| 2001/06/25-9533 | 
								
									| 愛の殺人 | オットー・ペンズラー 編 倉橋由美子他訳
 | ハヤカワ・ミステリ文庫 | 1997年5月31日発行 
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											   毒毒度:2 | 
								
									| “愛そのものには、なんら問題はない--ただ、それに関った人々(もしくは、時として、それに関らなかった人びと)こそが問題なのである。” 愛の対極にあるのは、憎しみではなく、無関心とな。なるほど。愛極まったあげくの殺人の数々。メアリー・ヒギンズ・クラークと、娘のキャロル、フェイ&ジョナサン・ケラーマン夫妻の競演も用意されている豪華版。 | 
							
							
								
									| 2001/06/23-9534 | 
								
									| カントリースタイルの食卓 | 料理・加藤光子 写真・佐藤秀明
 | 地球丸 | 1997年11月25日初版第1刷発行 | 
											   毒毒度:-2 | 
								
									| 雨あがりの緑が心地よく、紫陽花もしっとりと美しい季節。昼寝をしたつもりが、起きたら夜だった。星が近いせいなのか、空が明るい。夜半に菓子職人と化す。オーヴンに入れるまでたった15分の定番ケーキは、プレーンヨーグルトがないので、作れない。生クリームがないので、いつものショコラケーキもダメ。別のレシピを探していて、この本を思い出す。八ヶ岳の麓でログ・スタジオ「キッチン・グローブ」を主宰する著者の、四季折々のおもてなしスタイル。そういえば、わが隠れ家もログである、八ヶ岳の麓にはないけれど。味見したショコラ・ケーキは美味であった。 | 
							
							
								
									| 2001/06/23-9535 | 
								
									| 黒澤明の食卓 | 黒澤和子 | 小学館文庫 | 2000年7月1日初版第1刷発行 | 
											   毒毒度:-1 | 
								
									| “体力も集中力も必要な現場で、食事時間は体を休める時間であることもさることながら、気力を一新させ楽しい時間であらねばならない。やる気を出してもらうために、十分な量と不満の残らない内容のものを出さなければいけない。不満足であれば、人間は力が出ない。自分達のことをちゃんと考えていてくれるという実感、細やかな配慮が存在すれば、気持ちよく働くことができる、という考えであった。” 遣る気を起こさせる美味しい食卓。食べ且つ飲むのが黒澤映画のパワーの源。食べ物、しかも黒澤明の愛娘の著書に期待したはずだが、どうも最近、食べ物への執着が希薄なせいか、通勤電車の中ではそれほど楽しめなかった。休日に読めば、なるほど美味しいものが作りたくなる気配。どれ、朝採り野菜直売所にでも行ってみるか。今週はヨーグルト1回、カレー1回、寿司屋1回、洋食屋1回、駅売りサンドウィッチ1回、蕎麦1回、家庭料理M1回、中おち定食1回、場外で鰻丼1回、自宅で夕飯2回…お伴で外食という境遇で、食生活は上等の部類。 | 
							
							
								
									| 2001/06/23-9536 | 
								
									| 終わりのないラブソング1 | 栗本薫 | 角川ルビー文庫 | 1991年7月1日初版発行 1995年11月30日17版発行
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											   毒毒度:1 | 
								
									| “長い、暑い夏、長い、暗い夜、むなしく明るい昼がぼくの上にある。ぼくはゆっくりゆっくり、少しずつ、衰弱して死んでゆこうとしている。でも、ぼく、村瀬二葉だけが、死んではいけないなんて理由だって、何一つ、あるわけではなかったのだ” 吉田秋生の絵がはまる。先日毒了の『Tomorrow』は実は後日談。こういう話を受け入れられたり、涙を流したりするからには、自分はそれほど遠い処にいっていない。南へと旅立ってしまっていたらどうしようかと思ったものだが。雑誌JUNEの連載時代は知らない(JUNEを読んでいたのはもっと昔)。思い切ってamazon.co.jpにて全巻購入。角川ルビー文庫をナマ書店のレジへ持っていくには歳をくいすぎている人間にとって、インターネット書店はなんて便利と思える瞬間だ。そういえばウィトキンだけ届かないな。発狂しそうな1週間を終え久々、土曜日の休日。しかし、安楽の日々は未だ。生身の身体で戦う残酷なゲーム。明日は出社だが、平日の倍は仕事がはかどることが予想できて少し嬉しい(なんて悲しい性)。 | 
							
							
								
									| 2001/06/21-9537 | 
								
									| 蹴球中毒(サッカー・ジャンキー) | 馳星周+金子達仁 | 文春文庫 | 2001年6月10日第1刷 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “善戦、惜敗はいらない。頼むから勝ってくれ。ヤケ酒じゃなくて祝杯あげたいよね。壊れたいよ、壊れたい。” “マルセイユの空の下、わたしの目の前で繰り広げられているのは、紛れもないファンタシィの連続だった。(中略)左サイドからのアーリークロス。ワンタッチでのボールコントロール。内に切れ込むベルカンプ--幻惑されて外へ飛び出すディフェンダー。ゴール右上につきささったボール”
 野球は幼馴染み、モータースポーツは初恋、自転車はファム・ファタル。蹴球はなんだろう? メキシコ・オリンピック銅メダルの記憶は微かだが、ネルソン吉村、カルロスというヤンマーの選手の名がスラスラと口をついて出たものである。子供の頃から相撲、F1にも詳しかった筋金入りのスポーツ・ウォッチャーは、F1 ブームにも大相撲人気にも、Jリーグの熱狂にも惑わされることはなかった。スタジアムで、フットボールの美しさを見たい、という二人がいる。ハートフルな試合に飢えている。祝杯をあげたい、絶望に涙したい。ワールド・カップまで1年を切ってしまった。馳星周、金子達仁両人の叫びは日本サッカー協会に届いているとは思えないし、サポーターたちに届いているとも言えない状況。イチローはメジャーで首位打者を狙う程の活躍ぶり、当然、国内ではメジャーリーグ人気がたかまっている。なんだかなー。
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									| 2001/06/17-9538 | 
								
									| 樹の花にて 装幀家の余白
 | 菊地信義 | 白水uブックス | 2000年7月10日発行 | 
											再   毒毒度:4 | 
								
									| “銀座には言葉が乱反射するようなざわめきがない。言葉は街に溶け、行きはぐれた声の名残だけ漂っている”(声) “たぶん自分とは透明な城なのだ。人や物や事と出会い関るその時々に像を結ぶ主なき城なのだと思う。僕は城が好きだ” (時に抱かれて)
 バブル以前、銀座で遊ぶことなどはなかった。華やかさ皆無の新橋(雑居ビルの街、オヤジの街)勤め。銀座勤めの女友達のお伴で、パブカーディナルや三愛のビルに足を踏み入れたりしたのがせいぜいのところ。銀座に仕事場を持つ装幀家の文章には、凄味と色気が漂う。2001年2月9日に毒了しているが、今回はamazonで購入した2冊め。というのも、1冊目は、この本がぴったりの人に贈呈したからだ。ユーモアと粋を解する大人のための一冊。明日の昼食はSのサイコロステーキか、夜はMで、フツーの飯にするか。余白だらけの5年と、キルジョイに成り下がっている5年間をそうっと抱きしめて。 | 
							
							
								
									| 2001/06/17-9539 | 
								
									| 終わりのないラブソング TOMORROW
 | 栗本 薫 | 角川ルビー文庫 | 1996年10月1日初版発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “自分が本当にしたいことは何だろう。自分には何ができるのだろう--ぼくは誰だろう。どこからきたのだろう--そのすべての問いに答える方法もないまま、ぼくはそのままそれらの問いをなおざりにして旅に出てきてしまった。” これほどに本質的な問いがあるだろうか。古代から哲学が問い続けてきたこの問題を、栗本薫はあえてこういう形で世に問うた。横須賀。〈男〉の帰りを待つ二葉、22歳。閉ざされた空間で、恋人である竜一以外の人間にかかわらずひっそりと暮らしていた彼の前に、画家・大野が現れる。真摯で思いやりのあるピュアな心に触れて、二葉は棚上げしてきた問題の答えをさがそうとしはじめる…しかしアパートの隣人がこれを阻む行為に出て…。 | 
							
							
								
									| 2001/06/17-9540 | 
								
									| 炎蛹 新宿鮫V | 大沢在昌 | 光文社文庫 | 2001年6月1日発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “だが虫のほうがまだ生きものとしてはマトモだな。連中は生きることが結果、作物に害をなすのであって、おもしろ半分に卵を産みつけたりはせん。人間はちがう。おもしろ半分に火をつけるというわけだ。” “誰でも毎日の生活の中に、宝石はもっている。ただ、見慣れてしまってそれが宝石であるのを忘れてしまうことがある。あの子を見慣れてしまわないようにな”
 一冊毒了するのに一週間かかったのははじめてである。なぜかといえばまたまた苦節一週間。日曜の深夜会社入り後連泊。部署内大移動の後、自分の息のかかったマシンすべてをSET UP。水、金1泊。土曜日は終日全社会議…解放は午後9時。空席の目立つ電車がすべり込んでくるのを見て思わず、ああ神様はいるのだと小さな幸せを感じ、下車駅まで爆睡、気がつけば再び日曜という次第だ。刑事小説の条件として、追う者と追われる者双方に魅力があること、ははずせないだろう。あまり読まないけれども国内刑事ものでいえば、柴田よしき作「RIKOシリーズ」、主人公の女性刑事とインテリやくざ山内といったところか。この新宿鮫シリーズは文庫で読みはじめたのだが、第一作の木津といい、第二作の毒猿といいなかなかいい敵役だった。最近はどうも追われる方側に魅力が感じられない。味方役や脇役の味で切り抜けているような気がする。交錯する様々な事件…イラン人と台湾人グループの抗争、ラブホテル連続放火事件、外国人娼婦殺人事件…日本の稲を壊滅させる力を持つフラメウス・プーパの蛹のふ化日が迫る。刑事として一匹狼の鮫島にからむのは、植物防疫官・甲屋や、消防司令・吾妻、おかまのたまきなど。そして姿を見せずして国外逃亡した謎の黒幕・村上も、もしかして再びシリーズ登場なるのか。
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									| 2001/06/10-9541 | 
								
									| GUIN SAGA Chronicle
 | 原作・栗本薫 プロデュース・トイズワークス
 | 発行・早川書房 発売・トイズワークス
 | 2001年5月発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “ひと色だけで世の中をぬりあげてしまうのは、実に誘惑的でもあり、また仕上がりもキレイに見えますけれども、しかし決してそれは正しくないのですね。世の中とは、いろんな人がいて、いろんなことがあって、いろんなとりとめもない色あいがごたまぜになったところです” (陰謀篇ライナーノーツより栗本薫) 勢いで購入申し込み(30000円也)をして、忘れたころに届いた『グイン・サーガ クロニクル』、とにかく重い。開けてみるまでよくわからなかったのだが、加藤直之、天野喜孝、末弥純という歴代イラストレーターによる画集(あらすじつき)と、淡海悟郎によるテーマ音楽13ディスクで構成。栗本薫のハード・ロック好きもいかんなく発揮されている。外函は天野喜孝の豪華絢爛グイン(アムネリアの罠)、イラスト集の表紙は末弥純のイシュト(ユラニア最後の日)、Songs of Troubadourの表紙は加藤直之のナリス(クリスタルの陰謀)。昔あとがきでアルド・ナリスは紫苑ゆうしか考えられないと述べていた栗本先生だが、このナリス像を見るたび、ブームの頃のAURAというバンドを思い出してしまうのだが(本人はプリンスなんとかという呼び名で、髪も緑色だったが。他に、みんなのレッズ、これっず、竜巻きのピーがいた)。ああ脱線した。 | 
							
							
								
									| 2001/06/10-9542 | 
								
									| ルアーの角笛 グイン・サーガ第79巻
 | 栗本 薫 | ハヤカワ文庫JA | 2001年6月15日発行 | 
											   毒毒度:1 | 
								
									| “ひたひたと、中原全域にまでひろまってゆくその予感を、すべての中原の住民が感じている。その予感が、かれらの心のなかにしのびこみ、あふれだし、ついには中原全体にむかってほとばしってゆく--そんな、声にならぬおののきが、ひとびとの一見したところではきのうに何ひとつかわらぬ日常を、足もとからゆるやかに、ひたひた、ひたひたと浸食してゆこうとしている” 歴史は今動く。ケイロニア王グイン、出陣! 時を同じうしてゴーラ王イシュトヴァーン、出陣! アルド・ナリスのカレニア新政府とレムスのクリスタル政府の争いに端を発し、中原はいよいよ戦乱の世に突入…全100巻超のプロローグは78巻目にしてようやく終り、いよいよ栗本薫自身の三国志がはじまるわけである(とうてい100巻ではすまないであろう予感)思えば78巻を毒了したのが3ヵ月前。幾度もの玉砕を経、袖を濡らしつつ、いよいよ大詰めに入る。明日からはとりあえず3泊4日コースか???
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									| 2001/06/09-9543 | 
								
									| 黄昏の囁き | 綾辻行人 | 講談社文庫 | 2001年5月15日第1刷発行 | 
											   毒毒度:0 | 
								
									| “世界はそこで、丸く切り取られていた” この作家を『殺人鬼』からはじめてしまい、いまだに館シリーズを一冊も読んでいない。うしろめたくはないけれど。心の闇で聞こえる声=囁きと、暗がりで滴る水の音(囁きシリーズにはなぜか鍾乳洞のイメージがある、理由は言えないけれど)の繰り返しが、囁きシリーズの共通点であろうか。ということで、BGMはマイク・オールドフィールド「チューブラー・ベルズ」にしてみた、もちろんアナログ盤(だいたい何でこんなものあるんだ、この家は)。 | 
							
							
								
									| 2001/06/08-9544 | 
								
									| 祈りの海 | グレッグ・イーガン 山岸真 編・訳
 | ハヤカワ文庫SF | 2000年12月31日発行 | 
											   毒毒度:4 | 
								
									| “日の射さない悪夢の世界の息苦しくなるほど陰鬱な沼地に、全人生を引きずりこんでしまうほどのあやまちを、おかしたことがあるだろうか? それまでになしてきたありとあらゆる善行を一発で帳消しにしてしまい、ありとあらゆるしあわせな思い出をむなしいものに変えてしまい、ありとあらゆるものが醜く見えるようになり、自尊心を最後のひとかけらにいたるまで、自分はなにがあっても生まれてきてはいけなかったんだという確信に変えてしまうほどの、おろかな選択をしたことは? ぼくは、ある。” (キューティ)
 “あなたの心を興奮させるなにもかもが、あなたを高揚させ、心を喜びで満たすなにもかもが、あなたの人生を生きる価値のあるものにしているなにもかもが……偽りであり、堕落であり、無意味であるという可能性に面とむかう気がまえがありさえすれば--あなたは決して、その奴隷になることはない!”(祈りの海)
 知りたいのは、世界なのか、自分なのか。謎は世界なのか宇宙なのか、個人なのか。どの作品にも常に、世界と対峙する自分、がいる。本来哲学がなすべきことが、この作家にとっては、あえてSFでなければならなかったのだと思える。ウルトラスーパーハードSFには憧れない私には、好みの作品揃い。日本でのオリジナル編集。せつなさが滲む「キューティ」が、選からもれることはまずないだろう。 | 
							
							
								
									| 2001/06/04-9545 | 
								
									| 死の舞踏 | マーヴィン・ピーク 高木国寿 訳
 | 創元推理文庫 | 1988年5月28日初版 2000年11月10日再版
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											   毒毒度:1 | 
								
									| “一つの芸術作品を生み出す過程に付随する労苦そのものが、すでに創造的興奮を減殺する作用がある” (海賊船長スローターボード氏) 久々の暗黒系。ゴーメン・ガースト三部作を著したピークの作品集…とはいっても肝心のその三部作を私は手にとったことがない。雰囲気はラブクラフト、と言ったら乱暴すぎるか。古き良き時代の奥ゆかしき怪奇もの。画家として鬼才、詩人として異才、小説家としては時代を超えた天才と評されるも、40代前半から患った脳・神経疾患のため、57歳で死去とのことである。 | 
							
							
								
									| 2001/06/03-9546 | 
								
									| 優雅に叱責する自転車 | エドワード・ゴーリー 柴田元幸 訳
 | 河出書房新社 | 2000年12月15日初版発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “Beware of this and that” (あれやこれやにご用心) 不思議な自転車と、不思議な冒険という大人の絵本。昨年末、友人にすすめられた過去がある。同じ作者の『うろんな客』と比べると、ひとことでいえばこちらはシュールレアリスティックか。タイトルがそもそも…翻訳者も思わず〈epiplectic〉をオックスフォード英語辞典でひいてみたと告白しているぐらいなので。作者はハーヴァードで仏文専攻、出版社でブックデザインを担当したのち専業作家となった。私家版多数とのこと。残念なことに、2000年4月に亡くなっている。 | 
							
							
								
									| 2001/06/02-9547 | 
								
									| スカウト | 後藤正治 | 講談社文庫 | 2001年5月15日第1刷発行 | 
											   毒毒度:2 | 
								
									| “野球という世界の能力鑑定人である木庭は、また全国の地理を熟知する案内人であり、さらに全国の名産物を掌握する物知りであり、さらにまた人々の暮らしの変遷を肌で知る時代の目撃者であった” “プロというのは入ってから稼ぐところじゃないですか。入団する前にお腹一杯になって、さてがんばろうかという気になりますか。それにね、この不況の世の中、海のものとも山のものともわからない新人選手に、やれ一億円だ、二億円だ、と気楽に支払っているのは野球界ぐらいでしょう。反社会的行為といっても過言じゃない。そのつけは結局、ファンの入場料に回ってくる。”
 腕利き、目利きのスカウトとして広島カープに30年間在籍した木庭教(のち大洋、オリックス、日本ハム)を中心に、逸材を求めて全国を行脚する〈球界の影の男たち〉スカウトの日常をとことん描いたノンフィクション。一つのことに一途であること、誠実であることを教えられる。以前からすすめられて、気にはなっていたのだが、文庫化を機にやっと手にした。〈番手買いの男〉木庭教が形づくられたのは、広島カープが貧乏球団であるがゆえだった。三等の夜行での遠征、宿泊先も場末の旅館の大部屋。球場のあちこちに募金樽がおかれていた創設時代を経ている。ドラフト制度以前、評判の選手を金にものいわせて獲得することはできない。いい選手をいかにはやく発見し、しかも安く獲得するか、が勝負。観察と調査と関係づくり。人を見る力、無駄をいとわず歩く脚力、情報網、が仕事の基本だ。ドラフト制度導入以後はそして、木庭の、選手の技量を見抜く力はますます磨かれた。
 木庭が手掛けた選手で大成した選手の数は多い。衣笠、三村、池谷、高橋慶彦、大野、達川、川口和久、紀藤、正田…。個人的には、金城基泰にかなりページが割かれていたのが嬉しい。この、赤ヘル初優勝時の胴上げ投手を、カープファン以外で知っている人はいるだろうか。当時のプロ野球選手にしては珍しく、長髪がのぞく。帽子を目深に被り、表情は読めない。ひょうひょうとしたマウンド態度が印象的だった。細みの体躯をしならせてアンダースローから膝元か、胸元を狙って威力ある球を投げた。交通事故による失明の危機から復活し、晩年は韓国プロ球団でも活動した。昨年か一昨年、金城が投げて山本浩二が打つという始球式の話題を機内誌で読んで懐かしく思ったものだ。
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