる三部作をまとめ買いしてみた。こんなに薄くて600円?とも思ったが、3秒あったら本を買えと禁断症状が命じたので。登場人物の生い立ちから話がはじまるところはノーマル、しかし話は次第に疾走し暴走し、誰かが死んで突然終る。なんだか放り出された感じ。それともこれは高度なインプロヴィゼイションなのだろうか。 | 
							
							
								
									| 2001/04/21-9571 | 
								
									| よみもの 無目的 | 赤瀬川原平 | 光文社 | 2001年3月30日発行 | 
											   毒毒度:4あるいは-4 | 
								
									| “地平線上にぷつぷつと並んだようなビルの小さな連なりも、リズミカルで気持ちいい。 それがどうした、といわれようとも、どうもしてない。それがどうした問題と、気持ちいい問題とは、ときどき食い違うのである。ぼくは気持ちのいいのが好きだ”(風景のリズム)
 赤瀬川原平。画家にして作家。近年老人力研究家とも知られる。トマソンものをはじめとする路上観察学会の一員であり、縄文建設団の一員。ちなみに縄文建設団とは、玄人には出来ない素人作業集団で、素朴と、構造上ではなく表現上の乱暴をモットーとするらしい。『正体不明』やトマソンものでおなじみの写真エッセイ集。久々の本格的ナマ書店はしご3軒目にして収穫、バスを待つあいだに早速読み始める。振り返った犬の鎖が壁に描く影。ぐしゃぐしゃの電線の影が織り成す、綺麗なノイローゼ。一般人の気づかないエアポケットや、その場所でその瞬間にしか見えない影の動きをとらえる。文章がまた、いつもながらキレがいい。思いもよらぬ視点、表現力。それに、気持ちのいいのが好きだなんて言ってもらうと、ホっとする。
 久々に得た、フツーの土曜日の夜。隠れ家に移動し、電灯の下で続きを開くと、頁の上に猫の影があらわれた。片方の耳と頭の一部だけブロック塀から覗かせ、様子を伺っている。近寄ると逃げる。よく見ると、猫の正体は本を持つ自分の左ひとさし指の影だった。耳と見えたのは少々伸びた爪。ぢっと手を見る。かつてユリスモール・バイハンのように本が読めると羨ましがられた指も、遊びと仕事で傷だらけとなり果てていた。
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									| 2001/04/21-9572 | 
								
									| 本棚から猫じゃらし | 群ようこ | 新潮文庫 | 1997年3月1日発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “私は、「冷たい心」「ひとり暮し」を読んで、「淋しい」と思うほど恵まれている。それなのに他の人からは、「淋しい」といわれる。つまりみんな他人の姿を眺め、比較しつつ、現在の生活を納得させているだけにすぎない。そういう意味では誰もが「幸せ」で、誰もが、「淋しい」のである” 先日の代休時、ナマ本屋1軒目。目当てのものがなく、群ようこと中島らもを購入。どちらもイチローの倍くらいの痛快打率は誇るはず。…が、群ようこにしては、テーマが重かった。生活雑感ブック・ガイド第3弾のテーマは「老いと死」であった。会社2泊目に「その若さは一体どこからくるんだ」と直属の上司(しかも年下)に泣かれるほど丈夫な私でも、明日は道端で倒れるやもしれず。それはそれで仕方のないことである。辛いのは死ぬことよりも老いてかつ生きていくことだ。賢い子供のまま夭折できなかった私は、遊びまくったり仕事しまくったりして、老いをごまかし続けている。どういう形でツケがまわってくるかは、誰も知らない。 | 
							
							
								
									| 2001/04/18-9573 | 
								
									| 薬指の標本 | 小川洋子 | 新潮文庫 | 1998年1月1日発行 | 
											   毒毒度:3 | 
								
									| “ただ一つわたしを悩ませたのは、薬指の先の肉片はどこへ消えてしまったのだろうという疑問だった。わたしの残像の中でその肉片は、桜貝に似た形をしていて、よく熟した果肉のように柔らかい。そして冷たいサイダーの中をスローモーションで落ちてゆき、泡と一緒にいつまでも底で揺らめいている” またもや平日に代休。セラピストの到着を待つ間、久々のナマ本屋2軒目にて目が合った本。ううむ、これはホラーだな。エロスの香り。指とか靴とか標本室という言葉だけでも相当にフェチでしょう? キーワードは消失=デフェクト。そう、あの身体の一部は一体どこへ行ってしまったのだろうという意識。こういう細やかな恐ろしさを描けるのはやっぱり女性に限る?かも。 | 
							
							
								
									| 2001/04/17-9574 | 
								
									| キルジョイ | アン・ファイン 延原泰子 訳
 | ミステリアス・プレス文庫 | 1989年2月15日初版発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “くじけた。私、イーアン・ジェイムズ・レイドロウ、教授、四十九歳の誕生日から三日後の男、波風のない引退に引き続いて穏やかな老年期と穏やかな死を迎えるはずの落ち着いた有能な教師である私が、以前の自分を捨て去り、かわいい顔にひとたまりもなく負け、しかも自分の考えている限りでは後戻りできない、という事実に直面した。その恐ろしさを君に説明しようか?” “君は囚人ではない、だから逃げられないのだよ”
 ひと目惚れの瞬間を味わいたいものだが、ナマ本屋に行けない。幸運にも実家へたどりつけたときに、眠っている本を揺り起こすこととなる。というわけで、10年ほどの長き眠りからさめたこの本は、当時流行の異常犯罪、サイコものの山の中でもちょっと異色な文芸作品。女子学生と、顔に醜悪な傷を持つ大学教授の物語、つまりは美女と野獣。登場人物が少ない一人称となると単調になりがちだが、レイドロウの屈折ぶり、その描写が巧みで、長さも程よく読ませてくれる。 | 
							
							
								
									| 2001/04/15-9575 | 
								
									| 詩集 愛 | 宗 左近 | 彌生書房 | 1969年11月15日初版発行 1974年12月20日3版発行
 
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											再   毒毒度:2 | 
								
									| “見るがいいこの傾いてゆく宙宇のふちに もはや風はおのれの渦巻きにおのれを渦巻かせえないでいる
 もはや季節はおのれの喘ぎにおのれを喘がせえないでいる”
 煙草の煙に澱んだ空間から、満天の星の下へ移動。汗と涙にまみれたシャツをひき剥がし、寝酒にライチリキュールを選ぶ。再生に憧れつつ眠りにおちる前に。私生活を失いかけたときは詩にかぎる。書棚の隅で根気よく年月を過ごし続けている本たちへ感謝。 | 
							
							
								
									| 2001/04/15-9576 | 
								
									| バカのための読書術 | 小谷野 敦 | ちくま新書 | 2000年1月20日第1刷発行 | 
											   毒毒度:3 | 
								
									| “「バカ」といってもいろいろあって、私は「難解な哲学などがわからない」という人にはかなり同情を寄せているし、自分自身そういうバカである可能性も否定できない。けれど、私は「無知」とか「怠惰」に対しては極めて厳しい。” 「エネルギーの使い道を間違っている」と指摘され我にかえったのも束の間。結局60時間ぶりに家路につく。乱調なり。マグロの回遊のごとくロータリーをまわり続ける改造車たち。下手なギターを弾き続ける若者たち。終バスを待つ駅前の喧噪から逃れることもできぬまま…。無知のままに生きる者たちを嫌悪し、「怠惰」を犯罪と考える著者。本邦初、痛快「読んではいけない本」収録。いやーこんなに潔くていいんかい?と心配になるほどだ。ちなみにユングのすべて…オカルト。中沢新一のすべて…いんちき。などなど。ウンンベルト・エーコ『薔薇の名前』も挙がっている。
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									| 2001/04/11-9577 | 
								
									| 地中海の猫 | 岩合光昭 | 新潮社 | 2000年11月30日発行 
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											   毒毒度:-3 | 
								
									| “ネコが生きていくには、まず食物と隠れ場所があればいいのだが、もうひとつ、ネコがネコの感覚で感じる「自由空間」があることが絶対条件のような気がする” (モロッコ) クリスマス本に選んでおきながら、自分は持っていなかった本。代休の本日、友人が持参してきてくれた。友人は2週間ほど病気だったのだが、この本と、赤瀬川原平「正体不明」シリーズに救われたそうだ。さもありなん。猫がいじりたくなることうけあい。地中海の各国で、猫の体格や表情が違う。 | 
							
							
								
									| 2001/04/10-9578 | 
								
									| 幻想の美学 | ルイ・ヴァックス 窪田 般彌 訳
 | 白水社 | 1961年10月5日初版発行 1968年9月10日5版発行
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											   毒毒度:3 | 
								
									| “怪物は、われわれのなかにある、解放された固有の生を生きたいと願っている、邪悪で、殺人的な性向の象徴である。幻想的物語にあって怪物とその犠牲者は、われわれ自身が持っている二つの面、つまり、口外することのできない欲望と、それがわれわれに呼び起こさせる恐怖との両方を具体化しているのである。” 私にとって幻想文学・幻想芸術の原点といえばこの本である。創元から『吸血鬼ドラキュラ』発行前の時代の本である。アンドレ・ブルトン『シュールレアリズム宣言』と共に父親の本棚で見つけ、そのまま私の本棚にあり続ける。この本と創元の「怪奇小説傑作集」全5冊が、私のバイブルと言ってよいだろう。 | 
							
							
								
									| 2001/04/09-9579 | 
								
									| 今はもうない | 森博嗣 | 講談社文庫 | 2001年3月15日第1刷発行 
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											   毒毒度:0 | 
								
									| “きっと良い思い出になるだろう、という安物のフレーズを思い浮かべて、独りで可笑しくなった。鏡を見ると、笑っている自分は間が抜けていて、それに、もう若くない” リハビリではない。まだ目標の途上にある。連日玉砕。こういうときにはのんきにさらっと?でもないのだが、これ以外手元に読み物がない。というわけで、犀川&西之園シリーズ第8作。今回はもう恒例「綺麗」攻撃をかわしたり、文句いったりする元気はない。今回はちょっと別にダマしの趣向があり、密室事件のトリックは置いておいて気軽に楽しめる読み物となっている。
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									| 2001/04/03-9580 | 
								
									| 死愁記 | 菊地秀行 | 新潮文庫 | 2001年4月1日発行 
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											   毒毒度:2 | 
								
									| “人は所詮、いかなる境遇に陥ってもすべてを知ることはできないのだ。誰が自分を愛しているのかさえ” 目が合って3秒で購入、いつもながらK造社書店は探しやすい。銀髪の婦人がレジにいて、思わず「よく整理されてますね」と声をかけてしまった。さて新潮文庫からははじめて出た、男爵の短編集である。奇妙に男を虜にする、廃虚の似合う女の謎を追う「貢ぎもの」から日本が舞台と思っていると意表を突かれる「踏み切り近くの無人駅に下りる子供たちと、老人」まで。本業で痛め付けられた身にはリハビリが必要なわけで、そんな時には男爵か、グイン・サーガにお世話になりたいのだ。 | 
							
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